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【労働法ブログ】フリーランス新法とは?
2023.10.23
はじめに
令和5年2月24日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス新法」といいます)が、第211回国会に提出され、4月28日に可決成立し、5月12日に公布されました。フリーランス新法は、公布の日から1年6か月を超えない範囲内において政令に定める日から施行されます。
フリーランス新法は、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するために、業務委託をする事業者との間の取引の適正化・就業環境の整備を図ることを目的とした法律です。本稿では、フリーランス新法の概要を説明します。
フリーランス新法の概要
(1) フリーランス新法の適用範囲について
フリーランス新法は、大まかにいえば、「特定受託事業者」に「業務委託」をする「業務委託事業者」又は「特定業務委託事業者」に対して、一定の義務を課す法律です。フリーランス新法においては、それぞれ、下表のとおり定義されています。
業務委託 |
① 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること |
特定受託事業者 |
業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するもの |
特定受託業務従事者 |
特定受託事業者たる個人及び特定受託事業者たる法人の代表者 |
業務委託事業者 |
特定受託事業者に業務委託をする事業者 |
特定業務委託事業者 |
業務委託事業者であって、次のいずれかに該当するもの |
フリーランス新法は、業務受託事業者と(特定)業務委託事業者との間の業務委託、すなわち、B to Bの取引に適用されます。ここでいう業務委託とは、上表のとおり、製造・加工、情報成果物の作成、役務提供の委託が含まれます。業種業態などによる制限はなく、また、下請法とは異なり、自家使用役務等も含まれることから、広範な取引が対象になることには留意が必要です。
また、「特定受託事業者」は、個人であっても、従業員を雇用している場合には「特定受託事業者」には該当しませんが、法人でも、他に役員がおらず、従業員も雇用していない場合には「特定受託事業者」に該当することになります。そのため、業務委託の相手方がいわゆる個人事業主であるからといって直ちにフリーランス新法の対象となるわけではありませんが、逆に、業務委託の相手方が法人であったとしてもフリーランス新法の対象になる場合があるため、後述のとおり、フリーランス新法の対象となるか否かの調査が必要です。
(2) フリーランス新法の規制の概要について
フリーランス新法は、(特定)業務委託事業者に対して、一定の義務を課すことにより、①特定受託事業者の取引の適正化と②特定受託業務従事者の就業環境の整備を図ることを目的としています。以下では、(特定)業務委託事業者に課される義務の内容を説明します。
ア 特定受託事業者に係る取引の適正化について
(特定)業務委託事業者が、特定受託事業者に対して業務を委託する場合には、(特定)業務委託事業者は、大きく分けて、給付内容等の明示義務、支払期日等を定める義務及び一定の事項を遵守する義務を負います。
■給付内容その他の事項の明示義務(フリーランス新法3条)
業務委託事業者は、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければなりません。また、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく、これを交付する必要があります。当該義務に違反した場合には、公正取引委員会による勧告の対象となります(フリーランス新法8条1項)。
なお、この規制は、特定業務委託事業者に限られず、業務委託事業者に適用される規制であるため留意が必要です。
■報酬の支払期日等を定める義務(フリーランス新法4条)
特定業務委託事業者は、給付を受領した日(役務提供を委託した場合には、役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において支払期日を定めなければなりません。報酬の支払期日が定められなかったときは、給付を受領した日が支払期日として定められたものとみなされ、また、上記の規制(フリーランス新法4条1項)に違反して報酬の支払期日が定められたときは、給付を受領した日から起算して60日を経過する日が支払期日と定められたものとみなされます。
また、再委託の場合には例外が設けられています。すなわち、元委託者から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、その全部又は一部を特定受託事業者に再委託した場合、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託の支払期日から起算して30日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において定める必要があります。この例外が適用されるのは、再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日その他の事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限られます。なお、この場合においても、報酬の支払期日が定められなかったときは元委託支払期日が報酬の支払期日とみなされ、また、当該規制に違反して報酬の支払期日が定められたときは元委託支払期日から起算して30日を経過する日が報酬の支払期日と定められたものとみなされます。
そして、特定業務委託事業者は、原則として、支払期日までに報酬を支払わなければならず、これに違反した場合には、公正取引委員会による勧告の対象となります(フリーランス新法8条2項)。
■特定業務委託事業者の遵守事項(受領拒否、減額等の禁止)(フリーランス新法5条)
特定業務委託事業者は、政令で定める期間以上継続して行われる業務委託について、受領拒否、減額、返品、買いたたき、購入強制・利用強制の禁止、不当な経済上の利益の提供要請の禁止、不当な給付内容の変更・やり直しの禁止が定められています。遵守事項の多くは、下請法の親事業者の遵守事項と同様の内容となっており、これらの解釈も下請法と同様の解釈となることが予想されます。これらの遵守事項に違反した場合には、公正取引委員会による勧告の対象となります(フリーランス新法8条3項乃至5項)。
イ 特定受託業務従事者の就業環境の整備について
特定業務委託事業者は、特定業務受託従事者の就業環境の整備として、以下の対応が求められます。
■募集情報の的確な表示(フリーランス新法12条)
特定業務委託事業者が、広告等で業務委託に係る特定業務受託者の募集に関する情報を提供するときは、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはなりません。
公表されている「特定受託事業者に係る取引適正化等の法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A」(以下「QA」といいます。)によれば、以下のような表示は、当該規制に違反する表示と考えられます(QA問6)。
・意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示する
・実際に募集を行う企業と別の企業の名前で募集を行う
・報酬額の表示が、あくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示する
・業務に用いるパソコンや専門の機材など、フリーランスが自ら用意する必要があるにもかかわらず、その旨を記載せず表示する
・既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける
なお、当該義務に違反した場合には、厚生労働大臣による勧告の対象となります(フリーランス新法18条)。
■妊娠、出産、育児又は介護に対する配慮(フリーランス新法13条)
特定業務委託事業者は、特定業務委託事業者の業務委託のうち、契約の更新のよる期間も含め、政令で定める期間以上の期間行う業務委託(継続的業務委託)の相手方である業務受託事業者からの申し出に応じて、必要な配慮をしなければなりません。また、継続的業務委託以外の相手方である特定受託事業者からの申し出に応じて必要な配慮をするように努める必要があります。
「配慮」の具体的な内容は明らかではありませんが、QAにおいては、以下の内容が想定されるとされています(QA問7)。「配慮」の考え方や具体例は、フリーランス新法15条に基づく指針で明らかにされるため、当該指針の内容も踏まえて、具体的な対応を検討する必要があります。
・フリーランスが妊婦検診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮したりする
・育児や介護等と両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにしたりする
■業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(フリーランス新法14条)
特定業務委託事業者は、セクシャル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント、パワー・ハラスメント等に関して、特定業務受託従事者からの相談、適切な対応のための体制の整備等の措置を講じる必要があります。
ハラスメント対策のための措置の具体的な内容は明らかではありませんが、QAでは、以下の措置を想定しているとされています(QA問8)。
①ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知・啓発すること(対応例:社内報の配布、従業員に対する研修の実施)
②ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備(対応例:相談担当者を定める、外部機関に相談対応を委託する)
③ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応(対応例:事案の事実関係の 把握、被害者に対する配慮措置)
なお、当該義務に違反した場合には、厚生労働大臣による勧告の対象となります(フリーランス新法18条)。
■解除等の予告(フリーランス新法16条)
特定業務委託事業者は、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合などを除き、継続的業務委託を中途解約する場合や更新しない場合には、30日前までに予告をする必要があります。また、特定受託事業者が、契約の解除の理由の開示を請求した場合には、特定業務委託事業者は遅滞なく開示しなければなりません。
予告が不要となるケースは、今後厚生労働省令で定められる予定ですが、QAによれば、以下の場合が、想定しているとされています(QA問9)。
①天災等により、業務委託の実施が困難になったため契約を解除する場合
②発注事業者の上流の発注者によるプロジェクトの突然のキャンセルにより、フリーランスとの契約を解除せざるを得ない場合
③解除をすることについてフリーランスの責めに帰すべき事由がある場合(フリーランスに契約不履行や不適切な行為があり業務委託を継続できない場合等)
なお、当該義務に違反した場合には、厚生労働大臣による勧告の対象となります(フリーランス新法18条)。
ウ 違反行為の申し出、勧告、命令等
特定受託事業者は、フリーランス新法の規定に違反する事実があるときは、公正取引委員会又は中小企業庁長官に対して、その旨を申し出て、適当な措置を講じることを求めることができます(フリーランス新法6条1項)。業務委託事業者は、かかる申し出を理由として特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならず(フリーランス新法6条3項)、これに違反した場合には、勧告の対象となります(フリーランス新法8条6項)。
また、上記のとおり、公正取引委員会又は厚生労働大臣は、(特定)業務委託事業者が、フリーランス新法の一定の規制に違反したと認めるときは、必要な措置とるように勧告することができます。さらに、公正取引委員会又は厚生労働大臣は、勧告を受けた者が正当な理由なく勧告に従わなかった場合には、勧告に係る措置をとるよう命ずることができ(フリーランス新法9条1項、19条1項)、それを公表することができます(フリーランス新法9条2項、19条2項)。なお、当該命令に従わなかった場合には50万円以下の罰金の対象となります(フリーランス新法24条1号)。
フリーランス新法の実務対応
フリーランス新法への対応のためには、まずは、自社の個別の取引にフリーランス新法が適用されるかどうかを確認する必要があります。具体的には、①取引の相手方が、特定受託事業者に該当するか、②委託する業務がフリーランス新法上の「業務委託」に該当するかを確認することになります。さらに、③継続的業務委託にあたるか否かによって、義務の内容が異なるため、これに該当する否かも把握していく必要があります。
特に、①については、取引先に対して、従業員の有無等をヒアリングで確認するという方法や取引先が法人であれば登記事項証明書の事項も確認するという方法も考えられます。もっとも、一旦、特定受託事業者に該当するかどうか確認したとしても、従業員の辞職等により、特定受託事業者に該当することになるという例も想定され、特定受託事業者に該当するか否か、適時に把握することは容易ではありません。
フリーランス新法を確実に遵守する観点からは、少なくともいわゆる個人事業主に対して業務委託をする場合には、適時に特定受託事業者に該当するかどうか確認しつつも、特定受託事業者の該当性にかかわらずフリーランス新法の義務を遵守できるような体制を整えておくことが必要と思われますが、今後公表されるガイドラインの内容も踏まえて、対応を検討していく必要があります。
さいごに
既に下請法が適用されるような事業者においては、フリーランス新法への対応は比較的負担なく実施できるかもしれませんが、これまで下請法の適用がなかった事業者においては、新たに対応すべき事項が多く発生する可能性があります。弁護士の助言も受けながら、施行までにフリーランス新法に対応できる体制を整えることが重要です。
以上