ブログ
【Web3ブログ】CLARITY法の成立はいつ?―ステーブルコイン利回り規制の論点整理―
2026.04.06
2026年に入り、米国のデジタル資産規制をめぐる議論は大きく動いています。その中でも特に注目されているのが、市場構造を定めるCLARITY法の成立動向と、ステーブルコイン(stablecoin)への利回り付与(yield)の扱いです。CLARITY法とステーブルコインのyield問題がどのように関係しているのか、またCLARITY法の成立見込みについて整理します。
前提:GENIUS法の射程と「残されたyield問題」
まず前提として、ステーブルコインについては、2025年7月に成立したGENIUS法によって基本的な規制枠組みが与えられています。この法律は発行者(issuer)に対する規制を中心とするものであり、発行者による利息や利回り(yield)の付与を明示的に禁止する条項も含まれています。
さらに、OCC(Office of the Comptroller of the Currency)が最近示した規則案※においては、発行者が直接的に付与する場合に限らず、第三者を通じて利回りを渡す構造であっても発行者のyieldとみなされ得ることが示されています。特に、一定の関係性やスキームの設計がある場合に当該利回りが発行者に帰属するものと推認され得るなど、形式ではなく経済的実質に基づいて判断する姿勢が強調されています。このことから、「発行者レベルにおいてはyield禁止」という整理は相当程度明確になりつつあると考えられます。
※OCC “GENIUS Act Regulations: Notice of Proposed Rulemaking”
https://www.occ.treas.gov/news-issuances/bulletins/2026/bulletin-2026-3.html
もっとも、発行者ではない第三者、例えばプラットフォーム事業者やDeFiプロトコルがステーブルコインに利回りを付与する場合に、これがどのように評価されるのかという点については、GENIUS法の直接的な規制対象ではなく、なお重要な論点として残されています。すなわち、この論点は、証券規制の問題として処理される可能性があり、現在の規制体系における未解決領域となっています。
CLARITY法の役割:トークンの「性質」と「管轄」の仕分け
CLARITY法の基本的な役割は、デジタル資産の性質と規制当局の管轄を整理する点にあります。すなわち、どのトークンがどのような性質を持ち、それが証券なのかコモディティなのか、あるいは決済手段として扱われるべきなのかを整理したうえで、それぞれがSECやCFTCあるいは銀行当局のいずれの監督下に置かれるのかを明確にすることにあります。
この点、ステーブルコインの発行そのものについてはGENIUS法が優先的に適用される前提とされており、CLARITY法が直接これを規律するものではありません。しかし、何が証券に該当するのか、また何が証券に該当しないのかという線引きを行う過程において、ステーブルコインを利用した利回りスキームが証券に該当するかどうかという問題が不可避的に浮上します。この意味で、CLARITY法とステーブルコインのyield問題は、制度上は分離されていながらも実務上は密接に結びついています。
3月23日CLARITY法ドラフト案と実務上の受け止め
ステーブルコインのyield問題を理解するうえで重要な背景となっているのが、2026年3月23日付で関係者間に共有されたと報じられているドラフト案です。報道※によれば、このドラフトはデジタル資産サービス提供者、すなわち取引所やブローカーおよびその関連主体に対して、ステーブルコイン残高に対するyieldの提供を広く禁止する構造を採っています。
※Rosalia Mazza “The CLARITY Act Stablecoin Yield Text Is Out. The Crypto Industry Just Read It. Here Is What It Says.” (March 24, 2026)
https://www.fintechweekly.com/news/clarity-act-stablecoin-yield-text-activity-rewards-march-2026
この制限は直接的なyield付与にとどまらず、間接的なスキームや関連会社を通じた提供、さらには銀行預金の利息と経済的または機能的に同等と評価される仕組みまで含めて排除するよう設計されているとされています。すなわち、形式ではなく経済的実質に基づき、預金類似の利回り機能を広く制限する方向性が示されているといえます。
一方で、すべてのリワードが禁止されるわけではなく、ロイヤルティプログラムやプロモーション、サブスクリプション、決済やプラットフォーム利用といった活動に紐づく「activity-based rewards」については、銀行利息と経済的に同等と評価されない限りにおいて許容される余地があるとの方向性が示されています。これらのリワードの具体的な範囲は、SEC、CFTCおよび米国財務省が施行後12か月以内に共同で定義し、規制回避を防ぐためのルールを策定することとされ、行政解釈に委ねられています。
以上を踏まえ、実務上は、保有するだけでyieldが得られる「passive yield」は強く制限される一方で、ネットワーク利用や参加に基づく「activity-based rewards」については一定の余地が残される方向性が意識されています。
具体的な例を考えてみると、このドラフト案が通った場合、ステーブルコイン(USDCなど)の貸出しに自動的に回されて利回りを得るレンディングのような構造は、ユーザーの能動的な関与を伴わず、保有しているだけで収益が得られる仕組みであることから、「passive yield」の典型例として本規制の対象となることも考えられます。
一方で、ステーブルコインを用いた決済に伴う割引や、利用行為に応じて付与されるインセンティブ、発行者とプラットフォーム事業者との間におけるステーブルコインの流通・利用促進に関連して支払われる対価としての収益分配については、その設計次第では本制限に抵触しない可能性があると考えられます。
市場の反応
このような整理に対して、市場では一定の反応が見られます。たとえば、取引所やプラットフォーム上でのyield分配を前提としたビジネスモデルについては一定の影響が及ぶ可能性があると指摘されます。また、分散型プロトコル(DeFi)のように特定の仲介主体を介さず、貸付や流動性提供といった取引を通じてリターンが生じる形態へ移行する可能性があるとする分析も見られます。
これらはいずれも確立した評価ではなく、現時点では一つの見方にとどまります。他方で、yieldの規制のあり方が、個別のプロダクトにとどまらず市場全体の競争環境や構造に影響し得るという点については、広く共有されている認識といえるでしょう。
CLARITY法の成立見通しと論点
最後に、CLARITY法の成立見込みについて見ると、現時点では評価に幅がある状況にあります。yieldに関する文言は概ね合意に近づいており、委員会審議(markup)に進む可能性があると指摘される一方、条文化に至っていない段階では合意は不確実であり、特に銀行側の最終的な同意や政治日程の影響が不透明であることから、成立時期はなお流動的とする見方もあります。※
※Rosalia Mazza “CLARITY Act: Coinbase's Top Lawyer Says a Stablecoin Yield Deal Is Very Close” (April 3, 2026)
https://www.fintechweekly.com/news/clarity-act-stablecoin-yield-deal-coinbase-april-2026
Nikhilesh De “Crypto market structure bill release pushed back as industries view revised stablecoin yield compromise this week” (April 2, 2026)
https://www.coindesk.com/policy/2026/04/02/crypto-market-structure-bill-release-pushed-back-as-industries-view-revised-stablecoin-yield-compromise-this-week
この点、yieldの取り扱いは重要な論点とされているものの、DeFiの取り扱い、政府高官による暗号資産からの利益取得を制限する倫理規定、さらにはコミュニティ銀行規制の見直しの法案への組込みといった点も引き続き検討事項として残されています。そのため、CLARITY法の成立可否は、これら複数の論点の調整状況に左右されると考えられます。
まとめ
CLARITY法とステーブルコインのyield問題は、発行者レベルの規制を担うGENIUS法と、トークン分類および証券性判断を整理するCLARITY法とが交差する領域に位置しています。そのため、yieldの線引きは単なる個別論点にとどまらず、デジタル資産市場における収益構造や競争環境そのものに影響を与え得る制度的論点として議論されている点に特徴があります。
また、CLARITY法については市場構造の明確化に向けた重要な立法として早期の成立が期待されている一方で、なお複数の論点に関する調整が継続しており、その成立時期および最終的な制度設計については引き続き流動的な状況にあるといえます。
以上
Member
PROFILE
