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【緊急解説】中国による日本企業の輸出管理規制リストへの追加と実務対応
2026.02.27
はじめに
2026年2月24日、中国商務部は日本の防衛・航空宇宙関連企業を中心とした20社を「管理コントロールリスト(管控名单)」に掲載し、さらに別の20社を「注視リスト(关注名单)」に追加したと発表しました(注1)(注2)。
(注1)
https://www.mofcom.gov.cn/zfxxgk/gkml/art/2026/art_e83f69deed3a446288808643ddb2d0cf.html
(注2)
https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2026/art_bac18400512d408a8d4c2f964e36ac11.html
今回の措置は、中国の「輸出管理法」及び「両用品目輸出管理条例」(以下「本条例」といいます。)に基づく、中国から日本へのデュアルユース品目(両用品目)(注3)の輸出を制限する措置(以下「本措置」といいます。)であり、本条例に基づいて、大規模に日本企業がリストに加えられた初の事例となります。本措置の法的な位置づけを確認し、実務への影響と、日本企業の対応策を整理します。
(注3)
民生用途と軍事用途の双方に利用可能な貨物・技術等を指します。レアアース関連品目や半導体関連製品などが含まれ、商務部のウェブサイトにおいてリストが公表されています(https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2025/art_c03d1e511b2b486e829d68e8f1422aff.html)。
中国による対日輸出規制の背景・概要
(1) 措置の背景
本措置に関して中国商務部が24日に発表した報道官談話では、本措置は、日本の「再軍備」や核保有を阻止することを目的としていると説明されていますが(注4)、本措置は高市政権に対する政治的な圧力であるともみられています。
(注4)https://www.mofcom.gov.cn/xwfb/xwfyrth/art/2026/art_ecab07b2d57149ecbd800fe40362e8ed.html
(2) 輸出規制の法的枠組・効果
本措置は、本条例に基づく措置になります。同条例は、中国輸出管理法のデュアルユース品目等に関する下位法令として2024年12月1日に施行されたものであり、輸出管理法とともに、デュアルユース品目の輸出に関する最終需要者(エンドユーザー)規制として、管理コントロールリストと注視リストに基づく規制という二段階の規制の形式を採っています。
本条例の概要は以下のとおりです。
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ア. 管理コントロールリスト 輸入業者、最終需要者が以下の状況の一つにあり、国家の安全と利益を害する場合は、前項に基づいて執行されます(本条例第28条第2項)。 管理コントロールリストに加えられた場合、商務部門は、関連するデュアルユース品目の取引禁止(輸出禁止)、取引制限(輸出制限)、あるいは輸出の停止命令、その他必要な措置を採ることができます(本条例第29条第1項)。 輸出事業者は、規定に違反して、管理コントロールリストに記載された輸入業者、最終需要者と両用品目に関する取引を行うことができません。特殊な状況で関連する取引を行う確かな必要性がある場合は、輸出事業者は、国務院の主管部門に申請して、承認を得た後に、当該輸入業者、最終需要者と適切な取引を行うことができますが、要求に従って報告しなければなりません(本条例第29条第2項)。 |
本措置においては、管理コントロールリストに加えられた日本企業20社に対し、デュアルユース品目の輸出禁止、国外の個人・組織が中国原産品を移転・提供することの禁止、現在行っている関連活動の禁止措置が採られています(注1)。
なお、本措置においても、例外的に輸出の必要性がある場合には、輸出者は商務部に申請を提出する必要がある旨説明されており、例外的な輸出承認がなされ得る旨示唆されています(注1)。よって、日本企業の当面の実務対応としては、仮に輸入の必要があれば、当該例外規定に基づき輸出者と協力のうえで承認を求めていかざるを得ないことになります。
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イ. 注視リスト |
本措置においても、注視リストに加えられた日本企業20社に対し、包括許可申請及び登録・情報記入方式での輸出証明書の取得停止、注視リスト掲載企業のリスク評価報告書の提出と、デュアルユース品目を日本の軍事力向上に寄与する一切の用途に使用しない旨の書面による誓約提出が義務付けられておりますので、仮に輸入の必要があれば、当該義務に対応する必要があります(注2)。
なお、注視リストに加えられた企業は、本条例第26条に基づき、商務部門への審査協力義務を履行した場合には、注視リストからの削除を申請することができ、商務部門は申請後審査を経て、注視リストから削除する場合があるとはされています(本条例第26条第3項)。
中国商務部により管理コントロールリスト・注視リストに加えられた対象企業(計40社・団体)
中国商務部が発表したリストの構成は以下のとおりです。
(1) 管理コントロールリスト(20社)
主に防衛、宇宙、重工業関連のメーカー等が対象となっています。
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分類 |
対象企業 |
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三菱重工系列 |
三菱造船株式会社、三菱重工航空エンジン株式会社、三菱重工マリンマシナリ株式会社、三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社、三菱重工マリタイムシステムズ株式会社 |
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川崎重工系列 |
川崎重工航空宇宙システムカンパニー、川重岐阜エンジニアリング株式会社 |
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IHI系列 |
株式会社IHI原動機、株式会社IHIマスターメタル、株式会社IHIジェットサービス、株式会社IHIエアロスペース、株式会社IHIエアロマニュファクチャリング、株式会社IHIエアロスペース・エンジニアリング |
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その他防衛関連企業 |
富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ株式会社、日本電気航空宇宙システム株式会社、NECネットワーク・センサ株式会社、ジャパン マリンユナイテッド株式会社、JMUディフェンスシステムズ株式会社 |
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政府機関等 |
防衛大学校、宇宙航空研究開発機構(JAXA) |
(2) 注視リスト(20社)
(1)と同様に、主に防衛、宇宙、重工業関連のメーカー等が対象となっています。
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業種 |
対象企業 |
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自動車・輸送 |
株式会社SUBARU、日野自動車株式会社、輸送機工業株式会社 |
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エネルギー・素材 |
ENEOS株式会社、三菱マテリアル株式会社、日油株式会社 |
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電子部品・デバイス |
TDK株式会社、株式会社トーキン、日新電機株式会社、日東電工株式会社、株式会社サン・テクトロ |
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商社・IT・技術 |
伊藤忠アビエーション株式会社、三井物産エアロスペース株式会社、富士エアロスペーステクノロジー株式会社、株式会社レダグループホールディングス、ASPP株式会社、八洲電機株式会社 |
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その他 |
住友重機械工業株式会社、ナカライテスク株式会社、東京科学大学 |
日本企業への実務的な影響
本措置により、管理コントロールリストに掲載された企業については、商務部が指定したデュアルユース品目(注3)を輸入している実績があるのであれば、当該品目の中国からの輸入が停止するため、以下のようなサプライチェーン上の影響が生じることが予想されます。
- 原材料の遮断リスク:中国が世界シェアの多くを握るレアアース(希土類)、高性能な化学材料、電子部品等の供給が停止、あるいは遅延する可能性があります。
- サプライヤーの連鎖停止:管理コントロールリストに掲載された20社に部品を納品しているサプライヤーが輸入業者となる場合でも、当該サプライヤーは中国からのデュアルユース品目の輸入を停止される可能性があります。
- 事務コストの増大: 注視リストに掲載された企業20社は、中国側の輸出業者に膨大な書類提供(最終用途証明書等)を求められるため、調達に要する時間・事務負担が大幅に増加することが予想されます。
採るべき対応策
本措置については政治的な側面も強く今後の見通しが不透明ですが、リストアップされた企業のみならず、リストアップされていない企業においても、以下のような法律上・事務負担上などのリスク管理を適切に行う必要があります。
① サプライチェーンの「中国原産」特定(法務・調達調査)※リストアップされていない企業においても要対応:
輸入業者・最終需要者が広範に影響を受け得るため、中国原産のデュアルユース品目(技術を含む)(注3)の仕入れの有無をまず確認する必要があります。仮に仕入れを行っている実績があるのであれば、次に、管理コントロールリスト・注視リストに掲載された企業が、自社製品のサプライチェーン上に含まれているかを特定する必要があります。
なお、第三国を経由した再輸出も中国輸出管理法、本条例上は捕捉される可能性があるため注意が必要です。一例として、東南アジアの子会社を経由して、日本のリスト規制企業にデュアルユース品目を輸出する場合にも上記リスト規制が適用され得ます。
また、上記のサプライチェーン特定については、中国政府との無用なエスカレーションを避けるためにも、慎重に進めるべきであり、下記③で紹介するとおり、経済産業省等と十分な情報共有を行いつつ対処することが必要と考えられます。
② 「誓約書」の精査:
中国の輸出業者が商務部門へ申請を行う際、日本企業側から提供する「誓約書」の文言について、遵守可能な内容であるか等を精査する必要があります。また、過剰に広範な誓約を求められた場合などには、将来的に他国の規制と抵触するリスクもあるため、常に中国法のみならず、日本法(外為法等)や米国法(EAR等)にも抵触しないかを確認する必要があります。
また、更なる日本の防衛関連サプライチェーンへの締め上げも予想されることから、本措置において指定された企業は、誓約書提出等の場面で中国企業・中国政府当局とやり取りをする際に、自社のサプライチェーンに関する情報をむやみに取得されないよう注意する必要があります。
③ 経済産業省との情報共有:
本措置は政治的・外交的要素も強いため、企業内のみで判断せず、経済産業省や外務省の所管部署等と連携し、政府としての見解・方針を確認しつつ、支援策(調達先多角化の補助金等)を利用できないか検討することも有益です。
さいごに
本措置は、上記で紹介したとおり、デュアルユース品目についてリスト掲載された企業を対象とするもので、特定の範囲内で行われているものです。
過度にパニックに陥る必要はありませんが、上記5.①の対応は、リストアップされた企業のみならず、リストアップされていない企業においても必要となります。
本措置は、従前から懸念されていた「中国からの調達を前提としたサプライチェーンリスク」が顕在化した一事例とみることができ、企業にとって、ますます上記リスクへの対処が急務であることを裏付ける事例といえます。
企業の法務部・調達部等の関連部門においては、中国商務部の発表資料を確認のうえ、上記で紹介した自社製品のサプライチェーン上における特定作業を急ぐ必要があるほか、経営層・経営戦略部門等の関連部門においては、上記サプライチェーン上のリスクを低減化するため、代替調達先の確保等の対応策を検討して実行に移すことが急がれます。
特に、本措置は日本企業が一斉に規制された初の事例であり、米国をはじめ各国政府・企業としても不安が生じ、日本企業との取引に際し不必要なチェック等を要求してくることも想定されるため、日本企業においては十分に説明できるよう準備をしておくことが必要です。
なお、弊所防衛・経済安全保障プラクティスグループでは、このような経済安全保障対策について、日々継続的なサポートをしておりますので、ご不明な点等ございましたら、いつでもお声がけください。
TMI総合法律事務所
防衛・経済安全保障プラクティスグループ
弁護士/白石和泰・新村凌大
顧問/伊藤隆
| ご注意: 本ブログは、最近の日本の防衛に関する情報提供の目的で掲載しているものであり、本ブログのいかなる内容も担当者やTMI総合法律事務所の意見を示すものではありません。 |

