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【ヘルスケア】「研究用」検査キット規制の明確化と体外診断用医薬品に係る改正薬機法のポイント ~該当性判断の新ガイドライン案とIVD規制の国際整合・厳格化~
2026.02.16
令和7年(2025年)5月、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」)の一部を改正する法律が公布されました。
今回の改正は、ドラッグ・ロスへの対応や医薬品の安定供給確保と並び、新型コロナウイルス感染症の教訓を踏まえた「体外診断用医薬品(IVD)」の規制見直しが含まれており、体外診断用医薬品の実務に大きな影響を及ぼす変更が予定されています。
また、薬機法の体外診断用医薬品の規制の網にかかる検査キットの明確化の観点から、「研究用」と称する検査キット等の体外診断用医薬品の範囲に関するガイドライン(案)が現在パブリックコメントに付されています。
本稿では、実務への影響が大きい2つのトピック、すなわち①「研究用」と称する検査キットの該当性判断に関する新ガイドライン案の概要と、②改正薬機法における体外診断用医薬品固有の改正事項について解説します。
「研究用」検査キット等の範囲に関するガイドライン(案)の概要
新型コロナウイルス感染拡大下において、薬機法上の承認を得ていない簡易検査キットが「研究用」と称してドラッグストアやインターネット等で広く流通し、消費者が自己診断目的で使用する実態が問題視されました。これを受け、厚生労働省は「研究用と称する検査キット等の体外診断用医薬品の範囲に関するガイドライン(案)」を取りまとめ、該当性判断の基準を明確化する方針を示しました。
(1) 「標榜」から「実態」判断への転換
医薬品、医療機器該当性は、対象製品の「目的」により定義されているところ、その目的の有無の判断は、製品の客観的な性能や用途と(実態)、その製品の効果や用途がどのように広告などにおいて表示されているか(表示)の両面から判断されるべきものです。しかしながら、これまで体外診断用医薬品の該当性は、製品への「診断目的」の標榜(表示)が重視される傾向にあり、「研究用」と表示されていれば直ちに規制対象とはなりにくい側面がありました。 しかし、本ガイドライン案では、単に「研究用」と表示されているか否かではなく、「一般人が容易に体外診断用医薬品(診断に用いるもの)と認識できるか」という客観的な実態に基づいて判断されることが明確化されました。
(2) 総合的な判断要素
具体的には、以下の要素を総合的に勘案して判断されます。
• 形状: 専門知識のない一般人でも検体採取から結果判定まで完結できる形状(スワブやカセット等のキット形式)か。
• 販売方法: ドラッグストアや一般消費者向けECサイト等、一般人が容易に入手できるチャネルで販売されているか。
• 表示・広告: 「感染の有無がわかる」「陽性なら受診を」といった診断結果を示唆する表現や、海外認証(FDA等)の表示により品質を暗示しているか。
これらの要素から実態として診断目的で提供されているとみなされた場合、たとえ「研究用」と表示していても「無承認無許可医薬品」として薬機法違反となり、行政処分や刑事罰の対象となります。
(3) 今後のスケジュール
本ガイドライン案は令和8年(2026年)1月からパブリックコメントに付され、同年3月上旬に通知が発出される予定です。通知発出後は厳格な運用が予想されるため、関連事業者は製品の販路や表示の見直しが急務となります。
改正薬機法による体外診断用医薬品規制の進化
2026年5月1日以降に段階的に施行される改正薬機法では、体外診断用医薬品が「人体に直接使用されない」「対象(ウイルス等)が変異する」といった特性を踏まえ、制度の合理化と厳格化が図られています。主な改正点は以下の4点です。
(1) 市販後の性能維持と承認取消し(第23条の2の10の2、第74条の2関係)
新型コロナウイルスの変異株に対し、既存の検査キットが反応しない事例が発生したことを踏まえ、製造販売業者に対し、市販後においてもウイルスの変異等に対応して性能が維持されているかを確認・評価し、国へ報告することが新たに義務付けられました(性能等再評価)。 さらに、評価の結果、変異株を検出できないなど市販後の性能が担保されない場合には、その承認を取り消す仕組みが導入されました。これは医薬品の再評価制度と同様の強力な措置であり、企業はライフサイクルを通じた品質保証が求められます。
(2) 臨床性能試験の信頼性基準(IVD版GCP)の策定(第23条の2の5関係)
これまで体外診断用医薬品の承認申請に用いる「臨床性能試験(検体を用いた試験)」には、医薬品のGCP(臨床試験の実施基準)のような明確な法的基準が存在しませんでした。 改正法では、臨床検体を用いた性能試験について、データの信頼性を確保するための基準(GCPに準じたもの)に従って収集・作成することを承認要件として法的に位置づけました。これにより、試験実施医療機関との契約やデータ管理において、より厳格な対応が必要となります。
(3) 副作用報告から「不具合報告」への移行(第68条の10関係)
体外診断用医薬品は法的に「医薬品」に分類されるため、従来は「副作用報告」の対象とされてきました。しかし、人体に直接投与しない体外診断用医薬品に「副作用」という概念はそぐわず、国際的にも整合していませんでした。 今回の改正(及び関連省令改正)により、欧米の規制や医療機器と同様に「不具合報告(Malfunction Reporting)」の枠組みへと移行します。これにより、誤った診断結果(偽陽性・偽陰性)を引き起こす性能欠如などが、適切な区分で報告されることになります。
(4) 製造管理者要件の緩和(第23条の2の14関係)
体外診断用医薬品の製造所の責任者(製造管理者)は、原則として薬剤師であることが要件とされていました。しかし、バイオ技術の進展等により必ずしも薬剤師の職能のみに依存しない製品が増えていることから、薬剤師の確保が著しく困難な場合等において、「大学等で専門課程(生物学、化学等)を修了した技術者」も製造管理者として認める特例が設けられました。
実務への影響と対応
今回の制度改正は、体外診断用医薬品ビジネスに対し、入り口(該当性判断)の厳格化と、中身(承認審査・市販後管理)の高度化を同時に求めるものです。 企業においては、特に以下の点について早急な確認が推奨されます。
1. 「研究用」製品の総点検: 自社が取り扱う研究用試薬が、一般消費者向け販路に流れていないか、広告表現が診断を暗示していないかを確認し、ガイドライン通知までに是正すること。
2. 市販後性能評価体制の構築: 変異情報の収集から社内での性能確認(ウェット試験等)、当局(厚労省/PMDA)への報告までを迅速に行う社内プロセスを整備すること。
3. GVP/GCP手順書の見直し: 不具合報告への移行や新GCP基準の導入に伴い、関連する標準業務手順書(SOP)の改訂準備を進めること。
当事務所では、ヘルスケア・ライフサイエンス分野の規制対応について、最新の法改正を踏まえたアドバイスを提供しております。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
※本記事は作成時点(2025年2月)の情報を基にしており、施行に向けた政省令の制定状況により細部が変更される可能性があります。

