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【欧州法務ブログ:オランダ企業のM&A実施前に知っておきたい基礎知識】 第1回:どういった会社形態が一般的?
2022.06.10
はじめに
TMI総合法律事務所では、ロンドンオフィスやフレンチデスクに加えて、各国の法律事務所と提携することで、欧州におけるビジネスについても、豊富なリーガルサービスを提供しております。
TMI欧州プラクティスグループでは、欧州でビジネスを展開する上で必要となる各国の法制度等について発信しております。
本ブログでは、株式会社という制度を世界で初めて構築し、日本との間で4世紀にわたる長い交流の歴史を持ち、良好な経済関係を維持しており、多くの日系企業が進出しているオランダに焦点を当てて、その基礎知識について説明をしていきます。
オランダにおける事業形態
オランダに事業進出する場合、法制度上、非公開株式会社(B.V.)、公開可能株式会社(N.V.)又は合名会社を設立したり、日本法人の支店又は駐在事務所を設置するなどの形態を選択することができます。
その全ての相違点を把握することが素晴らしいことは間違いないですが、このうち非公開株式会社(B.V.)が、オランダにおいて最も一般的な営利企業形態であり、日本企業がオランダに事業進出する場合に、最も頻繁に採用されている形態であるため、オランダへの進出やオランダ企業の買収を検討している日本企業の担当者としてはまず非公開株式会社(B.V.)の基本的なポイントをおさえておけば必要十分かと思います。そのため、本ブログでは非公開株式会社(B.V.)のポイントをご紹介します。
オランダは小国ということもあり、日本を含む海外からの投資を誘致するために様々な施策を講じていますが、その一環として、オランダ国内における投資を促進させる観点から、2012年に非公開株式会社(B.V.)の最低資本金が廃止されるなど、非公開株式会社(B.V.)に関する大改正が行われました。
2012年改正後の非公開株式会社(B.V.)の基本的なポイントは下表のとおりです。
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非公開株式会社(B.V.) |
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発起人 |
・1名(個人又は法人)以上 ※国籍・所在地要件なし |
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最低資本金 |
・なし(最低1株。2021年10月1日までは最低額面0.01ユーロであったが、現行法下においては小数点以下2桁を超えた額面(例えば0.0001ユーロ)の資本金とすることや、資本金の額面をユーロ以外の通貨(例えば米ドル)とすることも可能) |
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株主の責任 |
・株式の引受価額を限度とする有限責任 |
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必要的機関 |
・株主総会 |
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株主総会の主な権限
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・取締役の選任、職務停止又は解任 |
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取締役会/業務執行取締役 |
員数 |
1人以上。法人役員も可能 |
選任者 |
原則として株主総会 |
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役割 |
経営方針の実行並びに取締役の日常の業務執行の監督 |
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任期 |
法定任期なし |
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スーパーバイザリーボード/非業務執行取締役 |
員数 |
原則として1名以上(自然人に限る。)。 |
選任者 |
株主総会 |
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役割 |
取締役会の経営方針及び業務執行を監督 |
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任期 |
法定任期なし(スーパーバイザリーボード設置が義務付けられる場合には、4年) |
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株式/持分の譲渡 |
定款に別段の定めがある場合を除き、原則として他の株主に対して譲渡を申し出る。 |
子会社を設立する場合、役員をどうするか?
オランダに子会社を設立する場合、自然人だけでなく法人も業務執行取締役に選任することができます。
この点、オランダの子会社から日本の親会社に支払われる配当については、日蘭租税条約によってオランダにおける源泉徴収が免除されます。日本の親会社においても、外国子会社配当益金不算入制度により、配当の95%相当額が益金に不算入とされます。
他方、オランダの子会社が得た収益については、日本の外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)の適用対象となり得ますが、オランダの法人税の標準税率は25.8%(ただし、課税所得が€395,000以下の場合には15%)であり、オランダの子会社の租税負担割合が20%以上となるため[2]、いわゆるペーパーカンパニー等に該当しない限りは、外国子会社合算税制が適用される可能性が低いと考えられます。そして、①実体基準(主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の固有施設を有すること)及び②管理支配基準(その本店所在地国においてその事業の管理・支配等を自ら行っていること)をいずれも満たした場合にはペーパーカンパニーに該当しないとされているため、日本の親会社から現地に役員を派遣する例も多く見られます。
ワークス・カウンシルとは?
オランダでは、従業員が、ワークス・カウンシル法に基づいて設置されるワークス・カウンシル(いわゆる労働者の代表組織)を通じて経営に関与することができますが、企業がワークス・カウンシルを設置する義務を負う場合は下表のとおりです。
従業員数 |
ワークス・カウンシルの設置義務 |
50人以上 |
あり。 |
10人以上50人未満 |
従業員の過半数が会社に要請した場合には、設置義務あり。 |
10人未満 |
なし(任意に設置可能)。 |
ワークス・カウンシルの主要な権限は以下のとおりです。
・会社との会議を開催すること |
ワークス・カウンシルの詳細については別の機会に紹介する予定です。
スーパーバイザリーボードとは?
スーパーバイザリーボード(監査役会と訳されることもあります。)は、独立した監督機関として、主に、取締役会の経営方針及び業務執行を監督する責任を負うとともに、取締役会に対して助言を行います。非業務執行取締役を設置していない場合、定款の規定によりスーパーバイザリーボードを設置することが可能です。スーパーバイザリーボードは、一人又はそれ以上自然人で構成されます。但し、いわゆる大会社制度(structuurvennootschap)が適用される場合には3人以上の選任が必要となります。
スーパーバイザリーボードを設置せずに、非業務執行取締役を選任する場合には、非業務執行取締役は、業務執行取締役による業務執行を監督する責任を負います。ただし、非業務執行取締役は、スーパーバイザリーボードと異なり、取締役会の構成員として、会社の経営方針や意思決定に積極的に関与します。
なお、オランダの上場会社に適用されるコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会の過半数は非業務執行取締役で構成されることが求められているほか、非業務執行取締役及びスーパーバイザリーの詳細な独立性基準が定められています。
スーパーバイザリーボードの詳細については別の機会に紹介する予定です。
小括
もちろん非公開株式会社(B.V.)の他にも、支店や駐在事務所という形で進出することもあると思いますし、また、買収対象が公開可能株式会社(N.V.)であることや、買収ストラクチャーの中にリミテットパートナーシップや共同組合となることもありますが、オランダパートの第1回ということでかなり基本的なポイントについて紹介させていただきました。次回以降もオランダの主要な法令や最近のトピックについて引き続き紹介していく予定です。
※本ブログは、Buren法律事務所の岡野・ハイマンス 謙次弁護士(オランダ王国弁護士)の協力を得て作成しました。
[1] なお、これが会社法上の機関にあたるかについては学説で争いがあります。
[2] 租税特別措置法上、外国関係会社の租税負担割合の計算については、外国関係会社の本店所在地国の外国法人税の税率が所得の金額に応じて高くなる場合には、分子の外国法人税の額は、最も高い税率を適用して算定した税額とすることができます。すなわち、実際に納付する税額と最高税率を適用した場合の税額との差額を加算することができるものとされています。