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改正区分所有法 ~区分所有建物の管理の円滑化~
2025.06.23
今回の法令ニュースは、本国会で成立し、令和7年5月30日に公布されました、マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法のうち、区分所有法にかかる改正部分を取り上げます。
区分所有法とは
区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)とは、マンションのように、一棟の建物であるが構造上区分された部分で構成され、独立して住居、店舗、事務所又は倉庫等として用いられる建物に関して、その法律関係を定めた法律です。本来、民法の原則では、一棟の建物については、1個の所有権の対象となるのですが、マンションのように一棟の建物内において構造上独立した区画があるものについては、それぞれの区画について独立した所有権の対象とする必要性があることから、区分所有法は、これらの区画に所有権を認めました。かかる所有権を「区分所有権」といい、このような所有権の対象となる区画を「専用部分」といいます。
このように独立した区画について区分所有権が認められますが、建物としては一棟ですので、区分所有者間の権利関係を調整する必要があります。このため、区分所有法は、以下のような権利関係を調整する定めを置いています。
・共用部分 ・管理組合の組成 ・管理規約 ・総会 |
令和6年改正にかかる区分所有法
今回の改正法においては、区分所有法及び被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法に関して、①区分所有建物の管理の円滑化、②区分所有建物の再生の円滑化、③被災区分所有建物の再生の円滑化が図られています。このうち、本稿では、①区分所有建物の管理の円滑化を取り上げます。
区分所有建物の管理の円滑化
区分所有建物の管理の円滑化としては、(1)集会の決議を円滑化するための仕組み、(2)区分所有建物の管理に特化した財産管理制度の創設、(3)専有部分の管理を円滑化するための仕組み、(4)共用部分の変更決議を円滑化するための仕組み等が導入されています。
(1)集会決議の円滑化
(1)集会の決議を円滑化するための仕組みとして、改正法は、マンションの管理に関する決議の要件を緩和しました。まず、現行の区分所有法における管理にかかる決議要件は、区分所有者及び議決権の各過半数とされていますが、改正法は、出席した区分所有者及び議決権の各過半数としました。
また、所在不明の区分所有者がいる場合、現行の区分所有法では、総会の決議において反対者と扱われ、決議に必要な賛成を得るのが困難な場合もあるとされていました。特に、建替え等の区分所有建物の再生の意思決定は決議要件が厳格なため(建替決議には、原則として区分所有者と議決権の4/5が必要となります。)、意思決定が更に困難となり、結果として区分所有建物の管理不全化を招くとともに、老朽化した区分所有建物の再生が困難になる点も指摘されていました。そこで、改正法は、所在が不明な区分所有者がいる場合に、利害関係人の申立てによって、裁判所が、これら所在不明区分所有者が議決権を有しないとすることができる制度を創設しました。
これら制度によって、総会に出席しない区分所有者や所在不明の区分所有者が決議の分母から除外されることから、決議が成立しやすくなることが期待されています(図表1参照)。
【図表1】決議の円滑化について
※国交省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より抜粋
(2)区分所有建物の管理に特化した財産管理制度
次に、改正法は、区分所有建物の管理に特化した財産管理制度を創設しました。これには、所有者不明の専有部分の管理制度、及び管理不全の専有部分・共用部分の管理制度があります。前者は、所在等不明の区分所有者の専有部分の管理を、裁判所が選任した管理人が行う制度です。後者は、区分所有者の所在は知れているが、適切に管理がなされていない場合において、裁判所が選任した管理人が専有部分や共用部分の管理を行う制度です(図表2)。
【図表2】改正法の財産管理制度
※国交省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より抜粋
(3)専有部分の管理を円滑化
区分所有建物の共用部分の管理又は変更を加える場合において、専有部分の保存行為もしくは専用部分の性質を変えない利用又は改良を行う必要が生じる場合があります。たとえば、専有部分の工事を伴う配管の全面更新等が該当しますが、現行の区分所有法では、かかる工事を区分所有者の多数決で行うことができるかは、明確ではありませんでした。そこで改正法では、専有部分の工事を伴う配管の全面更新等を多数決で行うことができる制度を創設しました。
また、区分所有者が国外に居住する場合には、専有部分の管理が困難になることが指摘されていました。そこで改正法では、国外居住の区分所有者が、専有部分の管理を行う国内管理人を選任できる制度を創設しました。
(4)共用部分の変更の円滑化
共用部分について変更を行う場合、現行法においては、区分所有者及び議決権の3/4の賛成が必要とされています。しかし、かかる3/4の多数決要件を満たすことは容易でなく、必要な工事等が迅速に行えない場合があると指摘されていました。そこで改正法では、区分所有者及び議決権の過半数が出席し、出席者及び出席者の議決権の各3/4をもって決議できるとして、決議の成立を容易にしています。
また、改正法は、共用部分の設置・保存に瑕疵があることによって他人の権利を侵害するおそれがある場合やバリアフリー化のために必要となる場合には、多数決割合を3分の2に引き下げています。
(5)その他の改正
改正法は、上記の他、区分所有建物の管理の円滑化を図る方策として、区分所有建物の管理に関する区分所有者の相互協力義務の制定、規約の閲覧方法のデジタル化、建物の全部滅失時における敷地等の管理の円滑化を図る制度の創設、共用部分について損害賠償請求権等が発生した後に一部の区分所有権が転売されても管理者が請求権を代理して行使できる制度を創設する等の改正を定めています。
以上
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