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【モビリティブログ】改正地域交通法の要点と実務対応 ―「交通空白」による年間約10兆円の経済損失の解消に向けて―
2026.07.10
令和8年6月3日、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正地域交通法」といいます。)が成立し、年内に施行されます。
改正地域交通法により、スクールバスやホテル送迎バスなど、地域で送迎に利用されている車両やドライバーを活用する「自動車地域旅客運送サービス再構築事業」が創設され、また、交通事業者等に対し、自治体によるモビリティデータ提供要請に対する応諾義務が課されることとなりました。
本稿では、改正地域交通法が制定された背景に加え、自治体や民間事業者等においてどのような実務対応が求められるのかを、令和6年12月末まで国土交通省総合政策局モビリティサービス推進課に在籍し、国土交通省の「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」及び「交通空白」解消本部に関与し、現在も、国土交通省デジタルアドバイザー(法務)として国土交通省行政に関与している当職の経験も踏まえ、解説します。
法改正の背景(「交通空白」が与える年間約10兆円の経済損失)
国土交通省の調査[1]によると、「交通空白」(誰もがアクセスできる移動の足がない又は利用しづらいなど地域交通に係るお困りごとを抱える地域)が、全国に2,740地区存在しています[2]。
特に地方部では、通院・通学・買い物といった基本的な生活行動すら移動手段なくしては成り立たない状況が生じ、「交通空白」が地域の活力低下の主要因の一つとなっており、「交通空白」が地域・個人に与える経済的損失は年間約10兆円に上ると試算されています[3]。
国における議論状況(リ・デザイン実現会議等の設置)
こうした状況を踏まえ、政府は、「交通空白」解消に向けて、バスやタクシーなどの交通事業者だけでなく、スクールバスやデイサービス送迎車両などの地域の輸送資源をフル活用するため、令和5年9月、「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」を設置しました。同会議は、国土交通大臣が議長を務め、文部科学省や厚生労働省をはじめとする13の関係省庁の局長クラスが構成員となる会議体で、スクールバス等の輸送資源の共同化・協業化が議論されました。
この会議体はその後、「交通空白」解消本部へと発展的に吸収され、同本部が令和7年5月30日に示した取組方針において、令和7年度〜9年度の3カ年で「交通空白」を埋めることを掲げるとともに、「交通空白解消に向けた持続可能な体制づくり」が必要との共通認識がもたれました。そして、令和7年12月26日に、交通政策審議会地域公共交通部会が公表したとりまとめにおいて、改正地域交通法の枠組みが示されました。
改正の主なポイント(3つの柱)
(1)自動車地域旅客運送サービス再構築事業
既存の地域公共交通を維持するため、自治体が主導して運送主体を選定・あっせんする仕組みとして、自動車地域旅客運送サービス再構築事業が創設されました。同事業は、バス・タクシー・公共ライドシェアといった既存の交通事業者が廃止・減便する際、自治体が新たな運送主体を選定し、教育・医療・福祉・商業施設等に対し、運送主体への協力をあっせんし、車両やドライバーなどの提供を受けることで、既存の交通サービスを維持することを目的とするものです。当該事業は、国土交通大臣の認定を得ることで、道路運送法上、必要となる休廃止の届出や許可・登録が不要になるといった、特例措置を受けることができます(改正地域交通法2条12号、26条の3から26条の6)。

(国土交通省「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律案の概要」より抜粋。以下、(2)及び(3)も同様)
(2)モビリティデータ提供義務
自治体は、地域公共交通に関する法定計画を作成する際、交通事業者等に対し、モビリティデータ(交通系ICのデータや運行明細等)の提供を要請でき、交通事業者等は、正当な理由がある場合を除き、これに応じる義務が課されました(改正地域交通法28条)。「正当な理由」とは、「交通事業者等の経営や営業に不利益を与える場合」等が想定されています。

(3)連携促進団体
関係者間の連絡調整・連携を担いつつ、地域公共交通計画の作成等に関与する企業・団体が、「連携促進団体」として法制度上位置づけられました(改正地域交通法6条2項4号、7条1項3号)。連携促進団体は、法定協議会への参画権及び計画提案権が付与され、地域公共交通計画の策定・実施において重要な役割を果たすこととなります。なお、地域公共交通計画作成のみの支援を行う場合には、「連携促進団体」に該当しないため、注意が必要です。

自治体及び民間事業者において求められる実務対応
(1)制度に関する知識習得
改正地域交通法の下では、交通事業者に留まらず、多様な関係者が地域交通を担うプレイヤーとして関与することとなり、また、自治体内部においても、交通部局が、他部局と連携して施策を検討していく必要があります。これまで、地域交通に直接関与していない関係者が増えるため、関係者において、道路運送法等の地域交通に関する制度を適切に理解したうえで連携を進めていくことが重要となります。
そこで、国土交通省は、地域の公共交通リ・デザイン実現会議での議論を踏まえ、教育・介護・福祉・医療・農泊などの分野ごとに、地域交通に関して留意すべき制度等をまとめた7つの通達を、令和6年6月から令和7年6月にかけて、関係省庁連名で発出しました。例えば、文部科学省と連名で発出した通達では、スクールバスを「地域の輸送資源」と捉えると明記されており、実際にスクールバスを地域交通として活用する際の留意点(PTAとの連携等)も記載されるなど、自治体の交通部局が他部局を巻き込む“ツール”としての活用も期待されます。
(2)コンプライアンス体制の構築
施設を運営する事業者は、自動車地域旅客運送サービス再構築事業として、福祉施設や宿泊施設等の送迎用の車両やドライバーを地域の運送サービスに提供するよう求められる場面が想定されるところ、これらの提供にあたっては、労務管理や、自動車保険の付保範囲等を事前に整理することが重要です。特に、ドライバーを提供する場合には、以下の点について、留意が必要です。
- 業務委託契約に基づく場合
偽装請負とならないよう、指揮命令関係を整備すること - 雇用契約に基づく場合
複数事業者で労働時間の通算管理が必要となること
(3)データ提供契約の締結
改正地域交通法に基づき、交通事業者等が自治体に対してモビリティデータを提供する場面が増えることが見込まれますが、どのデータを、どのような形で提供するのか、また、誰が・どのように管理し、どのような目的・範囲で利用されるのか、といった点を取り決めておくことが重要です。特に、生データのままでは自治体も扱いづらいため、データを加工することも想定されるところ、加工方法や加工費の負担等も含めて事前に当事者間で確認し、データ提供契約を締結しておく必要があります。なお、データ提供契約について、国土交通省が、公共ライドシェアに関するデータ提供契約のひな形(「公共交通空白地有償運送事業におけるデータ提供に関する特約(テンプレート)」)を公開しているため、ご参考ください。
まとめ
今般の改正地域交通法は、「交通空白」解消に向けて、自治体が主導し、交通事業者・連携促進団体・施設送迎者など多様な関係者が協働することで、持続可能な地域交通の実現を目指すものです。
特に、データ提供に係る応諾義務や施設送迎者の協力義務は、コンプライアンス体制に直接的な影響を与えるものですので、制度面の知識習得に加え、契約書の整備、労務管理体制の検討など、早期の対応が求められます。
これらの対応についてお悩みの場合には、お気軽にご連絡ください。
[1] 国土交通省「「交通空白」解消に向けた取組方針2026」(令和8年6月10日)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/002005758.pdf
[2]具体的な地区は以下を参照
国土交通省「交通空白」等リストアップ一覧表【地域の足】」(令和8年5月15日集計)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/002005736.pdf
国土交通省「交通空白」等リストアップ一覧表【観光の足】」(令和8年5月15日集計)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/002005737.pdf
[3] EYストラトジー・アンド・コンサルティング株式会社「「交通空白」解消はまさに成長投資:年間約10兆円の経済・社会的損失」
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