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【商標】欧州における商標の判例及び審決の最新動向
2026.09.15
欧州における最新の商標の審判決の中から、識別力、商標の類否を巡る事例をご紹介します。
1. OpenAI, Inc. vs European Union Intellectual Property Office (EUIPO)
OPENAIの識別力が否定された事例
In Case T‑555/25、判決日2026年7月15日
米国企業OpenAI, Inc.は、2023年6月15日に商標「OPENAI」を第9類、第38類、第42類および第45類の商品および役務(コンピュータソフトウェア、ダウンロード可能なアプリケーション、ソフトウェア開発、クラウドコンピューティング、データセキュリティならびに本人確認サービス等)に対して出願しました。
(No. 018888426)
出典:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/018888426
2024年、欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、本件出願について、「OPENAI」は、EU商標規則第7条(1)(c)[1]に基づき上記商品役務との関係において記述的であるとともに、同規則第7条(1)(b)[2]に基づき識別力を欠くと判断しました。審判部はこの判断を支持しましたが、その理由を以下のように示しました。
・「OPENAI」は「OPEN」と「AI」の組み合わせであると消費者に認識され得る。
・商品役務に関連する技術分野において、「OPEN」は、自由に利用可能であること、アクセス可能であること、または制限されていないことを示す表現として認識され得る。
・「AI」は人工知能を表す一般的に使用される略語である。
・「OPENAI」は「アクセス可能または制限のない人工知能」、「オープンソースの原則に基づく人工知能」、「透明性があり説明可能な人工知能」を意味する。
・上記意味合いは、問題となる商品および役務の性質、機能、目的を示しており、消費者は、「OPENAI」を商品役務の出所表示として認識しない。
OpenAI, Inc.は、審決を不服として一般裁判所(General Court)に訴えを提起し、以下の点を主張しました。
・「OPEN」には複数の意味があり、「open source」を認識させる略語ではない。
・「OPENAI」は2つの記述的要素の組合せではなく、明確な意味を持たない造語である。
・問題とされた商品役務は、同種の商品役務ではないにもかかわらず、同じ理由で拒絶されている。
・「OPENAI」は30を超える地域で登録されており、消費者に商標として認識されている。
一般裁判所は、「OPENAI」から「OPEN」及び「AI」が直ちに認識されると結論付け、「OPEN」と「AI」の組み合わせは、形容詞が名詞に先行するという標準的な英語の文法規則に従っていると判断しました。また、「OPEN」と「AI」の間にスペースがないことによって、標章が創作的なものとなるわけではないと判断しました。更に、標章が関連する商品または役務の特徴を示す少なくとも1つの意味を有する場合、登録は拒絶されるものであり、「open」が他の意味を有することは関係がないと判断しました。問題となった商品及び役務には、アクセス可能な人工知能を通じて作動するものが含まれ、商品及び役務が他の目的も有するという事実があるとしても、結論は変わらないと判断されました。
加えて、一般裁判所は、OpenAI, Inc.が「OPENAI」が消費者に商標として認識されていると主張した点について、EU商標規則第7条(1)(c)は、標章が本来的に記述的であるか否かを客観的に判断する規定であり、消費者がその標章を特定の出所と結び付けるに至った事情(使用による識別力の獲得)は、同条の判断とは別の問題である(EU商標規則第7条(3)参照)と判示し、他の地域での登録については、EUIPOは他の法域で採用された判断に拘束されないと言及しました。
この判決によって登録手続が必ずしも終了するわけではなく、審判部の決定が確定した後に、EUIPOは手続を再開し、当該標章が使用により識別力を獲得したとのOpenAIの予備的主張についての審査が行われます。
[1] EU商標規則第7条(1)(c)は、商品又は役務の種類、品質、用途、原産地その他の特性を示すにすぎない標識からなる商標(記述的商標)が絶対的拒絶理由に該当することを規定しています。
[2] EU商標規則第7条(1)(b)は「識別力を欠く商標」が絶対的拒絶理由に該当することを規定しています。
2. Rosalía Vila Tobella vs EUIPO
出願番号019198973「LUX」の識別力が否定された事例
スペイン人歌手のロサリア・ビラ・トベラは、2025年6月6日に商標「LUX」(第019198973号)を、第9類(音楽および視聴覚記録物、電子機器、出版物)、第25類(被服、履物)、第41類(ライブパフォーマンスその他の娯楽サービス)に対して出願しました。「LUX」は、2025年11月にリリースされたロサリアの4枚目のアルバムのタイトルとして使用されました。
(No. 019198973)
出典:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/019198973
EUIPOは、全ての商品及び役務について、「LUX」は識別力を欠くと判断し、2025年7月に出願を拒絶しました。ロサリアは意見書で反論を提出し、EUIPOは2026年2月に2回目の拒絶通知を発行し、その後2026年7月8日に、EU商標規則第7条(1)(b)、7条(1)(c)及び7条(2)[3]に基づき、出願を拒絶しました。
「LUX」が識別力を欠くと判断された理由は、EU加盟国であるルーマニアにおいて「LUX」が、贅沢、洗練等の優れた品質を示す表現として使用されていることにありました。EUIPOは、辞書の定義およびルーマニア市場におけるこの語の使用例に依拠し、「LUX」は、商品又は役務の出所を示すものではなく、標章を使用する商品又は役務が贅沢で、特別なものであり、高品質であることを示唆すると判示しました。また、EU加盟国のうち1か国のみで拒絶理由が存在する場合であっても、EU商標の登録を妨げるには十分であると判断しました。
ロサリアは、「Luxury」ではなく「LUX」に対する登録を求めるものであり、拒絶には根拠がないこと、「lux」は照度の単位であり、ラテン語で「光」を意味すること、「LUX」から構成されるEU及びルーマニアでの先行登録例が存在することを主張しました。また、ロサリアが出願した「LUX」は英国で登録が認められたことも主張しましたが、これら主張はいずれも受け入れられませんでした。
ロサリアは、2026年9月8日まで、上記判断に対して不服申し立てを行うことができますが、現時点では不服申し立てが行われたか否かは確認ができていません。
[3] EU商標規則第7条(2)は、絶対的拒絶理由が、EU加盟国の一部領域で認められる場合であっても、商標登録を拒絶できることを規定しています。
3. Desimo, Lda., vs Topas GmbH
In Case T 677/25、判決日 2026年7月15日
ポルトガル企業Desimo, Ldaは、2019年2月21日に商標「go VEGE(ロゴ)」を、第29,30,31,32,33,35類(ベジタリアン向け製品、肉代替品、乳製品、乳製品代替品、調理済み食料品、食品小売サービス等)に対して出願しました。
(No. 018025663)
出典:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/018025663
上記出願に対して、ドイツ企業Topas GmbHは、商標「végé'」(第29類及び第30類の肉代替品、乳製品を使用しないチーズ代替品、植物由来の調理済み食品等を指定)を根拠に、先行商標と後発出願との間の混同のおそれに関するEU商標規則Article 8(1)(b)を理由として異議申立を行いました。
(No. 016253015)
出典:https://euipo.europa.eu/eSearch/#details/trademarks/016253015
EUIPOの異議部は異議申立てを一部認め、審判部は、混同のおそれがあることを認めました。審判部は、出願商標について、「vege」の識別力が弱いことを認めながらも、大きく構成され、中央に位置するという理由から、「vege」は出願商標の要部であると判断しました。また、「go」は小さく表示され、販売促進上の呼びかけと理解され得るものであり、図形要素である緑色の円、枝、葉は、環境配慮型の商品と関連付けられる装飾的な要素であると判断されました。審判部は、両標章について、外観上及び称呼上における類似性は平均を上回り、英語を話す需要者との関係において、観念における類似性は平均的であると判断しました。また、商品及び役務に関連する需要者の注意力の程度は、低いか平均的であるとし、標章間の相違は、混同を回避するには不十分であると結論付けました。
Desimo, Ldaは上記結論を不服として、一般裁判所に訴訟を提起し、審判部が「vege」に焦点を当て、「go」又は図形要素を十分に考慮していないと主張しました。しかしながら、一般裁判所は、以下の理由により、訴えを棄却しました。
・「vege」は識別力が弱いものの、その大きさと中央に位置することから、消費者が最も注目し記憶する可能性が高い
・「go」は「vege」より小さく表示され、英語を話す需要者に、ベジタリアンのライフスタイルを取り入れるよう促す呼びかけと解釈され得る
・緑色の円、枝、葉の図形は、環境配慮型または環境に優しい製品と結び付けられる装飾的要素である
・両標章はいずれも商品がベジタリアン向けであることを想起させる
4. おわりに
本ブログでは、欧州の最新判決、審決の中から、日本で同じ事案が争われた場合には、異なる判断が示されたであろう事例をご紹介しました。事実、日本では「OPENAI」について第9,38,42,45類で商標登録が認められています。事業のグローバル化が益々進む中で、欧州は重要なマーケットであり、必然的に欧州は商標出願の対象国にもなります。欧州での商標の権利化を目指すうえで、日本の商標実務とは異なる判断が示され得ること、欧州加盟国の実情が判断を左右し得ることを念頭に置くことは重要であり、本ブログがその一助になれば幸いです。
なお、取り上げた事例は、まだ最終的な決着に至っていないため、今後どのような経緯を辿るかが待たれるところです。
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