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宿泊会員権の前払式支払手段該当性(第2回)
2026.05.11
はじめに
前回は、前払式支払手段に係る規制内容を確認しました(前回の記事はこちらからご覧いただけます。)。本稿では、前回に引き続き、宿泊会員権の前払式支払手段該当性を検討します。
前回のおさらい
前回の記事に記載したとおり、金融庁公表の事務ガイドライン(※1)には、前払式支払手段に該当しない証票・番号等の類型が列挙されています。このうち、宿泊会員権の前払式支払手段該当性において主に問題となる類型は、以下のとおりです。以下、便宜上、②を「②証拠証券」といい、⑤を「⑤本人であることを確認する手段等」ということがあります。

(※1) 金融庁「事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係「5前払式支払手段発行者関係」」I-1-1 前払式支払手段に該当しない証票等又は番号、記号その他の符号(1)の内容を基に筆者が一部加工(下線・太字・色等を付加)。
前払式支払手段に該当しない証票・番号等(②証拠証券)該当性
②証拠証券は、前払式証票法の事務ガイドラインの記載を引き継いだものです(※2)。前払式証票法(資金決済法の前身の法律)の所管省庁による解説書(※3)によれば、「証拠証券」とは、本人であることを確認する手段に過ぎないものであり、前払式証票のようにそれを提示等することにより相手方に役務提供を請求しうるものではない、つまり、その所持者が本人であることを証明された結果、本人に帰属する権利を行使できるにすぎず、いわば「証票等」が価値を有するのではなく、人が価値を有しているものをいい、そのような証拠証券は前払式証票に該当しないと考えられています。具体的には、「証拠証券」とは、次の3つの要件全てを満たすものをいうと考えられています。
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前払式証票法は、金額や数量が直接記載される紙(証書)やIC型カードを規制対象としており、サーバに記録される類型(サーバ型)は規制対象外とされていました(※4)。このことからすれば、前払式証票法の事務ガイドラインに記載された当時「ゴルフ会員権証」「テニス会員権証」等各種会員権とは、紙(証書)やIC型カードが想定されており、また、前掲※3の解説書における証拠証券の要件も、同様の想定のもと記載されたものであったと考えられます。
前払式支払手段に該当しない証票・番号等(⑤本人であることを確認する手段等)該当性
⑤本人であることを確認する手段等も、前払式証票法の事務ガイドラインの記載を引き継いだものですが、資金決済法の制定時に相当程度の追記が行われています(※5)。また、同時期に実施されたパブリックコメントに対する回答(※6)では、以下のとおり、更に具体化が図られています(事務ガイドラインと同パブコメ回答の対応関係は、後述「06 サーバ型宿泊会員権の前払式支払手段該当性」をご覧ください。)。

(※6) 平成22年3月1日付「コメントの概要とコメントに対する金融庁の考え方」No.6の内容を基に筆者が一部加工(下線・太字・色等を付加)。
なお、上記パブコメ回答No6では、「対面による本人確認を実施するか又はこれと同程度に利用者が真正な権利者であるか否かを確実に認識できるシステムを構築するなどの措置」について、「商品、役務を提供する際に、単に、顧客ユーザーが自己申告した氏名(通称、仮称を含む)やクレジットカード番号などを入力することを求めるのみでは・・・認められない」ことが示されており、本人確認の実施方法に関しては慎重な検討を要すると考えられます。
各類型の比較検討
⑤本人であることを確認する手段等該当性の判断基準は、その内容からして、前掲※3の解説書記載の証拠証券の要件と類似していることから、⑤本人であることを確認する手段等は、広く証票・番号等に価値が存在せずその価値との結びつきがない類型を抽象的に記載したものと解することができるように思われます。このように考える場合、②証拠証券は⑤本人であることを確認する手段等の具体例を示したもの、と位置づけることができます。
そして、②証拠証券該当性の判断基準は、事務ガイドラインの記載からは明らかではありませんし、その記載時期からして証書やIC型カードを想定したもので、サーバ型のようにオンライン上で購入し、提供されるサービスにおいて使用可能な形態の証票・番号等は具体的に想定していなかったように思われます。
他方、⑤本人であることを確認する手段等該当性の判断基準に関しては、当局公表資料(事務ガイドライン・パブリックコメントに対する回答)により詳細な基準が示されており、更に、資金決済法の制定時に相応の追記がなされた経緯に鑑みれば、証書やIC型カードのみならずサーバ型をも想定したうえで記載されたと考えられます(※7)。
このような状況を踏まえると、少なくとも、オンライン上での購入等が行われるサーバ型の宿泊会員権については⑤本人であることを確認する手段等の該当性を検討する方法が、実務上適切なアプローチであると思われます。
サーバ型宿泊会員権の前払式支払手段該当性
サーバ型宿泊会員権は、その宿泊会員権の発行者に対して宿泊会員権の代金を支払うことにより取得できるため、通常、前払式支払手段該当性を検討する必要があります。例えば、宿泊会員権を表章したNFTを対価の支払いを受けて発行し、当該NFTを提示した者がホテルに宿泊できるような場合は、当該宿泊会員権(NFT)は前払式支払手段に該当する可能性が高いと考えられます。他方、⑤本人であることを確認する手段等に該当する宿泊会員権は、前払式支払手段に該当しません。⑤本人であることを確認する手段等に該当するサーバ型宿泊会員権の一例として、以下のような整理があり得ると考えられます。
<事務ガイドラインとパブリックコメントの内容を踏まえた対応策>

なお、上記はあくまでも一例であり、サービスを実装するにあたっては、具体的なサービス内容を踏まえた個別具体的な検討、金融庁への照会を行うなど適切な法的整理を実施する必要があります。
(※2)2010年3月1日付パブリックコメントの結果等の公表の別紙4。現行5-1-1(1)③「「ゴルフ会員権証」、「テニス会員権証」等会員権」から、改正後Ⅰ-1-1(1)②「「ゴルフ会員権証」、「テニス会員権証」等会員権(証拠証券としての性格を有するものに限る。)」に変更されています。前払式証票法の事務ガイドライン記載当時は、「(証拠証券としての性格を有するものに限る。)」との記載はなかったものの、資金決済法制定時に証拠証券に限定されることが明確化されました。
(※3)大蔵省銀行局内プリペイドカード研究会編『前払式証票「商品券・ギフト券・プリペイドカード等」規制法の実務解説』(日本法令、1991年5月)67頁~68頁)
(※4)第171回国会における金融庁関連法律案、資金決済に関する法律(平成21年3月6日提出、平成21年6月17日成立)の概要資料。資金決済法において、サーバに記録される類型も前払式支払手段に含まれることとなりました。
(※5)2010年3月1日付パブリックコメントの結果等の公表の別紙4。現行5-1-1(1)②「本人であることを確認する手段等で証票等自体には価値が存在しないもの」から、改正後Ⅰ-1-1(1)⑤「本人であることを確認する手段等で証票等又は番号、記号その他の符号自体には価値が存在せず、かつ、証票、電子機器その他のものに記録された財産的価値との結びつきがないもの・・・(以下略)」に変更されています。
(※7)その他、⑤本人であることを確認する手段等該当性の判断基準が、証書やIC型カードのみならずサーバ型をも想定したうえで記載されたと考えられる理由として、前掲※6のパブコメ回答がサーバ型の証票・番号等の存在を踏まえた回答であると考えられることが挙げられます。前掲※6のパブコメ回答は、オンラインゲーム協会からの意見(質問)に対する回答であり、「対面による本人確認を実施するか又はこれと同程度に利用者が真正な権利者であるか否かを確実に認識できるシステムを構築するなどの措置」を講じる必要があること及び「商品・役務を提供する際に、単に、顧客・ユーザーが自己申告した氏名(通称、仮称を含む)やクレジットカード番号などを入力することを求めるのみでは、利用者が真正な権利者であるか否かを確実に認識できるシステムとは認められない」ことを示しています。ゲーム内コインなど非対面での購入及び使用がなされるサービスでは対面による本人確認の実施は通常想定されないところ、前掲※6のパブコメ回答は、対面によらない本人確認の手法を否定はしていないこと(「(対面による本人確認と)同程度に利用者が真正な権利者であるか否かを確実に認識できるシステムを構築するなどの措置」を講じることが基準として掲げられていること)から、サーバ型の証票・番号等の存在を踏まえた回答がなされていると考えられます。
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