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【Immigration Blog②】不法就労活動と民事上の責任
2022.02.01
外国人に不法就労活動をさせた場合の民事上の責任
【Immigration Blog】第1回では、不法就労助長罪についてご説明しました。不法就労助長罪は、「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた」場合などに成立する犯罪であり、刑事罰(3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこの併科(会社は罰金のみ))が科される可能性があります(入管法73条の2)。
そして、外国人技能実習制度の悪用ケース(技能の実習として許容される作業範囲を超えて業務に従事させて低賃金の労働力とするなど)を、不法就労助長罪の頻発事例としてご紹介しましたが、実際に生じたこのケースで、資格外活動(入管法違反)として逮捕勾留された、雇用されていた技能実習生が会社等を訴え、損害賠償が認められた裁判事件がありました。
【Immigration Blog】第2回では、この裁判例をご紹介します(この事件の争点は多岐にわたりますが、本稿では資格外活動に関する論点のみをご紹介します)。
裁判例(広島高判令和3年3月26日労判1248号5頁)
【事案の概要】
- 技能実習制度に基づき来日した技能実習生と会社が雇用契約を締結した。
- 雇用契約において、従事すべき作業の内容は「パン製造作業」とされ、監理団体が策定した技能実習の実施計画書においても、実習内容はパン製造作業とその関連作業とされていた。
- ところが、会社は、パン製造工場の稼働していない日を中心に、会社が経営するレストランや旅館において、本件技能実習生を食器洗浄やホール等の作業に従事させた。
- 会社の代表取締役は、監理団体の職員に対して、従事すべき作業をパン製造作業とする技能実習生をパン製造工場以外の事業場においても稼働させることは法令上可能か、と照会しており、これに対し、監理団体の職員は、主眼としてパン製造作業に従事させる必要はあるが、その趣旨と目的に反しない限り、会社の領域であり代表取締役の目の届く範囲であれば、代表取締役が必要とする作業に従事させることは可能である旨を回答していた。
- 本件技能実習生は、資格外活動(入管法違反)により逮捕勾留されたが、不起訴処分(起訴猶予)となった。
- 本件技能実習生が、逮捕勾留され、技能実習を継続できなくなったことについて、実習実施機関である会社及びその代表取締役、並びに監理団体に対して、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償等を請求した。
【裁判所の判断】
(1)会社及び代表取締役の責任
- 会社は、本件技能実習生との間で、技能等の修得又は習熟のため、パン製造作業にのみ従事させることを内容とする雇用契約を締結したものということができる。したがって、本件技能実習生に対し、パン製造作業以外の業務に従事するよう命ずることは、雇用契約の内容に反するものとして許されない。
- 技能実習制度の趣旨に鑑みれば、技能実習生は、会社において就労して技能等の修得又は習熟を図ることをみだりに妨げられない利益を有する。
- 会社及び代表取締役は、本件技能実習生に対し、不法行為上の法的義務として、会社の事業場において資格外活動を行わせることを内容とする業務命令を発してはならない義務を負う。
- しかしながら、会社及び代表取締役は、この法的義務に違反して、会社の事業場において資格外活動を行わせることを内容とする業務命令を発したのであるから、不法行為責任又は雇用契約上の債務不履行責任を負う。
- 技能実習生を雇用契約書及び技能実習計画所定の場所・技能実習内容に含まれない場所・業務内容でもって稼働させることは、入管法関係諸規定がその在留資格に対応する活動として許容する範囲を逸脱するものであることは明らかであり、会社及び代表取締役においても十分認識し得たものである。したがって、監理団体から、パン製造作業を主眼とする限り、会社の領域内で目が届く範囲であれば、代表取締役の必要とする業務に従事させることが可能である旨の回答を得ていても、それにより会社及び代表取締役の責任が否定されるものではない。
- 本件技能実習生は入国後間もない外国人で、日本の入国管理制度の細目に通じていることは期待し難く、法令遵守につき会社の判断を信頼することもやむを得なかった。したがって、技能実習生が逮捕勾留されたのは自己責任である(つまり、技能実習生自身が資格外活動(入管法違反)の罪を犯したからである)ため、会社は不法行為責任を負わない、という会社の主張は認められない
- 仮に、本件技能実習生が、より多くの所得を得たいという漠然とした意向を示していたとしても、会社が逮捕勾留の事態を招来するような内容の業務命令を発したことを正当化することはできない。
(2)監理団体の責任
- 監理団体は、監査対象の実習実施機関(会社)において、技能実習生の技能実習が技能実習計画に基づいて適正に実施され、技能実習生の権利利益が適切に保護されているか、監理しなければならない。
- 本件監理団体は、職員をして月に1回の頻度で給与明細の確認、技能実習生本人との面談等を実施して、技能実習実施状況を確認しており、これらの機会を通じて、会社が技能実習生に資格外活動をさせている実情を認識し、指導等することによってこれを是正し得た。
- 本件監理団体は、本件技能実習生に対し、会社及び代表取締役が本件技能実習生に資格外活動をさせるのを防止又は制止すべき注意義務を負うのに、これを怠り、本件技能実習生が資格外活動を理由に逮捕されるに至るまで、これを制止しなかったのであるから、本件技能実習生に対して不法行為責任を負う。
以上の理由で、裁判所は、会社及びその代表取締役並びに監理団体に対して、逮捕勾留による身体拘束及び予定していた技能実習を行えなかったことについての慰謝料と、逮捕勾留期間から他社での実習再開まで(新たな実習先が見つからず帰国した者については3か月後まで)の間の賃金相当額を、損害として技能実習生に賠償するよう命じました。
まとめ
以上のとおり、雇い入れた外国人に不法就労活動をさせた場合には、刑事上、不法就労助長罪が成立するだけでなく、民事上も、当該外国人に対して、損害賠償責任を負う可能性があります。そして、技能実習制度に関しては、実習実施機関を監査すべき監理団体も、その監査において不法就労活動を見逃してしまっていた場合には、技能実習生に対して損害賠償責任を負う可能性がある点に留意すべきです。
非常に重要なことですので繰り返しますが、会社が外国人を雇用する際は、その人に就労できる在留資格があるのか、その資格で認められた範囲内の仕事をさせているのか、資格の期限が切れていないか、といった点を十分に確認する必要があります。