はじめに

弊所TMI総合法律事務所は、30周年を機に刷新したホームページにおいて、TMI弁護士によるブログをはじめとした多種多様な情報発信を行っています。タイ・バンコクにオフィスを置くTMIタイチームとしても、タイでビジネスを展開する上で必要な知識、法律、具体的な事例などを発信していくことで、多くの方にタイ法務について知っていただく機会を作っていきたいと考えています。今回は、TMIタイチームによるタイ法務ブログ第1回として、ジョイントベンチャーの設立を通じたタイへの進出について説明していきます。

タイへの進出

世界において、日系企業が進出する上位12ヶ国のうち、その半数以上がアジア諸国となっており、平成30年の段階では、タイに進出する日系企業数は第4位となっています。その背景として、安価な労働力、高い教育水準と技能を有する製造拠点としての魅力に加え、GDPの成長に伴う購買力の向上、MADE IN JAPANに対する信頼による消費市場としての魅力等があげられています。

日本企業の海外進出方法としては、一般的には①現地法人を設立すること、②既存のローカル企業を買収すること、③支店を立ち上げること、④駐在員事務所を設立することなどが考えられます。今回取り上げるジョイントベンチャーの設立は、タイにおける①現地法人の設立において比較的選択されることが多い進出形態です。

ジョイントベンチャーとは何か

ジョイントベンチャー（以下「JV」といいます。）とは、複数の企業が互いに出資し、新しい会社を立ち上げて事業を行うことをいい、日本では合弁企業と呼ばれます。企業が互いに不足する分野を補いあい、共同で事業を展開していくために、資金を出し合って新会社を設立します。

タイにおいてJVの形態が選択される背景として、外国企業の資本比率が50％以上の会社は、外国人事業法上の「外国人」として事業上の制約を受けるため、非「外国人」（タイ人）による過半数の出資が必要となる場合があることが挙げられます。しかし、タイの現地企業をパートナーとしてJVを組成したものの、株式の過半数を保有しているパートナーの発言力が強く、想定していたような事業運営ができないといった事例も少なくありません。そのため、JV組成に際しては、パートナー選定はもちろんのこと、JV契約における事業運用ルールをどこまで丁寧に定めうるかが重要となります。

タイにおける外資規制～外国人事業法～

タイにおける外資規制を一般的に規律する法律として、外国人事業法（Foreign Business Act （以下、「FBA」といいます。））が存在します。FBAは、「外国人」がタイで営むことができない規制事業や、当該規制事業を行う場合の条件や手続を規定しています。

FBA上の「外国人」は、同法の別表リストに掲げられた事業を原則として行うことができません（FBA第8条）。また、同リストには、「その他サービス業」というサービス業一般についての包括規定が置かれていることから、飲食業等をはじめとする非製造業の多くが規制対象になります。したがって、JV組成に際しては、FBAの規制をよく理解しておく必要があります。

FBAの「外国人」とは

FBA上の「外国人」とは、以下のいずれかに当てはまる者をいいます（FBA第4条）。

①　タイ国籍を有しない自然人
②　外国で設立された法人
③　資本を構成する株式の50％以上を①又は②が保有しているタイ法人
④　マネージングパートナー又はマネージャーが①である有限パートナーシップ又は登録普通パートナーシップ
⑤　資本の50％以上を③又は④のいずれかが保有するタイ法人

端的にいえば、ある会社（以下「A社」といいます。）がタイで組成された株式会社であっても、日本企業がA社の50％以上の株式を保有している場合にはA社は「外国人」に該当することになりますし、また、A社の株式の50％以上を有する親会社がタイ法人であっても、当該親会社自身が「外国人」である場合には、A社は「外国人」に該当しうる点に留意が必要です。

FBAの例外

上述のとおり、FBA上の「外国人」に該当するJVが同法上の規制事業を行うことは原則として認められませんが、次の場合には、例外的に規制事業を行うことが可能となります。

①　資本金が一定金額を超える場合（卸売業・小売業等の場合）
②　商務省から外国人事業許可（Foreign Business License）を取得する場合
③　タイ投資委員会（The Board of Investment of Thailand）の投資奨励を取得する場合
④　日・タイ経済連携協定（EPA）により外国人の株式保有割合が修正される場合

もっとも、以上の例外措置が実際に利用できるかについては、事前に慎重な確認が必要となります。例えば、上記②のライセンスについては、業態によってはほぼライセンスが取得できないこともあり、また、取得できる類型でも、業務内容に厳しい制約が課される場合もあります。

以上