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才口弁護士に聞いてみよう(19)
2022.03.01
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。
先生がこれまでご覧になってきた数多の後輩弁護士たちの中で、伸びていく人、伸び悩む人で特徴のようなものはありましたでしょうか。伸びていく、といっても「引き立てていただけるタイプ」「自分で道なき道を切り拓けるタイプ」などいろいろなタイプの弁護士がいると思いますし、一概に言えるほど単純なものではないかもしれませんが、ちょっとした共通点やヒントのようなものがあれば心得として備えておきたく、ご教示いただけますと幸いです。
結論から申し上げれば、「資質」、「研鑽」、「先見性」、「決断」の差にあるのではないでしょうか。
私は、判事就任前、各種公務等を遂行するとともに、母校中央大学の建学の精神である「実地応用の素を養う」を実践して10年間、大学の実務家講師・教授の任にあり、私法演習、破産法、法曹論を担当し、開校間近な法科大学院においては倒産法を講義する予定でした。
特に、「法曹論」は、判事、検事、弁護士及び学者の四者がオムニバス法式で新入生に法曹の初歩を手ほどきする画期的な講座であり、受講者はいつも満席で、その中から多くの後輩法曹人が輩出しました。
私が「法曹論」において、“法曹の資質”不可欠要件としたのは以下の5点です。
① 喜怒哀楽が通じ合える心の温かさ
② 共感し合える心の広さ
③ 是非分別の判断
④ 問題解決の知恵
⑤ 愛嬌
①と②は、人間性と寛大性であり、感性の豊かさが必要ということです。
③の是非分別の判断能力は、生来のものもありますが、「研鑽」によっても培われます。
④の問題解決の知恵は、日々の「研鑽」によって研ぎ澄まされます。
⑤の愛嬌は、明朗・公明正大性であり、法曹人には不可欠な要件です。
「研鑽」は、学問などを究めることですが、“言うは易く行うは難し”の所業です。
私の座右の銘の一つに『不断』があります。絶え間ないことであり、これを色紙に認め身辺において日常の刺激と戒めとしています。
名句「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」を実践して研鑽を積む以外に理論を体現する途はありません。「研鑽」によって専門性が見いだされ、将来の進路が開けてくるのです。
現に、私は不断の「研鑽」によって、俗称“倒産弁護士”に活路を見いだしました。
「先見性」は、事が起きる前にそれを見抜く見識です。
日本経済は、ほぼ10年ごとに景気が変動して社会情勢も変革しました。古くは、糸偏・金偏景気時代もありましたが、所得倍増政策により急激に経済成長を遂げ、バブル経済時代に突入したのです。そんな情勢の中で、私は「いつか日本の経済は行き詰まり、倒産事件で忙しくなる」と先を見据えました。予想が的中してバブル経済は崩壊したので、まず関係者への根回しをした後で法的整理に入る「プレパッケージ方式」を発想・実践し、また刻々と変わる経済情勢に呼応して「倒産法制改正」作業に参画するなどして、徐々に“倒産弁護士”を生業とすることになったのです。
資質があり、研鑽を積み、先見したのであれば、残るは「決断」のみです。
「引き立ててもらえる」タイプの方は“平穏無事”型弁護士として生業を立てることになりましょう。「自分で道なき道を切り拓ける」タイプの方は“勇猛果敢”型弁護士として突き進むでしょう。ただこのタイプの方には危険が伴うことがあります。それは“カウンターパンチ”です。相手が攻撃を仕掛け始めたときに狙いをつけてパンチを出すと、相手には出ようとする力も加わっているので威力は倍増して思わぬダメージを食らいます。出処進退を見定めて突き進んでください。
そして、伸びていくか、伸び悩むかは、当人の『精進』次第です。
完
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