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【労働法ブログ】ジョブ型雇用ってどうなの?(2)
2023.04.21
本稿では、ジョブ型雇用を採用した場合の配置転換や降格についての考え方を整理します。
本来的なジョブ型雇用
ジョブ型雇用は、職務が特定された雇用形態である以上、配転命令によって職務を変更することは本来的にはできず、職務変更するためには、労働者の同意が必要になります。したがって、年功序列を考慮しない適材適所の人員配置が期待される反面、一度人員配置するとその人員配置は比較的硬直的なものになってしまう側面があります。従来のメンバーシップ型雇用では、一人の従業員に多様な職務を経験させ、それにより職務遂行能力を育成するという考え方が根本にありますから、使用者の指揮命令によって職務を変更することができる、広範な配転命令権が前提となりますので、ここがジョブ型雇用との大きな相違といえます。
ジョブ型雇用は職務と賃金が紐づいていることから、職務変更を通して簡単に賃金引下げができるようになるのでは、と考えられやすいですが、前述のとおり、本来的なジョブ型雇用においては職務が限定されており、職務変更を行うには労働者の同意が必要ですので、そもそも自由に職務を変更することができません。したがって、ジョブ型雇用を採用すれば職務変更を通して賃金等の処遇も容易に変更できるようになるという考えは誤りとなります。
日本的なジョブ型雇用
もっとも、実際には、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の折衷的な制度となっており、使用者に配転命令権が留保されている場合など、労働契約上、職務が厳密な意味で限定されておらず、配転や降格による職務変更を行うことが想定されているケースも少なくないと思います。
このような制度下での賃金引下げを伴う降格の可否はどのように判断されるでしょうか。降格の有効性は、一般に①就業規則等に契約上の根拠があるか、②(契約上の根拠があったとして)権利濫用に当たらないかによって判断されますが、以下では日本的なジョブ型雇用における考え方を検討します。
ア 契約上の根拠
まず、大きく「職能資格制度」と「職務等級制度」という2つの人事制度があります。
そのうち「職能資格制度」は、当該従業員の職務遂行能力によって職能資格の格付けを行い、当該職能資格によって賃金等の処遇を決定するものであり(したがって、実際の職務内容によって賃金を左右されるものではない)、わが国で従来広く採用されてきた人事制度です。職能資格制度のもとでは、勤続によって職務遂行能力が高まっていくことが前提とされていることから、職能資格の低下は通常想定されておらず、職能資格の引下げによる降格が認められるためには、労働契約上の特別の根拠が必要と解されています。
これに対し、「職務等級制度」は、当該従業員の職務の価値によって賃金等の処遇を決定する人事制度であり、基本的にジョブ型雇用が想定する人事制度はこの職務等級制度(あるいはこれに類する制度)と考えられます。単に役職・職務を変更する(いわゆる降職)だけであれば、使用者の人事権の行使として、契約上の根拠なく行うことができますが、職務等級制度においては、職務と賃金等の処遇が結びついているため、職務の変動によって使用者が賃金を一方的に引き下げることになります。そのため、職能資格制度における降格と同様に、労働契約上の根拠が必要と解されています。
したがって、ジョブ型雇用における降格についても、就業規則等において、当該降格を基礎づける契約上の根拠が存在することが必要になります。より具体的には、就業規則上、職務等級の低下があり、当該職務等級の低下に伴って基本給が低下することが具体的に明らかであることが求められます。
イ 濫用法理
労働者の業務遂行能力が欠如していたり、当該役職ポストがなくなった場合等において、賃金の引下げを伴う降格を行うことができる旨の労働契約上の根拠があったとしても、当然に降格が認められるわけではなく、当該降格処分が権利濫用に該当する場合にはその有効性は否定されます。
裁判所は、賃金引下げを伴う降格は労働者に対する影響が大きいことを踏まえ、純粋なメンバーシップ型雇用を導入している場合と同様、その有効性を慎重に判断する傾向にあります。つまり、当該降格の必要性、労働者の帰責性や労働者の受ける不利益の程度などを総合考慮して、当該降格が権利濫用に当たると判断された場合には、使用者として有する裁量を逸脱するものとして、当該降格やそれに伴う賃金引下げは無効と判断されてしまいます。
ジョブ型雇用を採っている場合、ジョブ・ディスクリプションを通じて各労働者が遂行すべき職務が特定されていることから、その達成・未達が判断しやすいという意味では、降格事由に該当することを立証しやすいとは言えます。しかしながら、前述のとおり所定の降格事由に該当するだけで直ちに降格が有効になるわけではなく、従業員の帰責性(能力の欠如を含む)の程度に比して賃金の減額幅が大きいケースなどでは、やはり降格が無効と判断される可能性がありますので留意が必要です。
ウ まとめ
ここまで述べたとおり、ジョブ型雇用といっても職務変更を通じて当然に賃金の引下げが認められるものではなく、関連する個別事情によって結論が左右されることに変わりはありませんので、ケースごとにその妥当性に関する具体的な検討を行うことが必要になります。