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【金商法業規制ブログ】令和8事務年度の金融商品取引業者等に対する当局の証券モニタリングにおける主な検証事項~監視委「令和8事務年度 証券モニタリング基本方針」の解説~(第1回)
2026.08.07
はじめに
証券取引等監視委員会(以下「監視委」といいます。)は、2026年7月31日付で、「令和8事務年度 証券モニタリング基本方針」(以下「令和8事務年度方針」といいます。)を公表しました。
監視委は例年、金融商品取引業者等(以下「金商業者等」といいます。)に対する検査及びモニタリング(以下「証券モニタリング」といいます。)の主な検証事項等を「証券モニタリング基本方針」として取りまとめ公表しており、令和8事務年度方針は2026年7月から2027年6月までの期間を対象としています。
本稿では、令和8事務年度方針で記載されている金商業者等に対する証券モニタリングの主な検証事項等を、令和7事務年度(昨事務年度)の証券モニタリング基本方針(以下「令和7事務年度方針」といいます。)との相違点や、令和8事務年度方針と同日に公表された「令和7事務年度証券モニタリング概要・事例集」(注1)の記載内容等を踏まえて、わかりやすく解説します。
(注1)監視委は、事務年度毎に、金商業者等に対する検査を通じて把握した問題点や、モニタリングに係る取組等を「証券モニタリング概要・事例集」として公表しています。「令和7事務年度証券モニタリング概要・事例集」は、2025年7月から2026年6月末までの期間を対象としています。
令和8事務年度方針の概要
令和8事務年度方針は、昨事務年度と同様に、金商業者等に対する証券モニタリングの主な検証事項等を、以下の図のとおり、「業態横断的な検証事項」と「規模・業態別の主な検証事項」の二つに分けて記載しています。

※ 監視委ホームページより引用(https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2026/2026/20260731-2/02.pdf)
「業態横断的な検証事項」について
以下の4つの検証事項が記載されています。
(1) 顧客の最善の利益を勘案した業務運営や、適合性原則を踏まえた適正な投資勧誘状況等
具体的な検証事項が以下のように記載されています。
| ① 金商業者等が顧客の最善の利益を勘案し、顧客に対して誠実かつ公正に業務を遂行しているか ② 金融商品の多様化も踏まえ、 (ア)複雑又はリスクが高い商品の販売に係る対象顧客設定を実施しているか (イ)顧客属性に照らし顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明を実施しているか(顧客への情報提供に係るデジタル・リテラシーに応じた対応を含む) ③ 合理性のない短期の乗り換え勧誘行為が行われていないか ④ これらに関する社内ルールを適切に整備し、その遵守状況を適切にモニタリングしているか |
これらの検証事項は、令和7事務年度方針で言及されていた検証事項と概ね同じ内容となっています(注2)。令和8事務年度においても引き続き、顧客の最善の利益や適合性原則を意識した業務運営が求められていると考えられます。
(注2)②(イ)につき、令和7事務年度方針では、「顧客説明」という記載であったのに対し、令和8事務年度方針では、「顧客属性に照らし顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明」という形でより具体化された記載になっています。なお、「(顧客への情報提供に係るデジタル・リテラシーに応じた対応を含む)」という点は、令和7事務年度方針では「業態横断的な検証事項」の「ビジネスモデルの変化とそれに対応した内部管理態勢の構築」で記載されていました。
一方、令和7事務年度方針では、「銀証連携ビジネスにおける販売勧誘状況や顧客情報管理態勢等の内部管理態勢の整備状況」や「金融機関職員による不祥事案…の未然防止の態勢整備状況」が検証事項として記載されていましたが、令和8事務年度方針では記載されていません。
しかし、前者については、令和7事務年度の当局検査結果として、「銀証間における顧客同意取得前の非公開情報等の管理が不十分な状況」が内部管理態勢不備に係る指摘事項となっていること(注3)には留意が必要と考えられます。また、後者についても、保険会社、銀行、共同組織金融機関などで職員による金銭詐取、証券会社等の社員によるインサイダー取引といった事案が相次いでいる状況を意識しておく必要があると考えられます。
(注3)令和7事務年度 証券モニタリング概要・事例集13頁
(2) システムリスク管理の対応状況
金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」といいます。)やフロンティアAIによる脅威変化等を踏まえたシステムリスク管理が適切に行われているかにつき、重点的な検証を行うと記載されています。
① インターネット取引における不正アクセス・不正取引への対応
証券会社の偽サイト(フィッシングサイト)で窃取した顧客情報を悪用したインターネット取引における不正アクセス・不正取引が2025年3月頃から急増したことを踏まえ、インターネット取引における認証方法や不正防止策を強化するため、金融庁は2025年10月に監督指針を改正しました。
改正では、(ア)内部管理態勢の整備(不正アクセス等への対策を最優先の経営課題として位置づけること等)、(イ)セキュリティの確保(ログイン時等の重要な操作時におけるフィッシングに耐性のある多要素認証の必須化等)、(ウ)顧客対応(顧客に求められるセキュリティ対策の周知を含めた注意喚起等)といった着眼点が追加されました。
改正内容はパブリックコメント結果公表日に即日適用されていますが、対応に一定の時間を要することから、金融庁は、フィッシングに耐性のある多要素認証の必須化について基本的に2026年6月末までに各証券会社に対応することを求めていました(注4)。
令和8事務年度では、かかる監督指針の内容を踏まえたインターネット取引における不正アクセス・不正取引事案への対応が本格的に検証されることになると考えられます。なお、監督指針を踏まえたインターネット取引における不正アクセス・不正取引事案への対応は、証券会社以外の金商業者等も含めて行うべきものとされている点に留意が必要になります(注5)。
(注4)金融庁「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点(日証協、2025年7月15日開催)」
(注5)金融庁「「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」(2025年10月15日)におけるパブリックコメント回答11頁No28、12頁No30
② フロンティアAIによる脅威変化への対応
2026年5月、金融庁は日本銀行と共同で、金融機関等に対し、「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請を行いました(注6)。
当該要請においては、金融機関等に求められる短期的対応(大量の脆弱性への対応)として、以下の項目が挙げられており、AIモデル開発企業の活動状況を踏まえ、概ね1ヶ月程度を目途に対応を進めることが期待されるとしています。令和8事務年度は、かかる対応状況が重点的に検証されることになると考えられます。
| ① フロンティアAIへの対応を経営課題として扱う ② 優先的に対応すべきサービス/ITシステムを特定する ③ 特定した資産の技術負債を解消しておく ④ パッチ適用に係る人的リソースを追加する ⑤ ベンダーとの維持保守契約の内容を確認する ⑥ パッチ適用プロセスをリスクベースにする ⑦ パッチ適用以外の対策も強化する ⑧ 優先サービス/ITシステムの停止に備える ⑨ 外部との連携を維持・強化する |
(注6)金融庁総合政策局長ほか「「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請について」(2026年5月22日)
(3) マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CFT)に係る内部管理態勢の定着状況
令和7事務年度方針と同様に、マネロンガイドラインの「対応が求められる事項」に基づく態勢整備及び高度化の状況が具体的な検証事項として記載されています。
この点、マネロンガイドラインは2026年3月に改正されている点に留意が必要と考えられます(注7)。改正マネロンガイドラインでは、以下の点が、「対応が求められる事項」として追記あるいは格上げされています。
| ① 取引モニタリング・フィルタリングにおいて、検知した取引の疑わしさの度合いやマネロン・テロ資金供与リスクの動向等に応じて、適切なリスク低減措置を講ずること ② 新技術の活用 ③ マネロン・テロ資金供与リスク管理に係る業務の外部委託先の態勢の検証 |
(注7)金融庁「「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」(2026年3月31日)
(4) 内部管理態勢の実効性確保に係る取組状況
具体的な検証事項が以下のように記載されています。
| ① 投資者の保護やコンプライアンス等に関する重大な問題発生の有無にかかわらず、個別金商業者等の特性や業容に応じた実効性のある内部管理態勢が構築されているか検証を行う ② 主要株主や経営体制の変更等に応じてビジネスモデルが変更されている場合、本店の所在地と実質的な業務運営拠点が異なる場合などは、ガバナンスの有効性の観点から検証を行う ③ 内部監査の結果及び自主規制機関の監査等で指摘された事項についても経営陣が当該監査等の重要性を十分認識し、実効性のある改善策及び再発防止策に積極的に取り組んでいるか検証を行う |
①につき、令和7事務年度方針では、ビジネスモデルの変化や継続にフォーカスを置き、内部管理態勢の構築を検証すると記載されていました。令和8事務年度方針では、ビジネスモデルの変更・継続といった状況にとらわれることなく、個別金商業者等の特性や業容に応じた実効的な内部管理態勢が構築されているかを検証するように読み取れます。
②は、令和7事務年度方針の記載ぶりと若干異なる点はあるものの、概ね同様の内容と考えられます。③は、令和7事務年度方針では別の検証事項として記載されていた内容が、本検証事項に統合されたものと思われます。
「規模・業態別の主な検証事項」については、(第2回)において解説します。
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