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【改正公益通報者保護法ブログ】第4回 改正公益通報者保護法によって事業者に求められる体制整備の概要
2021.06.10
消費者庁は2021年4月21日、「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書」(以下「本報告書」という。)を公表した。これにより、2022年6月までに施行されることが予定されている改正公益通報者保護法(以下「改正法」という。)によって事業者に求められる体制整備の概要が明らかとなった(注1)。そこで、本稿では、これまでの検討状況等を整理した上で、今後必要となるアクション等を概説する。
(注1)施行日は、公布の日(2020年6月12日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日であるが、「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51)に関するQ&A(改正法Q&A)」Q1の回答によれば、2022年6月までに施行予定である。
事業者に求められる体制整備の検討状況
改正法11条1項及び同条2項は、事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等の必要な措置をとることを義務付けているが、具体的な義務の内容については「指針」において策定されることとなっている(同条4項)。
消費者庁は、「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」(以下「本検討会」という。)を2020年10月から2021年3月にかけて計5回開催し、「指針」の具体的内容について検討を行ってきた。そして、消費者庁は、2021年4月21日に本報告書を公表した。
本報告書には、「公益通報者保護法第11条第1項及び同条第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」(以下「本指針案」という。)の全文が別添として掲載されている。
また、消費者庁は、2021年4月28日から同年5月31日までの間、本指針案等に盛り込むべき具体的取組事項について、パブリックコメント手続を実施した。「指針」は、同手続において寄せられた意見の検討の上、2021年夏頃を目途に公表される予定である。
なお、本報告書によれば、消費者庁は、事業者が「指針」に沿った対応をとるにあたり、参考になる考え方及び想定される具体的取組事項等を示す「指針の解説」についても、「指針」公表後に、作成・公表する予定である。
「指針」及び民間事業者向けガイドラインの位置づけ
従前は、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下「民間事業者向けガイドライン」という。)において、従業員等からの法令違反等に関する通報を事業者内において適切に取り扱うための指針が示されていた。
民間事業者向けガイドラインは、その記載事項を原則として「指針の解説」に盛り込むことにより統合する予定であるとのことである(注2)。そのため、「指針の解説」が公表されるまでは、引き続き、民間事業者向けガイドラインで示されていた取組み内容が参考になると考えられる。
(注2)民間事業者向けガイドラインのほか、「公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン」及び「公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン」についても必要な見直しが行われることとなっている。
本報告書・本指針案において定められている内容
本報告書及び本指針案では、改正法11条1項に定める公益通報対応業務に従事する者(以下「公益通報対応業務従事者」という。)として定めなければならない者の範囲及び従事者を定める方法が定められている(本報告書第2、本指針案第3)。
また、改正法11条2項に定める内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置については、大要、体制の整備、制度の信用性の向上(通報者の保護及び調査是正の実効性確保)及び周知・教育に係る事項が定められている(本報告書第1、本指針案第4)。
必要なアクション
①体制の整備
常時使用する労働者の数が301人以上の事業者は、今後、「指針」等に基づき、内部公益通報対応体制の整備を行わなければならないとされている(改正法11条)。
そして、「指針」等において求められる事項については、内部規程において定める必要がある(本報告書第1の3(4)、本指針案第4の3(4))。そのため、各事業者は、既存の内部規程を確認・検討し、改正法及び「指針」等において求められている内容に合わせて内部規程の改訂を検討する必要がある。このように内部規程において定めることは、担当者が交代することによって通報への対応方法が変わったり、対応が内部規程に沿ったものか否かが不明確となったりする事態が生じないようにするといった観点から重要である。
例えば、本指針案では、「組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置」をとることが求められている(本報告書第1の1(1)イ、本指針案第4の1(2))。そこで、自社の内部通報制度を確認・検証し、経営幹部から独立性を有する通報ルートが確保されていないと判断する場合には、自社の内部通報体制を整備するとともに内部規程の改訂を行うことを検討する必要がある。
また、上記のほかにも、従前の体制・運用が「指針」等に定める内容に反しないかどうかを総点検し、当該内容に反するものがあれば、当該内容に整合するよう再構築するなどの対応も必要となってくる。
②公益通報対応業務従事者の定め
改正法11条1項により新たに設置すべきこととなった公益通報対応業務従事者についても、「指針」等の内容に従って設置しなければならない。
具体的には、「事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない」(本報告書第2の1、本指針案第3の1)とされており、その際には、指定される者自身に、指定されたことが明らかとなる方法によって定めることが求められている(本報告書第2の2、第3の2)。
具体的にどの範囲の者を公益通報対応業務従事者として指定するかは、部署や役職に拘わらず、公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者であると言えるかを実質的に判断することとなるため、どの範囲で指定を行うべきかなどの判断に迷った場合には、専門家の判断を仰ぐ必要があるものと考えられる。
改正公益通報者保護法への対応支援
本稿において紹介したように、来年6月までに予定されている改正法の施行までに、各事業者において改正法への対応が必要となる。改正法への対応にあたっての内部通報制度の検証・評価・点検や社内規程の整備、社内の教育・研修(従事者の教育・研修を含む。)に関するご要望や本稿についてのご質問等がある場合には、執筆者までメールにてご連絡を頂ければ幸いである。
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