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【モビリティブログ】電動キックボードの規制緩和の現在地と将来の展望
2021.08.02
はじめに
電動キックボードは欧米をはじめとする諸外国でブームとなっており、日本においてもコロナ禍で三密を避ける手軽な移動手段として着目され始めています。2021年4月より日本でも電動キックボードのシェアリングサービスが開始されており、今後、日本での電動キックボード市場規模はシェアリング市場のみでも約1兆円規模になるとの予想もあります(※1)。また、ラストワンマイル問題を解決する手段の一つとして、その普及が期待されています。
もっとも、日本では欧米ほど電動キックボードが普及しておらず、その一つの要因として挙げられるのが、道路交通法(以下「道交法」といいます。)、道路運送車両法(以下「車両法」といいます。)及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠責法」といいます。)等における法規制です。
本ブログでは、日本の現行の法規制及び課題や、規制緩和動向について、ご紹介いたします。
電動キックボードに適用される法規制の概要
電動キックボードは、通常、定格出力が0.60kw以下になることが多いことから、道交法上の「原動機付自転車」に区分されることが一般的です。そのため、電動キックボードの使用にあたっては、特に、原動機付自転車に関する以下の規制が適用されます。
規制内容 |
根拠法令 |
車道走行義務 |
道交法第17条 |
二段階右折義務 |
道交法第34条第5項 |
最高速度(時速30km)遵守義務 |
道交法第22条第1項、道路交通法施行令第11条 |
ヘルメット着用義務 |
道交法第71条の4第2項 |
運転免許取得義務 |
道交法第84条第1項 |
放置違反金(いわゆる交通反則切符) |
道交法第44条、第51条の4第1項 |
保安基準を満たした車体での走行義務 (詳細は表の下部の資料を参照) |
車両法第44条、車両法施行規則第62条の2の33第3項、道路運送車両の保安基準 |
軽自動車税納付義務 |
地方税法463条の15第1項第1号イ |
ナンバープレート(原動機付自転車番号標)の登録及び表示義務 |
各地方自治体税条例 |
自賠責保険又は自賠責共済への加入義務 |
自賠責法第2条第1項、第5条 |
国土交通省「新たなモビリティについて」2頁(https://www.mlit.go.jp/common/001352346.pdf)
近年の規制緩和の動向
以上のように、電動キックボードの使用については、ヘルメット着用、運転免許取得及び車道走行義務といった規制が存在し、これらの規制が電動キックボードの普及を妨げていると指摘されていました(※2)。
そこで、電動キックボードの使用について、在るべき交通ルールを検討するため、「新たな規制の特例措置」として、「新事業活動計画」の認定を受けた場合、当該計画に従って貸し渡された電動キックボードについては、新事業活動を実施する区域内での走行に関する規制が緩和されました(産業競争力強化法第6条第1項、第9条第1項)。
まず、2020年10月の規制緩和においては、一定の車体規格や最高速度時速20kmなどの条件を満たす場合、普通自転車専用通行帯を通行することが可能になりました(※3)。
次に、2021年4月の規制緩和においては、「総排気量0.020ℓ、定格出力0.25kw超」の電動キックボードを「小型特殊自動車」と位置づけたうえで、一定の車体規格や最高速度時速15kmなどの条件を満たす場合には、以下のルールが適用されることになりました(※4)。
警察庁「特例キックボードの実証実験の実施について」と題するWEBページ
(https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kotsu/doro/dendosukuta.html)
当該特例措置により、国内の複数の事業者が、「新事業活動計画」の認定を受けて、既に、渋谷区や大阪市などの一部地域において電動キックボードのシェアリングサービスを提供しています。また、新規に認定を受ける事業者も増えており、かかる動きを受けて、外資大手も日本に本格参入するとの報道もなされています。
今後の課題と新たなルールづくりの動き
以上のとおり、規制緩和の動きがみられる一方、昨今、電動キックボードでひき逃げ事故を起こした運転者が逮捕されたとの報道もあり、電動キックボードの利便性と、運転者や歩行者等の安全性とのバランスが取れた、最適なルールづくりに向けた議論が加速しています。
道交法を所管する警察庁は、「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」を設置し、有識者やメーカー等との議論を踏まえ、2021年4月、中間報告書を公表しました(※2)。当該報告書では、最高速度が時速15km程度の電動キックボードに関する今後のルールづくりについて、以下の意見が示されておりますので、今後、当該意見を前提に、電動キックボードに関するルールが策定されると考えられます。
項目 |
意見内容 |
通行方法 |
自転車と類似の交通ルールとするのが適当 |
運転資格 |
運転免許は不要だが、運転者は16歳程度に達していることが適当 |
ヘルメット着用 |
着用義務の緩和による安全性への影響等を再検証して検討 |
走行場所 |
路側帯や自転車道を原則とし、歩道通行車(電動車椅子等)と同様の車体の大きさや最高速度(時速6km~10km)の車両については、一定条件のもと、例外的に、歩道通行を認める方針で検討 |
車両規格 |
反射板やブレーキランプ機能を備えた尾灯を設置するなど、検査や型式認定等、車体の安全性を確保する仕組みが必要 |
事業者 |
利用者への交通安全教育を努力義務とし、具体的内容を検討 |
まとめ
以上のような傾向を踏まえますと、今後、走行場所、ヘルメット着用義務、運転資格等の運転に関するルールについては、一定程度の規制緩和が見込まれる一方、安全性の観点から、車両規格に関するルールや、販売事業者及びシェアリング事業者に対する一定のルールが新たに設けられることが予想されます。
モビリティ分野は、これまでも新たなモビリティが登場するに伴い、様々な規制改革が行われてきた分野ではありますが、電動キックボードをはじめとする新技術を用いた新たなモビリティ市場が拡大するにつれ、今後更なる論点が議論されていくと考えられます。
電動キックボードをはじめとする、新たなモビリティ事業の検討・導入における法課題にお悩みの場合には、お気軽にご連絡ください。
※1:
「多様なモビリティ普及推進会議」2019年8月27日開催の会議資料
株式会社Luup作成「電動キックボード市場のご紹介」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mobility/pdf/001_05_03.pdf
※2:
警察庁 2021年4月「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会 中間報告書」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/mobility/interim-houkoku.pdf
※3:
令和2年9月30日公布内閣府・国土交通省令第3号 https://www.npa.go.jp/laws/kaisei/furei/200925/honbun.pdf
令和2年9月30日公布国家公安委員会告示第43号 https://www.npa.go.jp/laws/kaisei/kokuji/200930/kokuji.pdf
令和2年9月30日付け警察庁丁交企発第241号等「『立ち乗り電動スクーター』係る特例措置について(通達)」https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kouki/020930.pdf
※4:
令和3年4月8日公布内閣府令第28号 https://www.npa.go.jp/laws/kaisei/furei/20210408/naikakufurei20210408.pdf
令和3年4月8日内閣府・国土交通省令第1号 https://www.npa.go.jp/laws/kaisei/furei/20210408/meirei20210408.pdf
令和3年4月8日公布国家公安委員会告示第14号
https://www.npa.go.jp/laws/kaisei/kokuji/kokkakouan/kokuji20210408.pdf
令和3年4月8日付け警察庁丁交企発第132号等「電動キックボードに係る産業競争力強化法に基づく特例措置について(通達)」 https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kouki/kouki20210408.pdf