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【中国】中国におけるデータ財産権登記制度
2026.08.10
概説
2026年7月1日に、中国の国家データ局から、「データ財産権登記業務ガイドライン(試行)(以下「本ガイドライン」といいます。)」が公表され、全国統一のデータ財産権登記制度の方向性が示されました[1]。
2022年12月2日に公表された「データ基盤制度の構築とデータ要素の役割をより良く発揮させるための意見(データ20条と呼ばれます)[2]」において、データ財産権登記制度が提唱されて以降、地方レベルでそれぞれ異なるデータ財産権登記制度が試験的に行われていましたが、本ガイドラインにより、全国統一のデータ財産権登記制度の方向性が示され、推進されることになります。
AIやデジタル経済の発展に伴い、データは企業にとって重要な経営資源となっていますが、データの生成と処理には、複数の当事者が関与することが多いため、データの帰属が曖昧になりやすく、紛争が増加しています。データ財産権登記制度は、データ資産の内容や帰属を公示することで、取引を促進し、紛争を防止する仕組みとして機能することになります。
本稿では、データ財産権登記制度の意義、登記申請手続、その活用方法について解説します。
[1] 中国語名:数据产权登记工作指引(试行)(https://www.nda.gov.cn/sjj/zwgk/zcfb/0704/20260703230745065425855_pc.html)
[2] 中国語名:构建数据基础制度更好发挥数据要素作用的意见(https://www.gov.cn/zhengce/2022-12/19/content_5732695.htm)
中国におけるデータの権益保護
2021年1月1日から施行されている中国の民法典では、「データ及びネットワーク上の仮想財産の保護について、法律に規定がある場合はその規定に従う。」と規定しています(民法典第127条)。中国では、データの権利を規定する専門的な法律は制定されていませんが、著作権法と不正競争防止法によって、データの権益が保護されています。
データの内容の選択、配列において独創性あるデータベースである場合は、「編集著作物」として著作権法により保護することができます(著作権法第15条)。
また、データが、公衆に知られておらず、商業的価値を有し、かつ権利者によって適切な秘密保持措置が講じられている技術情報、経営情報その他の商業情報である場合は、「営業秘密」として、不正競争防止法によって保護することができます(不正競争防止法第10条)。
そして、不正競争防止法では、2025年10月15日から施行された改正法において、「事業者は、詐欺、脅迫、技術的管理措置の回避又は破壊等の不正な手段を用いて、他の事業者が合法的に保有するデータを取得・利用し、他の事業者の正当な権益を侵害し、市場競争秩序を乱してはならない」というデータ侵害に関する不正競争行為が規定されています(不正競争防止法第13条第3項)。
この他、不正競争防止法第2条では、「事業者は、生産・経営活動において、自発、平等、公平、誠実の原則に従い、法律及び商業道徳を遵守しなければならない」という一般条項を規定しています。日本法では、労力がかけられていて権益を保護する必要があるが、現状の知的財産権で保護する手段がないような場合には、民法の一般不法行為で主張することが通常ですが、中国の司法実務においては、このような場合に、不正競争防止法の一般条項で主張することが多く、AIやデータなどの先端訴訟において重要な論点になります。
データ財産権登記とは
中国では、データの権利を登記により公示しようとする試験的な取り組みが行われており、国家知的財産権局が主導するデータ知的財産権登記制度と国家データ局やデータ取引所が主導するデータ財産権登記制度がそれぞれ行われています。
データ知的財産権登記制度は、北京、上海、深圳等の地方レベルでそれぞれ制度が運用されています。データ財産権登記制度も、地方レベルでそれぞれ制度が運用されていましたが、今回、全国統一の制度が始まることになりました。
データ財産権登記とは、データ財産権の登記機関が本ガイドラインに基づき、データの記述、出所、権利内容等を審査し、データの権利帰属等の情報を記載し、登記証を発行する制度です。
「データ財産権」とは、権利者が特定のデータに対して有する財産的権利をいい、以下の3つの権利が含まれます(本ガイドライン第3条第1項)。
「データ保有権」。これは、権利者が自ら保有するか、又は他者に委託して保有する、合法的に取得したデータに対する権利をいいます(本ガイドライン第3条第2項)。
「データ使用権」。これは、権利者が加工、集約、分析等の方法を通じて、データを生産・経営の最適化や派生データの形成などに利用する権利をいいます(本ガイドライン第3条第3項)。
「データ経営権」。これは、権利者が譲渡、許諾、出資、又は法に基づき担保を設定するなどの有償又は無償の方法で、対外的にデータを提供する権利をいいます(本ガイドライン第3条第4項)。
データ財産権登記の活用場面
データ財産権登記証を取得することでどのような活用が可能になるのでしょうか。
本ガイドラインは、法律、行政法規のレベルではなく、データに関する新たな権利を創設するものではありませんが、本ガイドラインでは、以下の場合に、データ財産権の帰属と内容を証明するためにデータ財産権登記証を用いることができるとしています(本ガイドライン第31条第1項)。
① データ流通取引において、データ財産権の証明として用いる
② データ資産の貸借対照表への計上、担保融資、出資等において、データの所有と管理の適法性の証明として用いる
③ データに関する紛争の解決において、権利の帰属を認定する証拠として用いる
④ データ企業の育成・認定等の支援策において、企業のデータの状況を判断するための証拠として用いる
①データ流通取引については、データのライセンスや譲渡契約を締結する場合に、データ財産権を証明するためにデータ財産権登記証を添付することが考えられます。中国では、2015年に初めて、貴州でデータ取引所が設立されて以降、北京、上海、深圳等でもデータ取引所が設置されて、データ取引が行われており、データ財産権登記証は、データ財産権を証明し、データ取引を促進するための法的な基盤として機能しています。
②貸借対照表への計上については、2024年1月1日から施行された、中国の財政部による「企業データ資産関連会計処理暫定規定[3]」により、データ資産の会計処理に適用される基準が示され、「予期される経済的利益の流入」及び「原価の信頼性のある測定」という要件を満たした上で、データ資産を貸借対照表において、内部利用目的は無形資産として、外部販売目的は棚卸資産として計上する試みが、A株上場企業(特に国有企業)を中心に行われています。
上海交通大学上海高級金融学院が公表した「中国企業データ資産計上追跡報告(2025年)」によれば、2026年4月30日時点において、中国のA株市場には計5000社を超える上場企業が存在しますが、2025年の年次報告書においてデータ資産の貸借対照表計上に関する事項を開示した上場企業は計136社にとどまります[4]。
また、中国では、データの資産価値を評価して、担保融資や現物出資を行う取り組みも増えてきており、2026年5月1日には、「情報技術 ビックデータ データ資産価値評価[5]」という国家標準が施行されています。
中国の日系企業において、データ流通取引、データ資産の貸借対照表の計上、担保融資、現物出資を行う事例はほとんど見られませんが、③データの権益に関する不正競争防止法、著作権法の訴訟事件において、データの権益の内容や帰属について証明するための手段として活用することは考えられます。
データ知的財産権登記証の事例ですが、中国の裁判所が、データ知的財産権登記証について、原告がデータセットに対する財産的利益を有していること及びデータの取得方法が適法であることを認める「初歩的な証拠」になると判断した裁判例もあります[6]。初歩的な証拠とは、立証責任を転換して、反証がない限り、証明しようとする内容を認定する証拠を意味します。
当該事案において、原告は、ウェブサイトで、AIモデルの学習用の音声データセットを公開し、「データ知的財産権登記証」を取得していましたが、当該音声データセットが後に被告によって不正に取得され、同社の公式サイトで拡散されたとして、自社のデータ知的財産権、著作権、営業秘密を侵害し不正競争を理由に北京インターネット裁判所に訴訟を提起しました。
北京知的財産権法院での二審判決では、データ知的財産権登記証を原告がデータセットに対する財産的利益を有していること及びデータの取得方法が適法であることを証明する「初歩的な証拠」になると認定し、当該データセットは原告が自主的に公開したことで非公知性を喪失したため営業秘密に該当せず、またデータセットの選択・編纂に独創性が欠けるため編集著作物にも該当しないと判断しましたが、原告がデータセットに実質的な労力を投入し、商業的価値を有する音声データを形成した点について、この商業的利益は不正競争防止法が保護する競争的権益に該当すると判断しました。
そして、原告の許可なく被告が行った行為は、データサービス分野における商業倫理に違反し、原告の合法的な権益及び消費者の権益を損ない、データサービス市場における競争秩序を混乱させているため、不正競争防止法第2条(一般条項)の不正競争行為に該当すると認定しました。
上記の裁判例は、データ知的財産権登記証のものですが、本ガイドラインの規定からすれば、データ財産権登記証も同様の機能を果たすことが考えられます。
[3] 中国語名:企业数据资源相关会计处理暂行规定(https://www.gov.cn/gongbao/2023/issue_10746/202310/content_6907744.html)
[4] 上海高級金融学院ウェブサイト(https://www.saif.sjtu.edu.cn/show-107-7000.html)
[5] 中国語名:信息技术 大数据 数据资产价值评估(https://openstd.samr.gov.cn/bzgk/std/newGbInfo?hcno=8173F6D7E7A03FB87621EEEE254EDDDE)
[6] (2024年)京73民終546号民事判決(https://www.cnipa.gov.cn/art/2024/7/26/art_55_193979.html)
登記申請手続
現在の登記システムは、地方の制度ごとに分散していますが、登記結果等を集約し、統一的なデータ財産権登記の公示、登記結果の照会・確認等のサービスを提供し、登記機関の管理等を支援する全国レベルのデータ財産権登記サービスシステムができることになります(本ガイドライン第6条)。
「登記機関」は、国のデータ管理部門によって、データ財産権登記業務を行う法人が選定・確定され、全国データ財産権登記機関リストが作成されます(本ガイドライン第3条第6項)。
データ財産権登記は、申請、受理、審査、公示、異議処理、証拠保全、証書交付等の手続によって行われます(本ガイドライン第14条)。
登記の種類は、初回登記、譲渡登記、変更登記、更新登記、抹消登記があります(本ガイドライン第32条)。
データ財産権登記の手続は、申請を受理してから10営業日以内に完了しなければなりませんが、特別な事情がある場合、さらに10営業日まで延長することができます(本ガイドライン第28条)。
登記申請者は、登記申請書に加え、データの出所、データ財産権の帰属等を証明する資料を提出しなければなりません(本ガイドライン第16条)。
例えば、初回登記の申請書の記載事項は以下のとおりです。
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登記申請者情報 |
申請者名 |
登記申請者の正式名称を記入する。複数人又は複数の主体が共同で申請する場合は、各申請者の名称を順に記入する。 |
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申請者の種類 |
登記申請者の法的属性に応じて選択する。複数人又は複数の主体が共同で申請する場合は、各申請者の種類をそれぞれ選択する。 |
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身分証明書番号 |
登記申請者の身分証明書番号又は統一社会信用コードなどを記入する。複数人又は複数主体が共同で申請する場合は、各申請者の身分証明書番号を順に記入する。 |
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連絡先 |
登記申請者に連絡が取れる、普段連絡を取っている担当者の氏名を記入する。 |
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電話番号 |
登記申請者の電話番号を記入する。固定電話の場合は市外局番を、海外番号の場合は海外の地域コードを付加する。 |
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連絡先住所 |
登記申請者の連絡先住所の詳細を記入する。 |
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経営状況 |
登記申請者の法定代表者、登記日、登記住所、営業期間、事業範囲/業務範囲、存続状況等を記入する。 |
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データ |
データ |
「時期、地域、業種、内容、データの類型」の順に記入し、40文字以内とする |
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データ |
登記データの概要(機能、形態、用途など)を400字以内で記入する。 |
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所属 |
データが属する業界分類を記入する。GB/T 4754『国民経済業界分類』の部門及び大分類の名称を使用する。 |
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データ |
例:収集・生成/自動化プログラムによる公開データの収集/協定による取得/派生・作成。 |
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地域 |
データの出所となる地域に基づいて、地域範囲を記入する。 |
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時間的範囲 |
データがカバーする時間範囲。 |
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更新 |
例:毎日更新/毎週更新/毎月更新/毎年更新/オンデマンド更新/リアルタイム更新/その他。 |
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データ量 |
データの規模と量を入力する。 |
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データ |
例:データは画像/テキスト/動画/音声/表/その他の形式であり、構造化/半構造化/非構造化データである。 |
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制限範囲 |
データの使用制限又は禁止事項について簡潔に記述する。 |
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権利設定に関する説明 |
データの所有権に関連する権利主体(登記申請者を含む)の名称、統一社会信用コード、権利の種類、権利の有効期間、権利の制限について記述し、関連する証明書類を提出する。 |
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登記機関は、データ財産権の登記申請を受理した後、データの記述の正確性、データの出所の適法性、データ財産権の明確性等について審査を行います(本ガイドライン第18条)。
登記拒絶事由として、以下の事項が列挙されています(本ガイドライン第22条)。積極的な登記要件を定めるというより、登記ができない消極的な要件を定めています。
① データの登記が、国家の安全、公共の利益、又は個人・組織の合法的権益を害するおそれがある場合
② データの出所が法令の規定に違反している場合
③ 未解決のデータ所有権に関する紛争が存在する場合
④ 登記申請者が実情を隠蔽し、又は虚偽の証明を提出した場合
⑤ 法令により登記を認めないものと規定されているその他の事由
登記しない事由に該当しない場合、登記機関は、登記申請者の情報、データ名称、データ概要、権利制限の記載等を、国家データ財産権登記サービスシステムにおいて5営業日の間、公示します(本ガイドライン第24条)。
公示内容に対しては、異議を申し立てることができ、異議申立てを受領してから10営業日以内に処理決定が行われます(本ガイドライン第25条)。
登記機関は、国家データ財産権登記サービスシステムにおいて、登記過程における重要事項および登記結果(登記申請者の基本情報、データの基本状況、権利の内容、権利の制限等)が証拠として保存されます。データ財産権登記証書の効力は証拠として保存された日から5年を超えることができませんが、更新することができます(本ガイドライン第26条)。
また、登記機関から、登記完了後に、以下のような登記証明書が発行されます(本ガイドライン第27条)。
データ財産権登記証サンプル(本ガイドライン添付6)

データ財産権登記に所有権の争い又は登記上の誤りがあると認めるときには、国家データ財産権登記サービスシステムを通じて、申請書と初歩的な証拠等の資料を提出して異議申立てを行うことができます(本ガイドライン第29条第1項)。
登記機関は、登記申請者及び異議申立人に対し、調査への協力を求め、異議処理の結論を提示することができますが、登記申請者と異議申立人が結論に同意しない場合は、調停、仲裁、訴訟により解決されることになります(本ガイドライン第29条第4項、第5項)。
中国の日系企業における活用
今後、全国レベルのデータ財産権登記制度がどのように運用されるのか、裁判実務においてどのように証拠として認定されるのか、また、データ知的財産権登記制度も全国レベルの制度が導入されるのか、データ知的財産権登記制度とデータ財産権登記制度の関係がどうなっていくのかが注目されます。
上記のとおり、以前から試験的に運用されていましたが、データ知的財産権登記制度とデータ財産権登記制度という異なる制度が存在し、かつ、地方ごとに制度が異なっていたこともあり、中国の日系企業において、データ知的財産権登記又はデータ財産権登記を行っている事例は、筆者の知りうる限りほとんどないのが現状です。
中国の日系企業において、データ流通取引、データ資産の貸借対照表の計上、担保融資、現物出資を行う状況もあまり多くないかもしれませんが、データの権益に関する不正競争防止法、著作権法の訴訟事件において、データの権益の内容や帰属について証明するための手段として活用することは考えられるため、全国レベルの制度導入に際して、データ財産権登記の申請を行うことも考えられます。
また、中国企業からデータ提供を受ける契約を締結する場合や、データを活用するビジネスモデルの中国企業の法務調査(デューデリジェンス)を行う際に、データ財産権登記を確認することもより重要になると考えられます。
以上
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