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【障害福祉】障害者の就労支援(国家資格の創設)に向けた国の動き
2025.05.26
現在、厚生労働省において創設が検討されている、「障害者就労支援士(仮称)」について、制度創設の議論の経緯や今後の見込みをご説明します。
はじめに
障害者雇用は、実雇用率、雇用者数が過去最高を更新するなど、着実に進展しています。また、近年の精神障害者、発達障害者の雇用の進展、高齢障害者の増加、これまで就業が想定されにくかった重度障害者の就労ニーズの高まりなど、障害者就労を取り巻く環境は大きく変化し、就労支援ニーズは多様化しています。こうした状況の中で、 障害者就労を支える人材の質・量の不足が課題となっています。
このため、その課題の解決に向けた検討が、厚生労働省が設置する「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会」並びに検討会の下に置かれた「雇用と福祉の分野横断的な基礎的知識・スキルを付与する研修の構築に関する作業部会」、「就業支援担当者研修等のカリキュラム作成に関する作業部会」及び「職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会」の各作業部会で行われてきました。
障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会における議論
障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会では、障害者の就労支援に携わる人材の雇用と福祉の両分野の基礎的な知識やスキルが不十分であることや、専門人材の実践的な研修の機会が限られていることにより、福祉と雇用の切れ目のない支援が行われにくくなっていることや、専門人材が質・量ともに不足しているといった課題が示され、次のような解決に向けた検討の方向性が取りまとめられました(「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会報告書」(令和3年6月))。
- 雇用と福祉の両分野の基本的な知識等を分野横断的に付与する基礎的な研修を確立すること。
- 専門人材の高度化に向けた階層的な研修制度を創設すること。
- 専門人材の社会的認知度の向上や社会的・経済的地位の向上等による専門人材の 確保を図ること。
この報告書では、「専門人材の社会的認知度の向上や社会的・経済的地位の向上等による専門人材の確保のために、障害者就労支援に携わる人材の何らかの資格化が急務」とされていました。
職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会における議論
障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会報告書を踏まえ、職場適応援助に係る支援の在り方及び人材育成・確保に向けた方策について検討を行うため、令和4年4月に、「職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会」が設置されました。
同作業部会では、職場適応援助者の役割、職域、支援の在り方や職場適応援助者に係る資格化の検討(例えば国家資格化を目指す場合、クリアすべき課題、ロードマップ等)について議論が行われ、令和5年7月と令和6年6月に中間とりまとめ報告書が公表されました。
令和6年6月に公表された中間とりまとめ報告書では、「資格化を検討する人物像は、ジョブコーチ支援の理念や支援方法・技術を持つ人材を中核として、幅広く障害者就労支援に関して専門性を有する人材を対象として議論する」とされました。
このため、現在、国による養成研修が行われている職場適用援助者(ジョブコーチ)をそのまま資格化するのではなく、その理念等を中核とした幅広く障害者就労支援の専門性を有する人材を資格化する、という形で議論がなされてきました。
作業部会では、このような障害者就労支援人材の資格化の効果・目的を次のようにまとめています(第14回職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会資料1より)。
①ステイタスとして
障害者就労支援人材の認知度、プレゼンスを向上させ、人材確保につなげる
②スキルアップ、キャリアプランニングツールとして
障害者就労支援人材の円滑な人材育成、キャリアプランニングにつなげる
・研修と検定を組み合わせ、手厚くスキルアップできるようにする
・資格取得を目標に、キャリアプランニングできるようにする
③技術、技能を評価する「ものさし」として
障害者就労支援自在の円滑な勤務評価、処遇改善につなげる
・企業による資格取得の勤務評価への活用を推進し、賃上げなどの処遇改善につなげる
①~③を通じて、障害者就労支援の体制を強化し、障害者雇用を促進する
そして、令和7年3月7日に取りまとめ報告書が公表され、その中で、想定される資格のスキーム、創設のロードマップ、試験科目等が取りまとめられました。
取りまとめ報告書で示された資格のスキーム等
3.で述べた資格の効果・目的を前提に、令和7年3月7日に取りまとめ報告書では次のとおり資格のスキームが示されました。
資格の名称 |
障害者就労支援士(仮称)とする。 |
資格の取得 |
障害者就労支援士検定(仮称)の合格者とする。 |
合格者の人物像 |
中級レベルの障害者雇用及び就労支援に関する総合的な知識、技能を持つ者とする。 |
受検資格 |
以下のいずれかに該当する者とする。 ・ 障害者就労支援の実務経験3年以上の者 ・ ジョブコーチ養成研修を修了し、障害者就労支援に従事している者 |
想定する受検者 |
以下の幅広い障害者就労支援に携わる機関で働く人材の受検を想定したものとする。 ・ 障害者就業・生活支援センター、障害者職業センター、ハローワーク、自治体の就労支援機関、障害者職業能力開発校、就労継続支援事業所(A型・B型)、就労移行支援事業所、就労定着支援事業所、就労選択支援事業所、計画相談支援事業所、障害者を雇用する企業、行政機関、地域若者サポートステーション、発達障害者支援センター、医療機関・教育機関、その他関係機関など |
検定の内容 |
学科試験とする。 |
資格の運営 |
障害者就労支援分野の関係者が参画した業界団体が運営の主体となると想定される。 |
厚生労働省による指定 |
厚生労働省がモデル試験科目に準拠して行う検定を指定し、資格取得者の基礎的研修の受講免除を行う仕組みを設ける。 |
資格の階層化 |
中級レベルの資格を設け、その受検者の状況や社会的評価等を踏まえ、上級、初級 レベルの資格の創設を検討する。 |
そして、資格創設のロードマップとして、令和7年度以降、厚生労働省は、モデル問題作成委員会を開催し、モデル問題を作成し、業界団体は、障害者就労支援分野の関係者が業界団体の設立準備を進めることとされました。
業界団体の設立後、厚生労働省から検定の指定を受け、団体が検定を実施することとされ、更に、団体は、検定を継続して実施し、問題をばらつきなく作成するノウハウを確立することとされました。
ロードマップでは、国家資格への移行については、厚生労働省が、団体の検定が安定的に運営できるようになった段階で、国家資格への移行を検討することとされました。
今後の見込み
ロードマップで示されたとおり、現時点においては、まず、モデル問題の作成や業界団体の設立に着手する、という段階であり、国家資格化の具体的な時期が示されているわけではありません。
また、国家資格に位置付けられたとしても、業務独占等が想定されているわけではなく、検定取得者は、障害者就労支援に関する基礎的研修の免除(基礎的研修を受けなくても、障害者就労支援に関する各種の中級~上級の研修が受講できる)といった効果が想定されています。
しかしながら、障害者就労支援に関し一定の技能・知識を持っているということを国の検定取得という形で証明できるようになれば、資格創設の目的であるプレゼンス向上や処遇改善につながる可能性があると考えられます。
そして、障害者就労支援を行う方のプレゼンスや処遇の向上により、障害者就労を支える人材の量・質の確保につながることが期待されます。
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