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【ゲーム×特許訴訟】ゲームプログラム特許の有効性・特許性に関する近時の知財高裁判決
2026.10.13
はじめに
ゲームのプログラムやソフトウェアに関する発明は、裁判例においてどのように評価されているのでしょうか。ゲームプログラム特許の出願や権利行使の場面において、発明の新規性・進歩性や明細書等の記載・補正に関する要件が問題になることは少なくありません。これらの論点について、具体的な事例において裁判所がどのように判断しているのかを把握することは、実務上非常に有益です。
今回は、知財高裁が第一審判決や特許庁の審決を覆した、近時の3つの判決をご紹介します。
第一審裁判所・特許庁の判断を覆した近時の知財高裁判決
(1) 進歩性が争点となった事例
■システム作動方法事件(知財高判令和元年9月11日・平成30年(ネ)第10006号)
⇒進歩性肯定・特許権侵害認定・損害賠償請求認容(合計約1億4000万円)
【事案の概要】
本件は、原告が2件の特許に基づき、被告による「戦国無双」「真・三國無双」シリーズ等のゲームソフトの製造販売行為が当該特許権を侵害するとして、損害賠償を請求した事案です。
原告の2件の特許のうち特許第3350773号(以下ではこちらの特許を取り上げます。)は、シリーズ化されたゲームソフトにおいて、第2作(後作)をプレイする際に、予め第1作(前作)をゲーム機本体に装填して「所定のキー」を読み込ませておけば、標準のゲーム内容に加えて拡張コンテンツ(ゲームキャラクタの増加、場面の拡張等)が解放されるという発明です。訂正後の請求項では、ゲームソフトの記憶媒体が「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものに限定されています。すなわち、CD-ROMのような読み出し専用の記憶媒体を前提としており、前作のプレイ実績(セーブデータ)の有無にかかわらず、前作の記憶媒体(CD-ROM等)を所持してさえいれば、後作の拡張コンテンツを楽しめるという仕組みです。
これに対し、被告は、ファミコンディスクシステム用ゲーム「ディープダンジョン」シリーズを公知発明として引用し、原告の特許発明はこれに基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、進歩性がないと主張しました。この公知発明では、前作でキャラクタのレベルを16以上にしてセーブし、そのセーブデータを後作に転送すると、後作でプレイが有利になります。
第一審(大阪地判平成29年12月14日・平成26年(ワ)第6163号)、控訴審ともに、原告の特許発明と公知発明の相違点は以下の2つであると認定しました。
| ① 記憶媒体が、原告の特許発明では「セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く」ものであるのに対し、公知発明では「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点(相違点1-1) ② その結果、拡張内容を解放する「所定のキー」が、原告の特許発明ではセーブデータを含まないのに対し、公知発明では前作のディスクに記憶されたセーブデータ(セーブされたキャラクタのレベルを示す情報)である点(相違点1-2) |
第一審は、これらの相違点に係る構成は当業者が容易に想到できたものであるとして、進歩性欠如を認め、特許は無効であると判断しました。しかし、控訴審では判断が覆り、進歩性が肯定されています。
【進歩性に関する第一審裁判所の判断】
第一審裁判所は、まず、ゲームソフトの大容量化に伴い、記憶媒体として、(セーブデータを記憶できない)CD-ROMを採用することは、原告特許の出願前から周知技術であり、相違点1-1はそれ自体として当業者が容易に想到し得たと認定しました。
その上で、相違点1-2に関連して、前作のゲームソフトを持っているユーザーが、そこに記録されたキー・データを使って続編の拡張ゲーム機能を楽しめるようにする技術は、セーブ機能のないROMカセットの時代から当業者の間で周知であったと認定しました。そのため、キー・データにセーブデータが含まれないとしても、新たに普及したCD-ROMにこの周知技術を適用する十分な動機付けがあったとしています。
さらに、そもそも原告の特許発明において、「所定のキー」にセーブデータを含めないものとすることは、特段の技術的意義を有しないものであり、「当業者が適宜選択可能な設計変更にすぎない」として、相違点1-1及び1-2に係る構成はいずれも当業者が容易に想到できたものであると判断しました。
【進歩性に関する知財高裁の判断】
これに対し、知財高裁は、まず公知発明の技術思想を以下のとおり認定しました。
「本件公知発明1は、前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上、後作のゲームにおいても、前作のゲームのキャラクタでプレイしたり、前作のゲームのプレイ実績により、後作のゲームのプレイを有利にしたりすることによって、前作のゲームをプレイしたユーザに対して、続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起し、これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。」
すなわち、公知発明は、前作のプレイ実績に応じて後作のプレイを有利にすることで、後作の購入を促す仕組みです。セーブデータの存在が前提であり、前作を実際にプレイしていなければ作用効果を奏しません。
その上で、知財高裁は、公知発明の記憶媒体をセーブデータ記録不可のもの(=原告の特許発明の構成)に変更すると、公知発明の根幹が失われるとして阻害要因を認定しました。
「本件公知発明1は、少なくとも、前作において、ゲームをプレイ途中でセーブするとともに、ゲームをある程度達成した、すなわち、前作のゲームにおいて、キャラクタのレベルが16以上となるまでプレイしたという実績があることが、後作においてプレイを有利にするための必須の条件であり、『キャラクタ』、『プレイ実績』を示す情報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であって、『キャラクタ』、『プレイ実績』の情報をセーブできない記憶媒体を採用すると、…本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかである。」
さらに、以下のとおり、原告の特許発明における公知発明との相違点には技術的意義があることを明確に認定しています。
「本件発明A1において、『第1の記憶媒体』及び『第2の記憶媒体』を『セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く』ものとすることは、前作のプレイ実績にかかわらず、後作において拡張ゲームプログラム及び/又はデータによってゲームを楽しむことができるという作用効果を奏するものであって、技術的意義を有するものであることからすると、相違点1-1及び1-2は、実質的な相違点であるといえるし、当業者が適宜なし得る設計事項であるとは認められない。」
結論として、知財高裁は以下のとおり進歩性を肯定しました。
「本件公知発明1において、相違点1-1及び1-2に係る本件発明A1の構成とすることには、動機付けがなく、むしろ阻害要因があるため、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。」
■対戦ゲーム制御プログラム事件(知財高判令和2年6月4日・令和元年(行ケ)第10085号)
⇒審決の進歩性欠如の判断の誤りを認定・審決取消し
【事案の概要】
本件は、原告が出願したデッキ対戦型ゲームの特許出願(特願2018-146350号)について、特許庁が特許を認めない判断(拒絶査定)をし、原告の再審理の求め(拒絶査定不服審判請求)も退けたため(不成立審決)、原告が当該審決の取消しを求めて裁判所に訴えた事案です。
本願に係る発明(以下「本願発明」といいます。)は、対戦ゲームのプログラムです。プレイヤーは、第1フィールドに並んだ複数のキャラクタカードから、時間の経過とともに増えるポイントの範囲内でカードを選び、第2フィールドに配置します。配置されたカードのキャラクタは、第2フィールドで敵キャラクタを攻撃します。また、第2フィールドにカードを配置すると、それに伴って、第3フィールドにあった追加のカードが第1フィールドに補充されます。
審決は、YouTubeに公開されていたオンライン対戦カードゲーム「CARTE」の紹介ムービーに基づいて引用発明を認定し、当該引用発明に基づいて本願発明の進歩性を否定しました。審決が認定した相違点は6点あり、そのうち知財高裁で中心的に問題となったのは次の相違点6です。
| <相違点6> 第3フィールドに配置されていた追加のキャラクタカードが、第1フィールドに補充されるように表示することに関して、本願発明においては「第2フィールドへのキャラクタカードの配置」に伴うものであるのに対して、引用発明においては「第11領域から、第7領域へのカードの配置」に伴うものである点。 |
本願発明の「第1フィールド」は、プレイヤーが選ぶキャラクタカードが並ぶフィールドで、いわば手札にあたります。「第2フィールド」は、選んだカードのキャラクタが敵キャラクタを攻撃するフィールドです。引用発明の「第11領域」は手札が表示される領域で、本願発明の第1フィールドに相当します。「第7領域」はシャードゾーンと呼ばれる領域です。
つまり、相違点6は、手札にカードが補充されるきっかけ(契機)の違いです。本願発明では、攻撃のためにキャラクタカードを第2フィールドに配置すると手札が補充されます。これに対して引用発明では、手札のカードを第7領域に配置すると手札が補充されます。
審決は、相違点6に係る構成は当業者が容易に想到できたものであるとして、本願発明の進歩性を否定しました。しかし、知財高裁は、この判断には誤りがあるとして審決を取り消しています。
【進歩性(相違点6)に関する特許庁(審決)の判断】
相違点6に係る構成が容易想到可能であるとする審決の論理構成は、次のとおりです。
- 「手持ちのカード」が他のフィールド又は領域への移動に伴いその数を減じたときに「手持ちのカード」を補充するという構成を採用するに当たって、どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の取決めにすぎない。
- よって、第7領域への移動をカードの補充の契機とする引用発明の構成を、第3領域(敵ヒーローへの攻撃を行うための領域)への移動を補充の契機とする本願発明の構成に変更することは、ゲーム上の取決めを変更することにすぎない。
- よって、引用発明の構成を本願発明における構成とすることも、ゲーム上の取決めの変更にすぎず、当業者が容易に想到し得た。
すなわち、特許庁は、相違点に係る構成が「ゲーム上の取決め」であることをもって、当業者が容易に想到できたものであると判断しました。
【進歩性に関する知財高裁の判断】
これに対して、知財高裁は、引用発明で補充のきっかけとなるカードの種類と機能に着目しました。引用発明で第7領域に移される「シャードカード」は、ゲーム内のエネルギー(マナ)を増やすためだけに使われ、敵との攻防には使われません。
その上で、以下のとおり判示しました。
「引用発明におけるカードの補充は、本願発明におけるそれとの対比において、補充の契機となるカードの移動先の点において異なるほか、移動されるカードの種類や機能においても異なっており、相違点6は小さな相違ではない。そして、かかる相違点6の存在によって、引用発明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくるといえる。したがって、相違点6に係る構成が『ゲーム上の取決めにすぎない』として、他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断することは、相当でない。」
本願発明では攻撃に使うカードを出すたびに手札が補充されるのに対し、引用発明では攻撃に使わない別種のカードを出したときに補充されます。知財高裁は、この違いが「ゲームの性格」を左右すると評価し、「ゲーム上の取決め」であることのみをもって容易想到とすることはできないと判断しました。
(2) 新規事項の追加が問題となった事例
■対戦ゲーム事件(知財高判令和5年3月27日・令和4年(行ケ)第10092号)
⇒特許法17条の2第3項(補正における新規事項の追加の禁止)違反否定・審決取消し
【事案の概要】
本件は、原告が出願した対戦ゲームのマッチング処理に関する特許出願(特願2017-171341号)について、特許庁が拒絶査定を行い、原告の拒絶査定不服審判請求も退けたため(不成立審決)、原告が当該審決の取消しを求めて裁判所に訴えた事案です。
原告は、拒絶査定不服審判の段階において、特許庁の拒絶理由通知を受けて、2回にわたり特許請求の範囲等を補正しました。2回目の補正(以下「第2次補正」といいます。)は、第2次補正前の特許請求の範囲の請求項1、7及び8の発明特定事項である「強さ」を、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」へと補正することを含むものでした。
特許法は、補正によって、出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」といいます。)に記載されていない新たな技術的事項を追加すること(新規事項の追加)を禁止しています(特許法17条の2第3項)。
審決は、第2次補正は新規事項の追加に当たるとして、補正を認めませんでした。しかし、知財高裁は、この判断には誤りがあるとして、審決を取り消しています。
【補正が新規事項追加に当たるか否かに関する特許庁(審決)の判断】
審決は、以下の理由から、第2次補正は新規事項の追加に当たると判断しました。
- 当初明細書等に記載された発明の課題とは、対戦するユーザ同士の「攻撃力及び防御力の合計値が乖離してしまう」ことに起因して、ゲームに対するユーザの興味を著しく低下させてしまうことであり、このような課題からすれば、「強さ」とは、「攻撃力及び防御力の合計値」のみであると認められる。
- 当初明細書等には、「強さ」が、「攻撃力及び防御力の合計値」であることは記載されているものの、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が「強さ」であることまでは記載されていない。
- ゲーム分野において、「ユーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力のほか、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることは技術常識といえるが、当初明細書等において、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が、本願の発明が解決しようとする上記課題を解決することは記載されていないし、出願時の技術常識を勘案しても、それは自明とはいえない。
【補正が新規事項追加に当たるか否かに関する知財高裁の判断】
これに対し、知財高裁は、「ユーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力のほか、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが出願時の技術常識であったことについて、当事者間に争いがないことを前提に、以下のとおり判示しました。
「対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユーザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細書等記載の『強さ』とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当であり、『強さ』を『攻撃力と防御力の合計値』とすることは、発明の一実施形態としてあり得るとしても、技術常識上『強さ』に含まれる要素の中から、あえて体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、『強さ』を『攻撃力と防御力の合計値』に限定しなければならない理由は見出すことができない。…そうすると、当初明細書等には、『強さ』の実施形態として、文言上は『攻撃力及び防御力の合計値』としか記載されていないとしても、発明の意義及び技術常識に鑑みると、第2次補正により、『強さ』を『攻撃力及び防御力の合計値』に限定せずに、『数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ』と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたものとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認められない。」
すなわち、知財高裁は、当初明細書等に「強さ」の実施例として「攻撃力及び防御力の合計値」しか記載されていないとしても、発明の技術的意義と技術常識に照らせば、「強さ」の意義がそれに限定される理由はないと判断しました。そのため、限定を外す補正をしても新たな技術的事項を追加したことにはならず、新規事項の追加(特許法17条の2第3項違反)には当たらないと判断しています。
実務への示唆
これらの知財高裁判決から、ゲームプログラム特許に関する実務について、以下の示唆が得られます。
①進歩性判断について
システム作動方法事件と対戦ゲーム制御プログラム事件はいずれも進歩性が争点となった事案ですが、両判決に共通するのは、問題となっている特許発明と引用発明の技術思想の違いを丁寧に検討している点です。
システム作動方法事件の第一審判決は両者の相違点には「技術的意義はない」とし、対戦ゲーム制御プログラム事件の審決は両者の相違点は「ゲーム上の取決めにすぎない」としましたが、知財高裁は、問題となっている特許発明と引用発明の相違点が、シリーズ化されたゲームの楽しみ方や、ゲーム上のルールであるとしても、一律に容易想到とするのではなく、発明の課題、課題解決手段、作用効果(ゲーム全体の性格やプレイ体験等)の観点から把握される、両者の技術思想の違いを詳細に検討しています。
このような裁判所の判断手法を踏まえると、特許権者・出願人にとっては、相違点がゲーム上の「設計事項」「取決め」であると抽象的に評価された場合でも、その相違点が引用発明の前提や技術思想とどのように関係し、ゲーム全体にどのような違いをもたらすかを具体的に示すことで、反論の余地があります。特に、引用発明を特許発明の構成に変更すると引用発明の前提が失われること(阻害要因)を具体的に論証することは有効であり、システム作動方法事件ではこれが奏功しています。また、これらの判決の考え方を踏まえると、出願時に、ゲームのルールに関する構成がゲーム性やプレイ体験に与える影響を明細書に記載しておくことも、後の反論の足掛かりになると考えられます。
他方で、無効を主張する側にとっては、相違点の影響が限定的であることを具体的に示すとともに、当該構成を開示・示唆する他の公知技術や周知技術を挙げて論理付けを示すことが重要です。
②補正における技術常識の活用について
対戦ゲーム事件では、知財高裁は、当初明細書等の実施形態の記載のみにとらわれることなく、発明の技術的意義と技術常識をも考慮して、より上位の概念への補正を認めました。
出願人にとっては、拒絶査定を受けた場合でも、技術常識に基づく合理的な主張によって、審判・訴訟段階で争う余地があると考えられます。特に、明細書の文言上は限定的に見える記載であっても、発明の技術的意義と技術常識に照らして広く解釈できる場合は、その旨を積極的に主張していくことが有効です。
以上のとおり、裁判所はゲームプログラムの特許を一律に扱っているわけではなく、発明の技術思想、明細書の記載内容、ゲーム分野の技術常識等を踏まえて個別具体的な判断を行っています。今回取り上げた裁判例は、特許権者・出願人にとっては出願戦略や権利行使の方針を検討する上で、また被疑侵害者にとっては防御戦略や無効論の構築を検討する上で、それぞれ参考になるものといえます。
以上
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