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【中国】両用品目輸出管理条例及び両用品目輸出管理リスト
2024.11.20
はじめに
2024年10月19日には両用品目輸出管理条例(以下「本条例」といいます)が[1]、2024年11月15日には両用品目輸出管理リスト(以下「本リスト」といいます)がそれぞれ公布され[2]、いずれも同年12月1日から施行されることになりました。
本条例は、国家の安全と利益の維持、不拡散等の国際義務の履行、両用品目の輸出管理の強化及び規範化を目的とする法令で、安全保障輸出管理の基本法として2020年12月1日に施行された輸出管理法の下位法令(本条例第1条)であり、米国の輸出管理規則(EAR)に相当すると考えられる法令です。
輸出管理法が施行されてからすでに4年が経過しましたが、ついに下位法令である本条例と本リストが公表され、中国の安全保障輸出管理制度が具体化されました。
近時は、米中の覇権争いの激化、経済安全保障の意識が高まりを背景に、各国で輸出管理規制が強化され、企業のグローバルな供給網の断絶リスクが懸念されているため、本条例及び本リストは非常に重要な法令といえます。
適用範囲
1 両用品目の輸出管理規制
本条例は、「両用品目」の「輸出管理」について適用されます(本条例第2条第1項)。
本条例にいう「両用品目」とは、民間用途だけでなく、軍事用途や潜在的な軍事力の向上に資するもので、特に大量破壊兵器及びその運搬手段の設計、開発、生産、使用に用いる貨物、技術、役務をいい、関連する技術資料等のデータも含まれます(本条例第2条第2項)。
輸出管理法では、規制対象や規制行為が明確ではありませんでしたが、本リストでは、以下の定義が明確にされました。
用語 |
定義 |
技術 |
製品の研究開発、生産又は使用過程において必要な専門の情報と知識をいい、技術資料又は技術サポートを通じて移転又は提供される技術が含まれる。 |
技術資料 |
青写真、平面図、図表、模型、公式、工程設計又は技術企画、マニュアルと規程、及び磁気ディスク、磁気テープ、ROM等の装置又はその他の媒体への書き込み、記録が含まれる。 |
技術サポート |
技術指導、熟練工の派遣、研修、知識と技能と伝授、コンサルティングサービスが含まれる。 |
研究開発 |
生産前の段階をいい、設計、設計研究、設計分析、設計概念、モデルの組立てと試験、小規模な試験生産計画、設計データ、設計データを製品にする過程、外形設計、全体設計、レイアウトをいう。 |
生産 |
すべての生産段階をいい、建造、工芸設計、加工製造、取り付け(設置)、アセンブル、検査、試験、品質保証をいう。 |
使用 |
設置(現場での設置を含む)、保守(検査)、修理、検修等の活動をいう。 |
また、本条例にいう「輸出管理」とは、中国域内から域外へ移転する両用品目及び中国公民、法人、非法人組織が外国組織、個人へ提供する両用品目(両用品目の貿易による輸出及び対外的な贈与、展覧、提携、援助及びその他の方法による移転が含まれる)に対して、国が禁止又は制限する措置をいいます(本条例第2条第3項)。
両用品目の中国域内から中国域外への移転のみならず、中国の公民、法人、非法人組織から外国の組織、個人への両用品目の提供も規制対象となるいわゆる「みなし輸出規制」が定められています。輸出管理法の規定と比べると、「両用品目の貿易による輸出及び対外的な贈与、展覧、提携、援助及びその他の方法による移転が含まれる」と例示がなされていますが、「その他の方法が含まれる」という包括的な表現で定められており、具体的な内容、基準、適用範囲等は定められていません。
2 域外適用、再輸出規制
輸出管理法において最も注視されていた条項が、域外適用規制と再輸出規制です。この内容によっては、中国域内から輸出された両用品目の貨物、技術、役務、データをさらに別の国や地域に移転する再輸出が制限される可能性があります。
本条例では、以下の規定により、中国域外で製造された両用品目であっても、中国原産の特定の両用品目が含まれる場合や、中国原産の特定技術等の特定品目を使用している場合には、本条例が域外適用されうることが定められました(本条例第49条)。
中国域外の組織及び個人が。中国域外で、特定の目的国と地域、特定の組織と個人に、以下の貨物、技術、役務を移転、提供する場合、商務部門は関連する事業者に対して、本条例の関連規定に基づいて執行することを要求することができる。 |
当該規定のうち、①は米国のEARの再輸出規制のデミニミスルール、②は直接製品規制と類似する規定ですが、「特定の目的国と地域、特定の組織と個人」の範囲、「特定の両用品目」や「特定の技術等の特定品目」の具体的内容や組込比率(例えば、米国のEARでは、再輸出先に応じて、米国原産品目の組込比率について10%や25%の閾値を超えた場合に規制対象とするデミニミスルールを定めています)については規定されていません。
「要求することができる」と定めるのみであることから、少なくとも直ちに中国域外の行為について、輸出許可を要求するものではないと考えられますが、下位法令による明確化や具体的な事例等の今後の動向に注視する必要があります。
なお、2024年12月3日には、中国商務部から、米国に対する対抗措置として、米国向けの両用品目の輸出管理の強化が公表され、即日施行されています。米国の軍事ユーザー又は軍事用途の輸出を禁止するとし、原則として、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、超硬材料に関連する両用品目の米国への輸出は許可されず、黒鉛の両用品目の米国への輸出については、より厳格な最終需要者及び最終用途の審査が行われることになり、いかなる国又は地域の組織又は個人もこの規定に違反して、中国原産の関連する両用品目を米国の組織と個人に移転又は提供することができないとされています。
規制品目リスト
商務部門は、国の関連部門と共同で、両用品目輸出規制リストを制定、調整、公表するものとし、当該リストの制定、調整の際には、適切な方法で関連する企業、商会、協会等に意見募集を行い、必要な場合は産業調査・評価を実施することができます(本条例第11条第1項、第2項)。
そして、上記のとおり、本リストは2024年11月15日に、商務部、工業・情報化部、税関総署、国家暗号局の連名で公布され、同年12月1日から施行されます。従来の両用品目に関するリストは、核、生物、化学、ミサイル等の個別の規制品目リストにより規制されていましたが、本条例と本リストに統合されることになりました。
また、本リストでは、米国の輸出規制分類番号(ECCN)コードと類似するアルファベットと数字からなる5桁のコード規則が導入されました。1桁目が産業領域の分類、2桁目が品目の種類、3桁目が規制の理由、4桁目と5桁目が規制の順番をそれぞれ示しています。
具体的には以下の内容になっており、例えば、3A201は、電子機器のシステム、設備、部品について、核不拡散を理由に規制していることを意味します。
産業領域の分類 (1桁目) |
⓵専用材料と関連設備、化学製品、微生物及び毒薬、⓶材料加工、⓷電子機器、⓸計算機、⓹電気通信、情報セキュリティ、⓺センサーとレーザー、⓻ナビゲーションと航空電子機器、⓼船舶、⓽航空宇宙と推進機器、⓪その他 |
品目の種類 (2桁目) |
Aシステム、設備、部品、B測定、検査、生産設備、C材料、Dソフトウェア、E技術 |
規制の理由 (3桁目) |
⓪通常兵器関連、⓵大量破壊兵器関連、⓶核不拡散関連、⓷化学及び生物兵器関連、⓸監督規制化学品、⓹臨時規制、⓽その他国家安全関連 |
両用品目の輸出許可
1 輸出許可の方法
両用品目輸出管理リストに列挙された両用品目又は2年以内の臨時管理規制が実施されている両用品目を輸出する場合、輸出事業者は、商務部門に許可を申請しなければなりません(本条例第14条第2項)。
本条例では、規制対象の両用品目の輸出を行う方法として、個別許可、包括許可、輸出証書の3つの方法が規定されています(本条例第15条第1項)。
- 個別許可は、輸出事業者に対して、輸出許可証に記載された範囲、条件、有効期間(1年を超えることができない)内に単一の最終需要者に対して特定の両用品目を輸出することを一度許可する制度です(本条例第15条第2項)。
- 包括許可は、輸出事業者に対して、輸出許可証に記載された範囲、条件、有効期間(3年を超えることができない)に、単一又は複数の最終需要者に特定の両用品目を複数回輸出することを許可する制度です(本条例第15条第3項)。
- 登記による輸出証書は、特定の両用品目を輸出する前に、輸出事業者が商務部門に対して登記を行い、ありのまま関連情報を記載して輸出証書を取得することにより、輸出することができる制度です(本条例第15条第4項)。
特に、③は本条例で初めて規定された輸出許可の例外ルートですが、適用できるは以下の場合に限定されており、かつ登記で情報を入力して輸出証書を取得しなければなりません(本条例第19条第1項)。
- 輸入した品目を修理、試験又は検査した後、合理的な期間内に元の輸出地の最終需要者に返送される場合
- 輸出した品目を修理、試験又は検査した後、合理的な期間内に再輸入される場合
- 中国域内で開催される展示会に参加し、展示会終了後すぐにそのまま元の輸出地に返送される場合
- 中国域外で開催される展示会に参加し、展示会終了後すぐにそのまま再輸入される場合
- 民間航空機の部品の修理及びスペアパーツを輸出する場合
- 商務部門が規定するその他の状況
また、輸出事業者が以下の状況の一つに該当する場合は、②包括許可又は③登記により情報を記入する方法による輸出証書を申請することができず、①の個別許可を取得しなければなりません(本条例第20条第1項)。
- 単位が両用品目の輸出管理の違法行為により刑事処罰を受けた又はその両用品目の輸出に関連する直接責任を負う主管者とその他直接責任者が両用品目の輸出管理の違法行為により刑事処罰を受けた場合
- 5年以内に両用品目の輸出管理の違法行為により行政処罰を受けかつ情状が重大な場合
- 本条例第28条の規定する管理コントロールリスト内の中国域内の組織と個人が中国域内に設立した独資企業、代表機構、支社機構である場合
- 商務部門の規定するその他の状況
2 最終需要者と最終用途の確認
輸出事業者は、両用品目の輸出許可を申請する際、最終需要者が作成した最終需要者と最終用途を証明する文書を提出しなければならず、商務部門は、輸出事業者に対して最終需要者の所在する国と地域の政府機構が発行又は認証する最終需要者と最終用途の証明文書を要求することができます(本条例第24条第1項)。
両用品目の最終需要者は、国務院の主管部門の要求に従うことを承諾しなければならず、国務院の主管部門の許可なく、勝手に両用品目の最終用途を変更又は第三者に譲渡することができません(本条例第24条第2項)。
輸出事業者、輸入業者が両用品目の輸出に以下の状況があることを発見した場合、直ちに輸出を停止して、国務院の主管部門に報告し、かつ検査に協力しなければなりません(本条例第25条)。
- 両用品目の最終需要者、最終用途がすでに変更され、又は変更される可能性がある場合
- 両用品目の最終需要者と最終用との証明文書に偽造、変造、失効等の状況がある場合
- 詐欺、賄賂等の不当な手段で、両用品目の最終需要者と最終用途の証明文書を取得した場合
輸出事業者は、両用品目輸出に関係する最終需要者と最終用途を証明する文書及び契約、発表、帳簿、伝票、業務書簡等の関連資料を別途定めがある場合を除き、少なくとも5年適切に保存しなければなりません(本条例第27条)。
3 輸出許可の例外
輸出管理法や本条例には、日本の外為法のように、輸出許可の例外として、公知の技術、基礎科学分野の研究活動、工業所有権の出願・登録等の輸出許可を要しない役務取引等が規定されていません。
しかし、本リストでは、技術の輸出規制には、バプリックドメインの情報、基礎科学研究における技術、特許申請に必要な知識は、含まれないことが明確にされました。「パブリックドメイン」とは、すでに公開で使用されている技術又はソフトウェアをいいます。また、「基礎科学研究」は、現象又は観測できる事実の基本原理に関する新しい知識を得るためのもので、基本的に特定の実用目的又は目標がない実験的又は理論的な業務をいいます。
「ソフトウェア」は、有形の媒体記載された一つ又は複数のプログラム又はマイクロプログラムの集合体をいいますが、制限なく市販されている、ベンダーのさらなるサポートの必要がなく専らユーザー自身がインストールするために用いる、公衆に提供するソフトウェアやパブリックドメインにあるソフトウェアは規制対象外であることが明確にされています。
懸念対象者リスト
1 概説
上記のリスト規制は、規制品目に関するリストですが、本条例では取引関与者に着目したリストとして、管理コントロールリスト(米国のDenied Persons Listに相当)と注視リスト(米国のUnverified Listに相当)が規定されています。なお、このほか中国では、信頼できないエンティティリスト(米国のEntity Listに相当)と反外国制裁法の制裁リスト(米国のSpecially Designated Nationals and Blocked Persons listに相当)が別途定められおり、中国の懸念対象者リストは、米国の懸念対象者リストと対応して規定されてきています。
2 管理コントロールリスト
(1)リスト掲載
商務部門は、職権又は関係者からの提案、通報に基づいて、以下の状況の一つに該当する輸入業者、最終需要者を管理コントロールリスト(管控名单)に入れることを決定できます(本条例第28条第1項)。
- 最終需要者又は最終用途の管理要求に違反する場合
- 国家の安全と利益を害するおそれがある場合
- 両用品目がテロリズムの目的に用いられる場合
輸入業者、最終需要者が以下の状況の一つにあり、国家の安全と利益を害する場合は、前項に基づいて執行されます(本条例第28条第2項)。
- 両用品目を大量破壊兵器及びその運搬工具の設計、開発、生産、使用に用いる場合
- 国の関連部門が法律に従い、関連取引、提携等を禁止又は制限する措置を採られた場合
(2)規制措置
商務部門は、情状の軽重と具体的な状況に応じて、管理コントロールリストに掲載された輸入業者、最終需要者に対して、以下の一つ又は複数の措置を採ることができます(本条例第29条第1項)。
- 関連する両用品目の取引の禁止
- 関連する両用品目の品目の取引の制限
- 関連する両用品目の輸出の停止命令
- その他必要な措置
輸出事業者は、規定に違反して、管理コントロールリストに記載された輸入業者、最終需要者と両用品目に関する取引を行うことができません。特殊な状況で関連する取引を行う確かな必要性がある場合は、輸出事業者は、国務院の主管部門に申請して、承認を得た後に、当該輸入業者、最終需要者と適切な取引を行うことができますが、要求に従って報告しなければなりません(本条例第29条第2項)。
3 注視リスト
本条例では新たに注視リスト(关注名单)というグレーリスト制度が設けられています。
商務部門が法律に従い、両用品目の最終需要者と最終用途の検査を行う場合、関連する組織、個人に協力しなければならない義務を定めており、輸入業者、最終需要者が期間内に検査に協力、関連する証明資料を提供せず、両用品目の最終需要者、最終用途を確認できない場合は、商務部門は、関連する輸入業者、最終需要者を注視リストに追加することができます(本条例第26条第1項)。
注視リストに掲載された輸出事業者と最終需要者は、①包括許可の申請や輸出証書の取得の禁止、②個別許可を申請する場合、注視リストに掲載された輸入業者、最終需要者のリスク評価報告を提出し、輸出管理法令及び関連要求を遵守することを誓約しなければならないといった制限を受けます(本条例第26条第2項)。
更に、注視リストに掲載された輸出業者、最終需要者が、上記の管理コントロールリストに掲載される要件に該当する場合には、注視リストから管理コントロールリストへの掲載対象に変更される可能性があります(本条例第28条第3項)。
報告等義務
本条例では、以下のような報告等義務が定められています。
- 輸出事業者は、その輸出活動に本条例第14条第3項(キャッチオール規制)、第18条第4項(輸出許可後に重大な変化が生じた場合)、第25条(最終需要者と最終用途の変更、証明文書の偽造、変造等、不正取得)に規定する状況があると発見又は商務部門の通知を受けた場合は、直ちに状況を商務部門に報告し、要求に基づいて措置を採り、危害を消去又は軽減し、調査の処理に協力しなければなりません(本条例第35条)。
- いかなる組織、個人も両用品目輸出管理の違法行為のために、代理、運送、配達、通関、第三者電子商取引プラットフォーム、金融等のサービスを提供してはならず、これらのサービスの事業者が、両用品目輸出管理の違法行為を発見した場合は、直ちに商務部門に報告し、商務部門は直ちに確認、処理をしなければなりません(本条例第36条)。
- 中国の公民、法人、非法人組織が、外国政府から輸出管理関連のアクセス、立入検査等の要求を受けた場合、直ちに商務部門に報告しなければならず、商務部門の同意がない場合、外国政府からの関連するアクセス、立入検査等を受けいれ、又は受け入れを承諾することができません(本条例第38条)。いわゆるガバメントアクセスに対する報告義務が定められています。
さいごに
輸出管理法が施行されてから4年が経過していましたが、ようやく下位法令である本条例と本リストが公表、施行され、中国の安全保障輸出管理制度が具体化されてきました。
本条例では、輸出証書による例外ルートが作られ、また、米国に類似する注視リスト(グレーリスト)、域外適用規制、再輸出規制が導入されましたが、具体的な対応方法は明らかにされていません。また、輸出管理法において、注目されていた「みなし輸出」の規制行為、輸出管理法の輸出管理規制の対象となる「技術データ」とデータセキュリティ法の越境移転規制の対象となる「重要データ」との関係については、本条例においても詳細に定められていません。これらの規定について、下位法令やガイドラインによる基準の明確化や、具体的な事例等の今後の動向が注目されます。
商務部のスポークスマンは、本リストは既存の規制品目を統合したもので、具体的な規制範囲を調整するものではなく、現在の規制品目は700品目に過ぎず、主要な国や地域より明らかに少ないとしています。一方で、将来、中国は国家の安全と利益の保護、拡散防止等の国際義務の履行の必要性や広範な調査評価に基づいて、産業、技術、貿易、安全等の要素を総合考慮して、法律に従い、規制品目の掲載と調整を進めていくとしています。
輸出事業者は、輸出しようとする貨物、技術、役務の性能スペック、主要な用途等を把握して、それが規制品目に該当するか否かを確定しなければならない(本条例第14条第4項)ため、中国の規制品目リストの動向についても注視し、該否判定を行う輸出管理体制を構築することが重要となります。
以上
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