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【速報】【米国】【特許】日本企業が陥りやすい「発明者認定」の誤解―米国CAFC最新判決が突きつける特許無効のリスクとその対策
2026.04.13
背景
2026年4月2日、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は Fortress Iron, LP v. Digger Specialties, Inc. 判決において、共同発明者の欠落が訂正できない場合には、当該特許は無効となると明示的に判示した。本件のような共同発明者の欠落は、企業における製品開発や外部協力を伴う研究開発では十分に起こり得る事案であるが、CAFC自身が本件を先例のない問題(case of first impression)と位置付けた点は注目に値する。
Fortress Iron, LP(以下「Fortress」)は、従来は現場で組み立てられていた手すりをパネル化することで施工を容易にした屋外用縦型ケーブル手すり(vertical cable railing)を発明し、これに関して2件の米国特許を取得した。その発明過程において、同社オーナーである Sherstad 氏が手すりをパネル化するという基本的着想を得た後、従業員の Burt 氏が図面を作成し、中国の関連会社と協力して初期プロトタイプを製作した。しかし、このプロトタイプには、ケーブル張力調整時にケーブルが回転してしまう問題が存在していた。この問題に対し、品質管理を担当する中国企業(YD 社)の従業員である Huang 氏および Lin 氏が、ケーブル及びレール構造に関する具体的な改良案を提案し、問題を解決した。本件2特許は、これら改良案の構造を取り込んだ手すりに関するものであるが、特許出願時に発明者として記載されたのはSherstad及びBurtのみであり、Lin及びHuangは含まれていなかった。
訴訟の経過と地裁判断
2021年1月、FortressはDigger Specialties, Inc.(以下「DSI」)に対し、本件特許の侵害訴訟を提起した。訴訟の過程で、DSIはLin及びHuangが発明に寄与している事実を明らかにし、Fortress自身も両名が共同発明者(coinventor)であることを認め、米国特許法256条(a)に基づき Lin 氏を発明者として追加する訂正手続を行った。しかし Huang 氏については、既に YD 社を退職しており連絡先も不明であったため、本人の同意等を要する訂正手続を進めることができなかった。そこで Fortress は、裁判所による訂正を可能とする256条(b) に基づき、Huang 氏を発明者として追加する命令を求める部分的サマリー・ジャッジメントを求めた。これに対し DSI は、発明者の不正確な記載が訂正不能である以上、特許は無効であるとして、無効のサマリー・ジャッジメントを求めた。
インディアナ北部地区連邦地裁は、Huang 氏が発明者として記載されていない「欠落発明者」であり、256条(b)に基づく訂正には「関係当事者(party concerned)」への通知および聴聞が必要であるところ、Huang 氏はその関係当事者に該当すると判断した。しかし、同氏は行方不明であるため通知・聴聞の機会を与えることができず、訂正は不可能であるとした。その結果、Fortress の訂正請求は却下され、発明者の欠落が訂正不能である以上、特許は無効であるとして、DSI の請求を認めるサマリー・ジャッジメントが下された。
CAFC判決の概要
Fortressが提起した控訴審において、CAFCは:(1)連絡不能な共同発明者(Huang氏)は、256条(b)にいう「関係当事者」に該当するか
;(2)発明者の欠落が訂正不能な場合、特許は無効となるのかという2点を主要な争点として審理し、いずれについても肯定的に判断した。
(1)「関係当事者」該当性については、発明者は特許制度の中核的存在であり、たとえ持ち分を有していなくても、その地位が伴う法的・経済的帰結は軽視できないとした。また、発明者適格性(inventorship)は単なる表示の問題ではなく、法的・経済的・権利帰属上の重要な帰結を伴うため、特許の持分を有していなくとも「関係当事者」に該当すると判示した。そのため、Huang 氏への通知および聴聞がなされない限り、裁判所は256条(b)に基づく訂正命令を出すことができないと結論付けた。
(2)訂正不能な発明者欠落と特許の無効については、CAFCは、256条(b)が「訂正できる場合には特許が無効とならない」と規定するセーフハーバー条項であることから、裏返せば訂正できない場合には無効が回避されないと解釈した。そして、発明者の欠落が訂正できない場合には特許は無効となることを明確にし、地裁判断を支持した。結果として、本件2件の特許はいずれも無効とされた。
出願・権利行使実務への示唆
日本法の下では、発明者の誤記は権利成立の実体要件ではなく、米国法のように直ちに特許無効事由とはならない。このため、実務上は軽視されがちである。実際には、発明行為に関与していない上司や研究室の教授が共同発明者として記載されている例や、本件のように下請企業の従業員が記載されていない例も、決して稀ではない。
日本法では、このような発明者誤記は特許を受ける権利の帰属問題として処理される。すなわち、特許権者企業の外部に共同発明者が存在する場合には、特許法123条1項6号(特許を受ける権利を有しない者による出願)として無効理由となり得る。一方、共同発明者が同一企業の従業者であり、事前に特許を受ける権利の使用者への承継が定められている場合には、一部の共同発明者が欠落していたり、発明に寄与していない者が発明者として記載されていたりしても、特許の無効理由とはならない。この場合、真の発明者の救済手段は、特許法35条に基づく相当の利益(補償)の請求等に限定される。
これに対し、米国特許法の下では、発明者の誤記は特許の無効に直結し、真の発明者の欠落や非発明者の追加が訂正されるまで、特許は無効とされる。共同発明者認定は事案ごとに行われ、誤りが生じやすいことから、256条(b)は訂正がなされれば無効とならないことを定めている。しかし、本判決が示すとおり、訂正要件である全ての関係当事者への通知および聴聞が充足されない限り訂正は認められず、その結果特許は無効となる。
このような最悪の結果を回避するためには、出願時において、協力会社、OEM/ODMメーカー、品質管理や試作段階の技術者等、誰がクレームに係る発明に関与したのかを徹底的に洗い出す必要がある。特に注意すべきは、米国特許法116条が、一緒に作業を行っていなくても、同等の量・質の貢献でなくても、全てのクレームに寄与していなくても共同発明者になり得るとする、充足容易な基準を採用している点である。CAFCはこの規定を解釈し、(1)少なくとも1つのクレーム構成要素に寄与し、(2)当該寄与が些細(insignificant)ではなく、(3)単なる周知技術や技術常識を超えるものである、という3要素を満たせば共同発明者に該当するとしている。また、発明完成(着想)前に他の発明者との協働関係が開始されていることが必要とされるが、この要件も発明者間の意思疎通で足りるとされる。これは、発明の本質的部分への創作的関与を要求する日本法の基準とは大きく異なる。
従って、米国出願または国際出願の米国国内移行の際には、発明者記載を再検討し、必要に応じて訂正や正しい発明者による継続出願を行うことが望ましい。さらに、クレーム補正や追加によって発明者の追加・削除が必要となる場合もあるため、特許許可通知受領時点での最終確認も重要である。
特許付与前であれば、特許法116条に基づき、誤りが意図的でないことを示し、原則として全共同発明者の宣誓書を提出することで訂正が可能である。連絡不能な発明者がいる場合でも、その者が真の発明者であることおよび宣誓取得不能の合理的理由を説明する代替宣誓書の提出によって追加が認められる。削除の場合には、他の発明者の宣誓が必要となる(USPTO規則1.48(a))。継続出願の場合には、正しい発明者による宣誓とともに新たな出願を行うこととなり、親出願が放棄されても継続出願には影響しない。国際出願についても、米国国内移行時の発明者訂正は比較的柔軟に認められている。
付与前の発明者訂正が行政的・柔軟な出願管理手続であり、連絡不能者がいても対応可能であるのに対し、付与後の訂正は裁判手続を伴う厳格な救済に限られ、要件を満たさない場合には特許は無効に直面する。本判決が示すとおり、その要件には、追加・削除される共同発明者やその権利譲受人など、地位に影響を受ける全ての関係者への通知および聴聞が含まれ、連絡不能者が存在する場合には訂正は不可能となる。
発明者の誤記は、本件のように、権利行使段階での発明者デポジションや被疑侵害者による調査によって顕在化し、特許無効や欠落発明者によるライセンス抗弁として用いられることが多い。これを防ぐためには、権利行使前のデューデリジェンスとして共同発明者の再確認を行うことが不可欠であり、併せて職務発明の相当利益支払義務との関係からも、従業員退職後の連絡先管理を含む特許管理体制の整備が強く求められる。
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