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【Web3ブログ】シリーズ:DAOの財務管理における米国の課題と展望―第6回:Harmony Frameworkによる法的構造化
2025.08.26
2024年、暗号資産やWeb3.0のスタートアップに投資するベンチャーキャピタルファンドで、Web3.0に関する政策提言や情報発信を積極的に行っているa16z cryptoにより、Harmony Frameworkという政策フレームワークが提案されました。Harmony Frameworkは、DAOが分散型という本質を保ちながらも、法的な整合性を確保できるよう設計された制度的モデルで、業界側からの一案として、今後の制度設計の検討材料の一つとなっています。従来のリーガル・ラッパーでは埋めきれなかった「オンチェーン・ガバナンスとオフチェーンでの法的執行力の断絶」を乗り越えることを目的としており、DAOの今後の制度設計に大きな示唆を与えるものといえます。
参照:DAO box “DAO 3.0: The Harmony Framework” (Feb. 5, 2025) https://harmony.daobox.io/#abstract
DSE(DAO専用エンティティ)の導入とその意義
このFrameworkの中核にあるのが、「DAO専用エンティティ」(DSE: DAO-Specific Entity)という新しい非営利法人形態の提案です。DSEは、分散型ネットワークが自律的に運営される現実に即して、法的整合性と有限責任の保護を両立させることを目的としています。
具体的には、DSEは以下のような特徴を備えています。
◆ オンチェーンの意思決定を法人メンバーシップに直結
スマートコントラクト上での投票や提案参加の記録が、そのまま法人の構成員資格や意思決定過程として認められる仕組みです。これにより、従来の「署名」「議事録」といったオフチェーン手続きを省略し、オンチェーン上での民主的ガバナンスがそのまま法的効力を持つよう設計されています。
◆ 取締役不在による非ヒエラルキー型の運営
DSEには、従来の法人に見られる取締役会や理事会を設けず、意思決定はすべてオンチェーン上の集団意思に委ねられます。これにより、特定個人への権限集中を防ぎ、DAO本来の分散性を維持します。
◆ 非営利構造による証券法リスクの回避
DSEは利益配分を目的としないため、トークン保有が自動的に金銭的利益や残余財産の請求権と結びつかない構造が保たれます。これは、Howeyテストの「利益の期待」要件を満たさないと評価されやすく、証券該当性のリスクを抑える効果があります。
◆ 資金管理との分離設計
報酬や資金の管理は、DSEとは別に設けられた目的別エンティティ(SPV等)や契約スキームを通じて実行されます。これにより、ガバナンスとエコノミクスを明確に切り分けることができ、課税や責任関係の整理にも寄与します。
従来モデルとの比較と補完性
このように、DSEは従来のLLC(有限責任会社)や財団型モデルが抱える「形式上の法人格はあるが、DAOとの統治構造の接点が曖昧」という課題を補完します。
たとえば、LLCでは、オフチェーンで選ばれたマネージャーがDAOとは別の意思決定を行うリスクがあり、財団型でも理事会の裁量がDAOガバナンスから乖離しやすい構造でした。これに対しDSEは、オンチェーン上で完結する意思決定に、法人レベルで法的効力を与えるという点で、実質と形式の整合をはかる制度となっています。
制度的意義と今後への示唆
Harmony Frameworkの本質は、「形式ではなく実質を重視する制度設計」にあります。DAOという新しい組織形態を、従来の法人格に無理やり押し込むのではなく、その分散性や非階層性を前提に、新たな法的接続モデルを構築しようとする点に革新性があります。
こうした提案は、Wyoming DAO LLCのような限定的な制度や、Cayman財団のような海外ラッパーに頼らざるを得なかったDAOコミュニティにとって、より本質的で長期的な選択肢を提示するものとなるでしょう。
次回(第7回)は、内部統治から制度改革を起こす試みとして注目されるマキャベリDAOと、DAOと現実世界の結びつきを外から補強するBORGモデルについてご紹介します。
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