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銀行子会社による事業承継支援(令和8年6月銀行法施行規則改正を踏まえて)
2026.08.04
はじめに
銀行の特定子会社(いわゆる投資専門子会社)が事業承継ファンドを組成して事業承継会社に資金供給することにより当該会社の事業承継を支援することは、広く行われているところ、令和8年6月15日に銀行法施行規則が改正・施行され(以下、この改正を「本改正」という。)、特定子会社による資金供給に関する要件が緩和された。
本稿では、特定子会社による事業承継会社への資金供給の要件についてあらためて概観したうえで、銀行法施行規則の改正の内容について説明する。
なお、以下、銀行法は「法」と、銀行法施行規則は「規則」と記載する。
銀行の子会社規制・議決権保有規制の概要
銀行は、法16条の2第1項各号に掲げる会社(以下「子会社対象会社」という。)以外の会社を子会社としてはならない(法16条の2第1項柱書)。銀行持株会社も、同様である(法52条の23第1項)。
銀行又はその子会社は、国内の会社(子会社対象会社を除く。)の議決権については、合算して、基準議決権数(5%。銀行持株会社については15%。)を超える議決権を取得し、又は保有してはならない(法16条の4第1項。銀行持株会社については法52条の24第1項。)。したがって、銀行又は銀行持株会社による基準議決権数を超える出資も、原則として、子会社対象会社にしか行うことができない。
この点、議決権を持たない形式の出資であれば、子会社規制・議決権保有規制に法文上は抵触しない(注2)。但し、後述のとおり、特定子会社に関しては、業務範囲規制の観点からの検討が必要である。
(注2)銀行法においては、子会社とは、「会社がその総株主等の議決権の百分の五十を超える議決権を保有する他の会社をいう」とされており(法2条8項)、会社法等とは異なり、実質支配による基準は採用されていない。もっとも、監督指針においては子法人等(銀行法施行令4条の2第2項)及び関連法人等の業務範囲等についても子会社と同様の業務範囲規制が定められているため、留意が必要である(主要行等向けの総合的な監督指針V-3-3)。なお、子法人等及び関連法人等該当性については、実質支配による基準により判断される(銀行法施行令4条の2第2項及び第3項)。
事業承継会社への出資の要件
上記の子会社規制・議決権保有規制において、特定子会社を通じた、事業承継会社の子会社化・基準議決権数を超える議決権保有は、10年に限り可能とされている。
(1) 事業承継会社とは
ア 事業承継会社の定義
銀行は、「代表者の死亡、高齢化その他の事由に起因して、その事業の承継のために支援の必要が生じた会社であって、当該事業の承継に係る計画に基づく支援を受けている会社」を子会社とすることができる(法16条の2第1項13号、規則17条の2第6項10号。銀行持株会社については法52条の23第1項12号、規則34条の16第4項1号。)。この会社が、いわゆる事業承継会社である。
本改正により、事業承継会社には、上場会社を含むこととされた(規則17条の2第6項柱書括弧書。銀行持株会社については規則34条の16第4項柱書括弧書。)。
但し、法16条の2第1項13号において、規則17条の2第7項の要件に該当しない会社については、銀行又は特定子会社以外の子会社が合算して基準議決権数を超える議決権を保有していない会社である必要があるとされている(銀行持株会社については法52条の23第1項12号、規則34条の16第5項。)。事業承継会社は、当該要件に該当しない会社であるため(規則17条の2第7項柱書括弧書。銀行持株会社については規則34条の16第5項柱書括弧書。)、事業承継会社に対しては、銀行又は銀行持株会社本体から基準議決権数を超える出資をすることはできず、特定子会社を通じて出資を行う必要があることになる。
イ 事業の承継の意義
・「代表者の死亡、高齢化その他の事由に起因して、その事業の承継のために支援の必要が生じた会社」
「代表者の死亡、高齢化」は、事業承継の発生事由の例示として規定されており、「その事業」における「その」とは、代表者が営む事業をいう(注3)。したがって、たとえば代表者が若年であったとしても、「高齢」ではないことのみを理由として直ちにこの要件を満たさないわけではなく、代表者が営む事業の承継のために支援の必要があれば足りると考えられる。
・「当該事業の承継に係る計画に基づく支援を受けている会社」
「当該事業の承継に係る計画」について、支援者による特定の関与は求められていないが、計画の実現可能性の観点やそもそも支援が必要な会社でその会社への出資が目的であることから、関係する金融機関などの一定の関与があることが望ましい(注4)。
(注3)「銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令(案)等に関するパブリックコメントの結果等の公表について」(令和元年10月15日)別紙1・No.12、No.13、No.14)。
(注4)同No.15
(2) 特定子会社とは
特定子会社とは、従属業務及び金融関連業務を専ら営む会社で、次に掲げる業務及びこれらに附帯する業務を専ら営む会社をいう(法16条の2第1項12号、規則17条の2第14項。銀行持株会社については法52条の23第1項11号、規則34条の16第12項。)。「専ら」は多義的な用語であるが、ここでは、次に掲げる業務及びこれらに附帯する業務以外の業務は一切営まないという趣旨であると解されている(注5)。なお、次に掲げる業務の複数を兼営することは可能である。また、本改正により、3号が追加され、特定子会社がM&A仲介業務を行うことが認められた。
| 一 規則17条の3第2項12号に掲げる業務 二 他の事業者等の経営に関する相談の実施、当該他の事業者等の業務に関連する事業者等又は顧客の紹介その他の必要な情報の提供及び助言(前号に掲げる業務による資金の供給を受け、又は受けることが見込まれる国内の会社その他の団体に係るものを主として行うものに限る。) 三 規則17条の3第2項14号の3に掲げる業務 |
この点、規則17条の3第2項12号について、本改正前は、特定子会社がGPとなってファンド運営を行うことは可能であるとは解されていたものの(注6)、特定子会社は「他の株式会社に対しその事業に必要な資金を供給する業務」しか行うことができず、対象となる行為も限定されていたため、子会社規制・議決権保有規制とは別に、この業務範囲規制の観点から、株式会社に対する、限られた方法による資金供給しか行うことができなかった。
本改正後は、特定子会社は、以下のとおり、「他の国内の会社その他の団体に対しその事業に必要な資金を供給する業務」が行えるようになり、対象となる行為も拡張された。したがって、合同会社に対する出資や、匿名組合出資、信託受益権の取得等による資金供給も行うことができるようになった。但し、金融庁のパブリックコメント回答によれば、「会社その他の団体」は国内のものに限られるため、外国の株式会社や外国のLLC等に対する投資は、引き続き特定子会社を介して行うことはできない(注7)。このパブリックコメント回答からすると、同号への改正により、外国における組合契約等を締結することは可能となったが、その資金の供給先はあくまでも国内の団体である必要があると考えられる。
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(本改正後) |
(本改正前) |
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十二 次に掲げる行為により他の国内の会社その他の団体に対しその事業に必要な資金を供給する業務 |
十二 次に掲げる行為により他の株式会社に対しその事業に必要な資金を供給する業務 |
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イ 当該団体に対し資金の貸付けを行うこと。 |
イ 当該会社に対し資金の貸付けを行うこと。 |
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ロ 当該団体の発行する社債(法第十条第三項第一号に掲げる短期社債を除く。)を取得すること。 |
ロ 当該会社の発行する社債(法第十条第三項第一号に掲げる短期社債を除く。)を取得すること。 |
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ハ 当該団体の発行する新株予約権を取得すること。 |
ハ 当該会社の発行する新株予約権を取得すること。 |
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ニ 株式等に係る配当を受け取ること又は株式等に係る売却益を得ることを目的として当該団体の株式等を取得すること。 |
ニ 株式に係る配当を受け取ること又は株式に係る売却益を得ることを目的として当該会社の発行する株式を取得すること。 |
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ホ 当該団体の発行する信託の受益権を取得すること。 |
(新設) |
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ヘ イからホまでに掲げるいずれかの行為を行うことを目的とする民法第六百六十七条第一項に規定する組合契約、商法第五百三十五条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約若しくは有限責任事業組合契約に関する法律第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約又は外国におけるこれらの契約に類する契約を締結すること。 |
ホ イからニまでに掲げるいずれかの行為を行うことを目的とする民法第六百六十七条第一項に規定する組合契約又は投資事業有限責任組合契約に関する法律第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約を締結すること。 |
なお、事業承継会社が子会社対象会社として扱われるのは、原則として、特定子会社が議決権を取得してから10年間に限られる(規則17条の2第12項。銀行持株会社については規則34条の16第10項。)。
(注5)「平成20年金融商品取引法等の一部改正に係る政令案・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」(平成20年12月2日)別紙1・67頁No.19
(注6)「平成27年金融商品取引法改正等に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」(平成28年2月3日)別紙1・No.527
(注7)「銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果等について」(令和8年6月12日)別紙1・No.12、No.18
まとめ
以上のとおり、本改正により、銀行の特定子会社は、上場会社である事業承継会社や、株式会社以外の国内の団体に対しても、資金供給を行うことができるようになった。
これにより、事業承継支援の領域における銀行グループの一層の活躍が期待される。
本稿が、銀行グループによる、あるいは銀行グループと協働する、事業承継会社支援の検討の一助になれば幸いである。
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