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【犯収法ブログ】犯罪収益移転防止法施行規則の改正による本人確認方法の厳格化について
2026.03.30
2025(令和7年)年から本年にかけて、犯罪収益移転防止法の施行規則が段階的に改正されました。本人確認方法の厳格化を図るもので、2027年(令和9年)4月1日から全面施行されます。対象になるのは法2条2項が定める特定事業者です。
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特定事業者(法2条2項) 金融機関等 |
オンラインによる本人確認を利用している事業者はシステム改修を含めた対応が必要になりますが、対面取引における本人確認方法も改正されているので、eKYCの利用の有無にかかわらず、すべての特定事業者が影響を受けます。
本人確認方法の見直しに関する最新の公式解説は、警察庁から発表されている「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)」(令和8年3月13日)の特集2です。本記事と併せてご参照ください。
なお、本人確認の方法を規制する法令は他にもありますが(注1)、本記事では犯罪収益移転防止法に限って解説します。
(注1)携帯電話不正利用防止法、古物営業法、旅館業法、外国為替及び外国貿易法、マイナンバー法(番号法)、電子署名法など。
本人確認の基礎知識
⑴ デジタル庁ガイドライン
我が国の行政手続等における本人確認は、デジタル庁が公表している「DS-511 行政手続等での本人確認におけるデジタルアイデンティティの取扱いに関するガイドライン」に依拠しています(注2)。民間事業者はその対象外ですが、考え方のフレームワークとしては参照され得るものです。
(注2)DS-511はデジタル社会推進標準ガイドラインの一つであり、各府省が行政手続をデジタル化する際に従うべき本人確認に関する基準、手法例、リスク評価の手順等をとりまとめた2019年のガイドラインを2025年に改訂したものです。
改訂が行われた背景には、近年におけるIDに関するサイバー攻撃の激化、フィッシング攻撃による被害の増加、身分証明書の偽造攻撃の増加等があります。
⑵ 本人確認が必要となる場面の分類
特定事業者は、口座開設など一定の取引を行う場合、顧客が本人であることを確認しなければなりません(取引時確認)。この義務を怠った場合、特定事業者は監督官庁の行政処分などを受けることがあります(法17条、18条、25条)。
取引時確認の方法は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与のリスクが高いと考えられるハイリスク取引(法4条2項)であるか、それ以外の通常の特定取引(同条1項)であるかによって異なります。
特定取引における本人確認方法は、顧客が自然人であるか法人であるかによって異なりますが、今回改正は自然人顧客の場合を主たる対象としています。もっとも、それに連動して法人顧客の代表者等の本人確認方法も影響を受けることにはなります(規則12条)。
本人確認には対面で行う場合と非対面で行う場合があります。対面/非対面というのは法令上の用語ではありませんが、一般には、本人確認書類の「提示」を行う場合が対面だとされています(注3)。店舗窓口で直接に接客するのが対面であり、それなしに郵便、電話、ビデオ通話等を利用するような場合は非対面です。そのうち画像やIDを送信するなどして書類の郵送等をせずにオンラインだけで完結する方法をeKYC(electronic Know Your Customer)と呼びます。
(注3)「提示」に該当するためには、特定事業者が本人確認書類を顧客等と対面で直接確認することにより「提示」の実質を備えることが必要です(逐条解説p261)。
⑶ 本人確認書類
自然人顧客の本人確認書類には5種類があります(規則7条1項1号)。
本人の「氏名、住居、生年月日」が記載された公的書類であることを前提として(旅券はやや例外的)、写真があるもの(イ、ロ)と無いもの(ハ、ニ、ホ)に大別されます。
イとハは、身元証明を目的とした公的書類である点で共通します。
ハとニは写真がない点で共通しますが、ニは複数枚の発行ができるため、他人に譲渡するなどして悪用されるリスクが高い点がハと異なります。
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イ |
写真あり |
運転免許証、運転経歴証明書、在留カード、特別永住者証明書、マイナンバーカード、旅券等、身体障害者手帳等 |
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ロ |
その他官公庁が発行発給した書類 |
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ハ |
写真なし |
在留カード、特別永住者証明書、マイナンバーカード等、精神障害者保健福祉手帳、国民健康保険等の資格確認書、介護保険の被保険者証、母子健康手帳、印鑑登録証明書等 |
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ニ |
印鑑登録証明書、戸籍の附票の写し、住民票の写し、住民票の記載事項証明書 |
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ホ |
その他官公庁が発行発給した書類 |
なお、この区分では写真の有無が重視されているように見えますが、今回改正ではむしろICチップの有無が重要になります。ただし、その考え方は規則7条には表現されておらず、規則6条の条文から読み取れるものであることに留意が必要です。
施行規則の見直し
⑴ 改正の方向性
今回改正の大きなねらいは、ICチップの読み取りを原則化すること及びマイナンバーカードを用いた公的個人認証サービスへの誘導を図ることにあります。
ネット証券口座の開設やバーチャルオフィス私書箱サービスの利用、遠隔地の宅地建物を売買する場合など、オンライン取引がさまざまに活用されている社会の実情を踏まえると、非対面取引の本人確認方法が必要とされていることは明らかです。実際にもこれまでの規則6条は、コピーした複写の郵送やカメラで撮影した写真のアップロードなどの方法を容認してきました。しかしながら、最近では、犯罪者グループが作成した偽造の運転免許証やパスポートなどが詐欺犯罪に利用されるケースが目立っています。書類の複写や画像情報だけでは本人確認書類の厚みや質感等を確認することができず、なりすましや虚偽申告による不正利用を防ぐという観点から課題が指摘されるようになりました(総合対策2.0)。
そこで、今回の改正により、書類の複写や画像情報を用いる方法は原則として廃止され、本人確認書類に格納されたICチップを読み取ることが原則となりました。例えばこれまでは運転免許証の外観写真と本人の自撮り写真をオンラインで送付して照合するような方法が広く用いられてきましたが、令和9年4月以降は原則として許容されないこととなります。
ICチップを格納する本人確認書類の代表例はマイナンバーカードと自動車の運転免許証ですが、それらを所持していない顧客などもあり得るので、一定の要件の下で例外的な方法が容認されています(注4)。
(注4)顧客がICチップ情報の読み取りを拒否したり機器の故障等のために読み取りができない場合は、別の本人確認方法、例えば住民票の写しを本人確認書類として提示し取引関係書類を転送不要郵便で送付するなどの方法を利用することになります。単に追加の書類提示で補完するような便宜的取扱いは認められません(R8.3パブリックコメント1)。
また、デジタル庁は、マイナンバーカードを対面・非対面を通じた「最高位の身分証」「デジタル社会のパスポート」と位置付けており、将来的にはこの方式が主流になる可能性があります(デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」4⑴③(令和7年6月13日閣議決定))。
⑵ 3段階の改正
上記のねらいを実現するため、規則6条は3段階で改正されました。
うち2つの改正は2025年(令和7年)6月24日に公布されており(令和7年共同命令2号及び3号)、前者はすでに施行されています。最後の改正(令和8年共同命令1号)は2026年(令和8年)3月6日に公布され、令和7年共同命令3号と足並みを揃えて2027年(令和9年)4月1日から施行されることになっています。
| 規則 | 内容 | 公布日 |
施行日 |
| 令和7年共同命令2号 | スマホのマイナンバー機能 | R7.6.24 |
R7.6.24 |
| 令和7年共同命令3号 | 非対面の本人確認方法 | R7.6.24 |
R9.4.1 |
| 令和8年共同命令1号 | 対面の本人確認方法 | R8.3.6 |
R9.4.1 |
令和7年共同命令2号(スマートフォンのマイナンバーカード機能)
2024年(令和6年)の「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るためのデジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律」によりマイナンバー法が改正され、マイナンバーカードの電子証明書機能及び属性証明機能をスマートフォンに搭載することが可能になりました。この仕組みを「カード代替電磁的記録」と言います(マイナンバー法2条8項)。
上記の令和7年共同命令2号は、犯罪収益移転防止法上もこの機能を本人確認方法として利用できるようにするもので、既に施行されています(次項表のル方式)。
端的に言えば、スマートフォンに搭載されたマイナンバーカードの情報を証明書として利用する方法です。物理カードがなくてもスマホがあれば確実なマイナンバー本人確認ができるようになり、利便性が向上しました。
現在の本人確認方法(令和7年6月24日から令和9年3月31日まで)
現時点で、規則6条1項1号にはイからヨまで15の方法が定められています。実務上イ方式、ロ方式などと呼ばれることがありますが、便利なので本記事でもその呼称を用います。イ〜ニ方式は対面取引の場面を、ホ以降の方式は非対面取引の場面を想定しています。
| 本人確認書類 |
確認方法 |
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| イ方式 | 写真付き |
提示 |
| ロ方式 | 写真無し |
提示+転送不要郵便 |
| ハ方式 | 写真無し |
提示 |
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二方式 |
写真無し |
提示+補完書類等の送付 |
| ホ方式 | 写真付き |
セルフィー撮影送信+身分証撮影送信 |
| ヘ方式 | ICチップ付き |
セルフィー撮影送信+身分証撮影送信 |
| ト方式 | 一定の本人確認書類 |
身分証撮影送信又はICチップ読取送信 |
| チ方式 | 一定の本人確認書類 |
原本の送付、ICチップ読取送信/画像情報送信+転送不要郵便 |
| リ方式 | (複数又は+補完書類) |
写し2点の送付+転送不要郵便 |
| ヌ方式 | (一定の取引の場合) |
写しの送付+転送不要郵便 |
| ル方式 | カード代替電磁的記録 |
送信 |
| ヲ方式 | 写真付き本人確認書類 カード代替電磁的記録 |
交付時に書類確認/情報送信+住居確認ができる方法による取引関係文書の送付 |
| ワ方式 |
(民間事業者の電子署名サービス) |
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| カ方式 |
(地方公共団体情報システム機構による公的個人認証サービス、JPKI) |
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| ヨ方式 |
(主務大臣の認定を受けた特定認証業務) |
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令和7年共同命令3号(非対面の場合の本人確認方法)
この共同命令は、非対面取引の本人確認方法(ホ〜ヨ)を変更するものです。
令和9年4月から施行されます。
なお、イロハ以降の条項名は、共同命令3号によりいったん変更されたのち、次の令和8年共同命令1号によってさらに変更されます。両者は同日施行なので中間段階の条項名に実質的な意味はありませんが、資料を参照する際などに混乱しないよう、下表では中間段階のものを「暫定方式」として付記しておきます。
| 現行方式 | 2027年4月以降 |
| ホ方式 | 廃止 |
| ヘ方式 | 存続(暫定ホ方式→新ハ方式) |
| ト方式 | 一部廃止(暫定へ方式→新ニ方式) |
| チ方式 | 一部廃止(暫定ト方式→新ホ方式) |
| リ方式 | 廃止 |
| ヌ方式 | 厳格化(暫定チ方式→新へ方式) |
| ル方式 | 存続(暫定リ方式→新ト方式) |
| ヲ方式 | 存続(暫定ヌ方式→新チ方式) |
| ワ方式 | 存続(暫定ル方式→新リ方式) |
| カ方式 | 存続(暫定ヲ方式→新ヌ方式) |
| ヨ方式 | 存続(暫定ワ方式→新ヲ方式) |
主な改正点を解説します。
現行ホ方式は、本人確認書類の外見画像と自撮りの容貌画像を照合する方法です。簡便であるため広く用いられていますが、ICチップの読み取りがないため、廃止されます。
現行ト方式は、①本人確認書類の画像情報又は②ICチップの読取情報を送信する方法です。①は廃止されますが、②は今後も利用可能です。
現行チ方式は、①本人確認書類の「現物」の送付、②ICチップの読取情報の送信、③本人確認書類の画像情報の送信と転送不要郵便を組み合わせる方法です。③は廃止されますが、①と②は今後も利用可能です。
現行リ方式は、本人確認書類の「写し」を複数化や補完書類と併用することで利用可能にする方式ですが、廃止されます。
現行ヌ方式は、一定の取引に際してであれば本人確認書類の写しの送付と転送不要郵便で足りるとする方式ですが、送付すべき書類の要件が加重されます。
現行カ方式は公的個人認証サービス(JPKI)を利用してマイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書の確認をする方法です。
見直しのポイントをまとめると以下のとおりです。

(出典:犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)5頁)
令和8年共同命令1号(対面の場合の本人確認方法)
この共同命令は、対面取引の本人確認方法(イ〜ニ)を変更するものです。
令和9年4月から施行されます。
| 現行方式 | 2027年4月以降 |
| イ方式 | 新イ方式(厳格化) |
| ロ方式 | 新ロ方式(厳格化) |
| ハ方式 | 廃止 |
| ニ方式 | 廃止 |
主な改正点を解説します。
現行イ方式は、写真付き本人確認書類の提示のみで可としていますが、新イ方式は、外見の目視では足りず、ICチップの読み取りが必須になります。例えば、マイナンバーカードや運転免許証は写真とICチップを共に備えているので、この方式に従い、提示による写真の確認とICチップの読み取りによって本人確認を行います。
現行ロ方式は、幅広い本人確認書類の提示と転送不要郵便による取引関係文書の送付による方法を容認していますが、新ロ方式は、対象となる本人確認書類を、①写真付きのもの、②住民票の写し等、③ICチップが格納されたものに限定しています。例えば、ICチップは格納されているが顔写真が記録されていないもの(16歳未満の在留カード)や、ICチップは格納されていないが顔写真は記録されているもの(身体障害者手帳)は、この方式に従い、窓口の確認だけでは足りず、転送不要郵便(及びICチップが読み取れるものは読み取り)によって本人確認を行うことになります。
現行ハ方式及び現行ニ方式は、本人確認書類の複数化や補完書類との併用により本人確認をする方式ですが、非対面の場合の現行リ方式と同じく廃止されます。
見直しのポイントをまとめると以下のとおりです。

(出典:犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)5頁)
令和9年4月以降の本人確認方法
以上3段階の改正を経て、結局のところ、最終的には次のようになります。
金融機関等の対応は、対面の場合はイ方式及びロ方式、非対面の場合はト方式(スマートフォンのマイナンバー機能を利用)が基本線になるのではないかと見込まれますが、それに加えて、原本送付の上で転送不要郵便を用いる方式や顧客に専用アプリをダウンロードしてもらった上でICチップ情報を読取送信するような方式も併用できます。
公的個人認証サービス(JPKI)を利用してマイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書の確認をするのはヌ方式です。
ヲ~カは、海外在住者等を対象とする例外的措置です。
| 本人確認方式 | |
| イ方式 | 対面提示方式(ICチップ型) |
| ロ方式 | 対面提示転送不要郵便方式 |
| ハ方式 | 容貌確認方式(ICチップ型) |
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二方式 |
銀行顧客紹介方式(ICチップ型) 銀行口座振込方式(ICチップ型) |
| ホ方式 | 転送不要郵便方式(ICチップ型) 転送不要郵便方式(原本送付型) |
| ヘ方式 | 一定の取引における転送不要郵便方式 |
| ト方式 | カード代替電磁的記録方式 |
| チ方式 | 特定事項伝達型本人限定郵便方式 |
| リ方式 | 民間電子証明書方式 |
| ヌ方式 | JPKI署名用電子証明書方式 |
| ル方式 | 民間電子証明書方式(電子署名法型) |
| ヲ方式 | (住民基本台帳法の適用を受けない外国人に関する例外的措置) |
| ワ方式 | (上記外国人及び国外転出者に関する例外的措置) |
| カ方式 | (上記外国人及び国外転出者に関する例外的措置) |
*方法の略称は後掲「民間事業者向けデジタル本人確認ガイドライン1.2版 本人確認手法編」(令和8年2月)に準拠した。ただし、そこで略称が付されていない類型については略称を適宜補充した。
詳しくは末尾資料の表をご覧ください。
なお、法令上はこのように複数の本人確認方法が規定されていますが、特定事業者の判断により、利用する方法をその一部に限定したり、追加的に顧客の容貌画像情報の送信を求めるようなことは可能であるとされています(R7.6パブリックコメント回答1⑵⑺)。
業種別にみた事業者の対応
⑴ 法令上の義務付けがある業種
ア 犯罪収益移転防止法の特定事業者については本記事で解説しました。自社の業務フローを確認した上で、システム改修、社内規程や業務マニュアルの整備等の対応を検討する必要があります。施行日まで準備期間が1年ほどしかありませんので、未着手の事業者は早期に準備を開始することが必要です。
金融機関に対しては金融庁が詳しい解説資料を公開しています。業種は異なりますが、不動産業者、貴金属取引業者、郵便転送サービス事業者などに対しても参考になるでしょう。
イ 携帯電話不正利用防止法の携帯音声通信事業者については、同法施行規則が2026年(令和8年)2月27日に改正されており、同年4月から施行される予定です。
ウ 古物営業法の古物商については、古物営業法施行規則16条3項が本人確認方法を規定していますが、犯罪収益移転防止法等の規制よりも緩やかです。古物商には零細な事業者が多いことなどを考慮したものではないかと思われます。
エ 旅館業については、旅館業法に基づく衛生等管理要領が玄関帳場・フロントにおける本人確認の設備要件を定めています。2025年(令和7年)4月1日から新たに自動チェックイン機器を用いた本人確認方法が認められていますが、これは善良な風俗の保持を目的とするもので、今回改正とは関係がありません。
⑵ 行政上の要請がある業種
法令上の義務ではありませんが、通達、行政指導、業界ルール等によって特定の本人確認方法が要請されていることがあります。
ア 医療機関等については、医療保険制度の健全運営、患者の医療安全及び犯罪防止を目的とする厚生労働省の通達があります。
イ SNS事業者については、政府の総合対策2.0が以下のように本人確認方法の厳格化を要請しています。
SNS事業者に係る本人確認の厳格化
総合対策及び緊急対策において、SNSアカウントの開設時の本人確認の強化を含む措置について推進してきたところ、一部事業者が運営するSNSについては、依然メールアドレスのみでアカウント開設が可能であり、また、電話番号により認証を行っているSNSについても、不正に取得された電話番号等を利用してSMS認証が行われている実態があることから、引き続き、SNS事業者に対して、アカウント開設時に本人確認の厳格化を含む措置の検討を働き掛ける。
これによれば、メールアドレスのみによる本人確認が不十分と評価されていることは分かりますが、積極的にどのような方法を採用すべきかは必ずしも明らかでありません。SNS事業には多様なものがありますので、犯罪収益移転防止法が要求する本人確認方法を一つのベンチマークとしつつ、各事業者において適切な検討を進めることになると思われます。
ウ マッチングアプリ運営事業者については、総合対策2.0が以下の方向性を示しています。
マッチングアプリ運営事業者に係る本人確認の厳格化
総合対策において、マッチングアプリアカウントの開設時の本人確認の強化を推進してきたところ、未だ本人確認が不十分であり、マッチングアプリアカウントが犯罪に悪用されていることから、アカウント開設時に、引き続き公的個人認証サービス等を用いたより厳格な本人確認を実施するよう働き掛ける。
こちらについても、事業の内容や犯罪に利用されている実態等に応じて、各事業者において適切な検討を進めていくことになると思われます。
⑶ 上記以外の事業者
広い意味での本人確認(身元確認)はさまざまな目的で行われています。
ほとんどの事業者に共通する目的として、債権履行確保等のために相手方を特定する必要があります。例えば、飲食店がツケ払いを認めるのを顔馴染みの常連客に限ったり、通信販売事業者がクレジットカード情報を入力させたりするのはこれに当たります。
また、消費者保護や青少年保護を目的とする本人確認もあります。風俗営業については、18歳未満の者の利用防止及び20歳未満の者に対する酒・タバコの販売防止を徹底する必要があります。青少年インターネット環境整備法が携帯電話事業者等に対して年齢確認義務を課しているのも類似の趣旨です。
こうした目的の場合にいかなる本人確認方法を採用するかは基本的に各事業者の経営判断に委ねられていますが、検討に当たっては、一般社団法人OpenIDファウンデーション・ジャパンが公表している「民間事業者向けデジタル本人確認ガイドライン」が、法的な拘束力はないものの、理論的フレームワークの整序を行っているので参考になります。
(資料)本人確認方法一覧

(出典:犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)9頁)
(参考資料)
国民を詐欺から守るための総合対策2.0
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/kettei/250422/honbun-1.pdf
DS-511 行政手続等での本人確認におけるデジタルアイデンティティの取扱いに関するガイドライン(デジタル庁)
https://www.digital.go.jp/resources/standard_guidelines
民間事業者向けデジタル本人確認ガイドライン第1.2版
https://www.openid.or.jp/news/2026/02/-12.html
犯罪収益移転防止法の概要(令和7年12月2日時点)(警察庁)
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/law_com.htm
犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)(警察庁)
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/data/jafic_2025.pdf
パブリックコメントの結果(警察庁)
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/law_com.htm
金融機関向けQ&A(金融庁)
https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kakunin-qa.html
逐条解説 犯罪収益移転防止制度研究会編著「逐条解説犯罪収益移転防止法(全訂版)」(東京法令出版、2023年)




