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ヘルスケア産業シンポジウム「医療・ヘルスケアDXの可能性」を開催いたしました③
2023.06.26
2022年3月にTMIの関連会社として設立されたTMIヘルスケアコンサルティング株式会社の主催により、2023年2月24日、神戸商工会議所神商ホールにてヘルスケア産業シンポジウム「医療・ヘルスケアDXの可能性」が開催されました。
今回はパネルディスカッションの後半と会場にお越しの方々から質問をお受けした様子をご紹介いたします。
同シンポジウムの基調講演の様子やパネルディスカッションの前半の様子は以下よりご確認ください。
基調講演の様子:https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2023/14506.html
パネルディスカッション前半の様子:https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2023/14728.html
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パネリスト:
天野 篤氏(TMIヘルスケアコンサルティング株式会社 代表取締役社長)
古川 俊治氏(TMIヘルスケアコンサルティング株式会社 取締役)
荒木 裕人氏(厚生労働省 医政局研究開発政策課 課長)
境田 正樹氏(TMIヘルスケアコンサルティング株式会社 取締役)
モデレーター:
吉岡 正豊(TMIヘルスケアコンサルティング株式会社 取締役)
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吉岡
先ほど民間PHR事業者の話がありましたが、このシステムがうまく稼働するためには国民の信頼が何よりも大事になると思います。こちらについて、国がどのように統制し、国民の信頼を得ていくのか、荒木課長、お教えいたえだけますでしょうか。
荒木
サービスの利活用、あるいはデータの取扱いについてのルールを検討するために、2021年4月に厚生労働省、経済産業省、総務省と合同で「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」を取りまとめました。また、2022年6月にはPHRサービス事業を展開する企業が集まり、「PHRサービス事業協会(仮)」設立宣言を行いました。こちらは2023年度に設立すると聞いています。
厚生労働省やデジタル庁、経済産業省、総務省も含め、関係省庁の中でもしっかり協力してPHRサービスが適切に使われるようにしていくこと、あるいは必要に応じて法整備も進める必要があると考えています。
吉岡
PHRが整備されますと、国民が自らの医療データを用いることになります。これによってどのように国民生活が変わるのかについて、医師の立場から、天野先生にお話を伺いたいと思います。
天野
非常に難しい質問ですが、患者様が等しく自分の健康状態を把握することは、病気に罹患しているのであればその病気の状態に応じて適切な医療を受けられるようになる基盤になると思います。また、患者様は、治療を受けている際に「自分は本当に適正な扱い・治療を受けているのか」と疑問をお持ちになることがあるかと思います。患者様が自分の健康状態を把握できるようになれば、そのような疑問を限りなく減らすことができる。医療現場で一番大事なのは医療安全ですが、患者様自身、医療安全についての意識が高まるということではないでしょうか。
吉岡
ありがとうございます。私も臨床をやっていると、患者自身がウェアラブルデバイス等で把握している情報をどのようにカルテに統合していくかという点も、今後の課題だと感じています。世の中に頻出している健康デジタルアプリの中で、カルテの統合にまで至っているケースは少ないようですが、実現までのハードルはどのあたりにあるのでしょうか。
荒木
電子カルテの標準化を進めていくに際し、健康デジタルアプリとのAPIを通じた連携についても進行中と理解しています。しかし、連携拡大や物理的な障壁、また、データの所有権についてはまだ課題があるのではないかと考えています。たとえばデータを本人以外が使用する場合の使用用途への同意など、一方的な取り扱いというのが心理的な障壁としてまだまだ残っているのではないかと思います。
境田
2011年の宮城での事業立ち上げの当初は、宮城県医師会が医療情報の連携やIT化にネガティブな姿勢であったことも苦労したことの1つでした。また、私は東京大学の理事を6年務めていた際、病院担当理事を務めておりましたが、電子カルテのシステムに手を加える際は病院内部の調整にも労力を費やしました。医療情報の連携に抵抗感を示す方もいらっしゃいますので、世論やメディア対策も必要になります。
古川
私も今は、DXにどんどん取り組まなければならないと考えていますが、医療従事者の一部には、民間企業が医療情報を使って利益を出すことを問題視する声もあります。しかし、コロナ禍では、関係データの不足のために日本国民は様々な苦労を強いられましたので、これらの意見も改める良い機会になったかもしれません。その点、諸外国のデータ活用は進んでいます。一度病院が使用したデータであれば、その後研究開発に当たっては患者様本人の同意は不要なのです。日本は次世代医療基盤法の改正において少しずつ改善しつつある、という状況かと思います。
吉岡
ここまで医療DXについて多岐にわたるお話をお聞かせいただきましたが、最後は会場にお越しの方からの質問をお受けしたいと思います。
質問者
本日はありがとうございました。今後、ヘルスケアの領域は「要緊急になる前の対策」という取り組みが拡大していくと理解しています。しかしながら、日本人は国民健康保険の中で年間1回の健康診断を受けて、そこで何か問題があれば病院に行けばいいと思っている人が多数です。だからこそ、特に未病領域に特化したヘルスケアビジネスは多く生まれる一方で、消えていくものもあるのだと感じています。この点、企業側から見た未病領域への取り組み方として、どのような対策が望ましいのか、皆様のお考えをお聞かせいただきたいです。
古川
サービスですから、国民にとって付加価値の高いものを作れるかどうかがポイントです。
境田
もともと「未病」という言葉を使い始めたのは神奈川県の黒岩知事ですが、TMI総合法律事務所は神奈川県と自治体のDXの在り方を検討するための包括連携協定を結んで検討を進めています。まずは神奈川県民のデータをきちんと集め、データをAIで解析し、県民向けの最適なサービスを提供することを考えています。私はスポーツDXにも力を入れているのですが、スポーツとヘルスケアは一体のようなものなので、県民の方たちがスポーツもヘルスケアも楽しむことができ、そこに様々な企業も参画していただく、という形で新しいビジネス・イノベーションを展開できればと思っています。
吉岡
ありがとうございました。その他、ご質問はありますでしょうか。
質問者
私が勤めている会社ではPHRにも取り組んでおり、マイナポータルとの連携も準備していましたが、現在、一旦開発を止めております。連携の重要性は病院側も患者様側も認識しているものの、連携まで至らない理由は、先ほどのお話にもありました一部の否定的な方々からのご意見です。それにより会社としても信頼を失うことになると、本当に悲惨なことになります。どのようなタイミングで、何を信頼して始めたら良いのだろうと迷っているのですが、このあたりの対策やお考えがあれば、お聞かせいただけますでしょうか。
天野
先ほどの方の質問もそうですが、我々アカデミアな領域では、エビデンスレベルや信頼度がクラス分けされており、それは比較的常識となっております。信頼度の高い順に治療の選択やガイドラインが形成されるので、それを患者様に伝えて、実際の医療として提供します。恐らく、そういう部分が社会の中で欠けている。できるだけ早くデータを集めて、データから得られるエビデンスを国民に分かりやすく説明していくという作業が抜けているのだと思います。最近、新型コロナウイルスのワクチンの副作用で何人亡くなったとか、副作用の判定方法や判定者についての疑問が取り沙汰されていますが、本当はもっと早く、大きなレベルでデータや情報が管理されていれば、一部の個別な障害やトラブルになるような外部からの意見というのは消えていくはずなのです。スマートな医療安全の遂行というのは、患者様に今起きていることに対して、少しでも早く適切な対応を取ることです。そういうところに意識を向ける必要がある気がしています。
境田
やはり民間だけで取り組むと、何かあった際にターゲットになってしまう。だからこそ、自治体と組むことも一案なのかと考えています。私も実は認定事業者を目指している複数企業から同じような悩みを聞いており、ある県知事とも相談し始めています。
古川
まずリスク管理をどうするか、を企業としては考えますよね。国や地方行政というのは一応、各県民や市民に対して信頼性があるので、そこと連携を図ることは1つのソリューションかと思いました。
吉岡
皆様、本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。
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