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【改正公益通報者保護法ブログ】第5回 改正公益通報者保護法によって事業者に求められる体制整備の留意点
2022.01.12
改正公益通報者保護法(以下「改正法」という。)は、事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等の必要な措置をとることを義務付けており、必要な措置の具体的な内容については「指針」において策定されると定めている(改正法第11条第4項)。また、消費者庁は、事業者が「指針」に沿った対応をとるにあたり、参考になる考え方及び想定される具体的取組事項等を示す「指針の解説」を作成・公表する予定であることを、2021年4月21日付「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書」において公表していた。
これを受けて、消費者庁は、同年8月20日に「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号。以下「指針」という。)を、また、同年10月13日には「公益通報者保護法に基づく指針の解説」(以下「指針解説」という。)を、それぞれ公表した。
指針及び指針解説の公表により、常時使用する労働者の数が301人以上の事業者が改正法第11条第1項及び第2項に基づき整備すべき体制その他の必要な措置(以下「体制等」という。)の具体的な内容が明らかとなった(注1、2)。
そこで、本稿では今後、改正法第11条第1項及び第2項に基づく体制等を整備する上で、事業者が特に検討すべきと思われる事項をピックアップして概説する。
(注1)施行日は、政令により令和4年(2022年)6月1日とされている。
(注2)常時使用する労働者が300人以下の事業者については、改正法第11条第1項及び第2項に基づく体制等の整備義務は努力義務とされるため(同条第3項)、かかる事業者は、体制等の整備に努める必要がある。また、「常時使用する労働者」には、パートタイマーも含まれるなど(改正法Q&AのQ2-3への回答)、範囲が広範であるため、常時使用する労働者が300人以下の事業者であったとしても、改正法施行時においては、常時使用する労働者が301人以上となる場合に備え、改正法を念頭に体制等の整備を行うことが望ましいと考えられる。
匿名通報の受付け
指針は、「内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。そして、当該調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。」と定めている(指針第4の1(3))。
この点につき、指針解説は、内部公益通報対応の実効性を確保するため、匿名の内部公益通報も受け付けることが必要であることを明記の上、匿名の公益通報者との連絡を取る方法として、受け付けた際に個人が特定できないメールアドレスを利用して連絡するよう伝える、匿名での連絡を可能とする仕組み(外部窓口から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み、チャット等の専用のシステム等)を導入する等の方法が考えられるとしている(指針解説第3Ⅱ1(3)③)。
そのため、内部通報制度を実装している事業者であっても、実名通報のみを受け付ける制度としている場合には、匿名通報も受け付けるよう制度を変更する必要がある。また、匿名通報を受け付けている事業者であっても、匿名通報の受付方法について、指針解説を踏まえて変更が必要かを点検する必要がある。
幹部からの独立性確保
指針は、「内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。」と定めている(指針第4の1(2))(注3)。
かかる指針の内容を遵守するための具体的な例として、社外取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)にも報告を行うようにすること、社外取締役や監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を実施すること、また、組織の長その他幹部からの独立性を確保する措置の一環として、内部公益通報の受付窓口を事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置することも考えられるとされている(指針解説第3Ⅱ1(2)③)。
そのため、内部通報制度を実装している事業者であっても、幹部等からの独立性確保のための措置がとられているかについて点検の上、対応の要否を検討する必要がある。具体的には、社外取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)への報告ルートを整備することにより幹部等からの独立性を確保するのであれば、社内規程を改定する必要があることはもちろん、内部通報制度の運用面にも少なくない影響を与えることになると考えられる。また、「指針を遵守するための考え方や具体例」として内部公益通報の受付窓口を事業者外部に設置することも挙げられているため(注4)、現在、事業者外部に内部公益通報の受付窓口を設置していない事業者においては、自社の内部通報制度について幹部等からの独立性が確保されているかを点検の上、事業者外部の受付窓口の設置の要否について検討する必要がある。
(注3)「幹部」とは、役員等の事業者の重要な業務執行の決定を行い又はその決定につき執行する者を意味する(指針解説第3Ⅱ1(2)②注14)。
(注4)指針解説は、「指針を遵守するための考え方や具体例」について、「事業者においては、まずは『指針を遵守するための考え方や具体例』に記載されている内容を踏まえつつ、各事業者の状況等を勘案して指針に沿った対応をとるための検討を行った上で、内部公益通報対応体制を整備・運用することが求められる。」としており、「指針を遵守するための考え方や具体例」の内容を踏まえつつ対応を検討することを求めている(指針解説第2)。
従事者として定めなければならない者の範囲
事業者は、公益通報対応業務に関し、公益通報対応業務従事者(以下「従事者」という。)を指定しなければならないところ(改正法第11条第1項)、従事者には守秘義務が課され(改正法第12条)、当該守秘義務の違反には刑事罰も予定されている(改正法第21条)。そのため、事業者は、従事者に対して、公益通報者を特定させる事項を含む内部通報に係る情報について、慎重な情報管理を徹底させる必要がある。
かかる従事者については、典型的には、「内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行うことを主たる職務とする部門の担当者」(指針解説第3Ⅰ1③)が挙げられるため、事業者においては、当該担当者を従事者に指定する必要がある。
一方で、当該担当者に限らず、事業者内部においては、内部通報関連業務に関与する役職員は多数いるため、事業者が従事者を指定するにしても、どの範囲の者を従事者に指定すべきか、という点が必ずしも明らかではなかった。
この点につき、指針は、「事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。」と定めている(指針第3の1)。
さらに、指針解説は、指針第3の1に示された要件について、「内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務」を行う場合には「公益通報対応業務」に該当し(指針解説第3Ⅰ1③)、また、「公益通報者を特定させる事項」とは、「公益通報者が誰であるかを『認識』することができる事項」であるとの解釈を示した(指針解説第3Ⅰ1②注6)。
そのため、事業者においては、「内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行うことを主たる職務とする部門の担当者」以外の者で、内部通報対応業務に関与する役職員が「従事者」に該当するかを判断するにあたっては、(i)当該役職員が「内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務」を行う者に該当するか、そして、(ii)「公益通報者が誰であるかを『認識』することができる事項」を伝達される者に該当するかを検討する必要がある。
かかる検討の結果、当該役職員が受領した内部通報により(i)及び(ii)の要件に該当する場合には、必要が生じた都度、従事者として定める必要がある(指針解説第3Ⅰ1③)(注5)。
(注5)従事者を定める方法は、「事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。」とされており(指針第3の2)、従事者を定める方法についても留意する必要がある。
範囲外共有等の防止に関する措置
指針は、新たに「範囲外共有」(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為をいう(指針第2)。)との用語を設けた上で、範囲外共有等について、以下の内容を定めている(指針第4の2(2))。
イ ロ ハ |
範囲外共有等の防止に関する措置を講ずる趣旨は、「労働者等及び役員並びに退職者が通報対象事実を知ったとしても、自らが公益通報したことが他者に知られる懸念があれば、公益通報を行うことを躊躇(ちゅうちょ)することが想定される。このような事態を防ぐためには、範囲外共有や通報者の探索をあらかじめ防止するための措置が必要である。」とされていることから(指針解説第3Ⅱ2(2)②)、通報者による通報を躊躇させない点にあると考えられるため、かかる趣旨を踏まえ、範囲外共有等を防止する措置を講ずる必要がある。
この点につき、指針解説においては、範囲外共有等を防止するための措置として、例えば、通報事案に係る記録・資料を閲覧・共有することが可能な者を必要最小限に限定し、その範囲を明確に確認することや、通報事案に係る情報を電磁的に管理している場合は情報セキュリティ上の対策を行うこと等、詳細な内容を定めており、当該措置を講ずる上で参考になる(指針解説第3Ⅱ2(2)③)。
そのため、事業者においては、通報者による通報が躊躇されることはないかとの観点から自社の内部通報制度において範囲外共有等を防止する措置がとられているかを点検し、当該措置がとられていないのであれば、指針解説第3Ⅱ2(2)③に定められた各措置をとる必要がある。
社内規程の整備の必要性
以上で触れた事項に限らず、事業者は、「指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する」必要がある(指針第4の3(4))。
そのため、事業者においては、改正法の施行までに、自社の社内規程を指針及び指針解説に従った内容へと改定し、かつ、内部通報制度が社内規程に従って運用されるよう、改正法への対応を進めていく必要がある。
改正公益通報者保護法への対応支援
本稿において紹介したように、本年6月1日に予定されている改正法の施行までに、各事業者において改正法への対応が必要となる。改正法への対応にあたっての内部通報制度の検証・評価・点検や社内規程の整備、社内の教育・研修(従事者の教育・研修を含む。)に関するご要望や本稿についてのご質問等がある場合には、執筆者までメールにてご連絡を頂ければ幸いである。
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