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【速報】【米国】【著作権】GitHub Copilot訴訟中間控訴判決 :生成AIは『コピー』か『創作』か?-DMCA上の著作権表示保護とAIガバナンスの新たな境界線
2026.09.18
GitHub Copilot訴訟中間控訴判決[1] :生成AIは『コピー』か『創作』か?-DMCA上の著作権表示保護とAIガバナンスの新たな境界線
2026年9月16日、米国第9巡回区連邦控訴裁判所は、GitHub、Microsoft、およびOpenAIに対してオープンソース開発者らが提起した集団訴訟において、DMCA(Digital Millennium Copyright Act)§1202(b)に基づく請求を棄却した地裁判断を支持した。GitHub 及びCopilotが学習データに類似するコードを出力したとしても、その行為は、既存著作物から著作権管理情報(Copyright Management Information: CMI)を「除去(remove)」又は「改変(alter)」した行為には該当せず、新たに生成された成果物であるので、DMCA違反は成立しないと判断した。 本判決は、生成AIと著作権法の交錯領域において、少なくともDMCA上のCMI保護規定の適用範囲を限定的に解釈した初の米国連邦控訴裁判所判決として今後のAI紛争に大きな影響を与える可能性がある。
事案の背景
本件の原告は、オープンソースライセンスの下でプログラムコードを公開していた開発者である。被告のGitHub CopilotおよびCodexは、大規模言語モデル(LLM)を利用してコード生成を行うAIツールであり、学習にはGitHub上の大量の公開ソースコードが利用された。 多くのオープンソースライセンスは、コードの利用や再配布を認める一方で、著作者名や著作権表示、ライセンス条項などの表示を維持することを条件としている。[2] 原告は、Copilotが学習データ中のコードをそのまま又は実質的にそのまま出力する場合があるにもかかわらず、出力結果にライセンス情報や著作者表示が付与されていない点がライセンスに違反し、且つ、CMIの除去・改変を禁止するDMCAに違反すると主張した。
原告らは①学習段階において被告がコードからCMIを除去して訓練データとして利用したとする「Input Theory」と、②Copilotが出力するコードからCMIが欠落していること自体がCMI除去に当たるとする「Output Theory」という二つの理論構成に基づきDMCA §1202(b)違反を主張した。
地裁判断
北カリフォルニア地区連邦地裁はDMCA違反の訴えを棄却した。地裁は、DMCA §1202(b)の適用には原著作物と問題となる複製物との間に実質的な同一性が必要であり、原告が提示したCopilotの出力例は「modified format」「variation」「functional equivalent」にすぎず同一性を持たないため、既存の著作物からCMIが取り除かれた事例とはいえないと判断した。
ただし契約違反請求については訴訟継続を認め、DMCA部分のみを中間控訴の対象として第9巡回区に付託した。
第9巡回区控訴裁判所判決
(1) Input Theoryの主張放棄
まず裁判所は、学習段階におけるCMI除去を問題とするInput Theoryについて、原告が地裁において明確に主張していなかったとして主張は「forfeiture(放棄)」されたと認定した。したがって控訴審では出力段階の問題のみが判断対象となった。
(2) 原告適格(Standing)の肯定
被告は、原告コードが実際にCopilotによって無断出力される危険性は推測の域を出ないものであるため、原告適格を欠くと主張した。これに対し裁判所は、①研究論文がLLMの訓練データ記憶(memorization)現象を指摘していること[3] ②GitHub自身が重複コード検出機能を導入していること③原告コードが再現された具体例が存在することなどを理由として、将来的な被害発生の「substantial risk(相当程度の危険)」は十分に主張されているとして連邦裁判所訴訟要件としての原告適格を認めた。
(3) DMCA請求の否定
一方、裁判所は、DMCA §1202(b)が禁じるのは、既に存在する著作物に付されたCMIを除去又は改変する行為であるとしたうえ、Copilotは既存コードを検索して表示するシステムではなく、統計的パターンを学習して新たなコードを生成するシステムであり、既存著作物のコピーからCMIを取り除いたものではなく、最初からCMIが付いていない新しい生成物であると判断した。そのため、仮に生成コードが原著作物に類似していたとしても、そのような行為は「除去(remove)」又は「改変(alter)」というDMCA違反行為の文言には該当しないと判断された。
なお、裁判所はさらに、著作権侵害の成否については何ら判断していないことを明示した。つまり、DMCA違反は成立しなくても、別途著作権侵害責任が成立する余地が存在することを明らかにした。
比較法的コメント
本判決は、2025年のNew York Times Co. v. Microsoft Corp事件[4] などを含む生成AI訴訟の一連の判例との関係で理解する必要があるが、比較法的にはドイツおよびUPCにおけるAI学習事件との対比が興味深い。 EUでは2024年AI法(AI Act)およびDigital Single Market (DSM)著作権指令によって、学習段階での著作物利用そのものが法的評価の中心となっている。[5] 他方、本判決は専らDMCA上のCMI保護規定の解釈に焦点を当てている。したがって争点設定自体が欧州と大きく異なる。特にドイツでは、AI学習に関する議論は「出力物から権利情報が消えたか」ではなく、「学習段階での複製行為が適法なテキスト・データマイニング例外に該当するか」という観点から整理される傾向が強い。[6]
更に、欧州法では、著作者表示権(right of attribution)を人格権的側面から理解する伝統が存在するため、権利情報の表示について米国より保護的な発想が見られる。他方、人格権を認めないアメリカ著作権法に基づく本判決は、DMCAを純粋に文言解釈し、「除去されたか否か」という形式面を重視した。
したがって、①米国第9巡回区控訴裁判所は「CMIの除去行為の存在」を重視する行為基準型アプローチを採用するのに対し、②EU・ドイツは「学習データ利用の適法性」を中心に評価する利用基準型アプローチとして整理することができる。
さらに本判決は、「AIが学習によって新しい生成物を作る」という技術的理解を前提としている点でも注目される。本判決は著作権侵害の成否について何ら判断しておらず、学習行為や生成行為に対するフェアユースの成否についても判断を留保している。そのため、今後の生成AI関連訴訟では、DMCAとは別に著作権侵害及びフェアユースの問題が引き続き重要な争点となると考えられる。欧州でも同様の理解は共有されつつあるが、AI出力と学習データとの近接性が高い場合には、将来異なる評価が下される余地も残されている。
著作権侵害回避実務への影響
(1) AI生成物と著作権侵害リスクの再評価
本判決は、DMCA上のCMI除去責任を否定したが、Copilotの出力が既存コードと実質的に同一になる可能性を認めたうえで、著作権侵害(copyright infringement)の成否については「何ら判断していない」ことを明示している。AIツールを利用する場合、DMCA責任が否定されたことをもって著作権侵害リスクが消滅したと誤解してはならない。むしろ、裁判所の整理は、AI出力が既存コードと実質的に類似する場合には、DMCA上の責任とは別に、著作権侵害責任が成立し得る可能性を残す一方、上述したように出力が同一でなく十分に変容した生成物と評価される場合には、フェアユースの抗弁が適用される可能性も残す。[7]
(2) 日本著作権法との比較分析
日本著作権法30条の4(情報解析目的の利用)は、AI学習段階での著作物利用について一定の権利制限を認めているが、出力段階で既存著作物と類似する生成物を利用する場合は、別途、著作権侵害の成否を評価する必要がある。本判決は、学習段階(input theory)と出力段階(output theory)を区別し、さらにCopilotについて既存著作物を検索・再送信するシステムではなく、学習に基づき新たな著作物を生成する仕組みとして捉えた。[8] この枠組みは、日本法における学習行為と出力利用の切り分けを検討する上でも参考となる。また、日本では著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)が強く保護されており、権利情報の取扱いについては、米国DMCAのCMI保護とは異なる観点から、より広い保護が問題となる可能性がある。
総括
本判決は、Copilotを既存著作物の検索・再送信システムではなく、「新たな成果物を生成するAI」と位置付けたため、生成AIが学習データに類似するコードを出力したとしても、それだけでDMCA §1202(b)のCMI除去責任は発生しないことを明確にした。
比較法的には、米国が「CMIの除去という具体的行為」の有無を重視したのに対し、欧州では学習段階の利用や著作者保護の観点がより強く意識されている。今後AIを巡る国際的な法制度は、学習データ利用規制と生成物規制の双方を軸として発展していくものと考えられる。
企業実務の観点からは、AIモデルの性能向上だけでなく、権利情報管理、データトレーサビリティ、ライセンス遵守機能などを含む「AIコンプライアンス設計」が競争力の重要な要素になることを示した判決と評価できる。さらに、本判決はDMCA上の責任を否定したものの、生成AIが学習データに由来するコンテンツを生成する可能性自体を否定したものではない。この意味で、本判決は、日本のAI事業者ガイドラインや人間中心のAI社会原則が掲げる透明性(Transparency)、説明責任(Accountability)及びトレーサビリティ(Traceability)の重要性を改めて示唆するものである。[9] すなわち、今後の生成AI事業においては、法的責任を回避するだけでなく、学習データの管理や権利処理の記録を通じて社会的信頼を確保することが、企業の競争力と持続的なイノベーションの基盤になると考えられる。
[1] Doe v. GitHub, Inc., No. 24-7700 (9th Cir. Sept. 16, 2026).
[2] 主要なオープンソースライセンスの帰属表示義務につき、MIT License、GPL v3.0(§5, §7)、Apache License 2.0(§4(d))を参照。GPLのコピーレフト効果により、AI生成コードへの適用リスクも生じ得る。
[3] Carlini et al., “Extracting Training Data from Large Language Models,” 30th USENIX Security Symposium (2021); Carlini et al., “Quantifying Memorization Across Neural Language Models,” ICLR 2023。モデルのスケール拡大に伴いmemorizationが増大することを実証している。
[4] New York Times Co. v. Microsoft Corp., 777 F. Supp. 3d 283 (S.D.N.Y. 2025)。同事件では、New York TimesがOpenAIおよびMicrosoftに対して、生成AIによる記事の無断利用が著作権侵害およびDMCA違反に当たると主張した。
[5] Regulation (EU) 2024/1689 (AI Act); Directive (EU) 2019/790 on copyright in the Digital Single Market(DSM著作権指令)。AI Actは2024年8月に施行され、汎用AIモデル提供者に対して学習データの透明性義務および著作権法遵守義務を課している(Art. 53)。
[6] DSM著作権指令第4条は、商業目的を含むTDM例外を定めるが、権利者が「機械可読な方法で」オプトアウト(利用拒否)している場合は適用されない。LG München I, GEMA v. OpenAI, Az. 42 O 2915/24 (2025)では、このオプトアウトの要件が主要な争点となった。ミュンヘン地裁は、ドイツ著作権管理団体GEMAがOpenAIに対して提起した訴訟において、DSM指令第4条のTDM例外の適用範囲を判断した。本判決(Doe v. GitHub)がDMCA上のCMI保護の解釈に焦点を当てたのに対し、GEMA v. OpenAI判決は学習段階での著作物利用の適法性を正面から判断しており、米欧の法的アプローチの根本的な相違を示している。併せて参照:Directive (EU) 2019/790, Art. 3, 4。
[7] フェアユースの第一要素(17 U.S.C. §107(1))における変容的利用(transformative use)の分析と親和性がある。Cf. Andy Warhol Found. for the Visual Arts, Inc. v. Goldsmith, 598 U.S. 508 (2023)(変容的利用の判断枠組みを再整理)。
[8] 日本著作権法30条の4は、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に著作物の利用を認めるが、AI出力段階で既存著作物の創作的表現を感得できる形で利用する場合は同条の適用外となる。文化審議会著作権分科会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年)も同様の整理を示している。
[9] 内閣府知的財産戦略本部「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」(2026年)参照。同コードは、生成AIの利活用と知的財産保護の両立を図る観点から、透明性の向上、権利者とのコミュニケーション及びトレーサビリティ確保の重要性を指摘している。
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