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才口弁護士に聞いてみよう(2)
2020.11.16
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。
「私は9年目の弁護士です。弁護士というと「交渉に強い」という印象を持たれることも多いのですが、私はあまり人に強くモノを言えるタイプの人間ではなく、昔から「交渉」というものに苦手意識があります。書面上の交渉は論理が先行するため、あまり問題はないのですが、対面での交渉となると、大きな声を上げる交渉相手には、どうしても萎縮してしまいます。また、間違ったことを言っている相手方にも、うまく反論ができないこともあります。得意な書面に専念し、対面の交渉は他の弁護士に任せるように割り切った方がいいのでしょうか。」
九つとせ、苦労の連続で
顧問の才口千晴です。
老骨に鞭打って再び登場しました。
九年目の弁護士A君、よくぞここまで頑張りましたね。
でも、私の「弁護士十年一人前説」の数え歌では、“九つとせ、苦労の連続で”まさに一人前の寸前です。
書面の作成に長けるが交渉下手では裁判官が向いていたのでは?・・・判事も十年で漸く「補」がとれますが、交渉下手では和解に不向きな裁判官になったでしょう。そこで対面交渉はほかの弁護士に任せようなんて意気地のないことを言わないで下さい。弁護士の本領の半分を捨てるようなものです。
確かに交渉上手・下手は天性のものもありますが、切磋琢磨すれば自ずと身につくものです。私の経験を踏まえて方法を伝授しましょう。
「話術の良し悪しは、声(発声)、弁(語り口)、才(センス)、博(教養)で決まる」
私は、落語が好きで、学生時代はよく上野の鈴本や新宿の末廣亭に通い、五代目古今亭志ん生や六代目三遊亭圓生をひいきにしていました。圓生師匠が演じた落語の“まくら”で
「話術の良し悪しは、声(発声)、弁(語り口)、才(センス)、博(教養)で決まる」
と語られ、今でもこれらを交渉事の参考にしています。出典は中国の梁時代の高僧の教えだったと記憶しています。
「声」や「才」は天性のものかもしれませんが、A君は書面交渉を得意とするのですから「博」は十分とお見受けします。また、「弁」は訥弁であっても貴方の人間性を遺憾なく発揮して全力投球すればよろしいのです。是非とも率先励行してください。
ところで、昨今はコロナ禍の中にあって人と人との信頼関係の構築が難しい時代になりました。最近「信頼関係の構築は五感にある」との論考を目にしました。五感とは「視覚」、「聴覚」、「嗅覚」、「味覚」、「触覚」で、三密回避のため、嗅・味・触覚の機会が減りました。
交渉では、相手の匂いを嗅ぎ、共に食を味わい、お互いの肌合いを見極めることが必要です。交渉の要諦は“人間力”のぶつかり合いです。
時代の趨勢に便乗して、交渉を視覚・聴覚だけで済ませるような横着をしないで下さい
A君、時代の趨勢に便乗して、交渉を視覚・聴覚だけで済ませるような横着をしないで下さい。ますます交渉下手になりますよ。
最近、事務所の田中克郎代表弁護士らが所内行事の継続とそのための対策等に腐心し、苦心惨憺しておられるのは、事務所の人間関係の構築の継続のために他なりません。
老婆心ながら申し上げました。
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