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生成AIと著作権の現在地――「考え方」が示すものと実務に残る課題
2026.10.08
はじめに
生成AIと著作権の関係については、「法解釈がはっきりしない」「法律が技術の進歩に追いついていない」といった声を耳にすることがあります。しかし、2026年の現在、日本においては、生成AIと著作権に関する多くの論点について、既に判断の枠組みが示されている状況にあります。
その中心となるのが、2024年3月に文化審議会著作権分科会法制度小委員会が取りまとめた「AIと著作権に関する考え方について」(以下「考え方」といいます。)(注1)です。「考え方」自体は、有識者による審議会の報告書であって、法的な拘束力を持つものではありませんが、生成AIの開発・提供・利用に関する主要な法的論点を幅広く取り扱っており、現在の日本における生成AIと著作権に関する実務の基礎となっている文書です。
この「考え方」が取りまとめられてから、早くも2年半ほどが経過しましたが、「考え方」は生成AIと著作権に関する様々な論点を高密度で盛り込んだものとなっていることから、法務担当者であっても、その内容を必ずしも全ては把握し切れていない方も多いのではないかと思われます。
生成AIと著作権の実務では、まず「考え方」で何が示されているかを理解し、その上で、自社の課題が「考え方」の参照で解決できるものなのか、あるいは、更なる専門的な判断や検討を要するのかを把握することが必要です。本稿では、企業の法務担当者が生成AIと著作権の実務に向き合う上での道標となるよう、「考え方」が示す内容と残された課題の二点を整理して、日本における生成AIと著作権の現在地を概観します。
「考え方」で示された解釈・判断の枠組み
ここでは、まず「考え方」で示された解釈・判断の枠組みを紹介します。本稿では「考え方」の内容全てを網羅することはできませんが、後掲3で、「考え方」以後も残る課題について説明する前提として、簡単にご紹介します。
(1)AI開発・学習段階
AIの開発・学習を行う場合、学習データの収集等に伴って著作物の複製が生じます。この場合、重要となるのが、「情報解析の用に供する」ための著作物の利用等について、著作権者の許諾がなくとも著作物の利用を可能とする規定(権利制限規定)である著作権法30条の4です。同条は、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」(「非享受目的」の場合)に、必要と認められる限度で、許諾なく著作物を利用することができる(著作権侵害とならない)としています。
「考え方」は、AI学習のために行われるものを含め、情報解析に伴う著作物の複製は、この非享受目的の利用に当たり、同条が適用されると整理しています(19頁)。そのため、AIの開発・学習のために学習データとして著作物を収集する行為には、原則として著作権者の許諾は不要、ということになります。
ただし、「考え方」は同時に、同条が適用されないケースも示しています。それは、情報解析の目的とともに、学習元の著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力する目的があるなど、「享受目的が併存する」と評価される場合です。「考え方」では、既存の学習済みモデルへの追加学習(ファインチューニング等)のうち、学習データに含まれる著作物の再現(共通する創作的表現の出力)を目的としたものを行うために学習データの収集等を行う場合などは、享受目的が併存すると評価され得るとしています(19~21頁)。
また、専ら非享受目的での利用の場合でも、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、著作権法30条の4のただし書により、同条は適用されません。「考え方」では、このただし書の該当例として以前から示されていた、販売されている情報解析用途のデータベースの著作物を、情報解析目的で複製等するという例(注2)が、API等を通じてオンラインで提供されるデータベースの著作物にも当てはまることが示されています(24頁)。また、現に販売が開始されていなくても、複製等を防止する技術的措置が講じられていることや、過去の販売実績等から将来の販売予定が推認される場合は、その措置を回避して当該データベースの著作物を複製すれば、ただし書に該当し得るとされています(25~27頁)。
このように「考え方」は、AIの開発・学習のための学習データ収集は多くの場合著作権侵害とならないことを明確化しつつ、例外的に著作権侵害が生じうる場合を挙げ、両者を区別するための判断枠組みを示しています。
(2)生成・利用段階
「考え方」では、AI生成物の生成や、生成物を複製や公衆送信等により利用するといった行為が、既存の著作物の著作権を侵害するか否かについても、考え方が示されています。
すなわち、AI生成物の場合であっても、人がAIを使わずに制作する場合と同様に、「類似性」(著作権侵害が問題となる制作物から、既存の著作物の創作的表現を直接感得できること)と「依拠性」(問題となる制作物が既存の著作物に基づいて制作されたこと)の2つの要件に基づいて、著作権侵害の成否が判断される、ということです(32頁)。
依拠性に関しては、生成AIの場合、利用者が既存の著作物を認識していなくても、その著作物と同一又は類似した生成物が出力される場合がある、ということを踏まえて、「考え方」は、そのような場合であっても、当該既存の著作物がAIの学習に用いられていた場合には、通常、依拠性が推認されるという整理を示しています(32~35頁)。
また、AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合、生成AIを直接に操作したAI利用者のみならず、生成AIのサービス提供事業者が、著作権侵害行為の行為主体として責任を負う場合があることも示唆されています(いわゆる「規範的行為主体論」)(36~37頁)。
(3)AI生成物の著作物性
AI生成物が著作物となるのか、また、AI利用者が著作権を得られるのか、という点にも「考え方」は触れています。
「考え方」では、AI生成物についても、著作権法の「著作物」の定義に該当するか否かによって判断される、との整理を示した上で、著作物に当たるか否かは、AI利用者が、単なる労力にとどまらず、「創作的寄与」があるといえる要素をどの程度積み重ねているかによる、としています。具体的には、プロンプト等による生成AIへの指示・入力の内容や、生成物を確認し、指示・入力を修正しながら試行を繰り返すことなどの要素が影響すると整理されています(39~40頁)。
「考え方」のその先:実務の現場で考えるべきこと
「考え方」は、上記のように生成AIと著作権とが関わり合う場面の多くを網羅しており、幅広い論点について解釈を示しています。しかし、「考え方」を参照すれば、全ての論点に直ちに答えが出るというものではありません。実務の現場では、「考え方」をベースにしつつ、個別事情に即した検討を要する場面があります。以下では、その代表的な課題を紹介します。それぞれの論点をどのように考えるかは、今後のシリーズ記事で順次取り上げることを予定しています。
(1)開発・学習段階
出力のコントロール
- 外部の資料を検索・参照して回答を生成するRAG(検索拡張生成)では、実装や回答の生成方法によって、参照元となる著作物の創作的表現を含む出力がされる場合があります。この場合、共通した創作的表現の出力を防止するなど、生成AIの出力をどのようにコントロールすれば「享受目的の併存なし」と評価されるのでしょうか。
- RAGを実装する場合、著作権法30条の4ではなく47条の5を根拠とすることも考えられます。同条1項では、回答の出力に当たって「軽微利用」や「付随」等の要件が求められますが、これらの要件を満たすには、どのような出力の仕組み・制御が必要なのでしょうか。
著作権法30条の4ただし書との関係
- 著作権法30条の4ただし書で同条の適用対象外とされる「情報解析用途で販売されているデータベースの著作物」の具体例はどんなものなのでしょうか。クローリング等の手法でインターネット上のデータを収集する場合に留意すべき点はあるでしょうか。
海賊版からの学習データ収集
- 「考え方」の記載からは、海賊版をソースとして学習データを収集したとしても、それだけで直ちに著作権法30条の4の適用は排除されないと考えられます(27~29頁参照)。その一方で、EUではTDM(テキスト・データマイニング)のためのデータ収集に関する権利制限規定(DSM著作権指令3条、4条)の要件として「適法なアクセス」(注3)が求められ、また、米国では、AI学習のための複製そのものについてではないものの、AI開発企業が海賊版を取得・保持して汎用的なライブラリーを構築する行為について、フェアユースを認めなかった裁判例も現れています(注4)。日本において、実務上、海賊版からの学習データ収集はどのように考えるべきなのでしょうか。
(2)生成・利用段階
類似性チェックの実務
- 生成物の利用に伴う著作権侵害を避けるためには、事前に既存の著作物との類似性をチェックしておくことが重要です。では、類似性のチェックは具体的にどのような手法・手順で行えばいいのでしょうか。
依拠性立証と証拠収集
- 依拠性の有無は、生成物と既存の著作物との類似性の程度や、利用者の入力・指示等を踏まえて判断されます。特に、依拠性を肯定・否定する事情として、原告の著作物が生成AIの学習データに含まれていたか否かも重要となります。その事実を示す証拠は、どのような手段で収集できるのでしょうか。
侵害防止のための措置と規範的行為主体性
- 生成物の生成や利用について著作権侵害がある場合、権利者は侵害物の生成防止のための措置として、どのようなものを求めることができるのでしょうか。また、AIの開発事業者やサービス提供事業者としては、どのような措置を講じれば、規範的行為主体として著作権侵害の責任を負うことを避けられるのでしょうか。
(3)AI生成物の著作物性・保護
著作物性の立証方法
- AI生成物そのものや、これを素材として使用したコンテンツについて、著作権を確保するためにはどのようなプロセスで制作を行えばよいのでしょうか。また、著作物性を立証するための記録としてはどのようなものを残しておくのがよいでしょうか。
おわりに
ここまで見てきたように、生成AIと著作権の関係については、「考え方」が示す法解釈を理解の基盤としつつ、実務で向き合う種々の個別課題について考えを深めていくことが重要です。
特に、自社における生成AIの利用目的、利用するデータの種類・性質、システム構造等の技術的内容、出力の内容・傾向、契約条件等を整理することを出発点として、法律や技術の専門家による支援も受けつつ、適切な利用方法、著作権者等からの許諾の取得、侵害を防止するための技術的措置、証拠・記録の保存等の措置を検討していくことが必要と考えられます。
- 注1:文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)。以下、本文中の頁数は、同文書内の頁番号によります。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf - 注2:文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第30条の4,第47条の4及び第47条の5関係)」(令和元年10月24日)問9参照。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_17.pdf - 注3:DSM著作権指令3条では“lawful access”、4条では“lawfully accessible”であることが要件として求められています。
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2019/790/oj/eng - 注4:Bartz v. Anthropic PBC, No. 3:24-cv-05417-WHA(カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所)2025年6月23日付け“Order on Fair Use”参照
https://cases.justia.com/federal/district-courts/california/candce/3%3A2024cv05417/434709/231/0.pdf
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