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【危機管理・コンプライアンス】「令和7(2025)年改正風営法の概要 スカウトバックの禁止と職業安定法」風俗営業法研究会ブログ
2025.11.28
はじめに
令和7(2025)年改正風営法について、第1回のブログでは、その全体像を概説し(リンク:https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2025/17382.html)、第2回のブログでは、接待飲食営業に係る遵守事項・禁止行為について概説しました(リンク:https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2025/17558.html)。
今回は、従前から職業安定法によって規制されている領域に関し、規制対象を拡大する形で導入されたスカウトバックの禁止について解説します。
なお、本ブログ記事は、TMI総合法律事務所が運営する風俗営業法研究会における議論を踏まえたものです。
対象となる営業
接待飲食営業の客を性風俗店に紹介する行為に関し、紹介したスカウトの側ではなく、紹介を受けた事業者側によるスカウトバックを禁止する規定が新設されました(法28条13項)。本規制の対象になるのは、法2条6項1号(ソープランド)、同2号(店舗型ヘルス)、7項1号(デリバリーヘルス。法31条の3による準用)です。
いずれも性的役務を提供する接客従業者を必要とすることが共通しています。
実態としては主に女性客の紹介が想定されますが、理論上は男性客を女性向け性風俗店に紹介する場合も対象に含まれます。
無届の営業者も対象になります。
これに対して、ストリップ劇場、ラブホテル、アダルトビデオ制作事業などは対象になりません。

(出典:警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律(令和7年法律第45号)概要」 https://www.npa.go.jp/laws/kaisei/houritsu.html)
後述する職業安定法63条2項の規制は、客を紹介するスカウトや求人情報サービスなどの側を対象としていますが、性風俗店がその紹介を受けることは、その共犯になり得ることは別として、これまでは直接に規制する条文がありませんでした。
職業安定法の規制
本規制の前提となるものに、職業安定法による規制があります。
職業安定法63条2項は、従来から、「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」で行う「職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供若しくは労働者の供給」を、罰則をもって禁止しています。
これは、俗に口入屋や女衒などと呼ばれる者が他人の労働関係に介入して不当な利益を得ることを防止する規制です。現在の職業安定法は、民間の雇用関連ビジネスを原則自由化し、その社会的役割を積極的に認めていますが、いわゆる有害業務については、弊害が大きいため、現在でも全面的に禁止されています。ここで言う「公衆道徳」とは社会共同生活において一般人の守るべき道徳をいい、「公衆道徳上有害な業務」とは社会共同生活上守られるべき道徳を害する業務をいいます(労働省職業安定局「職業安定法・職業訓練法・緊急失業対策法」(労務行政研究所1960)、261頁)。また、最近の国会答弁では、「人としての尊厳を害し、社会一般の通常の倫理、道徳観念に反して社会の善良な風俗を害するような業務」とも表現されています(第212回国会参議院内閣委員会令和5年11月9日)。
裁判例上は、売春に限らず、性交類似行為等やアダルトビデオへの出演などを有害業務に当たるとするものが多数あります。
したがって、性的役務を提供する従業者を性風俗店に紹介する行為は、通常違法です。
処罰される行為類型には、職業紹介のほか、労働者の募集や労働者の供給も含まれています。いわゆるスカウト業務はこれに当たります。また、令和4年の職業安定法改正により「募集情報等提供事業」が追加されたので、現在は、インターネット上のサイトやアプリにより有害業務に関する求人情報を収集提供することも禁止されています。
条文解釈
【条文及び通達】
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第28条(店舗型性風俗特殊営業の禁止区域等)(第13項) 第31条の3(接客従業者に対する拘束的行為の規制等) |
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第53条 第57条 |
法第28条第13項は、一部の性風俗関連特殊営業において、性交類似行為といった異性の客に接触する役務を提供する者の紹介を受けた場合に、当該営業を営む者から当該紹介をした者(いわゆる「スカウト」)等に対する紹介の対価の支払(いわゆる「スカウトバック」)が、当該営業における女性の売春を助長するものであることを踏まえ、これを禁止することとしたものです。
この改正は、悪質ホストクラブ事案には、ホストが、女性客に対し、ホストクラブにおける料金の支払等のため、性風俗店で働くことを要求し、他方で、いわゆるスカウトなどに依頼し、その女性客を性風俗店等に紹介する事例もあり、その中には、当該性風俗店を営む者が、当該スカウトなどに対し、紹介に係る対価として、当該女性客が性風俗店で稼働した売上げの一部についてスカウトバックとして支払うものが散見されたことを背景としています。
「女性の売春を助長する」というのは、性風俗店を営む者がスカウトバックを行うために女性に対してより売上げを伸ばすよう求めたり、女性が稼働した際の報酬がスカウトバック分を差し引いたものとなり女性の手取り分が少なくなるため、女性が手取り分を増やそうとしたりするなどにより、当該営業に関し売春が行われることを助長する、という考えによります。
このような法律の目的には、職業安定法と共通するところがありますが、職業安定法63条2号は、職業紹介等を行うこと(風俗スカウト、風俗求人アプリ・サイト)を取り締まるものであるのに対して、本条は、紹介を受けた店からの対価の支払行為を継続的に取り締まるものである点などに違いがあります。
この点、従前の規制状況では、紹介の受け手である性風俗店は規制対象とはなっていないため、性風俗店側による女性の受け入れが止まらないという考えや、売春行為の事実が確認できた場合には営業停止等の行政処分や売春防止法による検挙等が可能なものの、スカウトバックが行われている事実のみをもって取締りなどを行うことはできなかったため、売春行為を予防する抑止力が十分ではないという考えもありました。
【禁止されるスカウトバック】
法第2条第6項第1号又は第2号の営業を営む者がスカウトなどに提供した金銭その他の財産上の利益が、紹介料、顧問料その他名目のいかんを問わず、営業所で異性の客に接触する役務を提供する業務に従事しようとする特定の者に係る紹介の対価として提供されたものであることを明らかにすれば、スカウト バックと認定されます。
「紹介の対価」とは、紹介を受けた際の1回目に提供される金銭その他の財産上の利益のみならず、名目のいかんを問わず、2回目以降 に提供される金銭その他の財産上の利益も含まれます。
【第三者とは】
特定の者を想定しているのではなく、第三者を介して金銭その他の財産上の利益を提供するといった規制の潜脱行為を防止するものです。
例えば、
・ 風俗店を営む者が、性風俗店への女性の紹介を組織的に行っているスカウト集団から女性の紹介を受けた場合に、実際の紹介者と同一組織で活動する第三者(紹介者と面識や接触のない者を含む)に対してスカウトバックを行う
・ 性風俗店を営む者とは異なる第三者が、風俗店を営む者に代わり、紹介者等に対してスカウトバックを行う
などといったものを含め、幅広く規制するものです。
これに違反した者は、6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処される(併科あり)ほか(法53条7号)、行政上の指示処分や営業停止命令等の対象になります(法29条、30条、31条の4、31条の5)。
事業者が留意すべき事項
今回の改正により、これまで規制が及んでいなかった領域について、行政処分を伴い得る規制及び刑罰を科され得る規制が設けられ、一部の性風俗関連特殊営業を営む事業者には、これに備える必要性が生じました。
性産業の一部には、従来、スカウトが女性を紹介するとその売上の一定割合を継続的に受け取ることができるといった悪しき慣行がありましたが、本改正により、それに加担する性風俗店側にも規制がかかることとなりました。
仮に、スカウトから紹介を受けたのが何年も前だったとしても、スカウトバックを支払ったのが改正法の施行後であれば処罰される可能性があるため、現在の雇用状況を確認し、適切に対応することが重要と考えられます。
以 上
参照資料:警察庁 令和7年10月20日警察庁丙保発第14号等「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)」
https://www.npa.go.jp/laws/notification/seian/hoan/hoantsutatu2/R071017hueikaisyaku.pdf
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