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FITに頼らない再エネ電気の売却(コーポレートPPA・自己託送制度の改正)
2021.12.01
再エネを取り巻く環境の変化(FITからFIPへ)
日本では、2012年に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」といいます。)が施行され、FIT制度(Feed in Tariff:固定価格買取制度)が導入されて以来、FIT制度を利用した再エネ電源が数多く開発され、その発電プロジェクトに対するプロジェクトファイナンスも多く組成されてきました。FIT制度の下では、太陽光や風力、バイオマスといった再生可能エネルギー電源を保有する発電事業者は、発電した電気を電力会社に長期間、固定価格で買い取ってもらえることが法制度上保証されています。そのため、発電事業によるキャッシュフローの予測可能性が高く、プロジェクトファイナンスを提供する金融機関や出資をする投資家にとって融資や投資を実行しやすいことがFIT制度の対象となる発電事業の組成が増えた一因といえるでしょう。
しかし、2020年6月に公布された「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第49号)による再エネ特措法の改正により、FIP(Feed in Premium)という新たな制度が導入されることが決定しています。FIP制度の導入を含む再エネ特措法の改正は、2022年4月1日に施行される予定で、施行後はFIT制度の支援対象となる電源は徐々に縮小し、FIP制度へ移行することが予定されています。FIP制度は、発電事業者に発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で自由に売電させ、そこで得られる売電収入に、プレミアムと呼ばれる交付金を上乗せして発電事業者に交付することで、投資インセンティブを確保する仕組みです。FIT制度と異なり、FIP制度では、発電事業者は自ら売電先を確保しなければならないことになります。
今後、FIT制度による長期固定価格による買取が保証される再エネ電源が減少し、FIPの制度を利用する電源やFITやFIPいずれの支援も受けない電源が増加することが予測されます。そうすると、発電事業者は、発電した電気を誰に、いくらで売却し、安定的なキャッシュフローをいかに確保するかという点が課題となります。
FIT制度に頼らない再エネ電気の売却
では、FIT制度の適用を受けない場合、再エネの発電事業者が電気を売却する方法としてはどのような方法が考えられるでしょうか。
(1)市場での売却
電気を売る方法の一つとして、市場における売却が考えられます。具体的には、一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX)に開設されているスポット市場(前日市場)や時間前市場(当日市場)で電気を売却するとともに、再エネ電源であれば非化石価値取引市場において非化石証書(※1)を売却することが可能です。
しかし、市場での電力の売買は当然ながら市場価格の変動リスクにさらされることとなり、キャッシュフローの予測が困難であるという問題があります。日本の電力市場は、電力自由化から日が浅く、供給側が旧一般電気事業者に極端に偏っているなどの問題もあり、市場が安定していません。現に今年の1月には、スポット市場の価格が異常に高騰するなどの事象も発生しています。
また、プロジェクトファイナンスによる融資が実行される案件では、発電設備はSPCが保有することが多くなりますが、SPC自身が取引所会員として登録をして市場取引に参加すること自体にも一定のハードルがあると思われます。
(2)小売電気事業者への売却
大手電力会社を含む小売電気事業者への売却は、現行の電気事業法上でも行われている取引であり無理なく導入可能な方法の一つといえるでしょう。小売電気事業者が長期固定で電力を買い取ってくれるのであればキャッシュフローも安定します。次の(3)でも言及していますが、昨今は需要家側で再エネの電気を利用したいというニーズも高まっていますので、小売電気事業者を介して最終的に再エネ電気を利用したい需要家が長期固定で当該電源からの電気を買い取る契約を締結してくれる場合には、このような長期固定価格での売電契約が締結できる可能性も高まるでしょう。一方で、小売電気事業者との契約が長期固定価格とならない場合には、やはり発電事業者のキャッシュフローは安定しないこととなります。また、長期固定価格の契約が締結できたとしても、当該小売電気事業者の破綻というリスクを検討する必要性は出てくるでしょう。
なお、(1)の市場での売却や小売電気事業者への売却を行う場合には、FIP制度を活用してプレミアム(交付金)を受領することも可能です。一方で、(3)でご紹介するオンサイトPPAや自己託送制度を利用したオフサイトコーポレートPPAのスキームでは、FIP制度を活用することはできずプレミアム(交付金)を受け取ることはできません。
小売電気事業者を介した電力売却のイメージ(※筆者作成)
(3)需要家への売却
昨今、RE100(注2)などのイニシアティブに賛同する企業が増加し、需要家の中にも積極的に再エネの電力を購入したいというニーズが高まっています。そこで、需要家に直接売電するという方法も検討したいところです。しかし、日本の電気事業法では、一般送配電事業者の管理する系統を経由して需要家に電力を供給する事業を営む場合には、原則として小売電気事業により行う必要があり、一部の例外的な方法を除いては、発電事業者が小売電気事業者を介さずに直接需要家に電気を供給することは認められていないのが現状です。
① オンサイトPPA
発電事業者が小売電気事業者を介さずに需要家に電気を供給する一つの方法として、オンサイトPPA(注3)と呼ばれるものがあります。これは、発電者が需要家の需要地に発電設備を設置して、当該発電設備で発電された電気を当該需要地で需要家に供給する方法です。例えば、需要家の所有する建物の屋根に太陽光パネルを設置し、発電した電気を当該建物内で利用する方法がこれに該当します。この場合には、小売電気事業者を介さずに需要家に電気を供給することができます(注4)。この方法の場合、再エネ賦課金がかからず、一般送配電事業者の送電ネットワークを利用する必要もないため託送料もかからないという点で、電気料金が比較的安くなるというメリットもあり、昨今導入量が増えているスキームです。
但し、オンサイトPPAは需要家の需要地内に発電設備を設置する必要があるため、設置場所が限られ、大規模な電源を設置することが難しく、導入量に限界があるという点、また、需要場所が限られるため当該需要場所での需要が長期間継続するかというリスクがある点はデメリットといえるでしょう。
オンサイトPPAのイメージ(※筆者作成)
② オフサイトPPA
そこで、需要家の需要場所以外に設置した発電設備から需要家に電気を供給するいわゆるオフサイトPPAが可能となれば、発電事業者の電力売却の選択肢が増えることとなりますが、上述の通り、現行の電気事業法では、一般送配電事業者の系統を通じて需要家に電気を供給する事業を営む場合には小売電気事業の登録が必要とされており、小売電気事業者を介さずに需要家に電気を供給することはできないと解されています。
この点に関して、最近、自己託送という制度を拡大して、オフサイトPPAを一部認める方向で電気事業法施行規則等が改正されていますので、こちらの制度について少しご紹介します(注5)。
自己託送とは、自家用発電設備を設置する者が、当該自家用発電設備を用いて発電した電気を一般送配電事業者が維持し、及び運用する送配電ネットワークを介して、当該自家用発電設備を設置する者の別の場所にある工場等に送電する際に、当該一般送配電事業者が提供する送電サービスをいいます(経済産業省「自己託送に係る指針」令和3年11月18日(以下「自己託送指針」といいます。)を参照。電気事業法第2条第1項第5号ロ)。需要場所から離れた場所にある発電設備の電気を需要場所に届けるためには、自営線を設置するか、一般送配電事業者が維持運用する送配電ネットワークを利用して電気を送ってもらう(「託送」といいます。)必要があります。自営線を長距離にわたって設置するのはコストがかかりますので、現実的には一般送配電事業者の送配電ネットワークを利用する必要がある場合が多いでしょう。この託送は、原則として小売供給が想定されているのですが、自己託送の要件を満たす場合には、この自己託送の制度を利用して電気を送ってもらうことができることとされています。
自己託送は、従来、自家用発電設備を設置する者が自己の別の場所での需要のために電気を送電する場合か、あるいは、資本関係などを有する密接な関係を有する者に送電する場合にしか利用することができませんでした。
今回の改正は、この「密接な関係を有する者」の範囲を広げて、資本関係などのない第三者に送電する場合にも自己託送の制度を利用することを一部認める改正になります。
具体的には、発電設備を保有する発電事業者と電気を利用する需要家との間で、共同して組合を設立することにより、自己託送による送電が可能となりますが、以下のような要件を充足する必要があります(改正後の電気事業法施行規則第2条第3号)。
- 組合が長期にわたり存続することが見込まれるものであること。
- 組合契約書において、(i)発電に係る電気の供給に係る料金、(ii)電気計器その他の用品及び配線工事その他の工事に関する費用の負担に関する事項、が定められていること。
- 発電設備が再エネ発電設備その他非化石の電源であること。
- 発電設備が当該組合の組合員の需要に応ずるための専用の設備として新たに設置されたものであること。
また、改正後の自己託送指針によれば、供給者においては、法律の規律のほか、再エネ特措法で求められる柵塀等の設置、標識の提示、地域住民との適切なコミュニケーション努力、発電設備の廃棄等費用の確保などを実施することが重要、とされています。
この改正により、例えば、発電事業者Aと需要家Bが共同で上記要件を満たす組合契約を締結して組合を設立し、発電事業者Aが需要家Bの専用設備として再エネ発電設備を設置して、需要家Bに自己託送の制度を利用して電気を供給するといった取引を行うことが可能となります。需要地から離れたオフサイトの電源から需要家に電気を供給するPPAを締結することが可能となり、発電事業者による売電の選択肢が一つ増えることになったといえるでしょう。
但し、この自己託送の利用に関しては、特定供給という別の制度との関係で少し留意が必要と考えられますので、この点について、若干複雑ですが以下で説明させていただきます。
特定供給というのは、小売電気事業などの電気事業(発電事業を除く。)を営む場合や一定の例外に該当する場合を除いて、他者に電気を供給する事業を営もうとする者が、供給の相手方及び供給する場所ごとに経済産業大臣の許可を取得して営むことができる許可事業です(電気事業法第27条の30)。要するに、他者に電気を供給する事業を営もうとする場合には、(i)小売電気事業の登録をするなどして電気事業として行う場合や、(ii)特定供給の許可が不要な一定の例外に該当する場合を除いて、この「特定供給」の許可を取得する必要がある、ということになります。
この「特定供給」の許可は、自己託送を利用する場合も例外なく必要となると解されています(自己託送指針第4項参照)。上述の改正により認められた組合を設立して行う自己託送を利用した電気の供給は、発電事業者Aから需要家Bという他者に電気を供給する事業になりますので、小売電気事業などの電気事業のライセンスを取得せずに行うことを前提とする場合には、上記の(ii)特定供給の許可が不要な一定の例外に該当する場合に該当しない限り、「特定供給」の許可を取得しなければならないこととなります。
では、(ii)特定供給の許可が不要な一定の例外に該当する場合というのはどのような場合でしょうか。電気事業法によれば、「専ら一の建物内又は経済産業省令で定める構内の需要に応じ電気を供給するための発電設備により電気を供給するとき」(電気事業法第27条の30第1項第1号)には、特定供給の許可は不要とされています。つまり、先ほどの例でいえば、発電事業者Aと需要家Bが共同で組合を設立して、需要家BのX工場の需要に応じるためにだけ電気を供給する場合には、特定供給の許可は不要となりますが、需要家BのX工場に加えてY工場にも電気を供給する場合や、需要家Bだけでなく、需要家Cにも電気を供給するような場合には、特定供給の許可が必要となってしまいます。
そうすると、次に特定供給の許可を取得するための要件が気になるところです。特定供給の許可には一定の要件があり、この要件は自己託送の要件と非常に類似しています。特定供給の許可は、自己託送と同じく「密接な関係」を有する者への供給でなければ許可がされないこととされており(電気事業法第27条の30第3項第1号)、原則として資本関係を有する者などへの供給に限定されているのです。そして資本関係等を有しない第三者への供給は、自己託送と同じく、組合を設立することで可能となるのですが、この組合を設立して行う特定供給は、自営線供給の場合に限定されているという特徴があります(電気事業法施行規則第45条の24第3号)。つまり、自己託送で組合型を利用して電気を供給する場合には、一般送配電事業者の系統を利用した供給となり自営線供給には該当しないため、特定供給の許可は取得できないこととなります。
以上のように、特定供給の許可との関係を加味すると、今回の改正で許容された自己託送制度の拡大によるオフサイトコーポレートPPAは、「専ら一の建物内又は経済産業省令で定める構内の需要に応じ電気を供給するための発電設備により電気を供給するとき」に該当する場合にしか利用できないということになりそうです。
今回の改正により認められた組合型の自己託送の制度を利用する場合には、上記のような制約があるという点に留意してスキームを考える必要があります。
組合型の自己託送を利用したオフサイトPPAのイメージ(※筆者作成)
インバランスリスクの負担
上記のような売電先に関する問題に加えて、FIT制度の適用がないFIPの電源やFIT、FIP等の支援を受けない電源では、インバランス料金の負担という別の問題もクリアしなければなりません。
発電事業者は、発電した電気を一般送配電事業者の保有する系統に流す際にあらかじめ発電計画を提出する必要があり、発電計画と実際の発電量に齟齬がある場合には、インバランス料金を負担する必要があります。FIT制度の適用がある電源については、このインバランスの負担が免除されていますが、FITの適用がない電源では、発電事業者はインバランス料金を負担するリスクがあるため、正確な発電量予測とともに発電計画の提出といった事務への対応が必要となり、発電所の運営においてもこの点をどうクリアするかが問題となります。特に発電事業者がSPCとなる場合には自らこのような予測業務を行うことは難しいと考えられるため、発電計画の提出や発電量予測に係る業務を第三者に委託することになると考えられるところ、どの業者に委託し、そのリスクをどのように分担するのかという点にも留意が必要となります。
終わりに
再エネを巡っては、FIP制度の導入のほかにも、発電側課金の問題、太陽光発電設備に関する廃棄費用等積立の義務化、非化石価値取引市場の制度変更等、様々な制度改正が導入され、議論されています。2050年カーボンニュートラルに向けて、益々の再エネ電源の導入が求められる中、事業者はこのような制度変更の内容を正確に理解して事業を進める必要があります。このブログが、そのような事業者様の事業の一助となれば幸いです。
注1:非化石証書とは、非化石電源で発電された電気の非化石価値を切り離して証書化したものです。日本卸電力取引所(JEPX)に開設された非化石価値取引市場で売買が行われているほか、小売電気事業者との間で、相対取引で売買することも可能です。
注2:企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ。https://www.there100.org/
注3:PPAはPower Purchase Agreement(電力販売契約)の略。
注4:電気事業法において供給を規制しているのは「需要に応ずる電気の供給」であり、「一の需要場所」内における電気のやりとりは「供給」には該当しないと解されています(経済産業省編「2020年度版 電気事業法の解説」69頁参照)。
注5:改正に関するパブコメ結果や改正の内容は以下のURLから確認できます。改正後の電気事業法施行規則等は2021年11月18日付で既に施行されています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=620121023&Mode=1
TMI総合法律事務所では、サステナブル・ロイヤーチームを組織し、こうしたサステナブルファイナンスについても議論を重ね、随時執筆やセミナーを開催しています。
●カーボン・クレジット取引の法的問題点について
https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2021/12834.html
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