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【下請法ブログ】第3回 下請法に関する調査
2022.04.25
下請法ブログ第3回では、下請法に関する書面調査及び実地検査等についてご説明いたします。
公正取引委員会及び中小企業庁による下請法に関する調査について
公正取引委員会及び中小企業庁は、親事業者による下請法違反の行為を把握するため、親事業者及び当該親事業者と取引のある下請事業者を対象として、毎年度、書面調査を実施しています。また、公正取引委員会及び中小企業庁は、書面調査や申告又は通報を端緒として、下請法違反が疑われる場合、実地検査等を行い、指導や勧告などを行っています。
以下では、書面調査及び実地検査等の内容並びにそれらに対する留意点を解説いたします。
書面調査
(1) 書面調査
下請取引においては、親事業者の下請法違反行為により下請事業者が不利益を受けている場合であっても、その取引の性格から、下請事業者からの自発的な情報提供が期待しにくい実態にあるとされるため、公正取引委員会及び中小企業庁では、親事業者及び当該親事業者と取引のある下請事業者を対象に定期的に書面調査を実施しています。
令和2年度に、公正取引委員会が新規に着手した下請法違反被疑事件は 8,393 件です。そのうち、書面調査を端緒とするものが 8,291 件であり、約99%を占めています(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/jun/shitatyo/210602honbun.pdf)。
親事業者に対する書面調査は、公正取引委員会によるものは下請法9条1項の「必要があると認めるときは、親事業者……に対しその取引に関する報告をさせ……ることができる」との規定に基づき、また、中小企業庁によるものは同条2項に基づき実施されるものであり、報告をしない場合や虚偽の報告をした場合は50万円以下の罰金に処せられます(11条)。他方、下請事業者に対する調査は、9条1項及び2項に基づくものも可能ですが、通常は任意に協力を求めて実施されています。
(2) 調査方法及び時期
書面調査は、事業者への調査票の送付という形式でなされます。調査票は、下請事業者に対する違反行為がないか又は違反のおそれがないかを確認するための複数の質問で構成されています。公正取引委員会及び中小企業庁は、事業者単位での親事業者の名簿を共有し、同名簿の半数をそれぞれ担当して調査を行っています。令和2年度は、資本金の額又は出資の総額が1,000 万円超の親事業者60,000名及び当該親事業者と取引のある下請事業者300,000名を対象に書面調査が実施されました。
書面調査は、親事業者に対しては、通常、毎年6月ころに実施され、下請事業者に対しては、通常、毎年10月ころに実施されます。
(3) 留意点
書面調査は事件調査の端緒となり、また、報告をしない場合や虚偽の報告には罰金が科されうるため、回答に際しては、正しい下請法の理解を前提に正確な事実関係に基づき回答をする必要があります。したがって、関連部署における正しい下請法の理解をはかるために、調査票の社内での共有に際して、社内のイントラネット等で下請法の内容を紹介したり、よくある質問事項(例えば、下請事業者該当性や支払遅延における支払期日の考え方など)を整理して関連部署に提供することが効果的です。また、回答の提出の前には、資材部門、法務部門やコンプライアンス部門が、正確な下請法の理解に基づいて回答がなされているかを再度チェックし、疑義がある場合は関連部署に再確認するなどして、回答内容の正確性に十分留意する必要があります。
実地検査等
(1) 実地検査等
公正取引委員会及び中小企業庁は、下請法違反事件の端緒に接した場合、親事業者の事業所に赴いて調査をすることができます。この調査については、下請法9条1項及び2項では「必要があると認めるときは、……その職員に親事業者……の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる」と規定されており、同条項に基づく立入検査も可能ですが、一般的には親事業者の任意の協力を得て行われる実地検査の方法で実施されています。
(2) 実地検査の流れ
以下では、実地検査の流れについて具体的に解説いたします。
通常、実地検査の1~2か月程度前に公正取引委員会又は中小企業庁から実地検査に関する連絡があります。連絡の際には、調査の候補日時、準備すべき資料等が記載された書面(以下「調査依頼書面」といいます。)が送付されます。
調査の候補日時を調査担当の検査官と調整の上、実地検査当日までに必要な資料を準備する必要があります。また、効率的な調査のため、一定の資料については、通常、実地検査よりも前に検査官への送付が依頼されます。調査依頼書面にて準備が求められる資料は、事案により異なりますが、概ね以下のとおりです。
・会社の概要が確認できる資料(会社案内、組織図、事業報告書等)
・下請事業者名簿
・下請事業者との取引内容が確認できる資料(発注内容、取引のフローチャート、帳票、下請事業者との取引に係る契約書等)
・支払に関連する資料(見積依頼書、発注書、納品書、請求書、支払明細書、相殺に関する取り決め文書、有償支給原材料の支給状況が確認できる資料等)
なお、取引関係のある下請事業者の数が多数ある場合は、実地検査当日に精査の対象となる下請事業者が事前にピックアップされる場合もあります。
実地検査は、事案により異なりますが、通常1日~2日かけて行われます。実地検査当日は、検査官が、午前中から昼休みを挟んで、準備された資料を確認するとともに、発注担当者等に対してヒアリングがなされ、必要に応じて他の関係書類の提示を求められる場合があります。検査終了後に、検査官から、資料の確認結果として、下請法違反のおそれのある事項等について報告がなされます。後日、改善を求める勧告(なお、勧告を行うのは公正取引委員会のみ)又は指導がなされる場合もあれば、違反行為はなかったとして不問に付される場合もあります。勧告や指導を受けた親事業者は、改善内容を期限までに公正取引委員会又は中小企業庁に報告する必要があります。
(3) 留意点
上記のとおり、実地検査においては、実地検査当日までに種々の資料を準備する必要があり、事業者によっては準備する資料の量が膨大になる可能性があります。また、仮に親事業者において下請法違反事実又はそのおそれのある事実を把握している場合には、実地検査当日までに、当該事実が真に下請法違反に当たるか否かの見極めや、検査官への説明方法につき事前の入念な検討が望まれます。したがって、下請事業者との取引に関しては、必要な資料が整っているかを定期的に監査するとともに、書面調査等を契機に下請法違反又はそのおそれの有無を把握することが望ましいといえます。
おわりに
下請法に関する調査に対して迅速かつ適切に対処するためには、事実関係の正確な把握及び下請法の正しい理解が不可欠ですので、下請事業者との取引内容及び取引に関する資料を定期的に把握するとともに、関連部署に対して下請法に関する研修等を定期的に実施することが重要です。
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