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タイ法務のプラクティス(第1回)
2026.08.19
はじめに
TMIのタイ・バンコクオフィスが開設されて7年半が経過しようとしております。長年にわたり多くのクライアントの皆様から様々なご依頼を頂き、当オフィスでもタイ法務におけるプラクティスの知見が充実してまいりました。そこで、これまでのご依頼事項の傾向を分析した上で、タイにおいて法務を取り扱われている方、これからタイへの進出をお考えの方などに向けて、そのような知見をご共有できればと、このたび本連載を始めることといたしました。
なお、各記事の執筆時点での最新の法令に基づいた内容となっておりますが、ブログという性質上、詳細な点を省略している場合がございます。本連載に関する事項も含め、お困りのことやご相談がおありの場合はbangkok@tmi.gr.jpにご連絡ください。
タイという国
まず、タイ法務のプラクティスの前に、タイの基本情報を簡単にご説明いたします。
ASEANの重要な一角として位置付けられるタイ王国(首都:バンコク)は、歴史的に他国の植民地となることなく、独自の文化を形成してきました。王国らしく、国民は王族に対する敬意が高く、文化・経済を含めて様々な分野において着実な成長を続けております。文化の面では、流行に敏感な人が多く、音楽・アイドル・ファッションにおいてはアジア諸国や欧米諸国の流行をいち早く取り入れ、トレンドに対する感度が非常に高いという特徴があります。
また、首都バンコクは、日本国外では世界有数の日本人居住者の多い都市(2023年時点)となっております。さらに、主要な国際調査において、観光客数も世界トップクラスを記録しており(2025年)、日本のみならず世界中から愛される都市となっております。こうした都市としての魅力、国民の人柄は誰もが知るところです。
他方、タイ全土で見れば、やはり他ASEAN諸国と同様に格差の大きい国であり、首都バンコクの外に出ると、インフラや教育機会の格差が残る地域も存在します。経済の面は、ASEANの中では比較的早い段階から成長を遂げてきた関係で、近年は鈍化傾向にあるともいわれております。
しかし、政策の思い切りの良さや世界経済への順応という点においては、決して他の国に遅れをとっているような印象はありません。産業によってはタイ国外へのシフトを考える会社もあるものの、タイはまだまだ可能性を秘めた国であると考えます。
タイの司法制度と法令
それでは法務実務という面ではどうでしょうか。
まず、審級構造という点では、日本と同様に三審制を採用しており、その手続きについても大枠で見れば日本と同様となります(詳細は本連載のどこかでご紹介いたします。)。一方、法曹制度という点からいえば、タイでは法学部を卒業し、Lawyers Council of Thailandと呼ばれる協会(日本でいう弁護士会)に入会するための試験に合格すれば、「弁護士」を名乗って活動することができます。ただし、裁判官又は検察官になるためには、もう一段階上のBar Examに合格する必要があり、これが日本の司法試験に匹敵するものと言われております。そのため、タイの弁護士資格は、日本の司法試験のような画一的な選抜試験を経て取得するものではなく、弁護士の基本的な素養にばらつきがあるという特徴があります。また、タイでは外国法事務弁護士登録制度は存在していないため、タイで勤務する日本人弁護士の果たす役割は日本におけるそれとは異なります。したがって、タイに進出する海外の法律事務所として一番重要な点は、如何にしてタイ人弁護士と密にコミュニケーションをとり、クライアントの皆様に本国同様のサービスを提供していくかということにあるのです。
さて、法令という点でいえば、当オフィスによくご依頼いただく民事・商事に関する事項は、主にCivil and Commercial Code(いわゆるCCC又は民商法)に基づいて規律されております。この民商法は、日本の民法を含む複数国の法制をモデルに制定されたものであり、直近では大きな改正も行われております。
条文の規定が抽象的で解釈の余地が大きい法令であり、弁護士の立場でも、条文を読むだけでは必ずしも答えに辿り着かないという場合も多く、所管する商務省が定める政令や公表される通知を細かく読み解かなければ、具体的かつ確実なアドバイスをすることは難しいです。条文の解釈が曖昧な場合には、時に当局の担当官に照会を行うことも必要となりますが、以下のような障壁に出会うこともあります。
① 担当官に質問の意図が伝わらず、不明瞭な回答しか得られないこと
② 担当官によって回答が異なること
③ 担当官個人が責任を持たないよう、回答を回避すること(匿名照会は受け付けないという体裁を採る場合も)
以上のとおり、法務という視点からは、不確実性が見受けられる点も多くあります。私たちは、そうした不確実性も含めたリスクを、クライアントの皆様のために適切に可視化することにこそ、タイでサービスを提供する日本の法律事務所としての存在意義があるのではないかと考えております。
次回に向けて
今回は、タイ法務のプラクティスを概説いたしました。次回は、タイにおける外資規制に焦点を当てて、制度概要や留意点を解説していこうと思います。
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