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【中国】【商標】商標法の改正案について
2026.01.27
はじめに
2025年12月27日、中国商標法の改正案(以下、「2025年改正案」という)が2023年に続いて再度公表され、2026年2月9日までの期限でパブリックコメントが募集された。2026年中には、正式に成立し施行される可能性がある。
2019年11月1日に改正が施行された現行の商標法は、2023年1月13日にも、改正案(以下、「2023年改正案」という)が公表され、パブリックコメントが募集されており、2023年改正案では、特に、以下のような内容が注目されていた。
- 悪意の先取り商標出願行為の類型化(2023年改正案第22条)
- 無効審判における商標の強制移転請求権(2023年改正案第45条~第47条)。
- 悪意の先取り商標登録出願者に対する損害賠償請求権、検察機関による公益訴訟制度(2023年改正案第83条)
- 登録商標を使用する商品の品質保証義務の行政処罰(2023年改正法第60条第1項、第4項)
- 商標出願における商標の使用の誓約(2023年改正法第5条)
- 登録から5年ごとの使用状況の説明義務(2023年改正案第61条)
- 重複出願の禁止(2023年改正案第21条、第14条)
しかし、2025年改正案では、上記の内容がいずれも削除ないし大幅に変更されており、条文数も2023年改正案の101条に対して、2025年改正案では84条に削減されている。
全体的に、悪意の先取り商標登録対策、使用管理の強化に主眼が置かれているが、実務上の影響が大きい新たな制度を導入するよりは、既存の制度を改善し、条文を整理する方向となっている。
2025年改正案における主な内容は、商標の保護範囲の調整、悪意の先取り商標登録の対策強化、商標出願手続の改善、商標の使用管理の強化、執行の強化となっている。
なお、日本から導入が要望されることが多い、コンセント制度(先行登録商標権者の同意があれば後行の商標の併存登録を認める制度)や、商標審査段階における情報提供制度は、2025年改正案でも盛り込まれていない。
以下では、現行法と2025年改正案を比較して、下線部で示しながら、改正のポイントについて解説する。
なお、商標代理機構に関する規制、団体商標、証明商標の譲受人の要件等、日本企業の中国における商標活動への影響が限定的な改正内容の説明は割愛している。
商標の保護範囲の調整
1 商標の定義の明確化
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現行法 |
2025年改正案 |
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第4条第2項 本法の商品に関する商標の規定は、役務商標に適用される。 |
第4条 本法において、「商標」とは、商品又は役務の出所を識別、区分するための標章をいい、商品の商標及び役務の商標を含む。 |
現行法第8条では、商標の構成要素を列挙しているが、商標の定義が定められていなかった。
2025年改正案第4条第1項では、商標の定義を初めて具体的に明文化しているが、従来の定義から異なるものではない。
2 動き商標の追加
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現行法 |
2025年改正案 |
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第8条 自然人、法人その他の組織の商品を他人の商品と区別することができる文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状、色の組み合わせ、音等、並びにこれらの要素の組み合わせを含む標章はすべて商標として出願することができる。 |
第14条 自然人、法人その他の組織の商品と他人の商品を区別することができる文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状、色の組み合わせ、音、動きの標識等、並びにこれらの要素の組み合わせを含む標章はすべて商標として出願することができる。 |
2023年改正案第4条第1項では、「音その他の要素」という包括的な表現が用いられていたが、2025年改正案第14条では、動き商標が明示された。なお、日本の商標法と異なり、ホログラム商標や位置商標は、明示されていない。
特に、デジタルコンテンツの分野においては、動き商標を活用することも考えられる。
悪意の先取り商標登録
1 悪意の先取り商標登録に対する規制の強化
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現行法 |
2025年改正案 |
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第4条第1項 自然人、法人又はその他の組織は、生産経営活動の中で、その商品又は役務について商標専用権を取得する必要があるときは、商標局に商標登録を出願しなければならない。使用を目的としない悪意の商標登録出願は、これを拒絶しなければならない。 |
第18条 使用を目的とせず、正常な生産経営の必要性を明らかに超えて、商標登録を出願したものについては、登録しない。 |
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第44条第1項 すでに登録された商標が、本法第4条、第10条、第11条、第12条、第19条第4項の規定に違反している場合、又は欺罔的な手段又はその他の不正な手段により登録を得ていた場合は、商標局が当該登録出願の無効を宣告する。その他の単位又は個人は商標評議審査委員会にその登録商標の無効審判を申し立てることができる。 |
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第32条 商標の登録出願は、他人の先に存在する権利を侵害することができず、また、他人が既に使用している一定の影響力を有する商標を不正な手段で先取り登録してはならない。 |
第23条 商標の登録出願は、他人の先に存在する適法な権益を害することができず、また、他人が既に使用して一定の影響力がある商標を故意に先取り登録してはならない。 |
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第68条第4項 悪意による商標登録出願行為に対し、情状により警告、過料等の行政処罰を与える。悪意による商標訴訟に対し、人民法院が法に基づき処罰を与える。 |
第53条 商標登録出願者が、以下の悪意による商標登録出願行為のいずれかを行い、悪影響を及ぼした場合、商標法の執行を担当する部門は警告を与え、10万元以下の過料を課すことができる。 |
今回の商標法改正で、日本企業から最も注目されている悪意の先取り商標登録については、以下のとおり変更されている。
- 現行法の第4条第1項(使用を目的としない悪意の商標登録出願)、第44条第1項(欺瞞的な手段又はその他の不正な手段による登録)の規定が、2025年改正案第18条に統合され、文言が調整されている。
- 欺罔的な手段又はその他の不正な手段による商標登録について、現行法第44条では、無効審判で排除されるのみであったが、2025年改正案第18条では、出願時の拒絶査定事由、異議申立事由、無効事由となっており、より広く悪意の先取り商標登録を排除されるようになっている(2025年改正案第33条、第35条、第49条)。
- 侵害することができない他人の先に存在する「権利」が、「適用な権益」にまで拡大しており、より広く悪意の先取り商標登録を排除できるようになっている。
- 他人が既に使用している一定の影響力を有する商標を「不正な手段」で先取り登録する禁止行為が、「故意」によって先取り登録する行為に変更されており、悪意の先取り商標登録を排除するためのハードルが引き下げられている。
- 悪意の先取り商標登録行為に対する行政処罰について、警告、10万元以下の過料という内容が具体化された。
2 馳名商標による保護の強化
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現行法 |
2025年改正案 |
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第13条第2項、第3項 同一又は類似の商品について登録出願した商標が、中国で登録していない他人の馳名商標を複製、模倣、翻訳したもので、容易に混同を招く場合は、登録を認めず、その使用は禁止される。 |
第20条 同一又は類似の商品について登録出願した商標が、中国で登録していない他人の馳名商標を複製、模倣、翻訳したもので、容易に混同を招く場合は、登録を認めず、その使用は禁止される。 |
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第13条第1項 関連する公衆に広く知られている商標について、所有者がその権利を侵害されたと判断したときは、この法律の規定により馳名商標の保護を請求することができる。 |
第62条 関連する公衆に広く知られている商標について、所有者がその権利を侵害されたと判断したときは、この法律の規定により馳名商標の保護を請求することができる。 商標登録の審査審理、商標法違反案件の摘発、又は不正競争案件の摘発の過程において、当事者が法に基づく権利を主張する場合、国務院の商標管理部門は、案件の処理の必要性に応じて、商標の馳名性の状況について確認することができる。 商標に係る民事、行政案件又は不正競争案件の審理過程において、当事者が法に基づき権利を主張する場合、最高人民法院が指定した人民法院は、案件の審理の必要性に応じて、商標の馳名性の状況について確認することができる。 商標の馳名性の状況は、当事者の請求により、商標に係る案件の処理において認定が必要な事実として確認を行わなければならない。商標の馳名性の確認においては、以下の要素を総合的に考慮しなければならない。 (一)関連公衆による当該商標の認知度 (二)当該商標の持続的な使用期間、方法及び地域の範囲 (三)当該商標のあらゆる宣伝業務の持続期間、程度及び地域の範囲 (四)当該商標の保護記録、特に馳名商標としての保護記録 (五)当該商標が馳名であることに関するその他の要素 |
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第14条第1項から第4項 馳名商標は、当事者の請求により、商標に係る案件の処理において認定が必要な事実として認定を行わなければならない。馳名商標の認定においては、以下の要素を考慮しなければならない。 |
馳名商標とは、中国国内で広く一般公衆に認知され、高い信用を得ている商標を指し、特別な法的保護が与えられる制度である。
現行法第13条第2項は、中国で登録されていない馳名商標については、冒認出願を排除できる範囲が「同一又は類似の商品」に限定されている。
2025年改正案第20条第2項では、中国で登録されていない馳名商標について、その保護範囲が、「同一又は類似の商品」のみならず、同一でない又は類似しない商品について商品にまで拡大しており、中国国外の商標に対する冒認登録への抑止力を強化するものであるといえる。
また、馳名商標の認定に関する条文も統合、整理されている。
商標出願手続の改善
1 異議申立期間
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現行法 |
2025年改正案 |
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第33条 初期査定公告をした商標につき、公告日から3か月以内に、先行権利者若しくは利害関係者は、本法第13条第2項及び第3項、第15条、第16条第1項、第30条、第31条、第32条の規定に違反すると考える場合、又はいかなるものであっても、本法第4条、第10条、第11条、第12条、第19条第4項の規定に違反すると考えれる場合、商標局に異議申し立てを行うことができる。公告期間が満了し、異議申し立てがないときは、登録を審査確認し、商標登録証を交付し、且つ公告する。 |
第35条 初期査定公告をした商標につき、公告日から2か月以内に、先行権利者若しくは利害関係者は、本法19条、第20条、第21条、第22条第1項、第23条の規定に違反すると考える場合、又はいかなるものであっても、本法第15条、第16条、第17条、第18条、第24条の規定に違反すると考えれる場合、国務院商標管理部門に異議申し立てを行うことができる。公告期間が満了し、異議申し立てがないときは、登録を審査確認し、商標登録証を交付し、且つ公告する。 |
中国の商標法では、初期査定公告がなされた後に、異議申し立てを行うことができるが、その申立期間が、現行法の3か月から2か月に短縮されている。
出願した商標が、早期に商標登録される点はメリットであるが、他社の悪意の先取り商標出願が確認された場合等、異議を申し立てるための対応時間が減ってしまうため、モニタリングを強化して、早急に発見、対応できるように準備しておく必要がある。
2 審査・審決の中止
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現行法 |
2025年改正案 |
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第35条第4項 商標評議審査委員会は、前項の規定に基づく再審査を行う過程で、関連する先行権利の確定に人民法院が審査中又は行政機関が処理中の別の事件の結果を根拠とすべき場合は、審査を中止することができる。中止原因の解消後は、審査手続を再開しなければならない。 |
第40条 国務院の商標管理部門は、商標異議の審査、拒絶査定不服審判、登録不許可決定不服審判、無効審判事件の審理において、関連する先にある権益の確定が人民法院で行われている審理又は行政機関で処理されている他の案件の結果に依拠する場合、原則として審査・審決を中止しなければならない。中止原因の解消後、ただちに審査・審理手続を再開しなければならない。 |
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第45条第3項 商標評審委員会は、前項の規定により無効宣告申請について審査を行う過程において、関連する先行権利の確定について、人民法院で審理中又は行政機関で処理中の別案件の結果を根拠としなければならないときは、審査を中止するができる。中止の原因が解消された後は、審査手続を再開しなければならない。 |
現行法では、異議申立ての再審査、無効審判審査において、先行権利の確定に、人民法院の審理、行政機関の処理中の別の案件の結果に依拠する場合に、「中止することができる」とされていたが、2025年改正案第40条第1項では、規定が統合され、商標異議の審査、拒絶査定不服審判、登録不許可決定不服審判、無効審判事件の審理において、関連する先にある権益の確定が人民法院で行われている審理又は行政機関で審理されている他の事件の結果に依拠する場合は、原則として、審査・審決を「中止しなければならない」と変更された。これにより、引用商標の権利確定と、審査・審決の統一的な解決が期待できる。
一方で、2025年改正案第40条第2項では、国務院の商標管理部門がこの第19条(登録を出願する商標は、他人の同じ種類の商品又は類似する商品において、すでに登録された又は先に申請された商標と同一若しくは類似するものであってはならない)に基づいて下した拒絶査定不服審判決定、登録不許可不服審判決定、無効審判裁定について人民法院が審理する場合は、「決定・裁定が下されたときの事実状態を基準としなければならない」と規定している。
このため、引用商標の権利状態が訴訟段階で実質的な変化(取消・無効審判・譲渡・登録抹消等)を生じた場合でも、人民法院は審査段階における当該引用商標の有効性を基礎として裁判をしなければならず、新しい証拠を提出して、権利救済を求める機会が制限される可能性がある。
商標の使用管理の強化
1 商標の使用規制の強化
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現行法 |
2025年改正案 |
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第49条 商標登録者が、登録商標の使用過程において、登録商標、登録者の名義、所在地又はその他の登録事項を自ら変更した場合は、地方の工商行政管理部門が期限を定めて是正を命じ、期限を過ぎても是正しないときは、商標局がその登録商標を取り消す。 登録商標が、その指定商品について普通名称となった場合、又は正当な理由なく3年間継続して使用されていない場合には、いかなる法人又は個人も商標局に対し当該登録商標の取消しを請求することができる。商標局は、申請を受領した日から9か月以内に決定しなければならない。特殊な状況があり延長する必要がある場合は、国務院の工商行政管理部門の承認を経て、3か月延長することができる。 |
第56条 商標登録者が、登録商標の使用過程において、登録商標、登録者の名義、所在地又はその他の登録事項を自ら変更した場合、又は公衆を誤認させる方法で登録商標を使用した場合は、商標執行担当部門が期限を定めて是正を命じ、期限を過ぎても是正しないときは、5万元以下の過料を課し、情状が重大な場合は、国務院商標管理部門がその登録商標を取り消す。 登録商標が、その指定商品について普通名称となった場合、又は正当な理由なく3年間継続して使用されていない場合には、いかなる法人又は個人も国務院の商標管理部門に対し当該登録商標の取消しを請求することができる。国務院商標管理部門は、申請を受領した日から9か月以内に決定しなければならない。特殊な状況があり延長する必要がある場合は、国務院の商標管理部門の責任者の承認を経て、3か月延長することができる。 これらの定める状況に該当する場合、国務院の商標管理部門は職権により当該登録を取り消すことができる。 |
2023年改正法で規定されていた商標出願における使用承諾や登録から5年ごとの使用状況の説明義務は規定されなかったが、商標の取消制度によって商標の使用規制が強化されている。
普通名称となった商標や3年間継続して使用されていない商標について、国務院の商標管理部門が職権で取消しができるようになった。
また、公衆を誤認させる方法で登録商標を使用する行為が禁止され、5万元以下の過料が規定されており、情状が重大な場合は、登録商標を取消することができるようになった。
もっとも、「公衆を誤認させる方法」については、品質の誤認を意味するのか、又は出所の誤認を意味し、悪意の先取り商標登録を行った場合にも適用できるのかが明確ではなく、商標の取消しは、是正命令に応じず、情状が重大な場合に限定されている。
2 商標使用許諾契約の解除権
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現行法 |
2025年改正案 |
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第43条第1項 商標登録者は、商標使用許諾契約の締結によって、他人にその登録商標の使用を許諾することができる。許諾者は、被許諾者がその登録商標を使用する商品の品質を監督しなければならない。被許諾者は、当該登録商標を使用する商品の品質を保証しなければならない。 |
第55条第1項 商標登録者は、商標を自ら使用することも、商標使用許諾契約の締結によって、他人にその登録商標の使用を許諾することができる。許諾者は、被許諾者がその登録商標を使用する商品の品質を監督しなければならない。被許諾者は、当該登録商標を使用する商品の品質を保証しなければならない。被許諾者が、品質保証義務を履行しない場合、許諾者は、商標使用許諾契約を解除する権利を有する。 |
許諾が被許諾者の商品について品質監督義務を果たすため、被許諾者が商標を使用する商品について品質保証義務違反がある場合に、許諾者の解除権が明記されており、被許諾者の品質保証義務違反に対する権利が強化された。
しかし、「品質保証義務を履行しない場合」という抽象的な要件となっているため、具体的にどのような場合、品質保証義務違反が生じるのか、商標使用許諾契約で明確にすることが重要になる。
執行の強化
1 行政摘発、刑事摘発の連携強化
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現行法 |
2025年改正案 |
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第61条 工商行政管理部門は、登録商標専用権を侵害する行為に対して、法により調査、処分を行う権限を有する。犯罪の疑いがあるときは、直ちに司法機関に移送し、法に基づいて処理しなければならない。 |
第72条 登録商標専用権を侵害する行為に対しては、商標法の執行を担当する部門が法に基づき摘発する権限を有し、何人も商標法の執行を担当する部門に苦情申し立て又は通報を行うことができる。 登録商標専用権の侵害に係る犯罪の疑いがあるときは、商標法の執行を担当する部門は、直ちに公安機関に移送し、法に基づいて処理しなければならない。法により刑事責任を追及する必要がない又は刑事罰を免除するが、行政処罰を与えるべきである場合、公安機関、人民検察院、人民法院は、速やかに事件を商標法の執行を担当する部門に移送し、法に基づき処理しなければならない。公安機関、人民検察院、人民法院が、商標法の執行を担当する部門及び商標登録及び管理業務を担当する部門に対し、専門的支援、認定意見の提供、並びに侵害物品の無害化処理等の協力を要請する場合、関係部門は速やかに協力しなければならない。 |
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第62条 県級以上の工商行政管理部門は、既に取得した違法嫌疑証拠又は通報に基づき、他人の登録商標専用権の侵害する疑いのある行為を処理する際に、次に掲げる職権を行使することができる。 (一)当事者を尋問し、他人の登録商標専用権の侵害に関する状況を取り調べること (二)当事者の侵害行為に関連する契約、領収書、帳簿及びその他の関連する資料を閲覧、複製すること (三)当事者が、他人の登録商標専用権を侵害する疑いのある行為に係わる場所を現場検証すること (四)侵害行為に関係する物品を検査し、他人の登録商標専用権を侵害する物品であることを証明する証拠があるときは、封印又は差し押さえること。 工商行政管理部門が、法に基づき、前項に規定する職権を行使するときは、当事者は、これに協力し、従うものとし、拒絶や妨害をしてはならない。 商標権侵害案件の処理にあたって、商標権の帰属に争いがあるとき、又は権利者が同時に人民法院に商標権侵害訴訟を提起しているときは、工商行政管理部門は、案件の処理を中止することができる。中止の原因が解消された後は、案件の処理手続を再開又は終結しなければならない。 |
第73条 商標法の執行を担当する部門は、既に取得した違法嫌疑証拠又は通報、苦情申し立てに基づき、他人の登録商標専用権侵害の疑いのある行為を摘発する際に、次に掲げる職権を行使することができる。 (一)当事者を尋問し、他人の登録商標専用権の侵害に関連する状況を調査すること (二)当事者と権利侵害行為に関連する契約、領収書、帳簿、伝票、文書、記録、業務上の書簡電報、視聴覚資料、電子データ及びその他の資料を閲覧、複製すること (三)当事者が、他人の登録商標専用権を侵害する疑いのある行為に係わる場所を現場検証すること (四)侵害行為に関係する物品を検査すること。他人の登録商標専用権を侵害していると証明することができる証拠となる物品を封印又は差し押さえること (五)証拠が消失する可能性がある場合又は以後の取得が困難な場合、先だって登録して保存すること 商標法執行を担当する部門が、法に基づき前項に規定する職権を行使するときは、当事者は、これに協力し、従うものとし、拒絶や妨害をしてはならない。 商標権侵害案件の処理にあたって、商標権の帰属に争いがあるとき、又は権利者が同時に人民法院に商標権侵害訴訟を提起しているときは、商標法執行を担当する部門は、案件の処理を中止することができる。中止の原因が解消された後は、案件の処理手続を再開又は終結しなければならない。 |
商標権侵害の行政摘発、刑事摘発の相互の移送、協力内容が明記され、その連携が強化されている。
また、行政摘発における職権が修正され、証拠の収集権限が強化された。
2 民事損害賠償責任の強化
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現行法 |
2025年改正案 |
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第63条 商標専用権侵害の損害賠償額は、権利者が侵害により受けた実際の損害により確定する。実際の損害を確定することが困難な場合には、侵害者が侵害によって得た利益により確定する。権利者の損害又は侵害者が得た利益を確定することが困難な場合には、商標の使用許諾料の倍数を参照して合理的に確定する。悪意の商標専用権侵害行為で情状が重大な場合、上述の方法により確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償額を確定することができる。賠償額には、権利者が侵害行為を抑止するために支払った合理的な支出を含まなければならない。 人民法院は賠償額を確定するために、権利者が既に挙証に尽力しているものの、侵害行為に関連する帳簿、資料を主に侵害者が掌握している状況において、侵害者に対して、侵害行為に関連する帳簿、資料の提供するよう命じることができる。侵害者が提供しない場合、又は虚偽の帳簿、資料を提供した場合、人民法院は権利者の主張及び提供した証拠を参照して賠償額の判断をすることができる。 権利者が侵害により受けた実際の損害、侵害者が侵害により得た利益、登録商標の使用許諾料を確定することが困難な場合には、人民法院は侵害行為の情状に応じて5500万元以下を賠償額とする判決を下す。 人民法院は商標紛争事件を処理する際、権利者の請求に基づき、登録商標を盗用した偽造商品に属するものについて、特殊な情況を除き、廃棄処分を命じる。主として登録商標を盗用した偽造商品の製造に使われる材料、道具について廃棄処分を命じ、且つ補償を与えない。或いは、特殊な情況において、前記の材料、道具の市場流通の禁止を命じ、且つ補償を与えない。 登録商標を盗用した偽造商品について、単に盗用した商標を取り除いただけでは、市場に流通させてはならない。 |
第74条 商標専用権侵害の損害賠償額は、権利者が侵害により受けた実際の損害又は侵害者が侵害によって得た利益により確定する。権利者の損害又は侵害者が得た利益を確定することが困難な場合には、その商標の使用許諾料の倍数を参照して合理的に確定する。故意による商標専用権侵害行為で情状が重大な場合、上述の方法により確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償額を確定することができる。 人民法院は賠償額を確定するために、権利者が既に挙証に尽力しているものの、侵害行為に関連する帳簿、資料を主に侵害者が掌握している状況において、侵害者に対して、侵害行為に関連する帳簿、資料を提供するよう命じることができる。侵害者が提供しない場合、又は虚偽の帳簿、資料を提供した場合、人民法院は権利者の主張及び提供した証拠を参照して賠償額の判断をすることができる。 権利者が侵害により受けた実際の損害、侵害者が侵害により得た利益、登録商標の使用許諾料を確定することが困難な場合には、人民法院は侵害行為の情状に応じて5500万元以下を賠償額とする判決を下す。 賠償額には、権利者が侵害行為を抑止するために支払った合理的な支出も含まなければならない。 人民法院は商標紛争事件を処理する際、権利者の請求に基づき、登録商標を盗用した偽造商品に属するものについて、特殊な情況を除き、廃棄処分を命じる。主として登録商標を盗用した偽造商品の製造に使われる材料、道具について廃棄処分を命じ、且つ補償を与えない。或いは、特殊な情況において、前記の材料、道具の市場流通の禁止を命じ、且つ補償を与えない。 登録商標を盗用した偽造商品について、単に盗用した商標を取り除いただけでは、市場に流通させてはならない。 |
商標権侵害の損害賠償の算定方法は、①侵害により受けた実際の損害、②侵害者が侵害により得た利益、③登録商標の使用許諾料、④人民法院が侵害行為の情状に応じて決める500万元以下を賠償額(法定賠償という)の4つの種類がある。
現行法では、①の算定が困難な場合に、②の方法により損害を算定できると規定されていたが、2025年改正法では、①又は②により損害を算定できると変更され、権利者が有利な損害計算方法を選択できるようになった。
また、賠償金額には、弁護士費用等の権利者が侵害行為を抑止するために支払った「合理的な支出」が含まれ得るが、現行法の第63条では、①、②、③の後ろに、「合理的な支出」の規定が配置され、その後ろに、④の法定賠償が規定されているため、法定賠償の場合は、合理的な支出を請求できないとされていた。
2025年改正法では、①、②、③、④の後ろに、「合理的な支出」の規定が配置されることになり、法定賠償の範囲が適用される場合も、別途合理的な支出を請求できるようになっている。
また、①、②、③の損害の最大5倍が認められる懲罰的損害賠償の適用要件について、「悪意」から「故意」に修正されており、認定のハードルが引き下げられている。
3 三年不使用による免責の抗弁
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現行法 |
2025年改正案 |
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第64条第1項 登録商標専用権者が賠償を請求した場合であって、権利侵害を訴えられた者により、登録商標専用権者が登録商標を使用していない旨の抗弁がなされたときは、人民法院は、登録商標専用権者に対して、直近3年間に当該登録商標を実際に使用した証拠を提供するよう求めることができる。登録商標専用権者が直近3年以内に当該登録商標を実際に使用したことを証明できない場合、又は侵害行為によりその他の損失を受けたことを証明できない場合、権利侵害を訴えられた者は、損害賠償の責任を負わない。 |
第75条第1項 登録商標専用権者が賠償を請求した場合であって、権利侵害を訴えられた者により、登録商標専用権者が登録商標を使用していない旨の抗弁がなされたときは、人民法院は、登録商標専用権者に対して、提訴前の3年間に当該登録商標を実際に使用した証拠を提供するよう求めることができる。登録商標専用権者が提訴の3年以内に当該登録商標を実際に使用したことを証明できない場合、又は侵害行為によりその他の損失を受けたことを証明できない場合、権利侵害を訴えられた者は、損害賠償の責任を負わない。 |
商標権の損害賠償請求に対しては、商標の専用権者が、商標を使用していないことを抗弁で主張することができ、商標の専用権者が3年間以内に商標を実際に使用したことを証明できない場合には、損害賠償責任が認められない。
現行法ではこの抗弁の3年間の起算点について「直近」と規定しているのみで、「侵害行為発生前」、「原告提訴前」、「抗弁の主張前」のいずれを指すかについて、実務上争いがあったが、2025年改正案では、「提訴前」であることが明確化された。
4 悪意による商標訴訟の損害賠償責任
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現行法 |
2025年改正案 |
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第68条第4項 悪意による商標登録出願に対し、情状により警告、過料等の行政処罰を与える。悪意による商標訴訟に対し、人民法院は、法に基づいて処罰を与える。 |
第78条 悪意による商標訴訟に対し、人民法院は、法に基づいて処罰を与える。相手側当事者に損害を与えた場合、法に基づいて民事責任を負わなければならない。 |
悪意による商標訴訟に対して、損害賠償請求をできることが規定された。これにより、悪意による商標権侵害訴訟に対して、反訴で損害賠償を請求することが可能となる。
雑感
2023年改正案で注目された大きな制度変更は見送られたものの、以下のような悪意の先取り商標登録行為に対する規制の強化と、②商標権侵害の執行の強化は、中国で事業を展開する日本企業にとっても、商標権を活用していく上で重要になると考えられる。
第1に、悪意の先取り商標登録行為に対する行政処罰(警告、10万元以下の過料)、公衆を誤認させる方法での登録商標使用に対する行政処罰と取消し、中国で登録されていない馳名商標の保護範囲の拡大により、誤認混同や悪意の先取り商標出願行為をより抑止できるようになると考えられる。一方で、異議申し立て期間が、2か月に短縮されるため、悪意の先取り商標出願行為が発見されたら、すぐに異議申し立てができるように対応を準備する必要がある。
第2には、行政摘発と刑事摘発の連携強化、行政摘発の証拠収集における職権の強化により、行政摘発と刑事摘発の執行がより強化されることになる。また、民事責任についても、損害賠償責任が強化され、賠償額も引き上げられる可能性がある。その結果、発生するおそれがある悪意の商標訴訟に対しては、損害賠償請求の反訴で対応できるようになる。
商標法の改正は、2026年中には、正式に成立し施行される可能性があるため、引き続き動向に注視する必要がある。
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