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「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」令和8年改正の公表
2026.09.01
はじめに
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(以下「生命・医学系指針」という。)は、日本の研究者等により実施され、または日本国内において実施される人を対象とする生命科学・医学系研究を対象とする倫理指針であり、公的研究費の給付要件とされている場合もあるなど、実務上重要な指針である。
2026年8月27日、生命・医学系指針の改正版が公表された。改正後の生命・医学系指針は、2026年12月1日から適用される予定である。この改正においては、多機関共同研究に関する規定などの改正がされたが、中でも、インフォームド・コンセント(以下「IC」という。)に関する規定について大幅に改正されるため、この点について紹介する。なお、以下、「第8.1(1)」等の引用番号は、特記しない限り改正後の生命・医学系指針の項番を指す。
現行の生命・医学系指針の概要
現行の生命・医学系指針は、以下のそれぞれについてさらに場合分けが行われ、「文書IC」、「口頭IC」、「適切な同意」及び「オプトアウト」のいずれが必要なのか判断される複雑な構造となっていた(概要は、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 令和5年改正について」8頁以下を参照)。また、「既に作成された匿名加工情報」については現行の生命・医学系指針の適用対象外とされていたものの(現行生命・医学系指針第3.1ウ③)、そうではない匿名加工情報については、提供に当たり「適切な同意を受けることが困難な場合」である必要があるとされるなど(現行生命・医学系指針第8.1(3)イ(イ))、個人情報保護法の規制に上乗せした規定がなされていた。
① 新たに試料・情報を取得して研究を実施する場合
②-1 自らの機関において保有している既存試料・情報を用いて研究を実施する場合(試料を用いる研究)
②-2 自らの機関において保有している既存試料・情報を用いて研究を実施する場合(試料を用いない研究)
③-1 他の研究機関に既存試料・情報を提供する場合(試料、要配慮個人情報を提供する場合)
③-2 他の研究機関に既存試料・情報を提供する場合(試料、要配慮個人情報以外を提供する場合)
④-1 第8.1⑶の手続に基づき既存試料・情報の提供を受けて研究を実施しようとする場合(試料、要配慮個人情報の提供を受ける場合)
④-2 第8.1⑶の手続に基づき既存試料・情報の提供を受けて研究を実施しようとする場合 (試料、要配慮個人情報以外の提供を受ける場合)
⑤ 外国にある者へ試料・情報を提供する場合の取扱い
現行の生命・医学系指針に対する意見
これに対し、「一般法である個人情報保護法に加えて、上乗せで倫理指針に個人情報保護に係る規定が設けられている場合がある。」「ある程度の規律が同法で担保されているところは、上乗せで規定する意味はなくなっているのではないか。」「ICの手続が複雑化しているため、簡素化すべき。」等の意見が寄せられた(注1)。
(注1)令和7年12月24日付「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 見直しの方向性について(取りまとめ)」。また、生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議(令和7年2月~)(第2回)資料1・米村滋人「研究倫理指針に関する法的課題と改正の方向性」も参照。
改正①匿名加工情報等の取扱い
このような意見を踏まえ、研究に用いられる情報が、仮名加工情報、匿名加工情報、個人関連情報である場合には、それらの情報の取扱いは、個人情報保護法の各関係規定に則って行うものとし、第8.1及び2(⑷を除く。)における研究に用いられる情報には含まないものとされた(第8.1(1))。これにより、これらの情報については基本的には個人情報保護法の規定を参照すれば足り、生命・医学系指針における上乗せは解消されることになる。
改正②IC手続きの整理
また、「文書IC」、「口頭IC」と「適切な同意」という用語をなくし、「IC」のみに整理し、「IC」とオプトアウトの2本柱へと見直すこととし、既存試料・情報を利用、提供する研究においては、オプトアウトを基本とすることとされた。その概要は以下のとおりである。
(1) 侵襲を伴う研究又は介入を行う研究(第8.2(1))
ICが必要である。なお、「介入」の定義に関しては、今回の見直しからは除き、引き続きの検討事項とされている(令和8年8月27日付「『人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針』一部改正案(概要)に対するパブリック・コメント結果について」No.6)。
(2)試料を用いる研究を実施しようとする場合
ア 新たに試料を取得する研究(第8.2(2)ア)
ICが必要である。
イ 既存試料を用いる研究(第8.2(2)イ)
以下のいずれにも該当しない場合にはICが必要である。
(ア)個人を識別することができない既存試料を用いる場合であって、既に特定の個人を識別することができない状態にあって、利用・提供により個人情報が取得されることがないときにはICは不要である(同(ア))。
(イ)自らの研究機関において保有している既存試料・情報を用いる場合、適切な手続を経て(注2)取得された試料・情報である場合であって、①個人情報保護法上の例外事由に該当するとき又は②取得時に包括的な同意を受け、その後、当該同意を受けた範囲内における研究の内容が特定されたときには、オプトアウトで足りる(同(イ))。
(ウ)他の研究機関に既存試料・情報を提供しようとする場合、①個人情報保護法上の例外事由に該当するとき又は②取得時に包括的な同意を受け、その後、当該同意を受けた範囲内における研究の内容が特定されたときには、オプトアウトで足りる(同(ウ))。
(注2)ガイダンス案として、以下の事項が示されている(生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議(令和7年2月~)(第8回) 【資料3】指針改正に伴うガイダンス等に記載する内容の方向性について)
「適切な手続を経て」とは、試料・情報の別を問わず、取得の過程で偽りその他不正の手段等によって得たものではないことをいい、例えば、
- 試料・情報を取得する主体や利用目的等について、意図的に虚偽の情報を示して、本人から試料・情報を取得したものではないこと
- 当初取得された状況において研究対象者となる本人が全く予期できない、あるいは本人の意向に反した利用や提供ではないこと
などを想定しているものであり、特に研究者等の異動等に伴い、無断で研究機関から試料・情報を持ち出されないよう留意が必要である。
なお、個人情報保護法第20条第1項における個人情報保護法ガイドライン(通則編)における事例等も参照されたい
(3) 試料を用いない研究
ア 新たに要配慮個人情報を取得する研究(第8.2(3)ア)
ICが必要である。但し、個人情報保護法上の例外事由に該当するときは、ICの簡略化が可能である。
イ 新たに要配慮個人情報以外の情報を取得する研究(第8.2(3)イ)
オプトアウトで足りる。
ウ 研究に用いられる情報のうち既存のもののみを用いる研究(第8.2(3)ウ)
以下のいずれにも該当しない場合にはICが必要である。
(ア)自らの研究機関において保有している既存情報を用いる場合、適切な手続を経て取得された試料・情報である場合であって、①個人情報保護法上の例外事由に該当するとき又は②取得時に包括的な同意を受け、その後、当該同意を受けた範囲内における研究の内容が特定されたときには、いわゆるオプトアウトで足りる(同(ア))。
(イ)他の研究機関に既存情報を提供しようとする場合、適切な手続を経て取得された試料・情報である場合であって、①個人情報保護法上の例外事由に該当するとき又は②取得時に包括的な同意を受け、その後、当該同意を受けた範囲内における研究の内容が特定されたときには、いわゆるオプトアウトで足りる(同(イ))。
⑷ 既存試料・情報の提供のみを行う者等の手続(第8.2(4))
「既存試料・情報の提供のみを行う者」について、現行の指針ではその範囲が不明確であったが「一の研究において、当該研究の実施(試料・情報等の収集・提供を行う機関における業務の実施を含む。)に携わらない者であって、既存試料、研究に用いられる情報のうち既存のもの又は既存試料・情報を用いて研究を実施しようとする研究者等からの依頼を受けて、自らが保有する既存試料、研究に用いられる情報のうち既存のもの又は既存試料・情報を当該研究者等に提供することのみを行うものをいう。」という定義が新設された(第2(17))。
⑵イ(ウ)又は⑶ウ(イ)に加えて、特定の個人を識別できない状態で提供する場合には所属機関の長への報告が必要であり、それ以外の場合には倫理審査委員会の意見を聴いた上で所属機関の長の許可を得る必要がある(同ア)。
(5) 既存試料・情報の提供を受けて研究を実施しようとする場合(第8.2(5))
オプトアウトで足りる(なお、提供元機関の手続きの確認等が必要である。)。
(6) 外国にある者へ試料、研究に用いられる情報又は試料・情報を提供する場合の取扱い(第8.2(6))
以下のいずれにも該当しない場合にはICが必要である。
(ア) 提供する試料について、ICを受けることが困難な場合であって、特定の個人を識別することができない状態にあり、提供先となる研究機関において当該試料を用いることにより個人情報が取得されることがない場合はICは不要である(同ア(ア))。
(イ) ⑶アただし書の規定により要配慮個人情報を新たに取得して外国にある者に提供しようとする場合であって、ICを受けることが困難であり、個人情報保護法上の例外事由に該当するとの要件を満たすときは、倫理審査委員会の意見を聴いた上で提供を行う機関の長の許可を得てICの簡略化が可能である(同ア(イ))。
(ウ)(ア)及び(イ)のいずれにも該当せず、ICを受けることが困難な場合であって、個人情報保護法上の例外事由に該当するときは、倫理審査委員会の意見を聴いた上で提供を行う機関の長の許可を得た場合、オプトアウトで足りる(同ア(ウ))。
(エ)既存試料・情報等の取得時に、将来の研究における利用又は他の研究機関への提供(外国にある者への提供を含む。)について包括的な同意を受け、その後、当該同意を受けた範囲内における研究の内容が特定された場合には、オプトアウトで足りる(同ア(エ))。
まとめ
以上のとおり、IC等を受ける手続きが簡素化され、多くの事項が、個人情報保護法の規定に則って行うべきものとされた。簡素化されたとはいえ、これまでの対応とは大きく異なることになるため、今後公表される予定のガイダンスも踏まえつつ、手続きの見直しが必要となる。
また、参照先となる個人情報保護法は改正が予定されているため、その改正動向も踏まえた対応を行う必要がある。個人情報保護法の改正の内容については、弊所の連載記事もご参照いただければ幸いである。
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