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【スマートシティ連載企画】第5回 スマートシティ×ローカル5Gの最前線(後編)
2021.04.23
TMI総合法律事務所 スマートシティプラクティスグループ
元総務省総合通信基盤局専門職・弁護士・NY州弁護士
山郷 琢也
はじめに
前編では、ローカル5Gの基礎知識やスマートシティの文脈でのユースケースを中心に解説しましたが、後編では、ローカル5Gの導入に係る法律問題を概説します。
前編で解説したとおり、ローカル5Gは様々な産業での活用可能性が考えられるところ、具体的ユースケースごとに問題になる法律は異なります。
そこで、本稿では、各ユースケースで共通して問題になり得るトピックとして、電気通信事業法、電波法、サイバーセキュリティ対策、知的財産戦略にフォーカスして主な法的留意点を概説します。
電気通信事業法
(1)電気通信事業の登録又は届出
電気通信事業とは他人の需要に応じて電気通信役務を提供する事業と定義されますが(電気通信事業法第2条第4号)、ローカル5Gの導入に際しては、そのサービス形態や設置する設備の規模に応じて、電気通信事業の登録又は届出が必要となる可能性があります(同法第9条、第16条)。
他方で、上記のとおり、電気通信事業は「他人の需要」に応じて電気通信役務を提供する事業と定義されるところ、自己需要で通信ネットワークを構築する場合には、電気通信事業法は適用されません。
ローカル5Gについては、プライベートネットワークであるため、自己需要としての利用にあたり、常に電気通信事業の登録又は届出は不要であると考える方もいらっしゃるかと思いますが、そのような早計は禁物です。
ケースバイケースでの判断が必要になりますが、ローカル5Gの導入にあたっては、ネットワークインテグレータなどの事業者が実際の利用者に代わって無線局免許を取得する場合やアンカーとして設置した自営等BWA(Broadband Wireless Access)を他の利用者に利用させる場合などが想定されます。
このような場合、直ちに自己需要と即断していいかは注意が必要です。事実、総務省が公表している「ローカル5G導入に関するガイドライン」でも、登録・届出の要否は具体的なサービス形態によって異なるとの記載があるため、個別の事案ごとに電気通信事業の登録又は届出の要否を検討する必要があります。
(2)通信の秘密の保護
電気通信事業法との関係では、通信の秘密の保護(電気通信事業法第4条)にも留意が必要です。
一般的に、データ保護に関わる法律というと個人情報保護法が真っ先に思いつくところですが、電気通信事業法が適用される場合には、通信の秘密に係る規制も適用されます。
通信の秘密の保護は、個人情報保護法上の個人情報に該当しないデータ(例えば、匿名化された通信ログなど)に対しても規律が及ぶ可能性があること、原則として利用規約等による包括的な同意では不十分であり、その利用にあたっては個別具体的な同意が必要と解釈されるなど、特に厳格な保護が求められる傾向にあります。
ローカル5Gにおいては、センシングデバイスなど各種端末から得られたデータをエッジAIでリアルタイムに解析し、現実世界にフィードバックするというビジネスモデルが考えられますが、かかるデータの利活用が通信の秘密の規制に違反していないかについて、慎重な検討が必要になります。
特に、近時、通信の秘密の保護に関して、総務省は「通信の秘密の確保に支障があるときの業務の改善命令の発動に係る指針」及び「同意取得の在り方に関する参照文書」といったガイドラインを公表しており、これらの最新動向を踏まえた対応が必要です。
(3)携帯電話事業者などとの契約締結
やや専門的な話になりますが、ローカル5Gのネットワークを構築するためには、5Gに対応する基地局を設置するだけでは足りず、端末や通信の制御などを行うコアネットワークの整備も必要です。当面の間は、このコアネットワークとして4Gネットワークを利用することが想定されており(この場合の4Gネットワークを「アンカー」と呼びます。)、このような構成のことをNon Stand Alone(NSA)と呼びます。いわば4Gと5Gを合わせ技で提供するようなイメージです。
アンカーとしての4Gネットワークは自前で構築することも不可能ではありませんが、通常は、構築に要する費用や手間の関係で、携帯電話事業者や地域BWA事業者から4Gネットワークを借り受けることになるのが通常だと思われます。
この場合、携帯電話事業者や地域BWA事業者との間で、4Gネットワークの提供に関する契約を締結する必要があります。
(4)IMSIの取得
ローカル5Gの運用のためには、端末認証や位置情報管理などを行うため、IMSI(International Mobile Subscription Identity)という15桁の番号が必要であり、ネットワーク構成によっては総務省に対してIMSIの指定の申請を行う必要があります。
電波法
(1)無線局免許の取得
ローカル5Gを構築する場合には、無線局免許を取得する必要があります。
ローカル5Gの無線局免許の取得が認められる場面としては、①自己の土地建物上での利用である場合(自己土地利用)と、②他者の土地建物上での利用である場合(他者土地利用)の2パターンに分かれますが、土地建物の所有関係が複雑に入り組んでいるなど実務的に判断が難しい局面もあるものと思われます。
自己土地利用と他者土地利用のいずれに分類されるかによって、周波数の利用条件に違いがあり、他の無線局との優劣関係や認められる通信態様などで差異が生じるため、事前に土地建物の所有関係を精査した上で、無線局免許を申請することが重要になります。
(出典)総務省『令和2年版 情報通信白書』
(2)干渉調整
ローカル5Gは、複数の事業者が同一の周波数帯を共用するタイプの無線システムであり、また隣接する周波数帯は携帯電話事業者によって利用されています。
そのため、ローカル5Gを構築する場合には、これら既存免許人が運用する無線システムとの間で相互に混信が起こらないよう、事前に干渉調整を行い、必要に応じて、総務省に対して、既存免許人から干渉同意書を提出する必要があります。
また、万が一、既存無線局との間で混信などの問題を生じさせた場合、損害賠償責任などの民事責任が問題になる可能性もあることから、将来の無用な法的紛争を回避するためにも、既存免許人との間で、干渉が生じた場合の対応や費用負担などについて当事者間で契約を締結しておくことが望ましいでしょう。
サイバーセキュリティ対策
サイバー攻撃の巧妙化・悪質化を背景に、企業におけるサイバーセキュリティ対策の重要性が叫ばれて久しいですが、ローカル5Gとの関係でも例外ではありません。
特に、前編で述べたとおり、ローカル5Gは様々な産業分野での活用可能性があり、例えば医療など高度の安全・信頼が要求される分野での活用も考えられるところです。
このような分野においては、一度通信障害が生じてしまうと人命にかかわる大事故につながりかねないことから、より高いレベルでのサイバーセキュリティ対策が必要になります。
ローカル5Gの導入にあたっては、上記のとおり無線局免許を受ける必要がありますが、免許手続において、事業者がサプライチェーン対応を含む十分なサイバーセキュリティ対策を講じているかどうかも審査の対象となります。
また、ローカル5Gに関しては、特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律に基づき、法人税や所得税、固定資産税の軽減など財務的な優遇措置が用意されていますが、ローカル5Gの導入事業者がこれらの優遇措置を受けるためには、導入計画を作成し、総務省から認定を受ける必要があります。その際、認定条件の一つとして、サプライチェーン対応を含むサイバーセキュリティ対策を講じていることが必要になります。
サイバーセキュリティ対策の実装に際しては、IT・システム担当部署が主導することにはなるでしょうが、内部規程の整備や適切な契約書のドラフティングなど法務部門の関与も必須です。
とりわけ、サプライチェーン対策という意味では、委託先(及び再委託先)や調達先の管理監督がキーポイントになり、場合によってはサプライチェーン・デューデリジェンスの実施を検討する必要があるでしょう。
(出典)総務省『令和2年版 情報通信白書』
知的財産戦略
ローカル5Gについては様々な実証実験が進んでおり、今後どのようなビジネスモデルが出てくるのかを見守る必要がありますが、5G時代においては、通信事業者と他業種が協力して新たなビジネスモデルを共創する「B2B2X」モデルが成功の鍵になると言われています。
ローカル5Gの各ユースケースにおいても、ローカル5Gの導入事業者(例えば、スマートファクトリの事例における工場主のように実際に導入されたローカル5Gを事業目的で利用する事業者)だけではなく、ネットワークインテグレータ、システムインテグレータ、AIプラットフォーマ、通信キャリア、システムベンダ、通信機器ベンダ、工作機ベンダなどの数多くの事業者が関与することになると思われ、関係する事業者間において競争力の源泉たる知的財産をどのように保護・活用していくかという視点が重要になります。
とりわけ、ローカル5Gにおいては、センシングデバイスなどの各種端末から得られたビッグデータをエッジAIで解析し、それを現実社会にフィードバックするというビジネスモデルが中心になると思われ、かかる価値の源泉たる学習用データセット(ローデータに対して一定の処理を施して生成されたAI学習用の二次的データ群)や学習済みモデル(学習用データセットの学習によって得られた一定のパラメータが組み込まれた推論プログラム)をどのように保護・活用するのかという点が重要になると考えられます。
これらの無体財産をどのように保護するかについてはケースバイケースの検討が必要ですが、一般的には、限定提供データ(不正競争防止法第2条第7項)、営業秘密(同条第6項)、プログラム又はデータベースの著作物(著作権法第10条第1項第9号、第12条の2)、学習済みモデルやデータ構造に係る特許(特許法第29条)などによる保護が考えられるところです。
また、関係する事業者間で、共同事業契約やデータの提供・利用に関する契約を締結することで、関係者の責任分担、データやプログラムの利用条件、利益配分などについて明確に合意しておくことが肝要でしょう。
さいごに
以上に述べたとおり、スマートシティやローカル5Gに関連するビジネスに参入するには、必要な許認可の取得から、適切な契約書のドラフティング、知的財産戦略に至るまで、総合的・専門的な法務対策が必要になります。
スマートシティやローカル5Gの検討・導入にあたり法務対策にお悩みの場合には、お気軽にご連絡ください。
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