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【令和元年改正会社法特集】改正会社法施行前後で検討・対応すべき事項のまとめ(社外取締役の選任義務化)
2021.01.18
「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」といいます。)が、2019年12月4日に成立し、社外取締役の選任義務化を含むその一部が2021年3月1日より施行されます。
本稿においては、社外取締役の選任義務について説明するとともに、なぜ改正会社法の施行の前より検討する必要があるのかを解説いたします。
社外取締役の選任義務
改正前会社法では、社外取締役の選任は義務にはなっておらず、監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限ります。)であって有価証券報告書提出会社は、定時株主総会において社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないとされていたのみでした(改正前会社法第327条の2)。しかしながら、今回の改正会社法において、社外取締役を置くことが相当でない理由の説明を行えば足りるとされていた上記の会社について、社外取締役を設置することが義務化されることとなりました(改正会社法第327条の2)。
社外取締役の選任義務に関する経過措置
改正会社法第327条の2の規定は、施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、適用しないとされております(改正省令案附則第2条第7項)。例えば、3月に事業年度末を迎え、6月に株主総会を開催する会社の場合、2021年6月の株主総会の段階では従前の改正前会社法が適用されますが、それ以後の株主総会には改正会社法が適用されることとなります。そのため、施行後すぐに臨時株主総会を開催して社外取締役を選任することまでは要求されておりません。
監査役会設置会社の場合、監査役の人数は3人以上で、その過半数が社外監査役でなければなりません(会社法第335条第3項)。今回の改正により社外取締役の選任が義務化されたため、最低でも3人の社外役員を選任しなければならないこととなります。社外役員の人材を確保することが困難な監査役会設置会社の場合には、社外取締役を2名確保すれば足りる監査等委員会設置会社への機関設計の変更も検討の余地があるものと考えられます。
また、現在、1名の社外取締役を選任している場合でも選任義務化により、辞任等により法定の員数を欠く事態も想定されることから、社外取締役を複数人選任することや補欠の社外取締役を選任することも考えられます。
改正会社法第327条の2の義務に違反して社外取締役が選任されていない状況で取締役会決議を行った場合であっても、社外取締役を選任するための手続を遅滞なく進め、合理的な期間内に社外取締役が選任されたときは、その間になされた取締役会の決議は無効にはならないと考えられております(注1)。ただ、合理的な期間がどの程度か必ずしも明確でなく、また、社外取締役を選任するための手続は遅滞なく進める必要があるため、社外取締役を選任していない上記の会社は、改正会社法第327条の2が適用されるまでの間に社外取締役を選任することができるよう、早期に社外取締役の候補者を検討することが望ましいと考えられます。
社外取締役の設置義務に関する開示
改正会社法施行規則74条4項3号により、取締役の選任議案における社外取締役候補者について、「社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」を株主総会参考書類に記載することが義務付けられております。また、改正会社法施行規則124条4号ホにより、公開会社においては、事業報告において、「社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」の記載が義務付けられることとなりました。この点は現在の株主総会参考書類及び事業報告の記載と異なってくるため、留意が必要です。こちらも経過措置が設けられており、施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告の記載又は記録及び施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る株式会社の事業報告における社外取締役を置くことが相当でない理由の記載又は記録については、なお従前の例によることとされています(改正省令案附則第2条第11項)。例えば、3月に事業年度末を迎え、6月に株主総会を開催する会社の場合、2021年6月の株主総会の段階における事業報告及び株主総会参考書類の記載は、従前の改正前会社法施行規則が適用されますが、それ以後の事業報告及び株主総会参考書類の記載には改正会社法施行規則が適用されることとなります。
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今般の改正会社法についてより詳しくお知りになりたい方がいらっしゃいましたら、弊所より、「実務逐条解説 令和元年会社法改正」も発刊されておりますので、ご参照いただければ幸いです。
https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=14602864
注1 竹林俊憲編「一問一答令和元年改正会社法」160頁