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シリーズ:トランプ2.0 ③トランプ政権による相互関税等の動静
2025.05.07
“This is the beginning of Liberation Day in America.” トランプ大統領が高らかに宣言し、「解放記念日」であるとした4月2日、米国政府は世界中の貿易相手国からの輸入品について、「相互関税」を賦課することを発表しました。
日本のみならず世界中を震撼させた今回の相互関税ですが、この前後には、鉄鋼及びアルミ製品への関税の引き上げや適用除外の撤廃、自動車及び同部品に対する追加関税等、日本の産業にも大きな影響を及ぼす品目への追加関税の賦課が次々に発表されております。このような動きから、最終的に「いつから(いつまで)」「どの国の」「どの製品に対して」「何パーセントの」関税が賦課されているのか、適用の重複関係の有無等が、非常に複雑化しています。さらには半導体や医薬品に関して、追加関税の導入に向けた調査が開始されるなど、さらなる影響が懸念されます。
本稿では、これまでの関税賦課につき、時系列で整理するとともに、現在調査中の品目についても一覧にしてまとめました。
第二次トランプ政権の関税政策に関する整理
措置 |
根拠法(※1) |
対象国 |
対象品目 |
税率 |
適用開始日 |
対象国の対応等 |
フェンタニル等の合成麻薬や不法移民の流入防止への対処を促すための追加関税(※2) |
IEEPA |
中国 |
すべての製品 |
20% |
2月4日(※3) |
WTO提訴(DS633) |
カナダ |
すべての製品(※4) |
25% |
3月4日 |
WTO提訴(DS634) |
||
メキシコ |
すべての製品(※5) |
25% |
3月4日 |
|||
鉄鋼・アルミに対する追加関税(※6) |
通商拡大法232条 |
世界各国 |
鉄鋼・アルミ・派生品 |
25% |
3月12日 |
|
自動車・自動車部品に対する追加関税(※8) |
通商拡大法232条 |
世界各国 |
自動車(※9)・同部品(※10) |
25%(※11) |
4月3日(自動車) 5月3日(部品) |
ブラジル:報復関税とWTO協議要請を示唆 |
相互関税の賦課(※12) |
IEEPA
|
世界各国(※13) |
すべての製品(※14) |
10~50%(※15) |
4月5日(10%) 4月9日(国別税率) |
メキシコ:報復関税見送る方向 |
※1 米国法令における関税賦課の法的根拠についての詳細は、「シリーズ:トランプ2.0の動向と対応 ~ その②関税賦課の法的根拠~」をご参照いただきたい。
※2 全て追加関税として、現行税率に上乗せされる。中国、カナダ、メキシコ、それぞれの大統領令はリンク先を参照。
※3 2月4日からは10%であったものの、3月4日より20%に修正する大統領令が発表された。
※4 但しエネルギー及び同資源については10%。また3月7日以降、USMCAの原産地規則(ROO)を満たす製品につき課税免除、ROOを満たさないカリウムの追加関税は10%とする大統領令が発表された。
※5 3月7日以降、USMCAのROOを満たす製品につき課税免除、ROOを満たさないカリウムの追加関税は10%とする大統領令が発表された。
※6 鉄鋼、アルミニウムそれぞれに対する大統領布告はリンク先を参照。なお、日本は一定数量までは免除されていた鉄鋼に対して25%の追加関税が賦課されるようになり、対象品目も追加。アルミニウムは元々課されていた関税10%が25%に上昇した。
※7 EUはセーフガード措置であると主張したが米国はセーフガード措置ではなく、安全保障例外上の措置(GATT21条に該当)である旨反論。
※8 本布告については、リンク先を参照。
なお、4月29日、米国への自動車・同部品の輸入調整を目的とする大統領令が発表され、自動車メーカーは、2025年4月3日から2026年4月30日までは、米国内で最終的に組み立てられた自動車の希望小売価格の3.75%に相当する額を、2026年5月1日から2027年4月30日までは、同2.5%に相当する額を、輸入調整として相殺申請できることが示された。なお、「3.75%」や「2.5%」とは、前者は自動車の希望小売価格の15%の部品に25%の追加関税が適用される場合、後者は10%の部品に25%の追加関税が適用される場合、それぞれで支払われるべき関税総額が基となり、仮に米国内で組み立てられた自動車について、その自動車部品の50%が海外からの輸入であれば、そのすべてにつき相殺の利益を享受できるわけではない。
※9 4月29日、一部の重複する関税の累積を防ぐことを目的とする大統領令が発表された。例えば、自動車・同部品に対する追加関税を課される物品は、別途鉄鋼・アルミ追加関税の対象とはならない。
※10 USMCAのROOを満たす自動車は、米国産品の価格を除いた車両価格に課税される。
※11 USMCAのROOを満たす自動車部品は、米国以外の付加価値に対して追加関税を適用するプロセスが確立されるまで適用対象外。
※12 本大統領令については、リンク先を参照。なお、4月9日の大統領令で、中国を除き国別関税は90日間停止され、普遍関税である10%のみが各国に課される。
※13 カナダとメキシコについては合成麻薬等を契機とした追加関税が有効な間は課税せず。撤廃後はUSMCAのROOを満たさない製品につき12%
※14 別途追加関税の対象となっている鉄鋼・アルミ、自動車・同部品やAnnex IIにおいて特定されている医薬品や半導体、重要鉱物等一部を除く。
※15 各国ごとの関税率はAnnex Iのとおり。日本は24%。中国は合成麻薬や不法移民の流入を契機とした追加関税(20%)や、リチウムイオン電池など一部の品目についてはバイデン政権期の関税に上乗せされる形で関税が賦課される。なお、中国に対する相互関税率は最終的に125%と設定された。
各国の対応としては、中国が直ちに報復措置を発動するなど強硬な姿勢をとっているほか、カナダも報復措置を発動し、①合成麻薬等を契機とした追加関税、②鉄鋼・アルミ関税、③自動車・同部品に対する関税の3件につき、WTOの紛争解決処理手続に従い、協議要請しました(中国は①合成麻薬等を契機とした追加関税と②相互関税の2件につき、協議要請をしました。)。EU、フランス、メキシコも報復措置を示唆していたものの、現時点では発動していません。その他、日本を含む大半の国は、米国との個別交渉を要求している状況にあります。
【調査中】
対象品目 |
根拠法 |
調査開始日 |
備考 |
銅(※15) |
通商拡大法232条 |
3月10日 |
2月25日から270日以内に報告書が提出される |
木材(※16) |
同上 |
3月10日 |
3月1日から270日以内に報告書が提出される |
半導体(※17) |
同上 |
4月1日 |
パブリックコメントの期限は5月7日 |
医薬品(※18) |
同上 |
4月1日 |
パブリックコメントの期限は5月7日 |
重要鉱物(※19) |
同上 |
4月22日 |
パブリックコメントの期限は公示後21日 |
トラック(※20) |
同上 |
4月22日 |
パブリックコメントの期限は公示後21日 |
※15 調査の開始を命じる大統領令が発表され、調査開始が官報で公示されている。
※16 調査の開始を命じる大統領令が発表され、調査開始が官報で公示されている。
※17 調査開始が官報で公示されている。
※18 調査開始が官報で公示されている。
※19 調査の開始を命じる大統領令が発表、調査開始が官報で公示されている。
※20 調査開始が官報で公示されている。
なお、通商拡大法232条に基づく調査は通常、商務長官による調査開始から270日以内に、大統領へ調査結果と提言を報告するものとされています。もっとも、重要鉱物については180日以内に報告書を提出することが大統領令で命じられており、また半導体については商務長官が1-2カ月以内の課税開始を示唆しているなど、通常よりも早く調査が進むとみられています。
今後の展望
トランプ大統領が声高に非難していたEUやカナダに比べて、名指しでの非難は相対的に少なかった日本に対して、24%もの相互関税が課されたことの衝撃は非常に大きいものでした。国別の相互関税の発動は90日間停止となったものの、自動車や鉄鋼については既に関税を賦課され、5月3日の自動車部品への課税が控えており、また今後半導体についても関税が課される可能性が高い状況で、トランプ政権の今後の関税政策、これによる日本への影響を今後も注視し、影響を受ける企業がどのような対策を講じることができるかを検討することが急務となっています。日本国による国に対するWTO協議要請についても、これを行わない理由があるのか等、企業としての立場を明確にしていくことが必要です。
関連した動きとして、4月21日は韓国の関税庁が、韓国産に偽造された製品が米国に輸出されることに対する取締りを強化することが発表され、同22日にはベトナムの商工省が、米国などへの迂回輸出の取り締まりに向けた通達を発出するなど、米国の要請に応じて、中国製品の迂回輸出の規制を強化しています。
関税賦課の基準は基本的に原産国を基準とするため、一連の大統領令により莫大な関税率を課された中国製品が、原産地を偽装する形で米国に輸出されれば、偽装国の関税率が課されることになるためです。これにより、中国から米国への直接的な輸出は減るため、トランプ政権が問題視する中国への「貿易赤字」も減少することになります。
トランプ政権が中国製品の迂回輸出を問題視しているとの報道がなされ、他方中国政府からは「中国の利益を犠牲にした取引に断固として反対する」と表明するなど、迂回輸出をめぐるさや当てが激しくなっており、こちらの動向についても継続的に注視する必要があります。
TMIの関税チーム・国際通商法プラクティスグループの紹介
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