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コンセント制度による併存登録の最新状況と商標審査基準の改訂
2025.12.17
第37回商標審査基準WG
先週の2025年12月12日、産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会の下に設置された商標審査基準ワーキンググループ(以下、「商標審査基準WG」といいます)の第37回会合が開催され、2024年4月に導入されたコンセント制度に係る審査基準の改訂の方針が示されました。
コンセントによる併存登録の最新登録状況
商標審査基準WGにおいて、特許庁から、同意書が提出された商標出願は2025年12月1日時点で累計153件に上り、そのうち26件について登録査定がなされているとの報告がありました。なお、本BLOG執筆時点(2025年12月17日)では、J-PlatPatデータベース上において、同意書が提出された結果、併存登録が認められた商標登録として、以下の20件が確認されています。
・併存登録が認められた20件(2025年12月17日時点)の一覧
一方で、特許庁によれば、これら同意書が提出された153件の出願について、現時点で最終的に拒絶査定がなされた事例は一件も存在しないとのことです。審査実務においては、審査官が出願人から提出された意見書や同意書等を精査した上で、なお混同のおそれがないとの判断に必要な資料が十分でないと考える場合には、追加的に必要な情報や資料について出願人とコミュニケーションを取りつつ審査を進めているとされており、制度趣旨を踏まえた、より柔軟かつ事実関係に即した審査姿勢が示されているものと評価できます。
コンセントによる併存登録事例の分析
コンセント制度は、商標法第4条第4項の法改正により2024年4月に導入されましたが、特許庁は当初、この制度を利用した商標出願の件数が一定程度蓄積するのを待った上で、まとめて審査を行う方針を示していました。その後、導入から1年が経過した2025年4月に、初めて同制度の適用による商標登録(「玻璃」)が認められて以降、同意書に基づき併存が認められた商標登録の事例は徐々に増加しています。上述のとおり、2025年12月17日時点では、J-PlatPatデータベース上において、同意書の提出を前提として併存登録が認められた商標が20件確認されています。
これらの併存登録事例を分析すると、おおまかにいくつかの類型に整理することができ、特許庁の公表資料および説明によれば、特に以下の2つのパターンにおいて同意書が認められたケースが多いとされています。
本類型は、出願人と先行登録商標権者との間の合意内容等に照らし、両者が市場において適切に棲み分けられていると判断できることから、混同を生ずるおそれがないとされた事例です。コンセント制度導入の本来の趣旨に最も近い運用類型であるといえます。
例えば、NOCOの事例のように、外国企業間において既にグローバルな併存契約が存在する場合には、たとえ商標自体が同一であっても、審査過程において当該グローバルな併存契約の内容を考慮し、出所混同のおそれがなく、市場において棲み分けがなされていると判断した上で、併存登録を認める例が現れています。
従来の日本の実務では、このようなグローバルな併存合意が存在する場合であっても、その合意を日本において履行するためには、いわゆるアサインバック等の手法により権利関係を整理する必要がありました。しかし、コンセント制度の導入により、同意書の提出によって併存契約の履行を直接実現することが可能となった点は、商標実務上の大きな進展であると評価できます。
2) 出所の実質的同一類型
(例:LAWSON UNITED CINEMAS及びグラングリーン大阪 THE NORTH RESIDENCE)
本類型は、出願人と先行登録商標権者との関係性、あるいは両者が関与する事業の実施状況等に着目し、商品又は役務の出所が実質的に同一であると判断されることから、混同を生ずるおそれがないとされた事例です。この類型は、現行の「出願人と引用商標権者に支配関係がある場合の取扱い」(商標審査基準第3.十、13)に基づく、商標法第4条第1項第11号の例外的取扱いの延長線上に位置づけられるものといえます。
この「支配関係」に関する審査基準は、コンセント制度の導入が長年議論されてきた過程において、2017年の商標審査基準(改訂第13版)で導入されたものであり、「第4条第1項第11号の例外的取扱いを定めたものであって、従来の商標及び商品又は役務の類否判断には影響を及ぼすものではなく、いわゆるコンセント制度の導入を認めたものでもない」と明確に位置づけられていました(商標審査便覧42.111.03)。
もっとも、この支配関係に基づく取扱いは、導入から8年半以上が経過した2025年10月14日時点で、1,095件もの登録実績が確認されており、実務上極めて強いニーズが存在していたことが分かります。このような蓄積された実績と実務上の強い要請が、コンセント制度導入に向けた法改正を後押しする重要な基盤となったことは疑いありません(商標法第4条第1項第11号の審査において、出願人と引用商標権者間に支配関係が認められた出願の一覧)。
従来、この「支配関係」に基づく審査基準は、出願人と引用商標権者が親子会社関係にある場合に限って適用され、兄弟会社、孫会社、グループ会社、あるいはフランチャイザーとフランチャイジーの関係にある場合には適用されないとされていました(商標審査便覧42.111.03)。しかし、コンセント制度の導入により、親子会社関係にない場合であっても、商標法第4条第4項に基づく対応が可能であることが、同意書に関する審査例の蓄積を通じて明らかになってきています。
この類型は、従来の親子会社関係に限定された枠組みの下ですら高いニーズが存在していた分野であり、実務上も、関連会社間やグループ会社間への適用を求める声が多く寄せられてきました。その意味で、本類型は、まさにコンセント制度の導入によって最も活用が期待されていた典型的な類型の一つであるといえるでしょう。
コンセントに係る審査基準の改訂の方向性
今回の審査基準改訂は、今後も利用頻度が高いと見込まれる、上記2)の「出所の実質的同一類型」について、これを明確に審査基準化することを主眼とするものです。
すなわち、関連会社間やグループ会社間でコンセント制度を利用する場合、現行実務では、親子会社関係にあるときは「支配関係」に基づく審査基準上の例外が適用される一方、兄弟会社、孫会社、その他のグループ会社関係にある場合には、商標法第4条第4項に基づく例外が適用されるという、並列的かつ分かりにくい取扱いがなされてきました。その結果、いずれの枠組みを利用するかによって、主張内容や提出すべき資料が異なり、ユーザーにとって必ずしも明確とはいえない状況にありました。
今回の改訂では、コンセント制度が整備されるまでの過渡期において例外的に運用されてきた「支配関係」に関する審査基準を整理・削除し、これを商標法第4条第4項の審査基準の中に統合・再整理することが予定されています。これにより、出願人と先行登録商標権者との間に支配関係等が認められる場合には、「出所の混同のおそれがないものとして取り扱う」ことが審査基準上、明確に位置づけられることになります。
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(改訂案の概要) |
この審査基準改訂の実質的な意義は、支配関係等がある場合に「混同を生ずるおそれがないものとして取り扱う」と明示することにより、当該支配関係等を立証する資料を提出すれば、原則として「混同のおそれがないこと」について個別具体的に主張・立証する必要がなくなり、自動的に商標法第4条第4項の適用が認められる点にあります。
従来から多く利用されてきた「支配関係」に基づく審査基準の射程を実質的に拡張しつつ、これを第4条第4項の枠組みに整理統合することにより、適用対象の明確化と、出願人側の主張・立証負担の大幅な軽減が図られるものといえます。
さらに、上記のような「支配関係」等が認められない場合であっても、出願人と引用商標権者が共に関与する事業の実施状況等に着目し、商品又は役務の出所が実質的に同一であると判断できる場合には、「出所の混同のおそれがない」と判断することが、審査基準上、明確化される予定です。
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(改訂案の概要) |
すなわち、形式的には出願人と先行登録商標権者が異なる場合であっても、両者が一定の関係性を有し、同一又は密接に関連する事業の中でそれぞれの商標を使用していると評価できる場合には、当該商品又は役務の出所は実質的に同一であり、出所の混同を生ずるおそれはないと考えられる、という整理に基づくものです。
この改訂により、今後は「支配関係」等が存在しないケースであっても、上記の事情を示しつつ、出所が実質的に同一であることを主張・立証すれば、個別に「混同のおそれがないこと」を詳細に立証することなく、商標法第4条第4項の適用が認められる余地が明確に広がることになります。
所感
今回、現時点では必ずしも多数とはいえない実際のコンセント制度適用事例を丁寧に分析し、その傾向を類型化した上で、これを速やかに商標審査基準へ反映し、ユーザーにとって分かりやすい形で明確化した点は、高く評価されるべきものと考えます。
実際の審査運用においても、特許庁は、出願人と先行登録商標権者との関係性や、他国・地域における商標の併存状況等を慎重に検討した上で、出所の混同のおそれがないと判断される場合には、併存登録を認めるなど、より柔軟かつ事実関係に即した審査姿勢を示しています。この点からも、コンセント制度を実務上「使いやすい制度」として定着させようとする特許庁の強い意識がうかがえます。
今後、同意書に基づく併存登録の事例がさらに蓄積されることにより、今回整理された類型以外にも、新たに審査基準化されるパターンが現れる可能性があります。そうした蓄積を通じて、出願人にとって併存の可否に関する予見可能性は一層高まり、コンセント制度の実務的な活用も、今後ますます進んでいくことが期待されます。
なお、本改訂審査基準は、今後パブリックコメント手続きを経た上で、新たな商標審査便覧とともに、2026年4月に施行される予定とされています。
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