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【事業承継ブログ】裁判上の和解に基づく価額での非上場株式の譲渡が、所得税法59条1項に規定する低額譲渡に該当すると認定された事例(福岡国税不服審判所裁決令和7年9月10日(福裁(所)令7第4号))
2026.07.29
事案の概要
本件では、A社(非上場会社)の経営権を巡って請求人の弟と訴訟(以下「本件訴訟」といいます。)を行っていた審査請求人(以下「請求人」といいます。)が、本件訴訟における訴訟上の和解(以下「本件和解」といいます。)に基づき、A社株式を本件和解で成立した価額(以下「本件譲渡価額」といいます。)で請求人の弟が経営するB社(非上場会社)に譲渡し(以下「本件譲渡」といいます。)、本件譲渡価額を前提に所得税等の確定申告をしました。
これに対して、原処分庁は、所得税基本通達59-6(※)を適用した上で、本件譲渡価額は時価の2分の1未満であるから、所得税法59条1項2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当するとして所得税等の更正処分をしたのに対し、請求人が当該処分の取消しを求めた事案です。
※所得税基本通達59-6
所得税法第59条第1項の規定の適用に当たって、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の定めをそのまま用いず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じて評価通達を読み替え、非上場株式を評価する通達。最判令和2年3月24日集民263号63頁を踏まえて、令和2年8月28日付けで改正された。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/12/02.htm
【本件の概要(イメージ)】

主張の要旨
請求人は、①取引相場のない株式を所得税基本通達59-6に基づき評価できるのは、当該通達に基づく評価方法が、譲渡人である株主の当該会社への支配力に応じた評価方法として妥当性を有する場合のみであり、本件譲渡において、請求人とA社の支配株主である請求人の弟とは厳しく対立していたから、当該通達に基づきA社株式を評価することは妥当ではないことや、②本件譲渡価額は、具体的な交渉を経た上で種々の経済性を考慮して決定されたものであり、所得税法59条1項に規定する「その時における価額」であるから、本件譲渡は、同項2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当しないこと等を主張しました。
これに対し、原処分庁は、本件譲渡については、所得税基本通達59-6に基づき評価することができない特別の事情があると判断することはできず、本件譲渡価額が、A社株式を当該通達等に基づき評価した額の2分の1未満であるため、「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当すること等を主張しました。
審判所の判断の要旨
国税不服審判所は、A社株式の評価について、請求人と請求人の弟が厳しく対立していたこと等をもって、評価通達の定めに従った評価方法によりA社株式の時価を適正に算定することのできない特別の事情と認めることはできないから、A社株式の譲渡価額は、所得税基本通達59-6により算定することとなり、本件譲渡は、所得税法第59条第1項第2号に規定する「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」に該当すると判断しました。
また、所得税法第59条第1項に規定する「その時における価額」とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解されるとしたうえで、本件譲渡価額は、訴訟上の和解という通常の取引とは異なる個別の事情の下、同族関係者間で成立した価額であって、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額とはいえないとし、請求人の主張を排斥しました。
本件のポイント
本件のように、訴訟上の和解で決定された譲渡価額であっても、所得税法59条の「その時における価額」として直ちに認められるわけではなく、非上場株式については評価通達等による時価評価が優先される可能性がある点には留意する必要があります。
一般論として、例えば、いわゆる馴れ合い訴訟のように、形式的に訴訟を起こしたうえで、あらかじめ当事者間で合意していた価額で和解し、株式を譲渡したのであれば、低額譲渡を指摘されることはやむを得ないと考えられます。
他方で、本件譲渡価額については、当事者間で令和3年2月から8月にかけて合計5回の譲渡希望価額の提案・交渉がなされており、かつ、最終的に担当裁判官の勧告を受けた上で決定されていることから、当事者間において恣意的に決定されたものではないと考えられます。本件譲渡は、同族関係者間の取引ではあるものの、納税者が、度重なる交渉を経て合意された本件譲渡価額が時価であると考えるのは、実務的には自然なことだと思われます。
また、非上場会社の株式については、そもそも不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合が想定され難く、仮に、そのような取引が想定されたとしてもその価額は一定の幅(レンジ)があることが通常であり、本件訴訟の和解の過程で提案された譲渡価額の根拠や本件譲渡価額がその幅(レンジ)の範囲内かが検討されずに、「訴訟上の和解」であるという理由だけで「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額とはいえない」と判断した点には疑問が残ります。
なお、国税不服審判所は本件の裁決をHPで公表しており、今後、国税当局が本件と同種の指摘を行うことが増加することも考えられます。
(国税不服審判所HP:福岡国税不服審判所裁決令和7年9月10日(福裁(所)令7第4号)
https://www.kfs.go.jp/service/JP/140/04/index.html

