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【速報】【米国】【特許】USPTO特許適格性SMEDメモ改定(2026年4月) ― 技術的改良の「立証」と国際出願実務への含意 ―
2026.05.14
背景
2026年4月30日、米国特許商標庁(USPTO)は、特許法35 U.S.C. §101に基づく特許適格性判断に関連し、Rule 132に基づく宣誓書(Subject Matter Eligibility Declaration:SMED)の提出に関するベストプラクティスを改定するメモを公表した。
本メモは、新たな特許適格性基準を導入するものではなく、Alice 判決以降、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判例法理として形成されてきた「技術的改良(technical improvement)」概念を、審査実務における証拠評価の枠組みとして具体化することを目的とするものである。
従来、USPTOにおける§101審査では、「抽象的アイデア」該当性の判断が先行し、発明が有する技術的効果やシステムレベルでの改良が十分に評価されないとの批判があった。特にソフトウェア関連発明や医療診断関連発明においては、§101と§102・§103、さらには§112の要件が混同される傾向が顕著であった。これに対し、CAFCはEnfishに代表される一連の判例を通じて、発明がコンピュータまたは技術システム自体の機能を改良しているか否かを特許適格性判断の中心に据えてきた。しかし、審査段階では、これらの技術的改良が「主張」にとどまり、十分な事実認定の対象とならないケースも少なくなかった。
2025年12月に公表された最初のSMEDメモは、この乖離を是正するため、従来は主として非自明性判断に用いられてきたRule 132宣誓書を、§101における技術的改良の立証にも活用する道を示した。2026年の改定メモは、その実務運用を整理・明確化するものである。
改定メモの内容
改定メモは、SMEDを101条の下で発明が抽象的アイデアを超えて「技術的改良」を実現していることを示すための、客観的・技術的事実の宣誓書として明確に定義づけている。そのため、SMEDには、特許適格性の有無についての法的結論や評価的表現を含めることは不適切であり、クレームと直接結び付く技術的効果のみを事実として記載すべきであるとされる。また、改定メモは、SMEDを§103における二次的考慮と明確に区別しており、商業的成功、市場占有率、業界評価、ユーザー満足度等は原則として技術的事実ではないため、SMEDの記載として不適切であることを明示している。
メモには、技術的改良の例として、(1)演算量・メモリ使用量の削減 (2)システム安定性・信頼性の向上 (3)ネットワーク遅延・処理速度の改善 (4)コンピュータ内部動作の新たな制御方法が列挙されている。したがって、SMEDにおいては、ビジネス上の効果や利用者側の便益ではなく、コンピュータシステム自体の機能的改良が中心的に記載される必要がある。
さらに改定メモは、審査官に対し、提出されたSMEDを単なる主張ではなく審査記録上の証拠として評価する義務を明示している。ただし、クレームに記載された構成・工程と、SMEDに記載された技術的効果との間に「nexus(対応関係)」が存在しない場合には、その証明力を否定することも許容されている。
比較法の観点からコメント
CAFC判例でソフトウェア関連発明の特許適格性で要求される技術的改良は、欧州特許条約(EPC)、欧州統一特許裁判所(UPC)の判例法における進歩性で要求される技術的効果と共通する。米国では特許性の基本概念である適格性、欧州では進歩性という異なる特許要件で審査されるが、いずれも技術的分野に属しない対象を特許保護の範囲から排除するという共通の機能を果たしている。EPC第52条は2000年改正により、TRIPS第27条(※29条ではなく27条)に基づく「技術分野の発明」に対する特許保護義務との整合性を明確にする形で修正が行われた。これを受けて、EPOは、発明性(Art.52 EPC)の段階で技術的性格を有しない対象を排除するにとどまらず、技術的構成要素との相互作用によって技術的効果に寄与しない非技術的構成要素を、課題解決アプローチに基づく進歩性判断(Art.56 EPC)から除外するCOMVIK(※CAMVIKではなくCOMVIK)分析フレームワークの判例法を確立している。このフレームワークで重視されるのは、コンピュータの内部動作や外部技術システムへの効果であり、CAFC判例における特許適格性判断と同様に、技術的改良の有無である。
UPC控訴裁判所は、EPOの課題解決アプローチを必ずしも形式的に踏襲してはいないものの、ソフトウェア関連発明が技術的性格を有するか否かを判断するにあたり、技術的改良によって技術的効果が認められるか否かを重視しており、その結果が進歩性判断を事実上左右している。
USPTOでは、SMEDにより提出可能な技術的改良に関する事実であっても、EPOでは、当業者の観点から明細書の開示に基づき、そのような技術的効果が直接かつ一義的に導き出される場合でない限り、手続上提出・主張することが認められない可能性がある。
出願・権利行使実務への示唆
いきなりステーキに代表されるように、日本の知財高裁は日本特許法の発明の定義にある技術的思想を広く解し、アメリカや欧州では非技術的とされるユーザーの満足度やビジネス効果を改善するシステムや方法についても、一定の場合には特許の対象となる発明に含まれるとする傾向がある。その結果、日本出願では、明細書中において技術的効果や発明の技術的性格を強調する表現が必ずしも要求されず、そのような記載を意図的に含めない形で出願される可能性がある。
今回のメモによって、アメリカ出願については、出願後に、審査の段階で技術的効果を主張するSMEDを提出し、特許適格性欠如(§101)を理由とする拒絶を回避し得ることが明確となった。但し、SMEDの提出には庁費用および弁護士費用が発生することに加え、国際出願実務との関係で慎重な対応が求められる。 海外での権利取得を視野に入れる場合には、日本出願の段階から、ソフトウェアがハードウェア資源にどのように作用し、どのような技術的効果を生み出すかについて、実施例と関連付けて、明確に記載しておくことが望ましい。
もっとも、米国実務においてSMEDを用いて技術的改良を説明できるからといって、その説明を明細書の実施例に後付け的に反映させることは、欧州特許庁(EPO)における優先権認定や追加事項(Art.123(2) EPC)との関係で重大なリスクを伴う。特にソフトウェア発明においては、技術的効果は出願時明細書において、技術的構成との因果関係をもって開示されている必要があり、後日の補足説明による救済は原則として認められない。また、EPOでは出願後の実施例や技術情報の追加が極めて厳格に制限されており、特許付与後に審査段階で許容された情報が、出願時の開示範囲を超えると評価された場合、いわゆる「Inescapable Trap」に陥り、無効を回避する救済手段が存在しない。EPOの実務を考慮すると、欧州出願が予想される場合には、技術的改良およびそれによって生じる技術的効果を、出願時明細書に明示しておくことが極めて重要である。
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