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【家事ブログ】離婚(1)離婚を切り出す場合、切り出された場合に考えること
2021.07.08
日本の離婚件数はやや減少傾向にあるものの、2020年の離婚件数は19 万3251 組に上り(※)、我々弁護士の下には離婚に関するご相談が多く寄せられます。
※令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/index.html
企業のお客様をメインとする私どもであっても、企業経営者、役員、従業員等の方々において離婚に関して悩まれる方は非常に多く、離婚に関するご相談をいただく機会は少なくありません。性格の不一致があり離婚を切り出したいのだがどうしたらよいのか、または、自身の不貞行為が原因で離婚を切り出されてしまったのだが自分は別れたくないと考えているがどうすれば良いのかなど、いざ自分がそのような状況に陥った時にどうしたら良いのかと悩んでしまう例が多くございます。
そこで、離婚に関する問題について特に保有資産が多い方に生じ得る問題、または保有資産の多寡にかかわらず誰しもが直面し得る問題等に焦点を当て、全5回(予定)に分けて基本的な考え方についての情報を提供できればと考えております。なお、別途、【家事ブログ】のシリーズとして「相続編」の連載も追ってスタートいたします。
どのような方法で離婚ができるのか?
まず、離婚を切り出したい場合、切り出された場合、どのような方法で離婚ができるのでしょうか。方法としては、主に、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚の3つの方法が挙げられます。
(1)協議離婚
「離婚」に関するトラブルと聞くと「調停」をイメージする方も多いと思いますが、調停をせずとも、当事者間の協議により離婚届を役所に提出することで離婚することが可能です。これを「協議離婚」といい、日本において成立する離婚の9割程度を占めます。
例えば、未成年の子の親権をどうするのか、養育費を月額いくら支払うことにするか、財産分与の額・方法をどうするかなどの条件について当事者間(夫婦間)で協議・合意の上、離婚届を役所に提出することで離婚が成立します。特に、未成年の子があるときは、離婚届において親権者の指定が必要になります(これに対して、養育費や面会交流など、親権以外の条件は決めていなくとも、離婚届出は受理されます。)。
もっとも、実際には協議は簡単には進まず、夫婦間において離婚条件を巡って激しく対立することもあり、協議の段階から弁護士が代理して交渉することも珍しくはありません。弁護士が代理して離婚交渉をする場合、最終的には「離婚協議書」等の離婚に係る合意書面を締結の上、離婚届を役所に届け出て離婚が成立することになります。
(2)調停離婚
(1)で述べたとおり、夫婦間の協議では離婚条件を折り合えず、離婚条件を巡って激しく対立するケースも少なくありません。このようなケースでは、夫婦のいずれかが家庭裁判所に夫婦関係調整調停の申立てを行い、男女2名の家事調停委員が間に入り、離婚協議を継続することになります。なお、家事事件手続法上、後述(3)の離婚訴訟を提起する前に調停を申し立てなくてはならないとされているため、いきなり離婚訴訟を提起することは原則としてできません(調停前置主義、家事事件手続法第257条第1項)。また、後述しますとおり、離婚協議に際しては婚姻費用(いわゆる生活費)の支払いの問題等もセットで問題になることが多く、その場合は婚姻費用の支払を求める当事者の側から、相手方に対し、婚姻費用分担請求調停の申立てを行うことになります。
離婚調停は、家事調停委員が間に入り、公平な第三者の立場で当事者双方から意見等を聴取した上で、当事者双方が納得できるような着地点を模索する手続であり、これにより離婚が成立することも多くあります(これを「調停離婚」といいます。)。
しかしながら、調停手続は裁判所において実施される手続ではあるものの、その本質は当事者の話し合いにすぎず、最終的には当事者同士が合意しない限り調停成立とはなりませんので、合意にいたらなければ、調停は不成立となり、手続は終了します。
(3)裁判離婚
(2)の夫婦関係調整調停が不成立に終わった場合、離婚を望む当事者は相手方を被告として、家庭裁判所に離婚請求訴訟を提起することになります。
相手方が離婚すること自体については争わないという意向を示した場合には、離婚条件をどうするかについて審理が進められ、離婚条件について合意に達した場合には、裁判上の和解という手続によって離婚が成立します(これを「和解離婚」といいます。)。
相手方が離婚すること自体を争う場合には、裁判所は、民法第770条第1項の各号に定める離婚事由(例えば、「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号))の存否と離婚条件を審理し、判決を言い渡します。判決に不服のある当事者は上訴(高等裁判所への控訴、最高裁判所への上告)をすることも可能です。当事者の離婚請求を認容する判決が確定したとき、離婚が成立します(これを「判決離婚」といいます。)。
離婚訴訟にまで至った場合には、離婚調停の期間も含めると、解決(離婚成立)までにそれなりの年月を要することになります。収入の多い方の当事者は、相手方に対し、離婚成立まで婚姻費用を支払い続けなければならない状況が発生する点に留意が必要です。
離婚をするに際して、どのような点について協議する必要があるか?
前述1ではどのような方法で離婚ができるのかについてご説明いたしましたが、離婚をするに際して、そもそもどのような点につき協議する必要があるのでしょうか。一般的に問題になる離婚条件について概説いたします。
①離婚意思
大前提として離婚する意思があるか否かが問題となります。特に、妻が専業主婦であり未成年の子がいる場合、妻としては、生活の不安もあり、簡単には離婚に応じられないということも想定されます。
②婚姻費用
夫婦は婚姻共同生活を営むための費用(婚姻費用)を分担する必要がありますが、夫婦が別居に至った場合、収入が多い方の配偶者(義務者)が、収入の少ない方の配偶者(権利者)に対し、離婚成立(又は別居解消)まで、婚姻費用の支払をしなければなりません。婚姻費用及び後述する養育費の額は、実務上、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」に従い算定されます。
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
③財産分与
夫婦は、婚姻中に形成した財産について相互に2分の1ずつの権利を有し、離婚に際して、婚姻共同生活の解消時点(典型的には別居時)の財産を対象として、2分の1ずつ分けるのが原則です。これを「財産分与」といいます。
財産分与対象財産に不動産や非上場株式等、評価が容易でない財産が含まれる場合や、容易に分割できない財産が財産分与対象財産の多くを占めている場合などは、財産分与に関する争いが深刻化する可能性があります。
④慰謝料
例えば、当事者の一方による暴力や不貞行為が原因で離婚せざるを得ない状況になった場合などには、慰謝料支払義務の有無及びその金額が問題となります。
⑤年金分割
「年金分割」とは、離婚に際し、年金のうちいわゆる「2階部分」(厚生年金、共済年金等)を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。
当事者間に未成年の子がいる場合は、以下の事項についても協議します。
⑥親権
父母のどちらが親権を持つのかが問題となります。
⑦養育費
離婚成立後は、未成熟の子どもを監護しない親は、監護する親に対し、原則として、子どもを監護・教育するために必要な費用である養育費を支払う必要があります。
⑧面会交流
父母が別居する(あるいは離婚が成立する)場合、子どもは父母のどちらか一方と共に生活することになるため、別居親(非監護親)が子どもと面会するなどの方法により交流を図る「面会交流」について、実施条件を定めるのか、定めるとしてどのような要領で面会交流を実施するのか等が問題となります。
ご相談いただくに際して
仮に、離婚でお悩みになり、ご相談いただくに際しては、ご夫婦それぞれのご年齢・ご職業やお子さまの有無等の基本情報を確認させていただくほか、配偶者と知り合った経緯から現在までの出来事を時系列に沿ってお伺いすることになりますので、予めメモ等を作成いただく形でご準備いただくと効率的かと思います。
次回予告
今回は離婚をするための方法、そして離婚をする際に問題となる典型的な論点について総論的にご説明いたしました。次回は「婚姻費用・養育費」の問題に焦点を当ててみたいと思います。