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米国ヘルスケアコンプライアンス三法(Anti-Kickback Statute、False Claims Act、Physician Payments Sunshine Act)の概要と関係性
2026.06.25
米国で事業を展開する製薬企業や医療機器メーカーは、Anti-Kickback Statute(AKS)、False Claims Act(FCA)、Physician Payments Sunshine Act(Sunshine Act)などのコンプライアンス関連の法令に特に気を付ける必要があります。日本では「公正競争規約」や「透明性ガイドライン」といった業界団体の自主基準として運用されているルールが存在しますが、米国においてはこれらに相当する規制が法律として制定されており、規制当局による執行を通じて、より厳格に規律されています。違反した場合には、数億円規模の巨額な制裁金等が科されるケースも珍しくありません。本稿では、米国ヘルスケアコンプライアンスの根幹を成す三法(AKS、FCA、Sunshine Act)の概要や関係性について解説します。
① アンチ・キックバック法(Anti-Kickback Statute: AKS)
AKSは、メディケアやメディケイドといった連邦政府の医療保険プログラムで支払いの対象となる商品、施設、又はサービスの購入、リース、注文、手配又は推奨等を「誘引(induce)」する目的で、直接的・間接的を問わず、金銭その他の経済的利益などの「報酬(remuneration)」を要求、受領、又は支払うことを禁じる法律です。自社製品の購入・処方を誘引するために医師に対して過剰な接待を行うなどが違反行為の典型例です。違反した場合は刑事罰の対象となるほか、連邦のヘルスケアプログラムからの強制的な除外という事業継続に重大な影響を及ぼし得る重大なペナルティを受けるリスクがあり、さらに、次に紹介するFCA違反に繋がり、これにより多額の制裁金が課されるリスクがあります。
AKSは報酬の支払先を医師や医療機関に限定していないこともあり、AKS違反を問われうる行為には、医師・医療機関に対する委託料・寄付等の支払い、基金に対する資金提供、患者に対する医療費助成のほか(なお、一定の要件を満たす場合にはセーフハーバー規定により適法と評価される場合もあります)、処方情報や患者情報等をマーケティング目的で購入する場合やDTP(Direct-to-Patient)プログラムと呼ばれるような患者に対する各種サービス(オンライン診療サービスや各種アプリケーションの提供等)も含まれ、様々な場面で適法性を検討する必要が生じます。
多くの企業が加盟する業界団体であるPhRMAやAdvaMedは、AKS遵守のための自主基準を設けており(PhRMA Code、AdvaMed Code of Ethics)、企業はこれらのCodeを遵守するとともに、加えて内部ポリシーを策定し、AKS違反を問われないよう細心の注意を払っています。
② 虚偽請求法(False Claims Act: FCA)
FCAは、連邦政府に対して虚偽又は不正な支払い請求を行うこと、あるいはそのための虚偽の記録を作成・使用することを禁じる法律です。AKSに違反して支払われた不当な報酬(キックバック)を背景として行われた医療機関からの保険償還請求はこのFCA違反(AKS由来の虚偽請求)を構成し得ます。FCA違反の制裁金等は、法定の金額に加えて当該違反行為により政府が被った損害額の最大3倍となるため、極めて高額な賠償へと膨れ上がります。
また、FCA違反の発覚において中心的な役割を果たしているのが、「Qui tam訴訟」と呼ばれる内部告発者(Whistleblower/Relator)による訴訟制度です。この制度では、一般市民が政府に代わって企業を提訴することができ(対象企業の元従業員が提訴するケースが多いです)、当該訴訟で勝訴又は和解により企業に制裁金が課された場合、その金額の15%〜30%を内部告発者が報酬として受け取ることができます。上記のとおり制裁金額が極めて高額になることが多く、内部告発者にとって莫大な報酬を得るインセンティブとなっているため、企業は常に内部からの情報漏洩・訴訟提起リスクに直面しています。
③ サンシャイン法(Physician Payments Sunshine Act)
適用対象となる製造業者(Applicable Manufacturers)(製薬企業や医療機器メーカー等)に対して、医療従事者(HCP)及び教育病院等に対して支払った金銭や価値の移転を、年1回、CMS(Centers for Medicare & Medicaid Services)へ報告することを義務付ける法律です。この法律自体にも報告義務違反による制裁金が存在しますが、報告・公表されたデータが当局によるAKS違反調査の強力な端緒となる点にも留意する必要があります。
上記三法の関係性のイメージ図は以下のとおりです。

なお、上記で紹介した法律は連邦法ですが、各州において類似の法令が制定されていることも多く、それらは連邦法よりも適用対象が広いことがあるため、各州の関連法令もチェックすることが望ましいです。
米国におけるヘルスケアビジネスは大きな利益が見込める反面、コンプライアンス違反による財務的・レピュテーショナルなダメージは計り知れません。したがって、米国でヘルスケアビジネスを展開する企業においては、米国ヘルスケアコンプライアンスに精通している弁護士とともに、実効性のある内部ポリシーの策定、役員・従業員への研修、そして内部通報に適切に対応できる実効的な内部通報制度の構築等を実施することが肝要です。
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