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改正区分所有法 ~区分所有建物の再生の円滑化~
2025.06.19
今回の法令ニュースは、本国会で成立し、令和7年5月30日に公布されました、マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法のうち、区分所有法にかかる改正部分を取り上げます。
令和6年改正にかかる区分所有法
マンションを巡っては、建物の老朽化と居住者の高齢化という2つの老いの進行が問題とされています(図表1)。
【図表1】マンションの2つの老い
※国土交通省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より抜粋
2つの老いの問題に対処するため、今回の国会において、区分所有法及び被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の改正法案が提出・可決され、令和7年5月15日に公布されました。その主たる改正点は、①区分所有建物の管理の円滑化、②区分所有建物の再生の円滑化、③被災区分所有建物の再生の円滑化を内容としています。このうち、本稿では、②区分所有建物の再生の円滑化、及び③被災区分所有建物の再生の円滑化を取り上げます。
区分所有建物の再生の円滑化
区分所有建物の再生の円滑化として、改正区分所有法は、(1)建替えを円滑化するための仕組み、(2)区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み、(3)団地の再生を円滑化するための仕組みを導入しました。また、被災区分所有建物の再生の円滑化として、改正被災区分所有法案は、(4) 建替え・建物敷地売却決議等の多数決要件の緩和、(5) 大規模一部滅失時の決議可能期間の延長などを定めています。
(1)建替えを円滑化するための仕組み
現行の区分所有法においても、区分所有建物の建替え決議の定めがありますが、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数を要するとされています。しかし、かかる決議を得ることは、困難な場合があるとされています。
そこで改正法は、所在不明の区分所有者を、建替えにかかる決議の分母から除外することとしました(図表1)。この点は、区分所有建物の再生にかかる全ての決議に適用されます。
また、区分所有建物が、① 耐震性の不足、② 火災に対する安全性の不足、③ 外壁等の剝落により周辺に危害を生ずるおそれ、④ 給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、⑤ バリアフリー基準への不適合に該当する場合には、改正法は、5分の4以上の決議要件を、4分の3以上に緩和しました(図表2)。
【図表1】決議の円滑化について
※国交省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より抜粋
また、現行法では、建替え決議がされても専有部分に設定された賃借権は消滅しないため、建替え工事の円滑な実施を阻害するとされていました。そこで改正法は、建替決議がされた場合に、一定の手続や金銭補償により、専有部分に設定された賃借権、使用貸借権及び配偶者居住権を消滅させる制度を創設しました。
【図表2】建替え決議要件の緩和
※国交省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より抜粋
(2)区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み
現行法では、建物及び敷地の一括売却や建物の取壊し等を行うには、区分所有者全員の同意が必要であり、これらを行うことは事実上困難であることが指摘されています。
そこで、改正法は、建替えと同等の多数決によって、(a) 建物・敷地の一括売却、(b)建物の取壊し、(c) 建物を取り壊した上での敷地売却を可能とする制度を創設しました(図表3)。これらの決議においても、耐震性の不足等がある場合には、建替え決議の場合と同様に決議要件が緩和されています。
また、既存躯体を維持しながら全ての専有部分を含む建物全体を更新して、実質的な建替えを実現する一棟リノベーション工事を行う場合、現行法では、区分所有者全員の同意が必要とされていますが、改正法は、多数決によることを可能としました。
【図表3】区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み
※国交省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より抜粋
(3)団地の再生を円滑化するための仕組み
区分所有法では、複数の区分所有建物の敷地等がこれら建物の区分所有者によって所有されるものを団地と定義しています。現行法では、団地内のすべての建物を建替えるには、団地全体の区分所有者の5分の4以上、及び、各棟の区分所有者の3分の2以上の賛成が必要とされています。しかし、この要件を満たすのは容易でなく、必要な建替えが迅速に行えない事態が生じているとされています。
そこで改正法は、各棟の区分所有者の3分の2以上の賛成という要件を、いずれかの棟で建替えに反対する者が3分の1を超えない限り、一括建替えができるとしました。また、建替えの対象となる建物の全部について耐震性の不足等がある場合には、5分の4の決議要件を4分の3に緩和しました。
団地内の一部の建物の建替えの場合、現行法では、建替えの対象となる区分所有建物の区分所有者全員の同意と、当該建物の敷地の共有者の4分の3以上による建替え承認決議が必要とされています。改正法は、建替え対象の全ての建物について、耐震性の不足等がある場合には、この4分の3の決議要件を3分の2に引き下げています。
被災区分所有建物の再生の円滑化
震災などの大規模災害でマンションが被災した場合、被災区分所有法が当該被災マンションの再生について定めています。現行の被災区分所有法は、被災した区分所有建物の建替え決議等の多数決要件を5分の4 、変更決議等の多数決要件を4 分の3としていますが、早期の復興を促進する観点から、改正法では、多数決割合をいずれも3分の2に緩和しました。
また、現行法上、被災マンションの建物敷地売却決議、建物取壊し敷地売却決議、取壊し決議の決議可能期間は1年とされていますが、これが短すぎるとの批判があり、改正法は決議可能期間を3 年に延長し、場合によっては再延長も可能としました。
まとめ
マンションの再生に関しては、区分所有法の他に、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンション建替法)があり、マンションの建替事業、マンション敷地売却事業、敷地分割事業等の制度を定めています。なお、区分所有法の改正と同時にマンション建替法も改正されており、同法の名称が「マンションの再生等の円滑化に関する法律」に変更され、マンション除却事業が追加される等、全面的に改正されました。
区分所有法による建替えについては、建替えに反対する区分所有者に対する区分所有権の買取請求の制度はあるものの、個々の区分所有者がマンションの建替えを行うデベロッパーに対して区分所有権を個別に売却し、さらに区分所有者が建替後のマンションの区分所有権を買戻すことが想定されており、煩雑な点が指摘されていました。この点、改正区分所有法においても、この手続の変更はないと考えられることから、区分所有法の改正後においても、マンション建替法に基づく建替え制度が利用される場合もあると思われます。マンション建替え法においては、建替え後のマンションに権利を移行させる権利変換手続の制度が設けられているからです。
区分所有法等の改正法は、令和8年4月1日から施行されます。
以上
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