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【米国留学ブログ】~TechCrunch Disrupt 2022に参加した体験談~
2022.11.02
「TechCrunch Disrupt 2022」に行ってきました
私は現在、弁護士7年目にして、カリフォルニア州立ロサンゼルス校(UCLA)のロースクールに留学し、LL.M.のコースに通っています。
LL.M.とは、外国で法学を修了した者を主な対象とした約1年間の専門コースのことで、日本のビジネスローヤーの間では、専門性を高めるキャリアプランの一つとして選択されています。私は、自身の専門分野である「スタートアップファイナンス」及び「エンタテイメント」の知見を深めるため、スタートアップやエンタメの世界的な中心地である米国西海岸での留学をかねてから希望していました。そしてこの度、念願の留学生活を開始しています。
さて、そのような留学生活の折、2022年10月18日〜20日の3日間に亘って、サンフランシスコにて、「TechCrunch Disrupt 2022」というイベントが開催されました。
「TechCrunch Disrupt 2022」とは、テック/スタートアップ関連の世界最大級のWEBメディアである「Tech Crunch」主催のもと、世界中から有力な起業家・投資家その他スタートアップ業界関係者が集う大規模カンファレンスイベントです。2011年から毎年開催されていますが、コロナ禍ではオンラインでの開催でしたので、今回は3年ぶりのリアル開催ということでした。
TechCrunchは、過去には日本語版もあり日本でも著名なので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。現在は日本語版がなくなってしまいましたが、引き続き日々大量のテック/スタートアップ関連のニュースが掲載されており、キャッチアップのために目を通されている方も多いと思います。
スタートアップファイナンスを専門分野の一つとする私にとって、「TechCrunch Disrupt」は喉から手が出るほど参加したいイベントでしたが、日本で勤務していた時期には参加する機会を作れずにいました。米国留学中に同イベントがリアル開催されるのであれば、これに参加しないわけにいきません。
ということで、「TechCrunch Disrupt 2022」に心を躍らせて参加してきましたので、その様子のご報告です。
イベントの構成
まずは、「TechCrunch Disrupt 2022」について、もう少し詳細をお伝えしたいと思います。
同イベントは、テック/スタートアップの聖地であるシリコンバレーからほど近い、サンフランシスコのベイエリア(ユニオンスクエア)にて、計3日間に亘って開催されました。
開催中は実に様々なプログラムが用意されていますが、それらを大きく分類すると、以下のようになると思います。
○ スタートアップによるデモブース出展:
主催者の審査を通過したアーリーステージのスタートアップ約200社が、大会場にて、所狭しとブースを出展していました。各スタートアップは、参加している投資家や企業関係者に対して自社のサービスやプロダクトをアピールすべく、我先にとピッチを繰り広げます。また、出展している全スタートアップに、特設エリアにおいて短時間でプレゼンする機会も与えられていました。
まさにスタートアップの見本市のような空間が形成されており、「TechCrunch Disrupt」が米国スタートアップの登竜門の一つに位置付けられていることが肌で感じられました。
○ TechCrunch Startup Battlefield:
同イベントに参加しているスタートアップのうち、特に注目度が高いスタートアップとして主催者に選抜された20社は、「TechCrunch Startup Battlefield」というピッチ大会に出場します。このピッチ大会は、上記のデモブースのエリアとは別の大規模な特設会場で開催され、観客は数百名に上っていたと思われます。
有力VCのパートナー等が審査員を務め、優勝したスタートアップには賞金10万ドルが贈呈されます。
○ トークイベント:
会場では連日、起業家・投資家やイベントスポンサー、その他業界関係者による数多くのトークイベントが開催されていました。内容は様々でしたが、私は、近時話題になっているNFTやWeb3、ブロックチェーンをテーマにしたものを中心に見て回ってきました。
その他、注目のトークイベントとして、女子テニスのレジェンド選手であるSerena Williamsさんを招き、同選手が引退後に立ち上げたVCファンド(Serena Ventures)について話を聞くといったプログラムもあり、同選手の登壇時には特に会場が大きく沸いていました。
○ ネットワーキング:
イベント会場には、参加者同士が交流できるスペースも多く用意されていました。私は学生パスで入場していたため、これに参加することはできませんでしたが、投資家を探すスタートアップや、投資候補先を探す投資家、提携先を開拓したい企業関係者にとっては、貴重な場として機能していたと思われます。
参加スタートアップの様相
・全体的な傾向
上記のとおり、「TechCrunch Disrupt 2022」では、メインプログラムの一つとして、主催者の審査を通過したアーリーステージのスタートアップ約200社が、デモブースを出展していました。
各スタートアップは、私のような留学中の弁護士という属性の者にさえ、熱意を持って自社のサービスやプロダクトを説明してくれました。また、米国のみならず、ヨーロッパ、アジア、インド、アフリカ等、世界各国のスタートアップが参加しており、グローバルでのスタートアップのトレンドも見えてきます。
参加していたスタートアップを分野で区切って見ると、全体としては、ヘルスケアやAI・データに関するテック企業が多く、これらで全体の3分の1から半数近くに及ぶのではないかという感覚を持ちました。次いで、SaaSやロボティクスに関するテック企業が多かった印象です。
近時のユニコーン上位企業を見るに、アーリーステージにおいてもフィンテックやDXが多いのではないかと予想していたので、この傾向は少し意外でした。
・ブロックチェーン
全体に占める割合は大きくなかったものの、「ブロックチェーン」というキーワードを推すスタートアップが相当数見られたのは、やはり(引き続きの?)トレンドの一つであろうと感じました。
この技術は確かに革新的であり、暗号資産やアート、ゲームなど、ブロックチェーンの特性と相性の良い分野も把握されているところではあります。他方で、既にその技術が市民権を得てから数年が経過しており、現在は、単にブロックチェーンを用いているだけで「革新的」と評価されるステージではないように思います。また、ブロックチェーンを利用したアプリケーション等のアイディア自体は多く生まれているものの、真にこの技術を活用する必然性を備えたり、この技術を幅広くビジネスに実装させることの難しさも浮き彫りになっています。
こういった壁を打破するスタートアップが近い将来に現れるかもしれない、と思いながらお話を聞き、期待感が高まった次第です。
・ESG
また、同じく全体に占める割合は大きくなかったものの、後記のとおり、サステナビリティやエコを解決課題としたスタートアップ(クリーンテック、バイオテック、フードテック等)が脚光を浴びていました。この点は、ESG(や日本ではSDGs)の重要性が再認識される社会情勢とも整合的です。
米国はもとより、日本でも、ESG投資を掲げるVCが複数存在感を出し始めています。その意味でも、ESGは人やお金が集まる分野になってきており、表層的なキーワードから、実質性・重要性を持った視点へと徐々に意味合いが移り変わってきています。
このような社会情勢とスタートアップ業界が連動している様子を実感できたもの、大きな収穫でした。
・After COVID-19
その他、時世を汲んだスタートアップとしては、コロナ禍による働き方の変化を受けたテック企業も散見されました。具体的なサービスとしては、企業・従業員間の関係性に着目した方向性(リモートワークの補助等)と、企業・顧客間の関係性に着目した方向性(店舗型サービスをリモートで提供できるようにするツール等)に二分されていたように思います。
コロナ禍自体は収束に向かうとしても、これによって生じた社会の変化は消えませんので、今後もスタートアップ業界のトレンドに影響を与え続けるだろうと思います。
・日本発のスタートアップ
日本からも、日本貿易振興機構(JETRO)の支援のもと、計14社のスタートアップが参加されていました。
海外進出を視野に入れているスタートアップや、既に米国を拠点としているスタートアップのお話を聞くことができ、日本発のスタートアップがグローバルで活躍する未来に期待が高まりました。こういったところでチャレンジをするスタートアップの力になりたい、という熱い想いを持たずにいられません。
TechCrunch Startup Battlefield
最後に、特に注目度の高いスタートアップが出場していた「TechCrunch Startup Battlefield」というピッチ大会についても、少し触れたいと思います。
これに出場していた20社について、以下のとおり、私なりに簡単に分析してみました(登壇順)。★はファイナルラウンドに進んだ5社、☆は優勝したスタートアップです。
名称 |
拠点 |
分野 |
NXGEN PORT |
セントポール |
ヘルスケア: |
Omnekey |
サンフランシスコ |
SaaS: |
Circular Genomics |
アルバカーキ |
ヘルスケア: |
anthill |
シカゴ |
HRテック: |
★App Map |
ボストン |
SaaS: |
MOTHER HONESTLY |
ニューヨーク |
HRテック: |
digest.ai |
ドバイ(UAE) |
SaaS: |
★swap |
オンタリオ(カナダ) |
ロボティクス: |
hormona |
ロンドン(UK) |
ヘルスケア: |
staax |
サンフランシスコ |
フィンテック: |
ALLY ROBOTICS |
ベルビュー |
ロボティクス: |
NAT4BIO |
トゥクマン(アルゼンチン) |
フードテック: |
★☆Minerva Lithium |
グリーンズボロ |
クリーンテック: |
Reverion |
ミュンヘン(ドイツ) |
クリーンテック: |
incooling |
エイントホーフェン |
ロボティクス: |
★Intropic Materials |
オークランド |
バイオテック: |
betterdata |
シンガポール |
データ: |
Labby |
ケンブリッジ |
フードテック: |
★Advanced Ionics |
ミルウォーキー |
クリーンテック: |
kayhan. space |
ボルダー(コロラド州) |
スペーステック: |
これら20社のスタートアップによるピッチの様子を見て、次の点が特徴的だと感じました。
― クリーンテック、バイオテック、フードテックといった、サステナビリティやエコを解決課題としたスタートアップが世界各国で勃興しており、かつ、高く評価される傾向にある(ファイナルラウンドに進出した5社のうち3社)。
― 伝統的なテック/スタートアップの聖地であるシリコンバレー以外からも、さらには米国外からも、有力なスタートアップがピックアップされている(上記20社のうち米国のスタートアップは13社であり、シリコンバレー近郊はうち3社)。
― 起業家・CEOのうち、女性の割合が半数に迫っている(上記の20社のうち8社。米国のスタートアップでは13社のうち6社)。
いずれの傾向も、日本のスタートアップシーンでは当然と言える状況までは至っていないのが実情だと思います。日本でも、バックグラウンドに関わりなく、グローバルな目線で社会や人の課題を解決・合理化していくスタートアップが集まり、熱気溢れるマーケットが出来ていくことが楽しみです。
百聞は一見にしかず
以上、「TechCrunch Disrupt 2022」に参加した感想でした。
近年、日本においても、スタートアップをめぐるエコシステムの確立・発展は明確な政策方針であり、経済団体が後押しする方向性になっています。その意味でも、スタートアップ業界は今後益々盛り上がっていくはずです。
そのような中、世界最大級のイベントに参加し、その熱気を体で感じることができたことは非常に有意義でした。
日々の業務を通じて接する起業家・投資家の方々はそれぞれ魅力的で、仕事をご一緒するだけでなく、よりハイレベルな意味で刺激を頂ける存在です。そのような「熱い」人達が世界中にいるという当たり前のことを再認識する契機になりました。
百聞は一見にしかずで、イベントの規模感や集まる人達の熱気は、言葉で形容するのが難しい凄みを持っていました。この業界に魅せられた弁護士の一人として、その発展に貢献していくために、価値ある体験ができたと確信しています。
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