ブログ
防衛関連ニュース(2024年8月)
2024.12.12
日印2プラス2の開催(※1-1、1-2)
2024年8月20日、インドのデリーを訪問中だった上川陽子外務大臣(当時)及び木原稔防衛大臣(当時)、インドのスブラマニヤム外務大臣及びラージナート国防大臣との間で、第3回日印外務・防衛閣僚会合(「2プラス2」)が開催されました(※1-1)。
会合では、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現に向けた協力」、「安全保障・防衛協力」や「地域・国際情勢」について議論がなされ、そのうちの「安全保障・防衛協力」については、
- 2008年の日印「安全保障協力に関する共同宣言」の改定
- 航空自衛隊の戦闘機等による、インド空軍が主催する多国間共同訓練「タラン・シャクティ」への参加
- 経済安保分野での協力強化のみならず、サイバー、宇宙といった分野でも連携していくこと
- 二国間の防衛装備・技術協力の重要性を再確認し、艦艇搭載用複合通信空中線「ユニコーン」(※1-2、図1)の移転実現に向けた調整の進展を評価するとともに、防衛装備・技術分野の将来的な協力を推進していくこと
等が決定されました。
図1:「UNICORN(複合通信空中線 NORA-50)の開発」(https://ssl.bsk-z.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/12/656d5712c5a984.37662590.pdf)1頁より引用)
※1-1:防衛省「第3回日印外務・防衛閣僚会合(「2+2」)」(2024年8月21日)
https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/area/2024/20240820_ind-j_a.html
※1-2:ユニコーンは、複合通信空中線 NORA-50のことを指し、「UNICORN(UNIfied COmplex Radio aNtenna)」と表記されます。日本電気株式会社を主契約者とし、同社の TACAN 空中線設計技術、H/W システムインテグレーション技術、三波工業株式会社の艦艇地上波通信用空中線設計技術、艦艇搭載機器の維持整備会社としてのノウハウ、横浜ゴム株式会社の電波透過性と耐雷性の両立を可能にしたレドーム製造技術等を結集させた統合化マストであり、海上自衛隊の「もがみ」型護衛艦に装備されているとのことです。(出典:NEC「UNICORN(複合通信空中線 NORA-50)の開発」https://ssl.bsk-z.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/12/656d5712c5a984.37662590.pdf)
中国軍による領空侵犯・領海内航行(※2-1、2-2)
2024年8月26日、中国軍のY-9情報収集機が、長崎県男女群島沖の領海上空を侵犯したことを確認し、これに対し航空自衛隊が戦闘機をスクランブル発進させたと発表しました(※2-1)。
さらに8月31日には、中国海軍の測量艦が鹿児島県口永良部島南西の領海内を航行したことが確認され、政府は在京中国大使館公使に対して強い懸念を伝え、抗議したとのことです(※2-2)。
※2-1:防衛省「中国機による領空侵犯について」(2024年8月26日)
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/08/26d.html
※2-2:外務省「中国海軍測量艦による我が国領海内航行に対する抗議」(2024年8月31日)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_01121.html
Xバンド防衛通信衛星「きらめき3号」打上げ(※3-1~3-5)
2024年8月27日、防衛省及び宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、防衛省が整備を行っているXバンド防衛通信衛星「きらめき3号」について、10月20日にH3ロケット4号機による打上げを実施すると発表しました(※3-1)。その後数回の延期を経て(※3-2、3-3)、11月4日に遂に打上げが行われ、きらめき3号は正常にロケットから分離されたとのことです(※3-4)。これにより、①陸・海・空自衛隊の各部隊間での円滑な通信の確保、②これまで以上の大容量の画像・映像データを伝送可能な通信容量の充実及び③海外など広域で活躍する部隊などへの通信所要の確保、という3点で能力向上が期待されます(※3-5)。
※3-1: 防衛省「Xバンド防衛通信衛星『きらめき3号』打上げについて」(2024年8月27日)
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/08/27b.html
※3-2: JAXA「H3ロケット4号機によるXバンド防衛通信衛星『きらめき3号』の打上げ[再設定(その2)]」(2024年10月22日)
https://www.jaxa.jp/press/2024/10/20241022-2_j.html
※3-3: H-IIAロケット49号機が天候不良等による延期を経て打ち上げられたこと等を受け、打上げ日が再設定されました。
※3-4: JAXA「H3ロケット4号機によるXバンド防衛通信衛星『きらめき3号』の打上げ結果」(2024年11月4日)
https://www.jaxa.jp/press/2024/11/20241104-1_j.html
※3-5: Xバンド通信衛星は、地形などの影響を比較的受けず覆域が広いという衛星通信の特長と、気象などの影響を受けにくく安定しているというXバンド通信の特長を兼ね備えています。そのため、地理的に分散した自衛隊の部隊間での適時適切な通信が可能であり、部隊運用において命令や調整などの情報通信に使用され、わが国の安全保障上極めて重要な通信インフラとなっています。(出典:防衛省「平成29年版防衛白書」http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2017/html/nc028000.html)
①令和7年度概算要求、②防衛装備庁、「新世代装備研究所」を創設(※4-1~4-3)
① 令和7年度概算要求
2024年8月30日、防衛省は「防衛力抜本的強化の進捗と予算―令和7年度概算要求の概要―」を公表しました(※4-1)。
概算要求の重点ポイントとしては、スタンド・オフ防衛能力、領域横断作戦能力、機動展開能力・国民保護及び防衛生産・技術基盤が挙げられており、スタンド・オフ防衛能力においては潜水艦発射型誘導弾の開発やトマホークミサイルの取得、目標の探知・追尾能力の獲得のための衛星コンステレーションの構築が、防衛生産・技術基盤においては次期戦闘機の開発が含まれています。そのほか、来年度の概算要求においては新たなプロジェクトも公表されており、駐屯地等の警備に最先端の民生技術を活用した警備システムの導入に向けて検証を実施するなど、今後はより一層の防衛分野における民間企業の参入と民生技術の活用が強く期待されます。
詳細は防衛省のホームページ(https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/index.html)をご確認ください。
② 防衛装備庁、「新世代装備研究所」を創設
2024年10月1日、東京都世田谷区の陸上自衛隊三宿駐屯地内に、防衛装備庁の新たな研究機関「新世代装備研究所」が創設されました(※4-2、4-3)。
防衛イノベーションや画期的な装備品等を生み出す機能を抜本的に強化するため、米国のDARPA(国防高等研究計画局)やDIU(国防イノベーションユニット)をモデルにしており、「宇宙」、「サイバー」、「電磁波」等の新領域における領域横断作戦能力や、指揮統制、情報関連機能の強化に役立つ研究を中心に、将来の防衛力強化に向けて重要な役割を果たすことが期待されています。
※4-1:防衛省「予算の概要」(2024年8月30日)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/021.html
※4-2:防衛装備庁「防衛装備庁に新たな研究機関を創設します」
https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2023/pdf_exhi_pos/P-39.pdf
※4-3:J DEFENSE NEWS「『新世代装備研究所』が発足 AI・サイバー・宇宙・電磁波分野の研究を所掌」(2024年10月4日)
https://j-defense.ikaros.jp/docs/mod/001545.html#:~:text=%E4%BB%A4%E5%92%8C6%EF%BC%882024%EF%BC%89%E5%B9%B4,%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80%E3%81%8C%E7%99%BA%E8%B6%B3%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82&text=%E3%81%9D%E3%81%AE%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%A4%E3%81%8C%E3%80%8C%E6%96%B0%E4%B8%96%E4%BB%A3,%E6%94%B9%E3%82%81%E3%81%A6%E7%99%BA%E8%B6%B3%E3%81%97%E3%81%9F%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A0%E3%80%82
日米、サイバー攻撃想定の机上演習実施(※5-1、5-2)
2024年8月21日から翌22日にかけて、国交省港湾局及び米国の国土安全保障省の共催により、日本の港湾でサイバー攻撃が発生した際の影響や対策について理解を深めるため、ディスカッションをメインとして机上演習が実施されました(※5-1)。本演習は、2023年7月4日に発生した名古屋港へのサイバー攻撃(※5-2)を踏まえて実施されました。
当日は演習シナリオを基に日本の政府関係機関や港湾関係者が対応を議論して米国側の出席者と意見交換を行うなどして活発な演習を行ったとのことです。
※5-1:国交省「米国国土安全保障省との共催による日本の港湾へのサイバー攻撃を想定した机上演習を実施~ 日米で港湾のサイバーセキュリティ対応を議論 ~」(2024年8月30日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/port07_hh_000232.html
※5-2:内閣サイバーセキュリティセンター「名古屋港コンテナターミナルのサイバー攻撃におけるインシデント対応について」(2024年7月26日)
https://www.nisc.go.jp/pdf/policy/infra/shiryo2.pdf
米国、重要・新興技術の国家標準戦略のロードマップ公表(※6-1、6-2)
2024年7月26日、米国は、「重要・新興技術(CETs)に関する国家標準戦略(USG NSSCET)(※6-1)」実施のためのロードマップを公表しました(※6-2)。本戦略は、米国の経済安全保障及び国家安全保障を守るため、民間が主導し、公的機関と連携して重要・新興技術の標準化に対する積極的関与を求めるものです。
ロードマップの実現のため、民間や学術機関との協力による規格策定の支援・強化のほか、国際規格策定への利害関係者の参加促進(短期的な取組)、政府内外における規格策定のための政策協調の強化(長期的な取組)を行っていくとしており、本施策は、米国の安全保障にとって重要なものとなります。
※6-1:なお、上記戦略は米国が2023年5月に発表したものであり、中国等の戦略的競争相手との技術開発競争の観点から、国際規格策定の重要性を認識し、通信・ネットワーク技術、半導体・マイクロエレクトロニクス、AI・機械学習、バイオテクノロジー、測位・航法・タイミングサービス、デジタルIDのインフラ、クリーンエネルギー発電・蓄電及び量子情報技術の8分野において国際規格の策定に取り組むとしていました。(出典:THE WHITE HOUSE “UNITED STATES GOVERNMENT NATIONAL STANDARDS STRATEGY FOR CRITICAL AND EMERGING TECHNOLOGY” (2023年5月)
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2023/05/US-Gov-National-Standards-Strategy-2023.pdf)
※6-2:THE WHITE HOUSE “FACT SHEET: Implementing the National Standards Strategy for Critical and Emerging Technology” (2024年7月26日)
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2024/07/26/fact-sheet-implementing-the-national-standards-strategy-for-critical-and-emerging-technology/
中国、アンチモン関連品目等に輸出規制(※7-1~7-4)
2024年8月15日、中国商務部及び税関総署は、アンチモン(※7-1)関連品目と超硬材料関連品目を輸出規制の対象とすることを発表しました(※7-2)。9月15日以降は、規制対象品目のほか、金やアンチモンの製煉・分離技術を輸出する際には中国当局の許可が必要となります(※7-3)。
中国商務部は、本輸出規制が特定の国を対象としたものではないと説明する一方で、中国政府は中国の国家主権、安全保障及び発展利益を損なう活動に、中国からの輸出規制品を使用する国や地域にも反対する旨表明しています(※7-4)。
※7-1:アンチモンは、徹甲弾、暗視装置、赤外線センサー等の製造に用いられ、中国が昨年の世界生産量の48%を占めています。(出典:Forbes “Antimony: The Most Important Mineral You Never Heard Of” https://www.forbes.com/sites/davidblackmon/2021/05/06/antimony-the-most-important-mineral-you-never-heard-of/
、JOGMEC「鉱物資源マテリアルフロー 2022 23.アンチモン (Sb)」https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2023/10/material_flow2022_Sb.pdf、米国地質調査所(USGS) “Mineral Commodity Summaries 2024” https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2024/mcs2024-antimony.pdf)
※7-2:中国商務部「海关总署公告2024年第33号 关于对锑等物项实施出口管制的公告」(2024年8月15日)
https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2024/art_a4711acb06364199a3c5a06d7f2be6d8.html
※7-3:Reuters ” China to limit antimony exports in latest critical mineral curbs”(2024年8月16日)
https://www.reuters.com/world/china/china-limit-antimony-exports-latest-critical-mineral-curbs-2024-08-15/
※7-4:中国商務部「商务部回应对锑等物项实施出口管制」(2024年8月16日)
https://cacs.mofcom.gov.cn/article/gnwjmdt/gn/202408/181480.html
ドイツ、中国製5G製品の排除を決定(※8)
2024年7月11日、ドイツ政府は、主要な通信事業者(ドイツテレコム、ボーダフォン、テレフォニカ)との間で、遅くとも2026年末までに5G通信網におけるファーウェイ(華為技術)及びZTE(中興通訊)の製品の使用終了を義務付ける契約を締結したと発表しました(※8)。概要は以下のとおりです。
① 契約の背景
ドイツの5G通信網は重要なインフラであり、ドイツ政府にとっては安全保障や技術的・デジタル的主権は最優先事項でした。特に、エネルギー、運輸、医療、金融といった極めて重要なインフラを構成する分野における安全保障上のリスクを低減し、一方的な依存関係や致命的な脆弱性を避けるため、信頼できるメーカーに限定することが本契約の背景にあるとしています。
② 主要な取り決め
2026年末までに、5G通信網でのファーウェイ及びZTE社製の重要部品の使用を終了することが義務付けられました。また、2029年末までに、アクセスネットワークとトランスポートネットワークにおいても、両社の5G通信網管理システムの重要な機能を他のメーカーの技術に置き換えることが求められます。
③ フォーラム設置
合意内容の実施を推進するため、政府、通信事業者やメーカー等を含むフォーラムが設置され、サイバーセキュリティやネットワーク保護等に関する対話が進められる予定です。
※8:Bundesministerium des Innern und für Heimat “Stärkung der Sicherheit und technologischen Souveränität der deutschen 5G-Mobilfunknetze: Bundesregierung schließt Verträge mit Telekommunikationsunternehmen”(2024年7月11日)
https://www.bmi.bund.de/SharedDocs/pressemitteilungen/DE/2024/07/5g.html
米国、国内企業に対し580万ドルの制裁金 UAV等のプログラム関係者への低レベル品目出荷 (※9-1、9-2)
2024年8月15日、米国の産業安全保障局(BIS)は、中国の極超音速ミサイル、無人航空機(UAV)、軍用電子機器プログラムに関連する関係者に低レベル品目を出荷したとして、ペンシルベニア州及び香港に所在する企業に対し、輸出管理規則(EAR)違反で580万ドルの制裁金を科したと発表しました(※9-1)。
本制裁は、EARの対象となる174万ドルの品目を、中国の軍事近代化の試みを支援したという理由で以前にエンティティー・リスト(EL)に掲載された当事者に向けて出荷したことに関わるものであり、具体的な品目として、電線やプリント基板用コネクタ、圧力・温度スキャナ等を挙げています。
なお、BISは、当該企業が自発的に違反を開示したことや、BISの調査に協力したこと、違反行為の改善措置を講じたこと等を考慮し、制裁金を大幅に減額し580万ドルとなったと説明しています(※9-2)。
※9-1:Bureau of Industry and Security “BIS Imposes $5.8 Million Penalty Against Pennsylvania Company for Shipments of Low-Level Items to Parties Tied to the PRC’s Hypersonics, UAV, and Military Electronics Programs”(2024年8月15日)
https://www.bis.gov/press-release/bis-imposes-58-million-penalty-against-pennsylvania-company-shipments-low-level-items
※9-2:米国では、自主的な違反申告に対して寛大な措置をとる『ボランタリー・セルフ・ディスクロージャー』(VSD)制度が採られています。米国ではEARに違反した場合、Warning Letterが発行されるか行政執行手続が開始されますが、違反の自主開示やEAR遵守努力、捜査協力が認められた場合に、罰則の軽減措置が取られます。軽減措置の具体例としては、罰金額の減額、警告書の発行に留める、違反無しとする等の措置があります。(出典:CISTEC「特集/安全保障輸出管理規制の合理化の進展 〈2〉安全保障輸出管理の制度運用緩和 自主申告による処分軽減の明確化に関する取り組みについて」https://www.cistec.or.jp/service/jisyukanri_ihan-01_tokusyuu02.pdf)
TMI防衛・経済安全保障プラクティスグループ
防衛関連ニュース担当
弁護士/白石和泰・山田怜央・張壮壮・牧昂平・國井耕太郎
法務(パラリーガル)/松本ティモスィー俊樹
メールアドレス:defense_blog@tmi.gr.jp
以上
ご注意: |