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特許ブログ【海外情報】欧州単一特許及び統一特許裁判所のおさらいと留意点
2022.05.18
はじめに
欧州において、統一特許裁判所協定(Unified Patent Court Agreement:UPCA)の暫定適用に関する議定書が2022年1月19日に発効されました。これにより、統一特許裁判所(Unified Patent Court:UPC)の運用開始のための準備が本格的にはじまりました。これまで長い期間にわたり議論等が行われてきましたが、2022年末又は2023年前半に統一特許裁判所制度の運用を開始する見込みであると言われています。そこで、統一特許裁判所制度のおさらいをしながら、留意点を紹介いたします。
単一特許及び統一特許裁判所とは
単一特許(Unitary Patent:UP)は、統一特許裁判所制度の参加国の全体に及ぶ単一的な効力を有する特許です。現時点の予定では、単一特許により、次の図に示す統一特許裁判所協定を批准した又は今後批准予定の24のEU加盟国(UPCA批准済み、及びUPCA批准準備中の国)で保護を受けることが可能になります。また、統一特許裁判所制度の運用開始時期を調整する目的で、ドイツの批准時期は意図的に調整されています。統一特許裁判所制度の運用開始時には、統一特許裁判所協定に批准済みの16ヶ国及び現時点で準備中のドイツ(合計17ヶ国)が参加国になると予想されています。
なお、統一特許裁判所制度は、EU加盟国における制度であるため、英国やスイスなど、EPC加盟国であってもEU加盟国ではない国は、統一特許裁判所制度に参加できません。
統一特許裁判所は、単一特許及び従来の欧州特許(統一特許裁判所制度の参加国に及ぶものに限る。)について、侵害訴訟及び無効手続の双方を管轄する裁判所です。つまり、従来、例えば、複数の国で並行して訴訟が行われたり、侵害訴訟及び無効訴訟が異なる裁判所で行われることがあった場合と比較して、統一特許裁判所における手続を利用することにより、手続及びコストの負担が低減される可能性があります。
何が変わる?
単一特許は、欧州特許庁における審査により付与されます。出願手続及び審査手続は、欧州特許の取得のための従来手続と同様です。
また、従来の欧州特許では、特許査定後、有効化の手続により、指定した国のそれぞれで特許が発生するため、従来の欧州特許は、各国特許の束とも言われてきました。一方、単一特許では、統一特許裁判所制度の参加国(現時点で24ヶ国になる予定。)の全体に及ぶ単一的な効力を有する特許が発生します。
メリット
統一特許裁判所制度により期待される主なメリットは、例えば、次のものです。
1)従来の欧州特許において、4ヶ国以上で有効化していた場合は、単一特許の方が、更新料が安くなる可能性があります。
2)1つの単一特許の効力が統一特許裁判所制度の参加国の全体に及ぶため、特許の維持管理の手続き負担が軽減されます。
3)6年(12年まで延長される可能性もあります。)の移行期間中は、単一特許を申請する際に、所定の翻訳文の提出が必要となりますが、当該移行期間経過後は、翻訳文の提出は不要になります。
4)複数の国に及ぶ権利について、1つの裁判所で訴訟手続を行うことができるため、訴訟手続における負担を軽減できる場合があります。
デメリット
統一特許裁判所制度により想定される主なデメリットは、例えば、次のものです。
1)従来の欧州特許において、3ヶ国以下で有効化していた場合は、単一特許の方が、更新料が高くなる可能性があります。
2)1回の無効手続で、統一特許裁判所制度の参加国全体に及ぶ特許を失うリスクがあります。
3)統一特許裁判所の運用開始後、判例が蓄積されるまで、統一特許裁判所の判断の傾向をつかむことが困難になることが予想されます。
留意すべきこと
1)単一特許による保護を受けるためには、欧州特許の付与が公告された日から1月以内に申請を行う必要があります。
2)単一特許ではなく、各国特許の束である従来の欧州特許の取得を希望し、特許の裁判管轄を統一特許裁判所の管轄下に置くことを希望しない場合、適用除外(オプトアウト)を受けることができます。オプトアウトの申請可能時期は、統一特許裁判所の運用開始後の移行期間である7年(14年まで延長される可能性もあります。)です。また、移行期間開始前の所定期間(当該期間は「サンライズ期間」と呼ばれています。)においてもオプトアウトの申請が可能となる予定です。
3)統一特許裁判所で訴訟が提起されていない場合に限り、申請したオプトアウトを取り下げること(オプトイン)も可能です。
むすび
上記のとおり、2022年末又は2023年前半に統一特許裁判所制度の運用が開始する可能性があり、運用開始が近づくにつれて、様々な動きが出てくることが予想されます。今後新たに統一特許裁判所制度に関する有益な情報が得られましたら、ブログにて発信いたします。
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