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【中国】【商標】不使取消請求の審査に関する新動向
2024.11.01
はじめに
中国での商標権を取得するために、先行商標の存在による障害を解消するために、3年不使用取消請求をすることが実務上良く行われます。最近の新しい動向として、不使用取消の請求に悪意の疑いがある場合、中国国家知識産権局商標局(以下は中国商標局という。)から補正指令が出され、請求棄却がなされるケースが多くなっています。本稿では、当該不使用取消請求の新たな動向、並び外国企業がこのような状況に直面した際にどのように適切に対応すべきかを考察させていただきます。
中国商標の不使用取消請求制度
中国商標の不使用取消請求制度は商標資源を活性化すべく、正当な理由なく継続して3年間使用しなかった商標の登録を取消し、不使用商標の蓄積を防止することを立法目的としています。不使用取消請求をした場合、通常、中国商標局は不使用取消の請求書類を受領後、形式上の問題がなければ受理通知書を発し、不使用取消請求の対象となっている商標の登録権者に「商標使用証拠の提出に関する通知書」を発行します。不使用取消の請求時には、請求人は、通常取消請求の対象となっている商標の登録権者及び登録商標の使用状況について、事前に一般的なサーチエンジン等で簡易調査を行い、その検索結果を請求書において説明することで、不使用取消請求は形式上認められることになります。当該通知書を受けた商標登録権者は、通知書の受領後2カ月以内に商標の使用実績を提出しない場合、又は、商標の不使用について正当な理由を裏付けた資料を提出しない場合、登録取消の決定が下されることになります。
不使用取消の請求人については、中華人民共和国商標法(2019年改定版)(以下は中国商標法という。)第49条*1によりますと、如何なる団体又は個人も中国商標局に対して請求することができると規定されています。一般的には、請求人が既存商標の権利者との間で生じ得る紛争において自らの名前を明らかにすることを回避するために、自社名義ではなく、ダミーの第三者名義で不使用取消を請求することがよく行われています。しかしながら、不使用取消請求により、商標資源の利用効率が一定程度向上する一方で、不使用取消請求の制度が一部の者によって悪意を持って濫用されるケースも存在します。例えば、商標が既に使用されている事実を知っている、または知るべき状況であるにもかかわらず、不正競争や費用の請求、その他の不当な目的を達成しようとするため、他者の既存登録商標に対して不使用取消請求を場合によっては、複数回請求するといったケースが出てきています。
新たな審査動向
悪意のある不使用取消請求は認められませんが、悪意については、法規上、明白な条文や審査規則がありませんので、中国商標局では、現在、ケースバイケースで審査が行われ、必要に応じて補正指令が出されています。例えば、複数回、不使用取消請求をされた商標について、他の不使用取消請求のケースで使用された証拠資料を援用して商標の登録を維持する場合や、悪意の疑いがある請求人に対して形式審査の段階で不使用取消請求を却下するため、又は不使用取消の請求理由をさらに説明することを求めるために補正指令が出されるケースなどが挙げられます。
中国商標局に公表された事例及び現地の経験則によりますと、悪意あるの疑いとされたものとして、以下のものがあります。
①同一の商標に対して複数の不使用取消請求がされた場合
②商標代理事務所などの名義で不使用取消請求がされた場合
③中国国有企業など名義で登録した商標又は公益目的で登録した商標に対して不使用取消請求がされた場合
④同一の団体又は個人名義で大量の既存登録商標に対して不使用取消請求がされた場合
現在、悪意のある不使用取消請求を抑制し、商標登録権者の負担を減少するために、中国商標局は、上記の①のパターンについて、商標権者が一つの不使用取消請求において商標の使用証拠を提出していないとしても、審査官が他の不使用取消請求のケースにおいて提出された商標の使用証拠が流用できるか否かを確認したうえで、必要に応じて先行または後発の事件における証拠資料を積極的に援用することを許容しています。2024年第1号中華商標雑誌には商標局がこのような基準で適用した事例も掲載されています*2。
上記②のパターンについても、中国商標局が不使用取消の請求を認めず、不使用取消の請求を棄却したケースがよく見られます。また、③と④のパターンについては、ダミー名義で不使用取消請求をしたとしても、請求人による不使用取消請求を直接棄却したケースがあるほか、不使用取消の請求理由をさらに説明することを求めるための補正指令が出されたケースもあります。また、④の大量の不使用取消請求については、明白な審査基準がないものの、経験上、同日内に請求するケースを5つ以内に抑えるほうが良いと考えられます。
悪意のある不使用取消請求に関する処罰規則の有無
悪意のある不使用取消請求については、法規上、その処理方法に関する条文と詳細規則は設けられておりませんが、このような悪意ある不使用取消請求を代理した代理事務所は中国当局より処罰を受ける可能性があります。中国国家産権局より発行された「国家知識産権局による知的財産代理業界『ブルースカイ』特別行動のさらなる推進に関する通知」(国知発運函字[2024]69号)*3には、悪意ある不使用取消請求などにおける違法行為を厳しく取り締まる…必要に応じて国家知識産権局に対し当該代理機関の商標代理業務の受理停止を報告して検討できる、と規定されています。
悪意のある請求人については、行政処罰などの規定がまだありませんが、検討中の中国商標法改定草稿の第49条には、商標登録の取消請求について「登録商標の取消請求をすることができる。ただし、商標登録者の合法的権益を損なったり、商標登録秩序を乱したりしてはならない。」という追記があります。
コメント
外国企業が中国で他者の既存登録に対して不使用取消請求をする場合、ダミー名義の第三者で不使用取消請求をすることがよく見られますが、この新たな審査動向によりますと、ダミー名義での不使用取消請求には、今後さらに慎重な対応が必要となります。特に対象商標がインターネット調査によって、使用されていることが分かったような場合、又は中国国有企業又は団体など名義で登録されたものであった場合、慎重に詳細な事前調査を行うことが勧められます。また、ダミー名義での不使用取消請求の場合でも、本来の外国会社の名義ではなく、その代わりに中国現地での関連会社及び関連する個人などの第三者名義で不使用取消請求をすることによって、手続きの簡素化や中国商標局からの指摘の回避が可能となるものと考えます。
悪意の認定に対処する際には、最新の審査動向や対策をタイムリーに把握することが不可欠でありますので、弊所は北京で現地代理事務所を持っており、中国商標の対応についていかなるご不明な点がございましたら、弊所までご相談くださいますよう、お願いします。
*1 中国商標法第49条には「登録商標が使用許可された商品の通用名となり、又は正当な理由なく継続して3年間使 用しなかったときは、如何なる単位又は個人も、商標局に当該登録商標の取消を請求することができる。商標局は、請求を受領した日から9ヶ月以内に決定を行わなければならない。特別な事情があり、延長することが必要な場合、国務院工商行政管理部門の許可を得て、3ヶ月間延長することができる。」と規定されています。
*2 文章『“撤三”案件审查中的主动援引案例评析』(仮訳:不使用取消請求においてその他の不使用取消請求における証拠資料を積極的に援用されたケースの分析)(著者の単位:中国国家知識産権局商標局の審査業務第5部):https://mp.weixin.qq.com/s/nNp5W8FNDUPm_VramGZEPA
*3中国語:『国家知识产权局关于进一步深入开展知识产权代理行业“蓝天”专项整治行动的通知』(国知发运函字〔2024〕69号)
https://zjjcmspublic.oss-cn-hangzhou-zwynet-d01-a.internet.cloud.zj.gov.cn/jcms_files/jcms1/web3397/site/attach/0/1c56b83f839f4b97bb9c40e02748befc.pdf