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【米国】【商標】パロディ商品をめぐるJack Daniel’s事件のその後 -米国最高裁判決を経て希釈化の成立を否定した第9巡回区控訴裁判所判決-
2026.10.22
はじめに
著名商標を模したパロディ商標の使用は、商標権侵害や商標の希釈化に該当するでしょうか。ウイスキー「Jack Daniel’s」のボトルを模した犬用玩具「Bad Spaniels」をめぐる訴訟では、2023年に米国最高裁判所が、パロディであっても他人の商標を自己商品の出所表示として使用する場合には特別な保護を受けられないと判断し、日本でも注目されました。もっとも、最高裁判所は、侵害や希釈化が実際に成立するか否かは判断せず、事件を下級審に差し戻していました。
その後、2026年8月4日、米国第9巡回区控訴裁判所は、Jack Daniel’s側が信用毀損(dilution by tarnishment)のおそれを立証できていないとして、地方裁判所の永久差止命令を取り消しました(VIP Products, LLC v. Jack Daniel’s Properties, Inc., No. 25-2027)。差戻し後の地方裁判所は商標権侵害を既に否定していたため、これにより、パロディ商品は、特別な保護によらずとも、通常の要件の検討によって侵害・希釈化のいずれも否定されたことになります。
本判決は、新たな法理を示したものではありませんが、本稿では、最高裁判決後の本件の行方として、控訴裁判所の判断の内容をご紹介します。
事案の概要
Jack Daniel’s Properties, Inc.(以下「Jack Daniel’s」)は、ウイスキー「Jack Daniel’s」の名称、「Old No. 7」の表示、ボトル形状及びラベルデザイン等について商標権を保有しています。玩具メーカーのVIP Products, LLC(以下「VIP」)は、2014年に、そのボトルを模した犬用玩具「Bad Spaniels」を発売しました。同商品は、四角いボトルや黒地に白文字のラベルを模しつつ、「Jack Daniel’s」を「Bad Spaniels」に、「Old No. 7」を「Old No. 2」に、「Tennessee Whiskey」を「Tennessee Carpet」に置き換え、「43% POO BY VOL.」と表示するなど、排泄物に関連するユーモラスな表現を用いていました。
最高裁判所からの差戻し後、地方裁判所は、2018年の事実審理の記録に基づき、混同のおそれを否定して侵害を認めなかった一方、信用毀損を認めてVIPに対して永久差止命令を発しました。これに対してVIPが控訴し、示されたのが今回の判決です。
米国における信用毀損による希釈化
米国連邦商標法(Lanham Act)15 U.S.C. § 1125(c) は、識別力を有する著名商標について、出所の混同のおそれや競争関係、現実の経済的損害の有無にかかわらず、希釈化のおそれを生じさせる使用の差止めを認めています。希釈化には、主に、著名商標の識別力を弱める「識別力の希釈化(dilution by blurring)」と、著名商標の評判を損なう「信用毀損による希釈化(dilution by tarnishment)」があります。後者は、他の商標と著名商標との類似性から生じる連想であり、かつ、著名商標の評判を損なうものをいいます(15 U.S.C. § 1125(c)(2)(C))。
信用毀損による希釈化を主張するためには、原告は、①自己の商標が著名であること、②被告の商標が当該著名商標と類似すること、③被告の商標が著名商標との間に、その評判を損なうおそれのある連想を生じさせること、を立証する必要があります。本件では、特に①著名性の認定対象と、③信用毀損のおそれの立証が問題となりました。
第9巡回区控訴裁判所の判断
(1)著名性は商標ごとに判断される
まず、控訴裁判所は、信用毀損による希釈化の判断は、著名商標とこれに対応する類似商標との間で行う必要があり、著名性、類似性及び信用毀損のおそれについては、いずれも原告が立証責任を負うとしました。
地方裁判所は、Jack Daniel’sの長年の販売実績や広告宣伝、高い認知度などを理由に、同社の商標およびトレードドレスの著名性を認めていました。これに対し控訴裁判所は、「Jack Daniel’s」と「Old No. 7」を区別せずに著名性を認定したことは、原告の立証責任を誤って軽減したものであると指摘しました。そして、ある商標の著名性を別の商標から「借りる」ことはできないとしたうえで、「Jack Daniel’s」及び登録トレードドレスについては著名性を認める一方、「Old No. 7」については独立した著名性が立証されていないと判断しました。
したがって、「Old No. 7」に対応する「Old No. 2」は判断対象から除外され、検討の対象は「Bad Spaniels」と玩具のトレードドレスに限定されました。なお、「43% POO BY VOL.」も、これに相当するJack Daniel’s側の表示「40% ALC. BY VOL. (80 PROOF)」がそもそも商標ではないことから、判断対象とはされませんでした。
(2)不快な連想が生じるだけでは信用毀損は認められない
次に、控訴裁判所は、Bad SpanielsがJack Daniel’sの著名な商標の評判を損なうおそれがあるか否かを検討しました。そして、「Bad Spaniels」の表示や玩具のトレードドレスは、それ自体では信用を毀損するものではないものの、使用される文脈によっては信用毀損が成立し得ると判断しました。
Jack Daniel’sは、飲食物を排泄物と結びつけることで消費者に嫌悪感が生じ、ブランドイメージが損なわれると主張し、その根拠として専門家の証言を提出しました。しかし控訴裁判所は、この専門家がBad Spaniels自体についての調査を行わず、一般的な消費者心理の研究のみに依拠していた点を指摘しました。また、Bad Spanielsは人間の飲食物ではなく、犬用玩具であることにも言及しました。そのうえで、犬用玩具における排泄物への言及が、飲食物に同様の表現を使用した場合と同程度の嫌悪感を生じさせると合理的に推認できる証拠はなく、専門家の意見は推測にすぎないと判断しました。
控訴裁判所は、実際に希釈化が生じたことまでの立証は不要であるものの、そのおそれについては推測にとどまらない証拠による裏付けが必要であるとし、本件の証拠ではその裏付けが不十分であると判断しました。
(3)パロディとしての性質も信用毀損のおそれの判断において考慮される
さらに、控訴裁判所は、パロディという表現形式が信用毀損のおそれの判断に与える影響についても検討しました。2023年の最高裁判決により、出所表示として使用されるパロディにはフェアユースや非商業的使用の除外規定が適用されないため、パロディであることのみで信用毀損の請求が排斥されるわけではありません。もっとも、控訴裁判所は、最高裁判決は除外規定の適用範囲について判断したものにすぎず、パロディであることを信用毀損の判断の中で考慮してはならないとしたものではないと指摘しました。
そのうえで、控訴裁判所は、パロディが自己商品の出所表示として使用される場合であっても、その性質を希釈化の判断において考慮できるとした、第4巡回区控訴裁判所のLouis Vuitton Malletier S.A. v. Haute Diggity Dog, LLC判決など他の巡回区の判断に賛同しました。パロディは、元の商品を想起させると同時に、それとは異なる冗談であることを消費者に伝えるものです。消費者がパロディを意図されたとおりの冗談として受け止めることは、著名商標の評判が損なわれるおそれの判断にも影響します。控訴裁判所は、地方裁判所が採用した専門家の分析が、Bad Spanielsの明白なパロディとしての性質を考慮していなかったことを重大な誤りであると指摘しました。
(4)結論
以上から、控訴裁判所は、Jack Daniel’sが信用毀損による希釈化のおそれを十分に立証していないと判断し、地方裁判所の永久差止命令を取り消して、VIPに有利な判決を言い渡すよう差し戻しました。
最後に
2023年の最高裁判決は、他人の商標を自己商品の出所表示として使用するパロディにRogersテスト等による特別な保護を認めなかったものの、パロディであることが商標法上の判断に影響すること自体を否定したものではありません。最高裁判所は、パロディとしての性質が混同のおそれの判断において考慮され得ることを認めており、今回の控訴裁判所判決は、これを希釈化の場面で具体的に示したものといえます。
実務上は、次の点が参考になると考えられます。まず、希釈化を主張する側は、商品全体のイメージではなく、問題とする商標ごとに著名性を立証する必要があります。次に、不快な連想が生じるというだけでは足りず、問題となる商品に即して、著名商標の評判が損なわれるおそれを具体的な証拠により立証することが求められます。そして、パロディであることは、それだけで請求を排斥するものではないものの、消費者がそれを冗談として受け止めるかどうかという観点から、信用毀損のおそれの判断において考慮されます。
パロディ商品について特別な保護が認められない場合でも、侵害や希釈化の成否は通常の要件に即して個別に判断され、本件では、その結果、いずれも否定されました。特に希釈化については、評判を損なうおそれを問題の商品に即した証拠に基づいて立証できるか否かが結論を分けたといえます。
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