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【労働法ブログ】第4回 日本版DBS(こども性暴力防止法)の解説 ― 元厚生労働省の弁護士による制度内容・実務対応の解説 ―
2025.07.04
令和6年6月19日に「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(こども性暴力防止法)が成立した(施行日は令和8年12月25日までの間で政令で定める日)。
こども性暴力防止法は、「学校設置者等」や認定を受けた「民間教育保育等事業者」に対し、「教員等」や「教育保育等従事者」の性犯罪前科の確認や、「教員等」や「教育保育等従事者」による児童対象性暴力等の防止等の措置を講じることなどを求めている。
そのため、これら事業者においては、こども性暴力防止法施行までの間に、防止措置を念頭においた事前準備や犯歴確認・情報管理の体制整備を行っておく必要がある。同法の施行期限は令和8年12月だが、同法においては、施行日又は認定日で現職である者(施行時現職者/認定時現職者)についても性犯罪前科の確認を行い、児童対象性暴力等が行われるおそれ有りと認められる場合は防止措置を行わなければならないため、主に労働関係法令の規制との関係で、施行前の採用活動の段階から、同法対応を見据えた準備をしなければならない。
本連載(第1回~第6回を予定)では、日本版DBS(こども性暴力防止法)について、制度の内容を解説するとともに、現段階で対応しておくべき実務対応を解説することとする。
第1回は日本版DBSの概要、第2回は日本版DBSの制度解説のうち、こども性暴力防止法における各用語の定義と位置付け、第3回は日本版DBSの制度解説のうち、こども性暴力防止法に基づき学校設置者等が講ずべき措置等についてそれぞれ解説した。本稿(第4回)では、日本版DBSの制度解説のうち、民間教育保育等事業者の認定等及び認定事業者等が講ずべき措置等について解説する。
[日本版DBSの制度解説―民間教育保育等事業者の認定等及び認定事業者等が講ずべき措置等]
正式名称 |
略語 |
「法」/「本法」/「こども性暴力防止法」 |
※ 本法の解説に際して、「政令」や「内閣府令」(青字の箇所)が出てくるが(本法の各規制等に関し、下位法令で細かい事項を定めるものである。)、これら法令は未だ制定されていない。今後制定された段階で、本連載をアップデートする形でお知らせする。
認定
1. 認定申請(法19条)
民間教育保育等事業者は、申請により、その行う民間教育保育等事業[1]について、学校設置者等が講ずべき措置(前記第2)と同等のものを実施する体制が確保されている旨の内閣総理大臣の認定(「認定」)を受けることができる(法19条1項・2項)。
認定を受けようとする民間教育保育等事業者は、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書と添付書類を内閣総理大臣に提出しなければならない(法19条3項・4項)。
※なお、認定等を受けようとする者(国及び地方公共団体並びにこれらが行う民間教育保育等事業の事業所の管理を行う事業運営者を除く。)は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付しなければならない(法40条)。
申請書の記載事項(法19条3項各号) |
申請書の添付書類(法19条4項各号) |
①認定を受けようとする民間教育保育等事業者の氏名又は名称及び住所又は所在地並びに法人にあってはその代表者の氏名 |
①左欄②の民間教育保育等事業及び左欄④の業務の詳細を説明する資料 |
2. 認定基準(法20条)
内閣総理大臣は、申請書記載の民間教育保育等事業及びその業務の内容がそれぞれ民間教育保育等事業及び教育保育等従事者の業務に該当し、かつ、当該申請が次に掲げる基準(認定基準)に適合すると認めるときでなければ、認定をしてはならない(法20条1項)。また、次のいずれか(欠格事由)に該当する民間教育保育等事業者は、認定を受けることができない(法20条2項)。
認定基準(法20条1項各号) |
①認定を受けようとする民間教育保育等事業者が「申請書記載事項④」の業務に従事させようとする者の犯罪事実確認を適切に実施するための体制として内閣府令で定めるものを備えていること |
欠格事由(法20条2項各号) |
次の各号のいずれかに該当する民間教育保育等事業者 |
3. 共同認定の申請(法21条)
民間教育保育等事業者及び事業運営者は、共同の申請により、その行う民間教育保育等事業(事業運営者が管理する事業所において行われるものに限る。)について、学校設置者等が講ずべき措置(前記第2)と同等のものを実施する体制が確保されている旨の内閣総理大臣の認定(「共同認定」)を受けることができる(法21条1項・2項)。
共同認定の申請については、前記(1)の申請書の記載事項・添付書類(法19条3項・4項)や前記(2)の認定基準・欠格事由(法20条1項・2項)が準用され、下表の下線太字のとおり読み替えられる(法21条3項)。
申請書の記載事項(法19条3項各号) |
申請書の添付書類(法19条4項各号) |
①認定を受けようとする民間教育保育等事業者及び事業運営者の氏名又は名称及び住所又は所在地並びに法人にあってはその代表者の氏名 |
①左欄②の民間教育保育等事業及び左欄④の業務の詳細を説明する資料 |
認定基準(法20条1項各号) |
①認定を受けようとする民間教育保育等事業者及び事業運営者が「申請書記載事項④」の業務に従事させようとする者の犯罪事実確認を適切に実施するための体制として内閣府令で定めるものを備えていること |
欠格事由(法20条2項各号) |
次の各号のいずれかに該当する民間教育保育等事業者及び事業運営者 |
4. 認定等の公表(法22条)
内閣総理大臣は、認定又は共同認定(「認定等」)をしたときは、遅滞なく、その旨及び次に掲げる事項を、認定等の申請をした者に通知するとともに、インターネットの利用その他の方法により公表することとされている(法22条)。
通知・公表事項(法22条各号) |
①認定を受けた民間教育保育等事業者又は共同認定を受けた民間教育保育等事業者及び事業運営者(「認定事業者等」)の氏名又は名称及び住所又は所在地並びに法人にあってはその代表者の氏名 |
5. 認定等の表示(法23条)
認定事業者等は、認定等事業に関する広告その他の内閣府令で定めるもの(「広告等」)に、内閣総理大臣が定める表示を付することができる(法23条1項)。なお、何人も、この場合を除き、広告等に同項の表示又はこれと紛らわしい表示を付してはならない(法23条2項)。
6. 変更の届出(法24条)
認定事業者等は、法22条各号に掲げる事項を変更するときは、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ、その旨を内閣総理大臣に届け出なければならず、内閣総理大臣は、この届出があったときは、遅滞なく、その旨をインターネットの利用その他の方法により公表する(法24条1項・2項)。
また、認定事業者等は、児童対象性暴力等対処規程又は法20条1項6号(法21条3項において準用する場合を含む。)の措置を変更するときは(軽微な変更として内閣府令で定めるものを除く。)、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ、その旨を内閣総理大臣に届け出なければならない(法24条3項)。
7. 廃止の届出(法31条)
認定事業者等は、認定等事業を廃止するときは、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ、その旨及び廃止しようとする日(「廃止の日」)を内閣総理大臣に届け出なければならず、内閣総理大臣は、当該届出があったときは、遅滞なく、その旨及び廃止の日をインターネットの利用その他の方法により、公表しなければならない(法31条1項・2項)。そして、認定等は、廃止の日として届け出られた日以後にその効力を失う(法31条3項)。
措置
1. 児童対象性暴力等対処規程の遵守義務(法25条)
認定事業者等は、児童対象性暴力等対処規程を遵守しなければならない(法25条)。
児童対象性暴力等対処規程には、学校設置者等が講ずべき措置における児童対象性暴力等の防止措置義務(法6条)や児童対象性暴力等が疑われる場合等の措置義務(法7条)に相当するものが定められているため(法20条1項4号)、同規程の遵守義務という形で、これら措置義務と同様の措置義務を課しているといえる。
2. 犯罪事実確認義務(法26条)
認定事業者等は、認定等に係る教育保育等従事者としてその業務に従事させようとする者について、当該業務を行わせるまでに、犯罪事実確認を行わなければならない(法26条1項)。
※ なお、認定等に係る教育保育等従事者に急な欠員を生じた場合その他のやむを得ない事情(内閣府令で定めるもの)により、認定等に係る教育保育等従事者としてその業務に従事させようとする者について当該業務を行わせるまでに犯罪事実確認を行ういとまがない場合であって、直ちにその者に当該業務を行わせなければ認定等事業の運営に著しい支障が生ずるときは、その者の犯罪事実確認は、その者を当該業務に従事させた日から6月以内(政令で定める期間内)に行うことができる(法26条2項本文)。ただし、認定事業者等は、犯罪事実確認を行うまでの間は、その者を特定性犯罪事実該当者とみなして必要な措置を講じなければならない(法26条2項但書)。
また、認定事業者等は、「認定時現職者」については、「認定等の日」から起算して1年以内(政令で定める期間を経過する日まで)に、その全ての者(当該期間を経過する日までの間に当該業務に従事しなくなった者を除く。)について、犯罪事実確認を行わなければならない(法26条3項)。
※ 「認定時現職者」とは、認定等の際現に当該業務に従事させている者及び認定等を受けた日(「認定等の日」)の前日までに当該業務に従事させることを決定していた者であって認定等の日の後に当該業務に従事させるものをいう(法26条1項括弧書)。
※ なお、認定事業者等は、認定時現職者の犯罪事実確認が完了したときは、内閣府令で定めるところにより、その旨を内閣総理大臣に届け出るものとし、内閣総理大臣は、当該届出を受けたときは、当該認定事業者等が法定の期間内に認定等事業に従事する全ての教育保育等従事者について犯罪事実確認を行った旨をインターネットの利用その他の方法により公表する(法26条4項・5項)。学校設置者等とは異なり、認定時現職者の犯罪事実確認が完了した事業者なのか否かが可視化されることとなる。
さらに、認定事業者等は、犯罪事実確認を行った者をその者の直近の犯罪事実確認書に記載された確認日の翌日から起算して5年を経過する日の属する年度の末日を超えて引き続き認定等に係る教育保育等従事者としてその業務に従事させるときは、当該年度の初日から末日までの間に、改めて、その者について、犯罪事実確認を行わなければならない(法26条6項)。
以上をまとめると、「認定事業者等」は、「教育保育等従事者」について、以下のタイミングでそれぞれ「犯罪事実確認」を行わなければならないこととなる。
※ 基本的には「学校設置者等」の犯罪事実確認と同じであるが、「学校設置者等」による「施行時現職者」の犯罪事実確認が「施行日から起算して3年以内(政令で定める期間)を経過する日まで」であるのに対し、「認定事業者等」による「認定時現職者」の犯罪事実確認は「認定等の日から起算して1年以内(政令で定める期間)を経過する日まで」という違いがある。
対象となる「教育保育等従事者」 |
犯罪事実確認のタイミング |
教育保育等従事者としてその業務に従事させようとする者 |
その業務に従事させるまで |
認定時現職者 |
認定等の日から起算して1年以内(政令で定める期間)を経過する日まで |
犯罪事実確認を行った教育保育等従事者 (直近の犯罪事実確認書に記載された確認日の翌日から起算して5年を経過する日の属する年度の末日を超えて引き続き教育保育等従事者としてその業務に従事させる場合) |
直近の犯罪事実確認書に記載された確認日の翌日から起算して5年を経過する日の属する年度の初日から末日まで ※ 例えば、毎年1月1日からの1年を年度とする場合、2027年1月10日が直近の確認日であれば、2032年1月10日が「確認日の翌日から起算して5年を経過する日」となり、その日が属する年度の末日(2032年12月31日)までに、改めて犯罪事実確認を行う必要がある。 |
3. 情報管理措置(法27条)
認定事業者等は、犯罪事実確認記録等を適正に管理しなければならない(法27条1項)。具体的には、認定基準の「犯罪事実確認記録等を適正に管理するために必要な措置として内閣府令で定めるもの」(法20条1項6号)を実際に講じることによって、犯罪事実確認記録等を適正に管理しなければならないということになるだろう。
なお、認定事業者等について、「犯罪事実確認記録等の第三者提供の禁止」(法12条)や「犯罪事実確認記録等の漏洩報告」(法13条)が準用されているため(法27条2項)、認定事業者等においてもこれら規制に服することとなる。
指導・監督
1. 帳簿の備付け・定期報告(法28条)
認定事業者等は、内閣府令で定めるところにより、帳簿を備え、これに犯罪事実確認の実施状況を記載し、これを保存しなければならない(法28条1項)。
また、認定事業者等は、「犯罪事実確認等」の実施状況及び犯罪事実確認記録等の管理の状況について、内閣府令で定めるところにより、定期的に、内閣総理大臣に報告しなければならない(法28条2項)。
※ 「犯罪事実確認等」とは、犯罪事実確認、認定基準②③⑤⑥の措置、児童対象性暴力等対処規程に定めた措置(防止措置、調査、保護・支援)をいう(法28条2項括弧書)。学校設置者等における犯罪事実確認実施者等による定期報告は「犯罪事実確認」の実施状況のみであるが(法15条)、認定事業者等はそれ以外の措置の実施状況も定期報告しなければならないということになる。
2. 報告徴収等(法29条)
内閣総理大臣は、犯罪事実確認等の適切な実施及び犯罪事実確認記録等の適正な管理を確保するために必要な限度において、認定事業者等に対し、「犯罪事実確認等の実施状況」及び「犯罪事実確認記録等の管理の状況」に関し必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、「認定事業者等の事務所、認定等事業を行う事業所その他必要な場所」に立ち入り、犯罪事実確認等の実施状況及び犯罪事実確認記録等の管理の状況に関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる(法29条1項)。
3. 適合命令・改善命令(法30条)
内閣総理大臣は、認定事業者等が認定基準のいずれかに適合しなくなったと認めるときは、当該認定事業者等に対し、期限を定めて、当該基準に適合するために必要な措置をとるべきこと(適合命令)を命ずることができる(法30条1項)。
また、内閣総理大臣は、認定事業者等が犯罪事実確認記録等の適正管理(法27条1項)に違反していると認めるとき(同条2項において準用する法13条の内閣府令で定める事態が生じた場合に限る。)は、当該認定事業者等に対し、当該違反を是正するために必要な措置をとるべきこと(改善命令)を命ずることができる(法30条2項)。
4. 認定等の取消し(法32条)
内閣総理大臣は、認定事業者等が次の各号のいずれかに該当するときは、認定等を取り消すものとする(法32条1項)。
認定等の必要的取消事由(法32条1項各号) |
①偽りその他不正の手段により認定等を受けたとき。 |
また、内閣総理大臣は、認定事業者等が次の各号のいずれかに該当するときは、認定等を取り消すことができる(法32条2項)。
認定等の裁量的取消事由(法32条2項各号) |
①民間教育保育等事業者又は事業運営者に該当しなくなったとき。 |
なお、内閣総理大臣は、認定等の取消しをしたときは、その旨をインターネットの利用その他の方法により公表しなければならない(法32条3項)。
以上
[1] 事業運営者(民間教育保育等事業者から地方自治法244の2第3項の規定による指定又は委託を受けて当該民間教育保育等事業者が行う民間教育保育等事業に係る事業所を管理する者)がある場合は、当該事業運営者が管理する事業所において行われるものを除く。
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